ルビーの瞳
「そっ、そうだよ!あんたはもうあたし達の仲間さ、いいね?さあこっちへ」
ティラがローズを手招きする。
ローズはそれを見て、首を横に小さく振った。
「待って下さい、わたくしはまだ...」
「自分の故郷が滅びたと信じたくないか?その気持ちはわかるよ、だがそれは私たちと一緒にいて、確かめればいい事だ。」
ハーレスが優しく諭すように言った。
ローズは顔を上げ、彼の目を見た。
彼の瞳は太陽の光を反射して、ルビーのように赤かった。
(ルビーの、瞳?)
その時、ローズの脳裏に不思議な光景が浮かんだ。それは壁に飾られた絵画だった。浮かんでくる絵画はぼやけていて、はっきりとはしないが、描かれているのは人間のようだった。
剣をとり構える勇壮な男の絵。その男の目にはルビーが埋め込まれていた。
ローズがそれに触れようと手を伸ばした時、その不思議な光景は消えて、代わりにローズが掴んだのはハーレスの腕だった。
「あっ、ごっ、ごめんなさい!」
「?...なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
今のは何だったのだろう...?
ローズは考えた。どこかで見た事のある光景。思い出せないが、確かに見た事がある...
ローズはもう一度ハーレスを見た。
壁の絵画は、もう現れなかった。
「.........」
ハーレスは彼女の挙動を無表情で見ていたが、やがてエドたちに目を向け指示をした。
「もうすぐ悪魔の動きが活発になる。夜までに捜索を続けろ」
「オッケー♪ローズちゃんまた後でね〜」
「エド余計な事言うんじゃないよ!任せてキャプテン!」
「.........了解」
彼らはどうやらバラバラになって「堕天の印」を探すつもりらしい。
あっという間に分かれて、次の瞬間にはその場から居なくなっていた。
「さぁ、お前はどうする?」
柔らかい風が、二人の間に吹いた。
ローズはもう一度ハーレスを見た。
ハーレスの赤い瞳、不思議な絵画に描かれていた男性。
この人には、何かある。
ローズはほとんど直感的に、言葉を放っていた。
「行きます、一緒に連れて行って下さい」
ハーレスは優しい微笑みを浮かべて答えた。
「それでいいよ」
ハーレスが浮かべた微笑みはまるで、ローズの答えがわかっていたようだった。
ローズはその優しい微笑みに、図らずもドキドキしてしまった。
「もうすぐ日が暮れるなぁ」
という街の人の声が聞こえた。
その声にローズが振り向くよりも先に、ローズはあっという間にハーレスの手によって、市街地に半ば引きずられるようにして連れて行かれていた。
街にかかる夕日はぼやけていた。
太陽は、空高く照らしていた時よりもずっと大きく、そして寂しかった。
(夕日の色、この人の瞳みたい)
ローズは市街地に引きずられながら、何故かそんな事を思った。