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月夢~番外編~  作者: 桜羽 藍里
【番外編】
24/31

忘却のハロウィン-前編-

※ 時間軸としては、本編開始の約1年前になります。

  ハロウィンネタのお話です。

  準主人公の一人称にてお送りいたします。

 それはハロウィンとその翌日の収穫祭を、数日後に控えたある日のことだった。大きな祭りを前に、神殿の大半の人間が浮き足立つ中、オレはリックと共に、団長の執務室へ向かっていた。


「任務ってなんだろうね。ハロウィンと重なってないといいんだけど……」

「別にただ仮装して、菓子を巻き上げるか、代わりに悪戯するかっていう二択を迫る、子供向けの祭りだろ?」


 つい先日、誕生日を迎えて成人したばかりのオレはもちろんのこと、一足先に二十歳になったリックにも縁のない祭りだろうに、何を言っているんだか。そう思いながら返せば、かれこれ十年の付き合いになる彼は、あからさまにムッとした様子で言った。


「その説明だと、なんか凶悪な祭りに聞こえてくるからやめてほしいんだけど」

「事実だろ」

「違うから!」


 半ば語尾に被せる勢いで否定が返る。そうして、何故ハロウィンがあるのかというのを、リックが熟々と語った。


 曰く、翌日の収穫祭に悪いものを寄せ付けないようにするために行う悪魔祓いの祭りなのだとか。悪魔を祓うなら、お化けの仮装よりも巫女や神官といった神職者の仮装の方が効果あるだろとツッコめば、相手を驚かせて祓うらしい。まぁ、今では妖精だとか天使だとか、空想のあれそれでもいいらしいから、なんだか滅茶苦茶だ。


 そんなので本当に祓えるのかと思う反面、何か途中でいろいろ混ざってるんじゃないかと考え込んだところで、リックが言った。


「だいたい祭りに大人も子供も関係ないよ。楽しんだ者が勝ちなんだから」


 その一言に、何となく納得はいった。楽しんだ者が勝ち、恐らくそこに今のハロウィンの実態に繋がる何かがあったんだろうな、と思う。とは言え、だ。


「それでも、任務より優先されるものじゃないだろ」

「……まぁ、一応そこはわきまえてるけどさ。だからこそ、重なってないといいなって思ってるんだよ」


 オレの言葉に、リックが視線を逸らし、苦笑いを浮かべる。そうこうしているうちに、目的地に辿り着く。二人で居住まいを正し、ノックに対する返事が聞こえれば、執務室へと足を踏み入れた。


「失礼いたします」


 そう言って入れば、珈琲を淹れている団長が、コポコポと言っているサイフォンを前に振り返る。


「おお、来たか」


 楽しげな返事はともかく、執務机の上で山を成している書類を見て、思わずため息が口をついて出た。


 この人の能力を疑ってはいない。ただ、リックもそうだが、頭はやたらといいのに、どうしてこう……そういう人に限ってサボり癖があるんだろうかと思う。頭を使うタイプで真面目に何かをこなしている人を、オレはローレンス隊長くらいしか知らないんだが、性格的な話なんだろうか。


 そんなことを思いつつ、さっさと用件を済ませようと口を開いた。


「任務だと伺いましたが、何でしょうか?」

「ああ、それなんだが。ルイスはハロウィンの特別警護の任務、リックはその補佐に当たってもらいたい」


 今正に二人で話していた催し物の名前が出て、オレは駆り出されたくなかったそれにげんなりと、リックは逆に任務とそれが重なったことにがっくりとした。そんなオレたちの反応、恐らくリックの方に対し、団長は苦笑しながら言った。


「そうしょげるな。ハロウィン『の』と言っただろう? 場所は神殿内だ」


 その言葉に、リックの顔が明るくなる反面、オレの気分はますます下がる。だから、ダメ元で一応主張をした。


「その日、オレは休息日の予定だったはずですが……」

「その分は他の好きな日に振り返る形で休んでくれ」


 わかってはいたものの、即座に代替案を出され、拒否できない類いの案件だと把握する。気乗りはしないものの、任務ならば仕方がないなと小さく息をついて言った。


「わかりました。それで、その特別警護の詳細はどのようなものでしょうか?」

「ある人の護衛を内密に頼みたい。お前たち、確か以前、暗器を使った訓練してたよな?」


 ある人とは誰なのかと思ったものの、オレたちが選ばれた理由と思われる単語に、思わず戸惑う。


「ええ、まぁ……」

「剣を持っていると騎士だとわかってしまうから、基本的にそれらを駆使して護衛に当たってもらいたい」


 そもそも騎士が基本的に使う武器は剣だ。オレやオレに付き合って訓練していたリックが扱える方が稀だし異例の話。だというのに、それを駆使しろという状況に些か疑問を覚えた。


「騎士だとわかってはいけないのですか?」

「聞いてないか? 今年はマスカレード、仮面をつけて身分を伏せて楽しむハロウィンなんだ」

「はぁ……」


 仮面をつけたところで、軍服を身に着けていたら、帯剣していなかろうが騎士だとすぐバレるだろうに、どういう因果関係があるのかよくわからず、生返事を返す。そんなオレに、団長はニヤリと笑って言った。


「もちろん、お前にも仮装はしてもらうからな」

「げ」


 自分には縁がないだろうと思っていたものが指示の中に混ざっていて、思わず素が出た。成人前ならまだしも、成人した大人の仮装などどこがいいのかオレにはよくわからない。むしろ、そういうのはやりたいヤツがやった方がいいだろうにと思ったところで、閃いたままを言ってみた。


「それならリックの方が適任では……?」

「そうも言ってられない事情があってな。それは却下だ」


 いい案だと思ったそれは、即座に切って捨てられ、オレの仮装任務は回避不能となった。


***


 そうして迎えたハロウィン当日。オレは黒を基調にした礼装のあちこちに隠し武器を仕込んだ状態で、神殿の広場から離れた場所にある花壇の前にいた。


「結局、白い羽の仮装が目印ってこと以外教えてくれないし、何なんだよ。全く……」


 仮装する衣装の確認をしている間、いろいろ打ち合わせていたリックと団長は、何故か護衛対象者に関する情報を伏せていた。普段ならばまずやらない仕打ちから導き出されるのは、オレが全く知らない相手ではないということくらい。


 相手が白い羽なのに対し、オレ背中にはやや重くて大きな黒い羽という点から察するに、恐らく衣装などが対になっている可能性が高い。そうなってくると、予め衣装と共に準備されていた青いリボンタイに目が行く。オレの知っている人間に青い目の人物は数名いるが、その中でもあり得ないと思う反面、そうであったら楽しいだろうに、と思う人物の姿が脳裏を過る。


「まさか、な。そんな話あるわけが……」


 彼女の護衛には別の人間が常についている。しかも、その代わりを務めるとしたら基本的に団長であって、一騎士でしかないオレに回ってくるなどまずないだろう。


 オレに護衛が回ってくることがあるとしたら、彼か団長に何かあったときでしかないし、二人とも元気なのは知っている。だからまずないと、淡い期待を振り払い、ため息をついたときだった。


「あ、団長さんが言ったとおり、いた」


 透明感のある、聞き覚えのありすぎる声が聞こえた。その声に振り返れば、そこにはフリルをふんだんに使った白っぽいドレスを纏った暗めの青い髪の女の子が立っていた。鮮やかな青と緑の羽根飾りがついた銀色のハーフマスクから覗く目の色は、そうであったらいいと思った瑠璃色。その背についた白い小さな羽を揺らしながら、十字架の杖を持った彼女がオレの傍に駆け寄って来た。


「今日はよろしくね、ルイス」

「ああ、よろしく……って、え?」


 思いがけず脳裏に描いていた人物の登場に戸惑い、挨拶もろくにできないオレを見た彼女――月巫女さまは、キョトンとした様子で首を傾げて問いかけた。


「ルイスの髪長くなってるけど、どうやって伸ばしたの?」

「あ、これはウィッグって言って、長く見せる飾りの毛を付けてるだけで、地毛は短いままだ」

「へぇ、そうなんだ」


 正直、邪魔以外の何物でもないそれを、彼女は興味津々と言った様子でマジマジと見つめる。むずがゆいというか、気恥ずかしさを覚えて視線を彷徨わせれば、少し遅れてやってきたのは、いつもと変わらない姿のライルさん。彼はオレに苦笑しながら言った。


「悪いな、ルイス。休息日返上で借り出すハメになって」

「いえ……。というか、『白い羽の仮装をしたとある人を、騎士だとバレないように護衛しろ』としか聞かされてないんで、詳しい事情は知らないんですが……」

「え?」


 オレの言葉にライルさんの青い目が、呆気に取られた様子で瞬く。何かお互いに齟齬が生じている状況に浮かぶのは、伝言の間に立っている団長の顔だ。それはライルさんも同じだったようで、彼は深々とため息を吐き出して言った。


「グレンはまた……。いやまぁ、お前が素直に引き受けたと聞いて驚きはしたんだが、そういうことか」


 まぁ、最初から彼女――巫女さまの護衛だと聞いてたら、気持ちとは裏腹に全力で断ってた。いろんな意味で平常心でできるとはとてもじゃないが思えなかったし、何より、彼女の護衛役をライルさんから奪うようなことはしたくなかった。何故と問われると理由はわからないものの、とにかく理由をつけて回避しようとしたことだけは想像に難くなかった。


「今回のハロウィンの祭りはマスカレードだ。それで……」

「私も参加したいっていう話になったの」


 それはまぁ、何となくわかる。巫女さまはものすごくワクワクした目をしてるし、好奇心旺盛な方だから自分も混ざれるかもしれないともなれば、動くであろうことも想像はできた。


「それでなんでオレに話が振られることに?」


 問題はそこだった。基本的に月巫女の護衛は護衛騎士または騎士団長の仕事だ。少なくても、一騎士のオレに回されていい任務では決してない。


「神官長殿から出た参加条件が、『月巫女だとバレないこと』だったんだが。帯剣して傍にいれば、護衛だとわかってしまうし、神殿で護衛されている女の子、となると……」

「十中八九バレますね」

「だろう? だがオレは、剣以外の扱いをほとんど知らない。剣以外の方法となると身体を張るくらいしかなくてな」

「それはダメ」


 即座に却下をして、巫女さまは口を尖らせる。そんな彼女の反応に対し、ライルさんは小さく肩を竦め、苦笑しながら言った。


「とまぁ、この調子で。グレンに相談をしたら、お前とリックなら暗器を扱えるということだったから、応援要請したんだ」

「なるほど。そういう理由でしたか」


 ライルさんの説明で、ようやく腑に落ちなかった諸々合点がいった。


「お前の腕なら信頼できるし、少し離れた場所で私も待機はしている。リックも補助要員として会場に配置すると聞いてるから、あまり気負い過ぎず頼めると助かる」

「……まぁ、リックは素で祭りの方を楽しんでそうな気もしますけどね」

「違いない」


 そう言ってオレたちは、笑い合ったのだった。


挿絵(By みてみん)

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