飛行船とつなぎ服
※文中に軽い暴力表現があります。
ハーレスがローズのいるところへ行くと、ローズはハーレスの言う事を守り、きちんとそこで待っていた。
「ローズ、行くぞ。こっちだ」
「あっ、はっ、はい!あの、ハーレス、これ...」
ローズは持たされていた火薬弾をハーレスに返した。
「なるべく広いところへ移動しよう、こっちだ」
ハーレスは火薬弾を受け取りながらローズの手を再びとる。
「お前、足遅いから」
と、仕方なさそうにハーレスは笑った。
「す、すいません」
ローズはハーレスの顔を見上げた。ハーレスは気にもしていないのだろうか?
握られた手が、熱い。
「あ、きたきた、あれだ。私たちの船は」
ゴウンゴウンと音を立てて、海賊船のような船が、二人の目の前に降りてきた。
上空から声が聞こえてきた。
「ボス!そのまま飛んできてくだせえ!そこじゃ小さすぎてこいつを降ろせねえ」
髭の生えた、赤い顔の男がこちらを見ながら叫んでいる。
「わかった、ローズ、そういうことだ。ちょっと失礼するよ」
「え?あ、きゃ!」
言うが早いか、ハーレスはローズを肩に担ぐと、先ほどのように船の甲板まで一気に跳躍した。
赤い顔の男は、口笛を吹いた。
「相変わらずお見事ですな!ボスの魔法は」
「......今はこれくらいしかできないよ」
ハーレスはローズを下ろしながら言う。
(魔法?今魔法って言った?)
ローズはハーレスの顔を見上げた。
「ハーレス?魔法って...あなた、魔法が使えるのですか?」
「少しだけ使えるよ、でも今はこうやって跳躍したり、建物の間を素早くすり抜ける事ぐらいしかできない。でもあいつらが見ている前では使わないよ。怖がるからね」
「あいつら」とはティラたちのことだ。
「盗賊は、魔法やら呪文やらとは縁のない職業だから嫌がるんだ。それより......おい、みんなちょっと来てくれ」
ハーレスはローズに船員を紹介した。
「今叫んでたのは機械士のルドルフ、それでそこの二人が」
「あたしたちは双子のバロックとハロックだよ、こっちのほくろが付いてる方がハロック。あたしはこの船の整備士をやってるバロック。よろしくね」
そう言ってバロックはローズに手を差し伸べてきた。
「よろしくお願いします、わたくしは、ローズと申します」
そう言ってまたローズはお辞儀をした。
バロックは変な顔をしてローズを見た。
「なんだぁ?あんた貴族のお姫様かい?」
「待って待ってー!今度はあたしの番!お姉ちゃんが自己紹介終わるの待ってたんだから!」
バロックの双子の妹ハロックがバロックを遮るようにローズの前に立った。
「あたし!一流の舵取り!ハロック、よろしくね!」
と言うとハロックは有無を言わさずローズの手を両手で握った。
「よろしくお願いしま...ひゃっ」
突然ハーレスがローズを肩に担ぎ、ローズは視界が反転した。
「以上だ。ローズ、船員の名前は覚えたな?お前たち、持ち場に戻っていいぞ。」
「ほーい」
「はい」
「えー!もっと色々聞きたかったなぁ!」
「お前が船動かしてるんだから早くいけ!」
バロックに尻を叩かれながらハロックは無理やり連れて行かれた。
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「騒がしい奴らで悪かったな」
ローズを肩に担ぎながらハーレスは言う。
「い、いえ、そんな事ないです、それよりハーレス、わたくしをどこへ連れて行くのですか?」
「うん、船に乗るのに、その格好は不自由だろうと思ってな、着替えるぞ」
「え?」
ハーレスは衣装部屋(全て盗品)に辿り着くと、ローズを下ろした。
「ちょっと待ってろ」
ハーレスが言い、ローズは言われた通り、部屋の端で待った。
「うん、これがいいな」
と言ってハーレスが差し出して来た服を見て、ローズは思わず目を瞠った。
「え?あの、これ」
「ん?気に入らなかったか?」
ローズは首を振り、慌てて出された衣装をハーレスから奪った。
「いえ!とても気に入りました!着させていただきます!」
「?そうか、じゃあ着ててくれ、私はメンバーが戻ってくるのを待ってるから」
そう言ってハーレスは衣装部屋から出て行った。
(どうしよう...)
ハーレスが用意したのは大工が着るようなつなぎ服だった。ローズが目を瞠ったのは、どのようにして着ればいいかわからないからだった。
どうにかこうにか、悪戦苦闘の末、着替える事が出来た時には、すっかり夜になっていた。
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「えっ!!?それじゃあ悪魔に先越されたって事かい!?」
「それにしても悪魔がねぇ、悪魔って歴史に興味あるのかな?どう思う?ハーレス」
エドがおどけて言うと、ティラの鉄拳が炸裂した。
「こんな時にふざけんじゃないよ!せっかくのお宝が悪魔なんかに盗まれたっていうのに!ローラの手がかりも!」
一回殴っただけでは飽き足らないらしい。ティラは今度はエドを蹴り始めた。
「いってぇええ!いて!わかった、わかったから!ブラックなんとかしてくれよ!」
「.........ティラが悪魔に過剰反応するのはわかってる事なのに、自業自得」
「おいブラック!お前いくらティラに惚れてるからって...」
言い切るより早く、ブラックの鞭がバチンと床を叩いた。
「...何か言った?」
にっこり。振り返ったブラックの顔は、笑っているのに目が笑っていない。
「...ナンデモナイデス」
メンバーが揃ったのは日が完全に沈みきる少し前だった。
「腹が減った」と言う理由で、各々盗んだ食べ物を持ち帰り、それを食卓に並べながら話していた。
「どうだろうな。悪魔がローラの歴史に興味があるとは思えない。だとしたら何か別の...」
ハーレスはそこまで言うと黙ってしまった。
「ハーレス?何か心当たりがあるの?」
ティラが黙ってしまったハーレスを下から覗きこむ。
「確証はない、が、もしかすると......が、関係していると」
「は?...キャプテン、今何て...」
コンコン、と遠慮がちなノックをして、ローズが扉を開けて入って来た。
「皆さん、帰ってきてたんですね!」
「うわ!かーわいい!」
エドがローズの格好を見て思わずそう叫んだ。
ローズはTシャツにつなぎ...
ではなくて、つなぎをどう着ていいかわからなかったので、上の部分を腰で巻いて着ていた。
「あっ、あの。この服はこんな感じで着て良かったんですか?」
「うん!正しく着れていないけど間違ってない!!」
エドのその言葉にローズはホッとした。
「良かった、ハーレスは...」
ローズがハーレスを探して部屋を見渡すと、ハーレスは壁に寄りかかってこちらを見ていた。
その姿に、ローズが駆け寄ろうとした時だった。
「......ない」
「え...」
「あいつが、関わっているなんて事...ありえない!!」
ティラがそう叫んで、バタバタと部屋を出て行った。
「ティラ!!」
ブラックが出て行くティラを追いかけようとしたその時。
バターン!と音を立てて扉が開いた。
舵を切っていたはずのハロックが慌てた様子で言った。
「船の前に何かいる!舵が取れないよぉ!!」
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今回ちょっと長くなってしまいました。
パルクールだと思っていたのは魔法だったんですね!
果たして船の前に立ちはだかるものとは!そして、ティラの言う「あいつ」とは!とは!とは!....