数日遅れのバレンタイン
※ この話の時間軸は、本編の41話-42話の間の期間に相当します。
長閑な昼下がり。ルイスの姿は神殿の居住区にある一室にあった。
その部屋は若芽色の壁紙に、パイン材と白を中心にした丸みのある背の低い家具で彩られている。中央のコーヒーテーブルを挟むソファーには、刺繍を施されたクッションが並ぶ。
小さなベランダに繋がるシンプルな窓にはオーガンジーのレースカーテン。それを左右で絞り、視界が開けた窓の外では、白い雪が風に揺れて舞っていた。
「あ、リオン、それじゃ多過ぎ」
耳朶を打つその声に、部屋を眺めていたルイスは背後を振り返った。そこには、緩やかなカーブを描く出入り口。扉の代わりに、ミモザの花畑が描かれた暖簾がかかっていた。
暖簾をそっとめくり、彼が覗き込めば、そこには二人の女性。一人は白い狩衣の袖を絞り、山吹色のシンプルなエプロンを身につけた黒髪の女性――エマ。彼女の左隣には、青藍色の髪をポニーテールにした女性。それは、ルイスとエマの主、リオンだった。
滅紫と白花色のエプロンドレスを纏い、頭には深緑色の三角巾をつけた彼女は、キョトンとした様子でエマを振り返る。
「たっぷり入ってる方が美味しそうじゃない?」
「他にもいろんなものを入れるから、多ければいいわけじゃないのよ」
「そうなんだ……」
エマの言葉を受け、リオンが視線を落とした先には、小さな器にこんもりと盛られた茶色の粉末。彼女の右手に握られたスプーンを引き抜いたエマは、その茶色い山の一部を掬い上げながら言った。
「ココアの粉末は、それだけだと苦いからこれくらい」
「え、これだけ?」
最初に盛られていた量のおよそ半量程度になった山を見て、リオンは瑠璃色の目を見開いた。そんな女性陣の様子に、ルイスはそっと暖簾を戻すと、窓の外を眺めながら、少し前の記憶を遡った。
***
「お菓子作り?」
戸惑った様子で声を上げたルイスが、翠緑色の目を瞬かせて見下ろす先にはリオン。臙脂と黒のドレスを身につけた彼女は、ソファーに腰かけたまま頷いて言った。
「そう。お昼を食べたあと、エマの部屋で作り方を教わろうと思って」
「教わろうと思ってって……。なんでまた急にそんなことを?」
そう問われれば、彼女はコテンと首を傾げ、ポニーテールを揺らしながら、何でもないことのように言った。
「急じゃないよ? エマとは前から相談してたし」
「そうなのか?」
「ええ」
問いかけたルイスに返事をしたのは、リオンの隣に腰かけ、笑顔で頷くエマ。彼女の琥珀色の瞳をじっと見つめたあと、彼は小さく息をついた。
「菓子作りはわかった。だが、エマの部屋って巫女の居住区だよな? 巡回や緊急時以外で、騎士のオレが入って問題ないのか?」
そう言いながら、ルイスは当惑した様子で、片手を腰に当て、自分の鳶色の髪を掻いた。そんな彼の反応に、エマは呆気に取られた様子で目を瞬かせたあと、微苦笑を浮かべた。
「私は役職付きとして個室を貸し与えていただいているから、理由さえあれば問題ないと聞いているのだけど……」
「そうなのか?」
「ちなみに、それを教えてくれたのはグレン様なんですけど、ルイス様はご存じなかったんですね」
「団長が?」
頬に手を当てて告げる彼女に、ルイスの目が大きく瞠目する。そんな彼に、エマは一つ頷いて続けて言った。
「数日前も理由をこしらえて、私の部屋にお茶しに来てましたよ?」
「そう言えば、少し出てくると言って、ふらっと一刻半ほど姿を眩ませたことがあったな……。ご丁寧に権限ごと、仕事を全部オレに押し付けて」
記憶をたぐり寄せるように天井を見上げた彼は、『あのときか』とため息交じりにぼやく。半眼になった彼の声には、微かに恨み節が見え隠れしている。困り顔で頬を掻く彼女に視線を戻すと、彼は真顔で言った。
「あの人は、口八丁手八丁だからな。あまり鵜呑みにし過ぎるなよ?」
「そういうところあるものね。肝に銘じておくわ」
クスクスと楽しげに笑いながら返すエマに、彼の口元がムッとした様子で眉を顰める。そんな彼を特に気にした様子もなく、彼女は軽い口調で言った。
「まぁ、何はともあれ。今回に限っては、リオンの護衛という名目があるから、全く問題ないわ」
その言葉に、ルイスは不承不承ながら、ようやく首を縦に振ったのだった。
***
そうして、エマの部屋へとやってきて、現在に至る。ルイスの背後では、たまに不穏な音を立てながらも、女性陣の声が楽しげに響く。
「それくらいでストップ」
「ええ~……。甘い方がいいじゃない」
「リオンだけが食べるなら止めないけれど、今回ばかりはダーメ」
不満げなリオンを、呆れ声が諫める。その声が告げた内容に、ルイスはぴくりと反応し、微かに眉根を寄せつつ、背後を振り返った。
暖簾の隙間から見えるのは、渋々ながらも言われたとおりに作業をするリオンの姿。彼女の顔は真剣そのもので、それを見たルイスは何とも言い難い表情で、こっそり息をついたのだった。
そんなこんなで、作業が一段落ついたところで、二人は休憩と称してお茶を始めた。テーブルの上には、エマが予め準備していた焼き菓子が、湯気を立てる紅茶と共に並ぶ。
それらを幸せそうな顔で食べるリオンの左頬には、アーモンド大の茶色の生地。汚れてはいけないからと着替えたエプロンドレスも、粉で所々白くなっている。そんな彼女に、ルイスは苦笑しながら言った。
「リオン、頬についてるぞ」
「え?」
「そっちじゃない」
そう言って、ルイスは彼女の頬についたそれを、指で拭いペロリと舐めた。彼の行動に唖然としたリオンは、一拍後ぶわっと頬に朱を注ぐ。しかし、真顔で味を見ているルイスが、意に介する様子はない。
「思ったより甘くないんだな。オレは好きな味だけど、お前、もう少し甘い方が好みだよな?」
「それはその、あげるものだから、あんまり甘くしちゃダメってエマが……。でもよかった」
ホッとした様子で、胸を撫で下ろす彼女に、ルイスの纏う空気の温度が下がる。だが、機嫌良く菓子を口に運ぶ彼女は、それに気付かない。
そんな若干すれ違い気味の二人に、エマはやれやれといった様子で小さく息をこぼす。そして、だいぶ減っている二人のカップへと、彼女はそっと追加のお茶を注いだ。それに対し、一言礼を言いながら、ルイスは不機嫌そうに言った。
「しかし今更だが、なんでエマの部屋なんだ? 暖炉ならリオンの部屋にもあるだろ?」
「私のところのだと難しいんだって」
『そうなのか?』と言わんばかりの顔で、ルイスはエマを振り返る。微かに苛立ちの色を帯びた彼の目に、彼女は小さく肩を竦めて見せながら言った。
「カップケーキを焼くには、不向きなのよ。私のは扉がついている薪ストーブだから、温度調整もしやすくてちょうどいいですし」
「そうなのか……」
彼女の説明に、ルイスの目がキョトンとした様子で瞬く。そんな彼の反応に、エマの琥珀色の目が、僅かに釣り上がり細められる。
「そうなのか、って……。ルイス様、さては料理全くしないですね?」
「まぁ、そうだな。宿舎では料理番が作ってるし。できなくはないが、遠征のときはだいたいリックがやってくれてるからな」
「やらないと身につきませんよ?」
「……一応、心に留めておく」
エマの正論に、ルイスはばつが悪そうに視線を逸らした。逸らした先には、焼き菓子を頬張り、咀嚼しながら見上げてるリオン。そんな彼女の様子に、ルイスは小さく噴き出した。
彼の反応に、リオンはきょとんとした様子で首を傾げつつ、ごくんと飲み込む。何事かを問うように見つめられたルイスは、口元を隠しながら苦笑して言った。
「いや、なんだかリスみたいだなと思って……」
「……それ、褒めてるの?」
「ん? 単純に可愛いなと思っただけだけど」
彼の何気ない一言に、それまで頬を膨らませていたリオンの頬に再び朱が差す。彼女の反応に対し、ルイスはきょとんとした様子で首を傾げる。そんな彼を見て、エマは嘆息して言った。
「ルイス様って、女心には鈍感な癖に、変なところで誑しよね……」
心外な、と言わんばかりに、彼は口を開こうとした。だがそのとき、テーブルの上にあった砂時計が落ちきったことにより、女性陣は慌ただしく部屋の奥へと駆けていく。そうして、その話は半ば強制的に打ち切られたのだった。
それからおよそ半刻後。彼らはリオンの自室へと場所を移していた。
「それじゃ、私は用事があるので席を外します。ルイス様、あとお願いしますね」
「ああ」
短いやりとりを終えるや否や、エマはリオンの部屋を後にした。残されたのは、テーブルを挟んで向かい合わせに座るリオンとルイス。そして、二人の前に置かれた湯気の立つティーカップだけだった。
臙脂と黒のドレスに着替え直したリオンの手の中には、小さな白い箱。彼女の両手に乗るサイズのそれを、睨むように見つめつつ、ルイスはカップを弄びながら言った。
「それ、いつ渡しに行くんだ?」
「え?」
「人にあげるために作ったんだろ?」
きょとんとした様子で目を丸くするリオンに対し、彼はそっぽ向きながら告げる。その声には隠しきれない苛立ちが滲み、トーンもややぶっきらぼうなものだった。
そんなルイスを、しばし唖然とした様子でリオンはじっと見つめる。そのあと、彼女は徐に立ち上がると、彼の隣に移動してストンと腰を下ろした。
不可解な彼女の行動に、ルイスが振り返れば、そこには頬を赤く染め、彼を窺うように見上げる彼女の姿。
彼が訝しげに首を傾げる中、リオンは手元の箱を自ら開けた。それと同時に、程よく香ばしい匂いが辺りに漂う。彼女の行動に戸惑いを隠せないルイスが見たのは、パラフィン紙でできた器に入った、一口サイズのカップケーキ。濃厚な焦茶色をした生地の上には白いクリームと半分にカットされた苺が鎮座している。
六つ入っているうちの一つを手にしたリオンは、パラフィン紙を剥がし、そーっと生地の部分を半分に分ける。下半分の生地を苺の上に持ってきて、軽く押さえると、戸惑うルイスに向かって、『はい』と彼女は差し出した。それに驚き固まる彼に、焦れた様子でリオンは言った。
「口開けて」
「いや、ちょ……むぐっ!?」
制止をかけるために開かれたルイスの口に、ここぞとばかりにケーキが押し込まれる。口に入れられたそれに対し、彼は目を白黒させつつも黙って咀嚼を始めた。
頬に朱を差しながら噛みしめる彼の一挙一動を、リオンは緊張した面持ちで見つめる。そして、ややあって、ごくりと飲み込むのを認めると、彼女は恐る恐る問いかけた。
「どう……?」
「……旨かった」
「よかったぁ~……」
ほーっと、安堵の色を帯びた長嘆息がリオンの口からこぼれ落ちる。胸を撫で下ろす彼女の様子に、ルイスは躊躇いがちに口を開いた。
「もしかしなくても、オレのために作ってたのか?」
「そうだよ。え、ルイスは誰のために作ってると思ってたの?」
「……リック、とか……」
気まずそうにルイスが告げた名に、瑠璃色の瞳がパチパチと瞬く。しばし無言で考え込んだ後、リオンは不思議そうに首を傾げながら言った。
「リックは別に甘いのでも平気でしょ?」
「うっ……。それはまぁ、そうなんだが……。特に菓子を貰う理由も思いつかなくてだな……」
「……バレンタイン」
「え?」
もごもごと言い訳染みたことを並べるルイスに、彼女の口からポツリと零れたのは一つの単語。その言葉を聞いた彼の目が、大きく見開かれる。リオンはそんな彼の反応に、もじもじと両手を弄りながら、赤ら顔で言った。
「その……、バレンタインの日はまだ謹慎中だったじゃない? それにいろいろあって余裕もなかったから、エマと相談して、謹慎明けたらって話してたの」
「そう、だったのか……」
彼女の膝の上にある箱へ、沈黙した二人の視線が集中する。そんな中、ルイスは小さく咳払いをして言った。
「で、その……残りはくれないのか?」
その言葉に、リオンが驚いた様子で顔を上げれば、照れくさそうに視線を逸らすルイス。頬を掻きつつ、チラリと振り返る彼に、リオンは唖然とした様子で口を開いた。
「食べて、くれるの?」
「他ならともかく、お前のだし……食べる。というか、食べたい」
やや尻すぼみになりつつも、はっきりと言葉にされたそれに彼女の瞳が瞠目する。そうして、顔を綻ばせたリオンは、笑顔でケーキを一つ手に取り、先ほどと同様の状態に整え彼の口元に差し出した。
彼女の行動が意味するもの。それに気付いたルイスの頬は真っ赤に染まり、彼の口元が引き攣る。彼はさっと掌をケーキと口の間に立てて言った。
「ちょっと待て。なんでそうなる?」
「え。バレンタインは『好きな人に手ずからお菓子を食べさせる日』なんだよね?」
あっけらかんと返された答えに、翠緑色の目が困惑した様子で瞬く。その後、やや考え込んだ後、彼は額を押さえながら、訝しげに問いかけた。
「リオン。それ誰から聞いた?」
「リックだよ」
彼女の口から出た名に、ルイスの目が据わる。彼の脳裏を過ったのは、してやったり顔でVサインをしている金髪の騎士。それに眉根を寄せたルイスは、こめかみを押さえながら言った。
「それ、正しくは『好きな男に菓子を渡して想いを伝える日』だ」
「え、そうなの?」
「そうなんだ。はぁ、全くアイツは……」
驚き目を瞬かせるリオンに、彼の口から疲れの滲むため息と共に、その場に居ない相棒へのぼやきが小さく零れる。呆れた様子で頭を掻く彼に対し、リオンは手の中にあるケーキを見つめてしばし黙り込んだ。そんな彼女の様子に気付いたルイスが名を呼べば、彼女は沈みがちな声で言った。
「看病してたときもそうだったけど、私に食べさせられるの、ルイスは嫌?」
「え?」
戸惑い目を瞬かせる彼に、不安げに揺れるリオンの瞳が向けられる。そんな彼女の顔を見たルイスは、ギョッとした様子でたじろいだ。僅かに滲み始めるその目に、彼は焦った様子で言った。
「あの時は周りにパチル様とかその他にも人が居たからで、別に嫌だったわけじゃない!」
「じゃあ、今は?」
「気恥ずかしさはあるが、人が来ないうちなら……構わない」
赤らめた顔を拳で隠しながらも、ルイスが返したのは肯定。その言葉を聞くや、今にも泣き出しそうだった顔に、満開の花が咲き綻ぶ。そうして、気を取り直した彼女は満面の笑みで、もう一度ケーキを差し出す。恥ずかしそうにしつつも、今度は彼も素直にそれに応じた。
彼が一つ食べ終えると、一呼吸間を置いて次が差し出される。繰り返されるそれに、ルイスの顔の赤みは徐々に増し、リオンの笑みは深まっていく一方だ。そうして、全てのケーキが彼の胃袋へと収まると、ルイスは赤ら顔で両手を合わせて言った。
「ご馳走様」
「お粗末様でした。ふふっ、これ一度言ってみたかったの」
何気ないことを嬉しげに語るリオンに、彼は頬を緩めつつ、エマが残していった紅茶に手を伸ばす。そんな中、空箱を平らに畳んでいた彼女が、ふとルイスに問いかけた。
「そういえば、ルイスはバレンタイン、他の人から貰ったりとかしなかったの?」
彼女の口から飛び出した問いかけに、彼は飲みかけの紅茶を上手く飲み込めず、盛大にむせ込んだ。ゲホゲホと咳き込む彼の背をさする彼女を、彼は薄らと涙のにじむ目で振り返る。
「なんだよ、藪から棒に」
「想いを伝える日なら、私の他にも居たのかなって思って……。で、どうなの?」
「まぁ、貰いは……した。でも、それは日頃の礼としての義理菓子だからな?」
前のめり気味に問いかける彼女に、ルイスは歯切れ悪く答えた。しかし、悲しげな顔のリオンに気付くと、微かに慌てた様子で彼は付け足す。だが、それでもなお、下がった彼女の眉尻は戻らない。
「そうじゃない、その……ルイス個人を想って、のお菓子は?」
「本命菓子らしいのは全部断った」
「え」
先のものとは違い、即座に返ってきた明瞭な答えに、彼女の目が大きく見開かれる。マジマジと見つめる彼女の前には、真顔のまま平然としているルイス。その目には、偽りも罪悪感も一切浮かんでいない。
そんな彼に、リオンは戸惑った様子で問いかけた。
「な、なんで?」
「応えられないのに受け取れないだろ」
至極当然のように返すルイスに、リオンは視線を手の中にある空の包みを見つめる。しばし見つめたあと、彼女は頬を染めて言った。
「えと……、私の食べてくれたのは、その……」
「そりゃ、お前のは特別だし。恋人のが本命菓子じゃなかったら、さすがにオレでも凹む。というか、確実に妬く」
「え、ルイスが? 嫉妬、するの?」
驚きで目を瞬かせた彼女に、ルイスは頬を染め、仏頂面をその顔に浮かべる。
「悪いか?」
「そんなことはないけど、想像がちょっとつかなくて……」
「……恥を忍んで言えば、さっきまでだって、菓子を贈られる誰かに妬いてたけどな」
不貞腐れた様子で視線を逸らす彼に、リオンは唖然とした様子で彼の横顔を見つめた。しかし、その顔が耳まで真っ赤に染まっていることに気付くと、クスリと小さく笑い声をあげた。
「だから不機嫌だったんだね」
その言葉に、ルイスが小さく唸る。そろりと彼女を振り返れば、そこには口元を手で隠し、楽しげに笑うリオンの姿。それを見て、彼は気まずそうに言った。
「それは、悪かった。味見したときのお前の反応で、オレも気付くべきだったなとは思ってる」
「謝らなくてもいいのに。ルイスの新しい一面知れて、私は嬉しいよ?」
ふわりと微笑んだ彼女に、今度はルイスが驚き、目を瞠る。そして、やや間を置くと、肩を落としながら、彼は小さく息をついた。
「お前には敵いそうにないな」
そう言って苦笑を浮かべた彼に、リオンは不思議そうに首を傾げる。そんな彼女を愛おしげに見つめると、そっと抱き寄せて言った。
「ありがとな、リオン」
突然の抱擁に、目を丸くしていたリオンだったが、その言葉を聞くと、嬉しそうに微笑み小さく頷き返した。パチパチと暖炉の音が響く中、二人の少し遅いバレンタインは、甘い空気に包まれ、ゆったりと過ぎていったのだった。