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4.やっぱりね

「リセさんを、王都の魔法学院に預けていただけませんか?」


二人いる貴族っぽい人のうち、シルバーグレイの髪で父より年上に見える男性がそんな事を言い出した。だいぶ年上のおじさまだが、美形である。眉毛もまつげも銀色で窓から入る光を反射してキラキラしているよ。

年相応に目尻に小さなシワや口の端に笑いジワがあるものの、とても朗らかでにこやかな雰囲気のイケオジである。端正な顔をしているので、年相応であることが却って美しさを底上げしている感すらあるね。


「魔法学院?」


普段無口な父だが、やはり一家の長である。貴族の申し出に対して、一家を代表して聞き返してくれる。声は震えているし、ビビっているのが丸わかりの震え声であるが。それは仕方がないよね。頑張れ! お父さん!


「ええ、主に貴族の子息令嬢が通う学校なのですが、魔力の多い一般生徒も広く募集をかけておりましてね」

「はぁ。でも、リセは魔法が使えませんのですけれど」


父の敬語がちょっと怪しい。

村からほとんど出ない私たちにとって、貴族なんて雲の上の人たちだもんね。緊張もするし敬語が乱れてもしかたがない。声の震えはちょっと収まってきているし、目も泳いでない。さすが父。


しかし、王都には魔法学院なる学校があるのね。貴族が通う学校に、魔力の強い一般人も通えますとか……

これは絶対に行くのを阻止しないといけないアレだよね。私の平穏なスローライフのために。


「魔力があって、魔法が使えないのは使い方がわかっていないのが原因であることがほとんどです。学院へ通えば魔法を使えるようになる可能性はかなり高いと思いますよ」

貴族の男性はニコニコしながら柔らかく説明をしている。


「でも、王都は馬車で半日もかかりますし、乗合馬車は一日に三往復しかありませんので、リセは学校に通えませんです」

「魔法学院には、寮があります。ご自宅から通えない生徒も寮に入ることで通うことは可能ですよ」


「リセはまだ九歳になったばかりですので、親から離れて一人暮らしというのは心配です」

「馬車で半日の距離ですから、毎週末実家に帰ることだってできます。同じ年頃の子たちが集まっているので大丈夫ですよ」


「そもそも、そんな立派な学校に通わせるようなお金がウチにはありませんので…」

「魔力S以上の生徒は特待生扱いになるので、学費は無料です。制服代や寮費なんかもかかりません」


父は、私を手放さないためにだいぶ頑張っている。

もともと無口なのに、貴族相手になれない敬語で頑張ってくれているよ。

でも、ことごとく言い訳をつぶされてしまっている。

これはだいぶ旗色が悪いな…。


「リセに無理強いはできない…」

ついに父は私に投げてきた。


私は、ここが冒険小説やRPGの世界だったのなら一も二もなく「行きます!」と言っただろう。

王都に行けば情報が手に入る。冒険者になる方法や魔導士になる方法だって見つかるかもしれないからね。


でも、これはだめだ。


七歳の時に祝福を振りまいた王様はイケメンおじさんだった。

今、目の前にいる貴族の二人も護衛の人もすごい美形だ。

そして、平民なのに魔力がとびぬけて多い私が特待生で魔法学院に入学する。


役満じゃないか!


「わたしは・・・行きたくありません・・・」


父の服の裾をつかみ、半分後ろに隠れるようにしてそう言った。

私は前世の記憶があるとはいえ、リセとしてはまだ九歳だ。親元を離れたくないアピールをすれば許してもらえるんじゃないだろうか。


「悪いね」

今まで説明していたのとは、別の方の貴族が口を開いた。

赤い髪を後ろになでつけて、ニヤリと笑うその顔もやっぱりイケメンだ。


「いろいろと話を聞いてあげたけどね、魔力SSが学院に入学するのは義務なんだよ。断れないんだ。逃げれば家族もろとも牢屋行きだ」


牢屋と聞いて父も母も村長さんも顔が青くなる。

貴族とほとんど接触もなく、平和で牧歌的な村で過ごしてきた村人たちだ。

いきなり犯罪者になるぞと脅されれば、もうどうしようもない。


どうしようもないのだな……


「いつから行けばいいのですか」

「リセ!」


観念してつぶやけば、母が驚いた声で名前を呼ぶ。

週末には帰れると言っているし、学校でもなるべく目立たないようにすればいいだけだ。

精神的には大人なんだから、それくらいのことはできるはずだよね。


「今からこのまま連れて帰りたいところではあるけどね、心の準備とか荷物の準備とかあるだろうし、五日後に迎えに来るのでどうだろうか」

「では、準備ができたら自分で王都に行きます。王都のどこに行けばよいのか教えてください」


あんな豪華な馬車がまた村に入ってきたら、狭い村の中ですごいうわさになってしまう。

優しい父と母に気苦労はかけたくないもんね。

どうせ、このまま連れ帰りたいっていうのもまた来るのがめんどくさいって意味なんだと思うよ。

入学式がいつなのかは知らないけど、五日後でもいいっていうのならそういうことなんでしょうさ。


「リセ……」

「大丈夫だよお母さん。週末には帰れるって言っているし。ちゃんと魔法覚えて帰ってくるよ」

「リセ……」

「お父さんも心配しないで。きっとすごい村の役に立つ人間になって帰ってくるからね」


眉毛を下げて心配そうに見つめてくる両親。

この二人の子供として転生できて、私は本当によかったなって思うよ。


ガタンと音がして振り返れば、貴族の二人がダイニングチェアから立ち上がったところだった。

「では、準備ができ次第王都へ来てください。用意すべきものや、訪れるべき場所を記した書類を後程とどけさせます」


学校の説明をメインでしていた男性がそういうと


「書類送るけど、字、読める?」


断れないぞと言った男性がそういった。

バカにして!


「読めると思います」

「そう」


貴族二人と護衛は家から出て行った。

用が終わればこんな粗末な家にはいたくないのだろうね。

言葉は丁寧だったし、にこにこしていたけれど、平民の説得なんて貧乏くじだと思っていたのかもしれないよね。出したお茶には手もつけていなかったよ。果実シロップは贅沢品なのに!


翌日、早馬で届けられた封書には両親のサインを入れるだけの状態の承諾書や行くべき場所の簡単な地図と学院の案内状がなどが入っていた。

学院の案内状に書いてある学校名を見て、私はがっくりとうなだれたのだった。


「やっぱり、乙女ゲーの世界だったよ‥‥」

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