2.日常生活と魔法と平穏な日々
私の良く知る異世界ものでは、魔法は貴族だけのものという設定が多かったが、この世界ではそうでもないらしいね。
平民である両親も普通に魔法が使えていたからね。
……そう、両親は普通に普段から魔法を使っていたんだよ。別に私に足してい隠されていたわけでもなんでもなかった。
普通の発展途上国に生まれ変わったと思い込んでいたせいで見過ごしていたらしい。
でも、両親や平民の使う魔法は大変に地味なので、気づかなくてもしょうがなかったと思うよ!
私がぼんやりしていたわけじゃないからね。……そう思いたい。
お城で王様から魔法を授かり、帰ってきてからは両親が先生となって魔法の練習をするようになった。
平民には義務教育的に通わされる学校などがあるわけではないようで、どこの家庭でも親が先生替わりになるのが一般的みたい。
私も、魔法の使い方を母から教わっているところなのだけどさ。
「こう・・・手のひらの上に、意識をギュッと集中すると魔力がグッと集まってくるから、それをブワっと開放するのよ」
と、母が目の前で手のひらをグッパグッパとひらいたり閉じたりしてみせる。母が握った手のひらを開けば、そこからソワァ〜とそよ風が出てくるのがわかる。
「えぇっと・・・ギュッとして・・・・グッと・・・グッと・・・」
グッと来ない。
母に言われたとおりに意識して、手のひらを穴が空くほどにらみながらやってみるが私の手のひらからは魔法が出てこない。
「リセは勘が鈍いわねぇ」
腰に手を当てて、苦笑いをしながら母がそんな事を言うが、納得いかない。
母が教師に向いていないのだと私は思うな。
ちなみに、リセというのが私の名前ね。
今は洗った食器を、風を起こして乾かすという魔法を教わっているところね。
母は、水で濡れている皿を一枚手にとると、反対の手をかざしてはふわりと風を起こして乾燥させている。
大変地味である。
村の友人たちが親から習っている魔法などを聞いている分には、どこの家でも使っている魔法はこの程度のようだった。
畑の雑草から水分を抜いて枯らすとか、かまどに火を入れる時に火口に火をつけるとかそういった事を習っているといっていたからね。
しょぼいね。
「リセは、お城で魔力SSって言われたからもっとできるかなぁ~って思ったんだけどなぁ」
「教え方が悪いと思うなぁ」
「そんなことを言うのは、この口か!」
母が笑いながら、口をつかんでタコチューの口にしてくる。反撃のために母の腰をつかんで指をわしゃわしゃと動かしてやった。
「あはははは。脇はだめ! 脇はだめ~! 降参降参!」
脇をこそばせて笑わせてやれば、母は私の口から手を話して小さくバンザイしてみせた。顔は笑ってる。
日常的な、いつもの家族のコミュニケーションだ。
私は、転生先の家族に恵まれていると思う。
おちゃらけているが明るくて朗らかな母と、無口だがやさしい父にしっかり愛されていると感じる。
魔法がうまく使えなくても、本気で叱ったりがっかりされたりもしていないのよ。
すごくない?
魔力SSです! なんて言われたのだから期待したり、伸ばすために学校に通わせたり、魔法使いを探して弟子入りさせたり。そんな事をしそうなものじゃない?
前世では、小学校から私立に行ってエスカレーター式に良い大学に入れようとか、塾に通わせていい学校に入学させようとかさ。そういうのが親の愛だって言われていたからさ。
能力ありますって言われているのにそれを発揮できていない事に対して、こんなに『なんてことない』態度で接してくれるのって本当にすごいと思うよ。
前世に比べれば生活はだいぶ……いや、そうとうに不便だし、娯楽もほとんどないけれども。
村は平和だし両親は優しいし友人にも恵まれている。今世はもう十分幸せだなぁって思っているんだよね。前世が便利だけど世知辛かったからそう思うのかもしれないけどね。
冒険小説かRPGか、オリジナルファンタジー世界か。
いずれかの世界なら冒険者になって世界を旅する大魔導士になりたいとちょっと思っていたのね。
魔力SSって言われれば、やっぱりあこがれるじゃない?そういうのってさ。
でも、この農村に住んでいると世界の情報が全然入ってこないのね。
冒険者ギルドはあるのか?魔王はいるのか? お城に騎士団や魔導士団なんかはあるのかどうか?
何もわからないんだよね。
おらこんな村いやだ!王都へ出るだ!
なんて叫んで城下町へ出たところで、魔力はあるけど覚えている魔法は無いなんて人間を雇ってくれる場所があるとも思えないしさ。
魔法を教えてくれる学校があるかどうかもわからないし、村の大人たちの魔法も似たりよったりで「ファイアーボール!」みたいな魔法を教えてくれる人もいない。そもそも「ファイアーボール!」って感じの魔法があるかもわからない。
この穏やかで平和な村で、家族に愛されて・愛して静かに暮らすのもいいかなと思っているわけさ。
前世の記憶があるから、魔法はできなくても頭の良い子として村の大人からもかわいがられているしさ。
俺TUEEEEE! で大成功! な人生はできなくても、満足する人生を送ることができるんじゃないかなって思うわけよ。
『異世界転生! 平和な農村でスローライフ満喫!』ってところかな。いいじゃん、いいじゃん。
と、思っていた時代が私にもありました。