1.前世の記憶はあったけど、まさか異世界転生だとは思わなかったよ
よろしくおねがいします。
「あ、これ異世界転生してるわ」
そう気が付いたのは、七歳の新年のことだった。
物心の付き始めた四歳ごろから、前世の記憶があるという認識はあった。
おそらく、生まれたときから前世の記憶はあったのだと思うのだけれど、赤ちゃんの脳みそではそれを認識できなかったのだと思う。
自己と他者との区別がつき始める、いわゆる『物心がつく』時期になってようやく『前世の記憶』というのを認識できるようになったのだろうね。
そのころは、同じ世界の違う地域、前世よりも貧しい国に生まれ直したのだなぁと思っていたのね。
私の前世では、道路はきちんと舗装されていたし自動車もバスもたくさん走っていた。電気が行き届いていて夜でも街は明るいし、家の中にはテレビがあってエアコンがあって電子レンジもあって……科学文明万歳! って生活だった。
でも、生まれ直した私の生活は、電気のない木造の家に住んでいて、脱穀精度の低い麦のおかゆを食べるような生活だったからね。
私が前世に暮らしていた日本の中でだって、東京二十三区内と地方の村落では生活様式はだいぶ違っていたし、外国には未だに電気の通っていない国や、牛や馬が交通手段の国、草を積んだだけの家で暮らしている国もあるって事を知識としては知ってもいたからね。
きっとそういう、発展途上国に生まれ直したのだろうと考えていたのさ。
だけど、七歳になる年の新年。
両親に連れられてお城へ行ったことで認識は一変したのさ。
遊園地のランドマークみたいなザ・お城って感じのお城で、王様からの祝福を受けて魔法を授かるというイベントがあったんだよね。
王様が「祝福する!」と言いながら手のひらから光の粒をきらきらと振りまいて、それを身に受けた子供たちは魔法を授かるという仕組みだった。
魔法だよ! 魔法!
光の粒を受けた私も魔法が使えるようになったみたいで、ちゃんと訓練すれば系統立てて魔法が使えるようになると説明を受けた。
私は、前世で世界の地理に詳しいわけではなかったけれどね。
さすがに魔法を使う王様、長剣をぶら下げて歩き回る警備員、イベントでもないのにドレスを着てうろうろしている女性のいる国なんてないってわかるよね。
極めつけは、田舎の村の子供ですら魔法が使えるという事実。
そこでピーンと来たわけよ。
「あ、これ異世界転生してるわ」
ってね。
****
私は前世、ライトなオタクだった。
ゲームが好きで、アニメが好きで、漫画がスキで、小説が好きだった。
商業出版されている小説も好きだし、ファンが個人的に出版している同人誌なんかも好きで読んでいたし、WEB小説も好きで読んでいた。
ライトノベルやWEB小説の一つのジャンルに「異世界転生物」と呼ばれるジャンルがあって、中でも「悪役令嬢転生物」が好きだったのね。
だからこそ、私は願ったよ。
どうか、この転生した世界が乙女ゲームの世界ではありませんように! と。
悪役令嬢転生物とは、乙女ゲームの世界の悪役令嬢…つまり、ヒロインのライバル役のキャラクターに転生するところから始まる物語で、たいていの場合破滅フラグを回避するためにヒロインと関わるのをやめることで逆にハーレムを築き幸せになって終わる。
そもそも、ヒロインのライバルを張れるのだから悪役令嬢というのはハイスペックであることが多い。
ハイスペックだが嫉妬深く、性格が悪いために皆に嫌われ、孤立したり没落したりするという役どころなのだが、これが中身が転生者となると話は変わってきて、フラグ回避のためにいじめや嫉妬をしなくなるのね。
性格も良くなったハイスペック美少女なんて、モテないわけがないのだ。
意地悪をやめて悪役令嬢がモテる様になると、どうなるか。
ヒロインが没落するのである。
無意識だったり意識的だったりするが、魅了の魔法を使ったりして人の心を操り、ぶりっ子し、正論ばかりをぶち上げていれば、そりゃぁ嫌われるよねってことですよ。
中には悪役令嬢と親友になるエンドなんかもあったが、そういった物語は稀である。
そして、私だが。
私は、王城のある城下町から乗合馬車で半日ほどかかる農村に生まれている。
この時点で、悪役令嬢ではありえない。
悪役令嬢は、令嬢というだけあって貴族の家に生まれるものだからね。
その上、例の「王様の祝福」で授かった魔法。
お城の大広間で王様の祝福を受けた後、魔力チェックをされてから帰されるのだが、そこで「魔力SS」と言われてしまったのだ。
つまり、私は魔力が非常に多いらしい。
これが非常にまずい。
平民出身のくせに魔力が多いというのはとても「ヒロイン属性」なのだ。
ここが、RPGや冒険小説の世界だったらのなら良い。
完全オリジナルファンタジー世界でも構わない。
それなら、いわゆる転生チートものだ。
冒険者になったり、王宮お抱えの魔導士になったりする人生を目指すことができるかもしれない。
むしろそっちが良い。ぜひそうありたい。
しかし、ここが乙女ゲームの世界だったとすると私はおそらく「ヒロイン」になってしまう。
そうすると、様々なタイプの美男子多数と知り合い、友人になり、そのうちの一人と恋仲になるという未来が待っているだろう。
そこまでは、まぁいいさ。
貧乏よりは贅沢な方がいいし、玉の輿はどんとこいですよ。
でも、私が転生しているという現実があって。
他に転生している人がいないとは断言できないではないか。
悪役令嬢役を担う子に、前世の記憶があったとしたら?
それはすなわち、私の没落を意味するのだ。
乙女ゲー転生悪役令嬢物のWEB小説をたくさん読んだ私は詳しいんだ。
七歳になる年の新年。
魔法を授かってからの帰り道、両親と一緒に乗合場所で揺られながら私は決心したね。
「絶対に地味に生きていこう」
とね。
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