果てにあるもの【小説版】
SNS。
それは今じゃ、当たり前になったコミュニケーションツールの一つである。
勿論僕も、その機能を使う一人だ。
ツイッター。大体、使いはじめて二年ほど経つだろうか。
他にはLINEなどがあるだろう。
とにかく、現代は色々便利だ。
そんな中で、考えてほしい。
もし会ったことのない、画面の向こうの相手に、恋をしてしまったら、どうするだろう?
別に、二次元の登場人物に恋をした、という訳ではない。
SNSで知り合った人間に、恋をしてしまったら。僕はそういうことを言っているのだ。
なぜこんなことを言うのかって?
ここまで言ってしまったので、全てが言うが、僕は今、SNS上で知り合った人間に、恋をしている。
最初は、絡んではいるけれども、別に仲は悪くない、という言葉で済ませていた。
だが、いつからだろう。
いつの間にか、相手に深く興味を持って話すようになっていた。
プーン。
そんな音がすると、スマホには通知が来ていた。
…きっと、またあの子だ。
【おはよ!晴れるといいね~】
ツイッターを開き、通知を見ると、予想通りあの子――僕の恋の相手から、返信が来ていた。
【おはようごさいます、今日は雨か…】という、なんとなく呟いた、僕のツイートへの反応である。
【おはよ】なんて何気ない一言も、僕にはとても嬉しい反応だ。
彼女が誰かと話していることに嫉妬したり、拗ねたこともない。
だが、心に渦巻くのは、確かな恋情だった。
そりゃあいつかは、この想いを伝えようと思っている。
だが、告白して、元のように話せなくなったら嫌なのだ。
こんな風に、好きだからこその痛みがある。
好きだからこそ――伝えられない。
それに、彼女にはSNS上での悲しい過去がある。
自分にとって大切な存在の人間に、見放されてしまったのだ。
その事を思い出さないかどうか、傷つけてしまうかもしれないのが怖い。
そんなこんなで、告白はなかなかで出来ないのだ。
「ネットで出会った人間と恋するなんて」
と、他人から見たら馬鹿馬鹿しいかもしれないことに、幻想、想像、現を抜かし。
でもこの恋は、誰がなんと言おうとやめられない。
【わ、嬉しい!ありがと】
照れたような、彼女の反応。
恋をしているうちに、【飽きられたくない】という気持ちも入り混じってきた。
返信では【いやいや。こちらこそ】なんて、クールぶってるくせに、現実では頬を赤らめてるなんて、
あの子はきっと知らないだろうな。
ふと思う。
僕は何に悩んで、どうして恋をするんだろう。
そんなことが頭に浮かんでも、あの子と仲良くすることに精一杯の僕の頭には、なんの答えもない。
ただ、傷つけぬよに、仲良くしようとする僕。
返信の文面じゃ、愛想笑いな文章ばかり書いて。
気持ちを伝えられないばかり。
――そうだ。
好きって言いたい。
好きって言えない。
言いたい。
言えない。
言いたい。
言えない――
の、無限ループなのだ。
誰でも良いから、恋の果てを教えてほしい。
【ちょっといいですか】
彼女のDM――ダイレクトメッセージに、覚悟を決めて、文章を送ったある日。
僕が、この目で、恋の果てを見るときが来た。
【はい?なんでしょう~】
偶然ツイッターを開いていたのだろう。
まだ僕の伝える事を知らない彼女は、気楽に返事をする。
「…ふー、っ…」
ゆっくりと深呼吸をする。
ここからが勝負だ。
そして続けて【気持ち悪い、嫌だな、と思ったら、すぐにブロックしても大丈夫です】
と、送る。
彼女の反応は【?】である。
…やはり彼女は、可愛らしい。
さあ、行こう。
【僕と、付き合って下さい】
――ついに、言った。
後悔や痛み、悩みはもうない。
すべての覚悟を決めて、果てを見ることにしたんだから。
変に思われたって、構わない。
これが、愛想笑いの文章に隠した、本当の気持ちなのだから。
【…ごめん】
たった三文字でも、その結果は分かった。
どこか悩んだような文章に、見た瞬間、涙目になる。
返事したいのに、スマホを持つ手が、震える。
上手く文字が打てない。
…早く返信しなきゃいけないのに。
【ほんとに、ごめんなさい】
そんなことをしている間に、彼女からまた、返信がくる。
なにも、謝る必要はないのに。
これはただ、僕が一人で舞い上がっていただけなのに―――。
【そう、ですよね。あはは】
涙目で画面が見えなくなりながら、文字を打ち、送信。
【僕の方こそ、すいません】
使い慣れすぎてしまったのが、涙目でも、正しく文字が打てる。
「…っ」
ツイッターを閉じて、息を落ち着かせる。
そんなことをしても、今の僕は、泣くしか出来ないことを知りながら――。
「っ…あ…う…」
涙が出てくる。
残酷で苦い、恋の果て。
でも、今の自分に、後悔はない。
その夜、やっと見れた失恋の苦さを噛み締めながら、涙が出なくなるほど、僕は泣いた―――。
あの恋から、数年。
あの時学生だった僕だが、もう今は就職をして、立派な大人になった。
今思い出すと、あの恋は自分でも不思議である。
当時あんなに泣いていた僕だが、今じゃ、笑い話にもなる。
それほど、あの失恋から立ち直ることが出来たのだ。
あの時僕が見た、恋の果て。
それは、立ち直ったり、進むための一歩だったのかもしれない。
苦みに耐えて、前へ進む。
きっと、恋が実ったり、別れたりした人間が見た恋の果ては、また違うものなんだと思う。
だが、きっと、それはなにかを学ぶことに繋がり、人生のヒントに繋がり、そしてまた、恋をするきっかけになるのだろう。
これからきっと、また失恋したり、辛いことが、僕にはあるだろう。
でも、過去に負けぬよう、悩んだ末に、物事の果てを見据えることが、大事なのだと思う。
「あ、すいません」
ほら、一歩踏み出すだけで、また新たな気持ち。
「なんでしょうか?綾瀬さん」
「さきほどの会議での、この計画の件なのですが――」
今日も僕は、果てにあるものを見据え、進み続ける――。
こんにちは、こんばんわ。
闇妖すみれと申します。
今回は詩風作品「果てにあるもの」の小説版を書いてみました。
SNS上で出会った人間に恋をする少年の物語です。
人は僕は何に悩んで、どうして恋をするのか。
この物語では、答えは出ないままだけれど、きっと誰かが証明してくれるでしょう。
恋は、次元がちがえど、恋をしていることに変わりはありません。
いろんな人がいろいろ恋をして、学んで、立ち直れればいいと思います。
では。
ありがとうございました。