5.徒歩一分は八十メートル
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私は前世、ライトなオタクだった。
あ、これは前に言ったっけ。
まぁ、聞きなよ。
ゲームはRPGやアDVが好きでよくやっていたのだけれど、巷で話題になったゲームは他のジャンルでも一通りプレイしていたの。
もちろん、乙女ゲーも何本かプレイしているのね。
んで、送られてきた魔法学院入学のための書類。
そこに記載されていた学院名が「トゥオリール魔法学院」なのだけど、これは『トゥオリール魔法学院~恋のためなら世界だって救います!~』という乙女ゲームの舞台となっている学校の名前と同じなのだ。
そう、タイトルからしてそうだよね。そのまんまだよね。
これが、何が話題になったかというと「自由度が高い」ってことで有名になったんだよね。
乙女ゲームなので、もちろん恋愛するのは必須なんだけど、攻略対象は男性と女性両方いるのさ。しかも攻略対象がめっちゃ多い。
これが、自由度が高い理由その一ね。
そんで、自由度が高い理由その二は、学校に行かなくてもよいという選択肢があるということ。
もちろん、入学はしなくちゃいけないんだけど、さぼっても良いってことなのね。
さぼって森で魔物倒して経験値を貯めて最終的に勇者になって世界を救うというエンディングがあったり、学校をさぼって街に出て奉仕活動をしまくって聖女としてあがめられて貧民街を救ってみたり、学校をサボって遊びまくって不良になって最後には裏社会のボスになってみたり。
もちろん、学校に行って卒業して王子様と結婚したり貴族の令息と結ばれて一緒に王子様を支えたりという乙女ゲームらしいエンディングもあるよ。
私は、勇者ルートに興味があってプレイしたんだよね。
RPGとADVのハイブリッドみたいなつくりで、RPGとしてはボリュームが若干物足りない感じはあったものの、なかなかの手ごたえで面白かった記憶がある。勇者ルートは何周か忘れたけど結構やりこんだ。
王道の学園恋愛ルートは王子様エンドだけクリアしたっけかな?
黒髪短髪つり眉たれ目眼鏡少年が出てこない時点で、恋愛ゲームとしてはあまり食指が動かなかったんだよね…
まぁ、転生先が乙女ゲーの世界だったというのがわかって一瞬絶望したものの、自由度が高いことで有名な「ツオ恋」だったのは救いかもしれない。
学校さぼって勇者エンドを目指せば、たとえライバル令嬢の中身が転生者で、更生した品行方正令嬢となって現れたとしてもヒロイン没落は免れるかもしれない。
学校に行かないから、ライバルから挑戦されたり挑発されたりすることもないだろうしさ。
…なかったよね?
どうだったかな…
敵の弱点とかマップの最短ルートは覚えているけどその辺ちょっと記憶が曖昧だな。
まぁ仕方ない。
もう学院入学は回避できないんだから、気を取り直して前向きにやっていくしかない。
自分がヒロインかもしれないからと言って、自惚れない!調子に乗らない!勘違いしない! 三無い運動でやっていきましょう!
書類によれば、寝具や生活用品などはすべて寮にあるとのことだったので、荷物といえば当面の着替えぐらいのものだった。
村では、どこか遠くへ行ったりすることもない生活だったので旅行鞄になるような大きな鞄なんかなくって、仕方がないので古いシーツを半分に切ってそれで包んで背負っている。
前世でいう、風呂敷だね。
村からの乗合馬車は城下町の門まで。門からは徒歩で行くしかない。
七歳になる年の新年に来たきりなので、二年ぶりの城下町ということになる。
相変わらず、門からまっすぐに広い道が続いていて、その先にお城がある。戦争になったらまっすぐお城まで進軍されてしまうんじゃないかと心配になる。
シミュレーション系ゲーム脳ってやつだね。まぁ、ここは乙女ゲームの世界だし大丈夫なのかな。
レンガを凸凹なく敷き詰めてある大きな街道。その両脇にはカラフルに塗られた壁の家や商店が並んでいる。
新年のときは、各家の窓に花が飾られていたり街灯から布がひらひらとぶら下がっていたりしていたのだけれど、今はそういった装飾はされていない。
書類と一緒に入っていた地図を頼りに、たどり着いたところは一件の大きな大きなお屋敷だった。
「ここ・・・だよね」
どうみても、寮って感じじゃないんだけど。
確かにでかいお屋敷だよ。門扉から正面玄関らしきところまで百メートルぐらいあるし、窓の数を数えれば・・・三十部屋はあるかもしれない。奥行きもありそうだからもっとかな。でも、寮って感じではなさそうだよ。
だいたい、寮ならそばに学校がありそうなものだけどここは住宅街っぽいしさ。
もしかして、寮という名の下宿なのだろうか。 だとしたらずいぶんと豪華な下宿だけど。
まぁ、とりあえず地図で示された場所は間違いなくここなので、とりあえず来訪を伝えたいのだが。
ピンポンに代わる何かが見つからない。どうやって「来ましたよー」って伝えればいいんだろう?
村では、家も小さいし大きな声で呼び出すかドアをノックすれば済んだんだけどさ。
この家の玄関ははるか百メートル先だし、門扉はしまってるしでかいし重そうだし勝手に開けて入ったら怒られそうだし。
なんかインターホンに代わるような何かがあるかなと思って周辺をうろうろしてみたけど、それっぽいものは何もないんだよね。
どうしろってのさ。
風呂敷を背負ってうろうろして、なんかもういいや。
帰っちゃおうかなって思い始めたときだった。
「君、もしかしてリセかい?」
後ろから声をかけられた。
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