初めてのクリスマス
※ この話の時間軸は、本編の17話-18話の間の期間に相当します。
新月の夜から二日が経とうという夕食時のこと。曇天の夜空から白い雪が舞い落ち、外の地面や木は白で覆われつつある。そんな中、ルイスは一人、神殿の居住区画の石廊を進んでいた。静かなそこには彼の軍靴の足音だけが響く。
窓を震わせる音に彼が振り返った先では、冬風に乗った銀花が舞っている。それを見た彼は、二の腕をさすりながら呟いた。
「この時期にもう雪か……。さすがに今日は温石でも持ってくるべきだったか?」
そんなことを言いながら、ルイスが慣れた足取りで辿り着いたのは最奥にある扉の前。
扉の前でルイスは不思議そうに首を傾げたあと、扉を三回ノックした。それに応じるメゾソプラノの声を聞くと、彼は部屋の中へと入っていった。
赤と金を基調にしたその部屋の片隅には、ルイスと同じくらいの背丈のもみの木。それは天辺に金色の星を抱き、白や金、赤でカラフルに飾られている。壁には緑や金のリボンで装飾が施され、星以外にも月や太陽を模した飾りがキャンドルの明かりに煌めいていた。
そんな普段と様相の違う部屋に主の姿はなく、居たのは忙しなく動き回る黒髪の女性――エマだった。巫女装束こそ普段通りながら、白いファーがついた赤い帽子を被った彼女は、せっせと何かを運んでいる。そんな彼女がセッティングしているテーブルに並んだもの。それらを見たルイスは眉を僅かにひそめた。
扉の前に立ったままの彼に、細いシャンパングラスを運びながらエマは言った。
「ルイス様、そんなところに立ってないで暖炉で暖まってはいかがです?」
「エマ、リオンとリックは何してるんだ?」
エマの言葉を受けて、暖炉の方へ移動しつつ、ルイスは問いかける。それに対し、彼女はグラスをテーブルに一つずつ置きながら言った。
「まだ公務から戻ってないからわからないわ」
「確か午後の公務は、貴族との謁見が一件だけのはずだよな?」
「な、長引いてるんじゃないかしら?」
そう言って視線を泳がせるエマに、ルイスは小さく息をついて言った。
「あのな、いくら何でも長引くには程があるだろ。そもそもバレバレだ」
そんな言葉と共に、彼がスタスタと歩み寄ったのは厚いカーテンがかけられた窓辺。彼がカーテンを引くと、慌てた様子でエマが声をかけた。
「あ、あの、ルイス様」
「なんだ?」
「足下に何か……」
「ん?」
窓を開けようとしたルイスが、彼女の言葉に足下を見れば、そこには金で縁取られた緑の封筒。彼がしゃがみ込んでそれを拾い上げれば、ほぼ同時に窓が外側へ向かい開く。暖炉に暖められたその部屋に、冷たい空気と共に六花が入り込んで来ると、ルイスは呆れた様子で振り返ろうとした。
「なんだやっぱりい……うわっ!?」
「メリークリスマス!」
陽気なかけ声と共に、ルイスは横から不意打ちの体当たりをくらった。しゃがんでいたことで踏ん張れなかった彼の体は、封筒を持ったまま為す術もなく絨毯に倒れる。そして、彼に跨がり楽しげに笑みを浮かべる相手を見上げると、翠緑色の瞳が驚き瞬いた。
白いファーがついた赤い帽子にケープ、赤と緑のチェック柄のワンピース、背には大きな袋。あるものを彷彿とさせる格好をした青藍色の髪の女性――リオンを見つめ、ルイスはじと目で言った。
「人を呼びつけておいて、いきなりご挨拶が過ぎやしないか?」
「ふふっ、驚いた?」
「主に突然飛びかかられて馬乗りされたら、オレじゃなくても驚くだろ」
「じゃあ、大成功だね」
彼の皮肉染みた返事に対し、リオンは満足げに瑠璃色の瞳を細めて笑った。それを見たルイスの口から零れ落ちたのは小さなため息。
「成功オメデトウ。で、リオン。お前は一体いつまでオレの上に乗ってるつもりだ?」
「え? あ、ごめん」
彼の言葉にリオンは素直に退くと、彼のすぐ隣にちょこんと座り直した。上半身を起こしたルイスの双眸が、無言で彼女を見つめる。それに対し、リオンがきょとんと首を傾げていると、彼は徐に彼女の頬へと手を伸ばした。頬に手を添えられれば、戸惑う彼女の頬にさっと朱が差す。
「え、えと……ルイス?」
「体冷やしすぎだろ。風邪引いたらどうするんだ?」
真顔でそう告げた後、ルイスはハッとした様子で手を引っ込め、窓の方へと振り返った。そこには、窓とカーテンをしめる金髪碧眼の騎士――リックの姿。リオンと共に外にいたのだろう、彼の肩には僅かながら雪が積もっている。
「おい、リック」
「あ、待って、怒る前に一応オレの言い分も聞いて?」
ドスの利いた低い声と怒気の滲む視線に、リックは苦笑いと共に碧い手袋をはめた両手を挙げた。そんな彼に小さく息をつきながらも、ルイスは眼光を緩めることなく問いかけた。
「なんだ?」
「これでも一応、無難なものに変更するの頑張ったんだって。最初は暖炉の煙突に隠れようとしてたし。代替案として出てきたのは木からここに飛び移るとか、手すりからジャンプとかだったし」
リックが告げた内容に、ルイスの目が瞠目する。事実かどうかを問うように、彼の目がリオンに向けられれば、彼女は頬を掻きながら微苦笑を浮かべて言った。
「汚れるし、危ないからダメってリックとエマから止められちゃったんだよね」
「当たり前だ、バカ」
返ってきたその答えに、ルイスの口から大きなため息が漏れる。そして、呆れかえった様子で、主と自分の副官を見て言った。
「というか、どうせ変更するなら、こんなに体が冷えるような方法じゃないものにしろ、全く……。エマ、悪いが何かかけるもの出してくれるか?」
「すぐ準備するわ」
「え、大丈……くしゅっ!」
エマが部屋の奥へと駆ける中、反論しようとしたリオンの口から小さなくしゃみが飛び出す。それに対し、ルイスはにっこり微笑みを浮かべた。
「で、なんだって?」
「う……。何でもない」
全く笑っていない彼の目に、リオンの目が気まずそうに逸らされる。そんな彼女に嘆息すると、ルイスは立ち上がり、彼女を暖炉の前までエスコートした。
「ほら、ここ座れ。リックも」
「え、オレなら平気……うん、わかった。わかったから、ばきばき鳴らすのやめよう?」
目を据わらせて手の関節を鳴らしたルイスに、リックもまた降参した様子でリオンの隣に腰を下ろす。そうして、エマが持ってきたブランケットに潔く包まった二人に、ルイスは両腕を組んで言った。
「クリスマスだからと、はしゃいだのはわかった。が、もうちょっと考えろよな。雪が降ってる中、そんな裾の短いドレスで外に居たら、体が冷えないわけないだろ」
「思ったよりもルイスが来るの遅かったんだもん」
「オレのせいにするな」
ぴしゃりと切り捨てられると、リオンは小さく肩を竦めた。そんな彼女の反応に、ルイスは居心地悪そうに視線をテーブルへ向ける。所狭しと置かれているのは、粉砂糖で白く染まったパンドーロの他、基本手で食べるものが軽食からメインまで数種類。その量はどう見積もっても一人や二人で食べきれる量ではない。
「というか、わざわざ時間を夕飯時に指定してきたから、何かあるとは思ってたが……」
「リックにアドバイス貰って、立食でも大丈夫なものをエマにお願いしたの。これなら二人とも、私の護衛中でも一緒に食べれるでしょ?」
どや顔でそう告げるリオンに、ルイスはこめかみに手を当てながら言った。
「なんでその機転を、オレを驚かせる方にも活かせないんだ……」
「それはそれ、これはこれ。初めて四人で迎えるクリスマス、せっかくなら二人とも一緒に祝いたかったの。ね、これなら、一緒にクリスマスのお祝いできるよね?」
期待でキラキラと輝く彼女の視線に、ルイスは僅かにたじろいだ。そして、やや間を置くと、小さく息をつきながらも、苦笑を浮かべて了承の意を示したのだった。
***
「じゃあ、改めて、メリークリスマス!」
そんなリオンのかけ声と共に、四つのシャンパングラスがチーンと音を奏でる。それぞれが細かく泡立つそれに口をつける中、リオンの斜め前に座るリックが問いかけた。
「リオン、初めてのシードルはどう?」
「甘くておいしいよ。お酒って苦いって聞いてたけど、そんなでもないんだね」
「あ、リオン、ジュースのようだからってあんまり飲み過ぎちゃダメよ? 軽めとは言え、それお酒なんだから」
そんな注意を促したのは、リオンの隣に座るエマだ。彼女の苦言に、ルイスは目の前に座るリオンへ問いかけた。
「十六になってだいぶ経つが、まだ酒飲んだことなかったのか?」
「お祝い事の次の日に、公務が詰まりがちでなかなか機会がなかったの」
「それで今日が初のお酒になったわけか」
そう言って苦笑しつつ、ルイスはグラスを傾ける。そして徐にボトルを見たあと、彼は隣に座るリックを振り返った。
「このシードル、結構いい値がするヤツだよな? オレ最近、部屋で同じラベルのものを見たばかりの気がするんだが……」
「オレが買って来たものだし、そりゃ見覚えあるでしょ。ちなみに、シードル含めた食材がオレから三人へのクリスマスプレゼント」
「あ、私は食事とお菓子ね」
「なるほど、そういうことか。ならありがたく頂かないとな」
リックの言葉に追随するようにエマが告げれば、ルイスは目の前にあるサンドイッチへと手を伸ばした。そんな中、リオンはソファーの横に置いていた白い袋をゴソゴソと漁り始めた。
ルイスがサンドイッチを咀嚼しつつ、その様子を窺っていると、彼女は一つの包みを手に振り返り言った。
「私からはこれ」
そう言ってリオンが差し出したのは、緑と金のリボンで飾られた青地の包み。それを受け取りながら、ルイスは包みと彼女を交互に見て言った。
「お前どうやってプレゼントなんか……」
「エマにお願いして、神殿の広場で開かれてた市で買って来てもらったの」
「そうだったのか。……開けてみてもいいか?」
そう問われれば、もちろんと言わんばかりに彼女の顔が前後に小さく動く。そして、リボンを紐解いた袋状の包みから出てきたのは、翠緑色の細長い布。両手で広げ持った彼の口から、それを指す言葉が零れ落ちる。
「マフラー?」
「うん。ルイスもリックも、最近寒そうだったから、防寒具あると違うかなって思って」
「リックも?」
リオンの言葉を受けて、彼が振り返れば、リックは碧い手袋を一組見せながら言った。
「あ、オレは朝のうちにこれもらったんだ」
「ああ、だから見覚えのない手袋してたのか」
合点がいった様子のルイスに、リオンは恐る恐る伺うように問いかけた。
「それで、どう?」
「肌触りもいいし、暖かくていいな。大事にする」
「よかった」
室内ながら、さっとマフラーを首に巻き微笑むルイスに、リオンの顔が嬉しそうに破顔する。そんな彼女の笑みを見た彼は、微かに頬を染めると咳払いをし、彼女の隣に座るエマを見て言った。
「ちなみに、エマは何だったんだ?」
「え? あ、私はこれよ」
そう言ったエマが帽子を脱げば、黒いポニーテールを彩る真紅のリボンが揺れる。
「赤いリボン? それも市で買ったのか?」
「まさか。私はルイス様とリック様の分しか頼まれてなかったもの」
「それは私がお義父様にお願いして送っていただいたの」
「へぇ。でも、なんで赤なんだ?」
ルイスが疑問をそのまま口に乗せれば、リオンの目が僅かに泳ぐ。
「た、たまには違う色もいいかなって思って。赤似合いそうだったし」
「ふーん……」
冷や汗をだらだらと流す彼女へ、訝しむルイスの視線が刺さる。しかし、やや間を置くと、彼は小さく息をついて言った。
「まぁ、いい。じゃあ、オレも忘れないうちに渡しておくか」
そう言うと、ルイスは懐から小さな包みを二つ取り出し、差し出した。比較的平たい包みはリオンに、少しずっしりとした厚みのある包みはエマに。それに対し、女性陣は目を丸くして、包みとルイスを交互に見やる。
「え? ルイス、これって……」
「クリスマスプレゼント」
「私の分まで準備してたんですね」
驚きを露わにする二人に対し、リックはいじけた様子で両腕を頭の後ろに回して言った。
「なぁ、オレにはないわけ?」
「お前のは部屋の机に置いてある」
「え、あるの?」
ルイスの返答に、リックの碧眼が驚きで見開かれる。そんな彼に対し、ルイスは淡々とした調子で言った。
「二人に準備するのも、四人に準備するのも変わらないからな」
「あー、なるほど。で、お前がそんなことしたから、この時期に珍しく雪降ってるんだ」
「……リック、それは喧嘩を売ってると解釈していいんだな?」
悪戯っぽく笑うリックに対し、ルイスは笑顔で拳を握り絞める。そんな彼に、リックはふざけた調子で両腕を交差させて言った。
「部下への暴力はんたーい」
「ね、ねぇ!」
「うん?」
軽口を叩き合っていた騎士二人は、乱入した主の声に異口同音で振り返る。二人の視線を受けたリオンはと言えば、僅かに興奮した様子でルイスを見て問いかけた。
「これ、開けてみてもいい?」
「ああ、構わないぞ」
そんなルイスの言葉を皮切りに、リオンとエマが包みを解いていく。そして、それぞれの包みから出てきたもの、それは……。
「これって、しおり?」
「私のは……砂糖ですよね、これ」
「え、砂糖?」
リオンの手には金の透かし細工でできたブックマーカー。三日月と薔薇の花がモチーフとなっている細工の紐の先には青い石が揺れている。対するエマの手元には、華やかさの欠片もない小さな紙袋。そこには混じりけのない白砂糖が拳一個分ほど詰まっていた。
プレゼントの中身として出てきた高価な甘味料に、リオンとエマの目が丸くなる。そんな二人に、ルイスは何でもない様子で言った。
「リオンのついでとは言え、ちょくちょく手作りの菓子をわけてもらってるからな。材料の足しになればと思って」
「ぷっ……」
「なんかおかしかったか?」
小さく噴き出したエマに、ルイスは不思議そうに首を傾げる。彼の様子に、エマは笑いを噛み殺しながら言った。
「い、いえ……。ふふっ、殿方ってみんなそういう考え方するのかなと思って」
「そういう考え方?」
「端的に言うと実用主義?」
「あー、ルイスの場合は完全にそれだね」
エマの答えにリックが楽しげに笑いながら返せば、ルイスは僅かにムッとした様子で相棒を振り返る。そんな彼に、リオンは手の中にあるブックマーカーを見て言った。
「ってことは、私のも?」
「お前、本読むの好きだろ? それにクリスマス市で見たときに何となくリオンっぽいなと思ったから」
頬を掻きながら照れくさそうに答えるルイスに、リオンの目が微かに瞠目する。そして、耳まで赤く染める彼の横顔を見ると、彼女はふわりと微笑んで言った。
「ありがとう、大事にするね」
「ああ」
ちらりとルイスが振り返れば、彼女につられるように彼の顔にも柔らかな笑みが浮かぶ。そうして二人が、あれが美味しいこれが美味しいと、互いに勧め合いを始めると、リックはこっそりエマの隣に移動して言った。
「ねぇ、エマ。一つだけ聞いていい?」
「なんですか?」
「ルイスにマフラーを選んだのってもしかして意味あったりする?」
そんな彼の言葉に、エマの琥珀色の瞳が微かに見開かれる。そして、彼女は眉尻を下げて微笑んだ。
「リック様はご存じなんですね」
「ってことはやっぱり?」
「ちょっとでも気付くきっかけにならないかな、と思ったんですけど。思った以上に難敵でした」
「まぁ、アイツはそういうのほとんど知らないと思う」
苦笑いを浮かべたリックに、エマは『ですよね』と脱力気味に肩を落とした。そんな彼女に、リックは顎に手を当てながら言った。
「でも、確かマフラーの場合、あなたに首ったけとか、束縛したい、の他に、一晩共にしたいとか、際どい意味なかった?」
「ありますけど、ルイス様なら問題ないかなと思って」
あっけらかんと言い切ったエマの言葉に、リックは何とも言えない表情でルイスを見やる。しかし、そんな彼の視線に気付いた様子もなく、ルイスはリオンと楽しげに話をしている。パッと見た感じではいつもと変わらない様子で。
「意味には気付いてなさそうだけど……。でも、気付くきっかけはあったかもね」
そんな意味深な言葉に、エマは首を傾げたものの、リックがそれについて言及することはついぞなかったのだった。
ささやかなクリスマスパーティーを、四人で満喫した翌日の昼過ぎ。リックはリオンの部屋に入るや否や、彼女の隣に立つルイスにツカツカと歩み寄りながら言った。
「ちょっと、ルイス。オレへのクリスマスプレゼントが羽ペンってどういうこと?」
「羽ペン?」
リックの言葉をオウム返しに繰り返したのはリオン。彼女に昼食後のお茶を淹れているエマも目を瞬かせながら、騎士達を見守っている。そんな中、問いかけられたルイスは、きょとんとした様子で言った。
「だいぶペン先がダメになってるようだったからそれにしたんだが……。なんかまずかったか?」
「マズくはないけど……。仕事しろって催促されたのかと思ったよ」
「したら早くなるのか?」
「それは、どうかな……」
ルイスの問いかけに、リックはやってきたときの勢いとは裏腹に、口元を引き攣らせて視線を逸らした。そんな彼に対し、ルイスの顔に苦笑が浮かぶ。
「だろ。そこまで期待してない」
「あ、それはそれで酷い」
「……お前な……」
リックの返答に、ルイスの顔がうんざりとした様子で歪む。しかし、そんな彼の様子に構うことなく、リックは思い出したように言った。
「そういえば、昨日聞きそびれたけど、団長には何プレゼントしたの?」
「オレ、団長に渡したなんて一言も言ってないが」
「けど、屯所内でお前がプレゼント渡すような相手、団長くらいでしょ」
その言葉にルイスは言葉を詰まらせた。それが意味するのは肯定。そんなルイスの様子に、女性二人も興味津々と言った様子でルイスを見つめる。
「ルイス、団長さんに何をプレゼントしたの?」
そんなリオンの問いかけに、何故かルイスは言い淀み視線を逸らした。が、その視線の先へとリオンが回り、無言でじっと見つめれば、観念したように彼は息をついて言った。
「シュトーレンだよ」
「え?」
ルイスの答えに声を上げたのは、その場にいた彼以外の全員。驚いた様子で目を瞬かせる三人に、ルイスは居心地悪そうに視線を彷徨わせた。そんな中、リックが恐る恐るといった様子で口を開いた。
「ねぇ、ルイス」
「なんだ?」
「シュトーレンって、月初めからクリスマスまで、少しずつ食べるお菓子だよね?」
「……そうだが」
何か文句あるかと言わんばかりの表情の彼に、リックは困惑した様子で重ねて問いかけた。
「お前、一体いつからクリスマスプレゼントの準備してたの?」
そんな彼の言葉に、ルイスの顔が真っ赤に染まる。そして、顔を染め上げたまま、彼は矢継ぎ早に言った。
「べ、別にいいだろ、そんなの! とりあえず、オレは休憩に行くから、あと頼んだぞ」
「あ、逃げた」
リックの言葉が足早に部屋を後にするルイスの背中に投げかけられるも、彼の足は止まらない。そして、耳まで真っ赤に染めた彼が扉の向こうに消える中、リオンは呆けた様子で、机に近付いた。
そこには開かれた分厚い本と、読みかけのページに置かれた真新しいブックマーカー。それをそっと握りしめると、リオンは嬉しそうに微笑みを浮かべたのだった。
一方、逃げるように退室したルイスはと言えば、人気のない石廊で立ち止まり辺りを見回していた。周囲に人がいないことを確認した彼が、懐から取り出したのは一通の封筒。それは昨晩、リオンの部屋の窓辺で彼が拾ったものだ。すでに封が切られているそこから取り出したのは、一枚のメッセージカード。
『来年もよろしくね。 リオン』
華奢な字で書かれた一言だけのメッセージ。それを嬉しそうに眺めると、ルイスはそっと目を閉じて口元に寄せた。僅かに唇に触れたそれを愛おしげに見つめると、彼はそれを封筒に戻し懐へしまい込んだ。そして、微かにその顔に笑みを残し、軽快な足取りでその場を後にしたのだった。