堕天の印
「お前、自分の名前と故郷の名前以外は何も知らないと言ったな?では生まれ故郷のローラの事は?どのような国だったかは知っているか?」
ローズは静かに首を振る。
「...知りません...」
「ローラは富と平和に満ち、地上一幸福な国だった。神が地上にもたらした永遠の楽土とさえ呼ばれるほどに。
だが、不幸にも天変地異により、一日にして滅んだんだ」
淡々とした様子で話すハーレスの言葉を、ローズは倒れそうになりながら必死で聞いていた。
「......続きを聞きたいか?」
「はい!お願いします」
ローズは決意に満ちた眼差しをハーレスの緋色の目に向けた。
「...当時は神の怒りに触れたために滅んだのだと言われていたが、神が地上にもたらした楽土を、その神自身が滅ぼす事があるだろうかと、その疑問点に執着した歴史家たちは、こぞってローラの事を調べ始めたんだ」
ハーレスはローズの顔をチラと見た。
意思の強い眼差しがこちらに向けられていた。
「それは歴史文献「堕天の印」に全て記された。偶然にも、私たちが探している歴史文献だ。ローズ、お前の知りたい事も恐らくそれに記されているだろう」
「それは本当ですか!!ハーレスさん!」
「本当だよ」
ハーレスの代わりにエドが答えた。
「僕たちはこのミレーにあるっていう「堕天の印」を探しに来たんだ。ただ、君とは違って、僕たちはローラが滅んだ理由や、ローラの歴史云々には興味がないんだ。「堕天の印」は売れば高値がつく。僕たちが興味があるのはそこだよ」
ローズの顔が一瞬強張った。
「あ、あなた方は、一体何者なんですか?」
それを聞いてティラが慌てて答えようとするのを制し、ハーレスが口を開いた。
「私たちはシーダという盗賊団だ。身分を明かすのが遅れてすまなかった。
ローズ、私たちと一緒に来るか?来るなら助けてやる。このミレーのどこかにある文献から、お前の生まれ故郷の謎を一緒に解こう」
ローズは混乱しながらも考えた。
彼らの正体が盗賊だったにしろ、目的が違っていたにしろ、同じローラについて関わっている人たち......
もしかしたら、ローラが繋いでくれた縁なのかもしれないと。
どっちにしろ、自分はたった一人で、放っておけば人買いに売られてしまう身の上だ...ならば.....
「一つだけ、聞いてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「盗賊の方が、なぜわたくしのような者を、助けるのです?わたくしは、金目のものは何も持っていないのに...」
聞かれたハーレスは黙っていた。
他の3人も黙っていた。
やがてハーレスがゆっくりと口を開いた。
「お前を助けたいという人間がこの中にいるからだ。仲間の内の誰が言っても同じようにするだろう、誰かを助けるのに、損得では動かない。それが私たちシーダだ。それに...」
ハーレスは少し間を置いた。
「お前が困っているだろう」
ローズは驚き、弾かれたように彼の顔を見た。