その名はローズ
※文中に一部不適切な表現があります。
「どうだい?何か話したかい?」
ティラがエドに話しかける。
「全然駄目だよ、多分この子記憶がないんだ。でも何とか名前だけは分かるみたいで....さっき一回言ったんだけどなぁ」
ティラはため息をついて言った。
「あんただから駄目なんだよ!どうせ口説き文句しか知らないんだから、ボス、エドと代わって!」
ティラの言葉にそんなぁ〜!と言うエド。
ハーレスはしばらく黙って少女の顔を見つめていた。少女はボロ切れをまとって一見すると哀れな乞食にしか見えないが、そのフードから微かに覗く髪は美しい金髪をしており、緑と青を混ぜたような深い色の瞳はどこまでも澄んでいた。
「名前は?」
ハーレスの低い声に、教会の扉にしがみついていた少女がわずかに反応を示した。
そしてゆっくりとこちらを振り向いた。
「あなたがたは...」
小さな少女は呟いた。
怯えているわけではないが、警戒している。
「大丈夫だよ、私たちはお前の敵ではない」
ハーレスが優しく言うと、その声に安心したのか、少女の表情が少しだけやわらいだ。
「わたくしは、ろーず...ローズ、と申します」
そう言うと、ローズと名乗った少女はとても上品に深々とお辞儀をした。
それを見て一同にどよめきが起こる。
「この子、記憶がないんじゃなくて、ちょっと頭がおかしい子なんじゃないかな?」
エドが苦笑いをしながら言う。
「違うよ!この子は混乱してるだけだよ!」
ティラがムキになってエドを睨んだ。
「ティラ、落ち着いて...」
と言ってブラックがティラをなだめる。
ハーレスは彼らの様子を横目に見ながらローズを見た。ローズは痩せて蒼い顔をしている。しかしどこか気品を感じさせる顔立ちだと思った。この少女はただの乞食などではない、ハーレスは直感的にそう思った。
「ローズ、私たちはお前を助けたいんだ。このままここにいれば、間違いなくお前は人買いにさらわれて、奴隷として売られるだろう」
ローズはハーレスの言葉に意外にも冷静に答えた。
「......知っています、わたくしは、やっとの思いでここまで来たのです、教会の中に入れてもらおうと思って」
「残念だが今は教会はどこも閉鎖している。悪魔が活動しているからな、お前のことも、おそらく受け入れてはもらえないだろう」
「そ、そうですか...」
ローズはそう言うと項垂れてしまった。
「私たちと一緒にこいローズ、悪いようにはしない。信じろ」
ローズはハーレスを、そしてメンバーたちをしばらく眺めていたが、やがて決心したように口を開いた。
「わかりました、わたくしはあなたがたに従います!」
ハーレスをじっと見つめるローズの瞳。
意思の強い、どこか威厳さえ感じさせるその目に、ハーレスは何故か懐かしさを覚えていた、、、