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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死神は二度死ぬ

作者: 人工知能ヶ坂灰音

初投稿です。ぜひ期待しないでご覧になってください。

 私が生まれて初めてこの能力のことを口にしたのは3歳の時らしい。祖母の病床、あと何日生きられるのかねえ…そう言う祖母に対し、あとさんにち…そう返したという。そうして実際に祖母が3日後に亡くなって、この「人の寿命を知る能力」が明らかになって以来、私は両親に恐れられ、忌み嫌われて生きてきた。だがそんなことは私にとってどうでもよかった。そんなくだらないことより私の心を握りつぶしたのは、私自身の寿命が17歳の春までであったことだ。以来私はこの能力で多くの人の死ぬ瞬間を見てきた。他の人間で寿命伸ばす手段を試すためだ。でも駄目だった。町で寿命の短い人を見かけて、どれだけそれを訴えても無駄だった。信じない人は交通事故にあい、信じる人は安全な場所で心臓麻痺で死んでいった。そんな無駄な努力が1年続いたある日、やっと私は悟った。ああこの能力は不可避なんだ、と。それ以来私はこの自分の命日に縛られて生きてきた。少しでも私の死で悲しむ人を減らすために、常に孤独を保ってきた。好きな人も好きな物もできるだけ作らない、そんな生きる意味のない人生を送ってきた。勿論残りの人生をこんな風に使ってしまっていいのかと思ったこともあった。だが私にはいずれ崩れる積み木のお城を、組み立てて遊ぶ趣味はなかったらしい。どうやら私にはこの有限の命というもの自体、向いてなかったようだ。おとなしく誰にも迷惑かけず死ぬとしよう。…そう思っていたのに。そんな私の決意を軽々ぶち壊すそいつに出会ったのは、私の寿命のすぐ前日のことだった。


 (あ、あのおばあさんあと45秒で死ぬ…)

春の嵐吹き荒れるある日の昼。命日を前日に控えた西尾伊織は、(もうすでに何枚も書いているのだが)改めて遺書でも書こうと思いたった。そして切れたインクの代わりを求めて訪れた、さびれたデパートの文具コーナーで、おばあさんとすれ違った。そのおばあさんの頭上に示された寿命が、残り45秒であることに気づいたイオリは周りを見渡す。他の人間の寿命を確認するためだ。

(50年2か月と…35年4か月と…103年!長!!…とりあえずこのデパートが崩れるという訳じゃなさそう…)

とりあえず自分の身の安全を確認したイオリは、何の気なしにおばあさんの寿命のカウントダウンを呟いていた。

「3…2…1…0…。」

イオリのカウントダウンと寸分の狂いもなくうずくまり、倒れる女性。やっぱり私の能力は絶対…不可避なんだ…。倒れたおばあさんに未来の自分を重ねるイオリ。幼いうちから諦めていたと言っても、さすがに良い気持ちはしない。

「あ…インク発見…。」

インクの置いてある棚が、ちょうど倒れたおばあさんの横であることに気づいたイオリは、倒れたおばあさんをまたぎ、インクの置いてある棚に手を伸ばす。

「おい!お前何してる!!」

さっき見た寿命103年の男…学ランを着ているから高校生か。その高校生が全速力で駆け寄ってくる。イオリはこういう暑苦しい男が苦手だ。イオリはインクに手を伸ばすのをやめ、おばあさんの後ろに下がる。

「何って…インク買おうと思って。」

「人が倒れてんだろ!馬鹿女!!店の人呼んできてくれ!!」

高校生はそういうとおばあさんを抱え起こし、意識の確認を行っている。ウザい。イオリはこういうタイプが大の苦手だ。人の都合も知らずに馬鹿女扱いだなんて。自分の方こそ無駄な正義感を振りかざして、無駄なことをしてる偽善者の癖に。無視してこの店を出てしまおうか。でもまだインクを買ってない。この男のために遺書を書けなくなるのも癪だ。しょうがないのでイオリは店員を呼んできてやることにした。

イオリが店員を呼んでくると、男はおばあさんに人工呼吸と心臓マッサージを行っていた。うわっ…。一瞬そう思ったイオリであったが、おばあさんの頭上を見て目を疑った。

「……寿命が…延びてる…!?」

数年だが確かに寿命が延びてる。そんな馬鹿な。今まで何人もの人の死を見てきたが、一度だってそれが覆ったことはなかった。見間違いだ。イオリが目をこする。ごほっと言う咳と共におばあさんが息を吹き返した。イオリが思わず言葉を漏らす。

「……嘘…!?」

状況を理解できていないおばあさんに、店員が状況を説明している。いや、状況を理解できていないのはイオリの方だ。どういうことだ?まさか…まさか自分の能力は絶対のものではなかった?…幼いころ、本当に幼いころ、絵本のお姫様のように自分にも王子様が来て、自分のこの過酷な運命から救ってくれると妄想したことがあった。…もしかしてこの男は偽善者などではなく本物の救世主なのではないか?イオリがその結論に達したのとその高校生がおばあさんに名前を名乗るのは同時だった。

「捏欠高校テニス部2年、岡公木(オカ コウキ)です。」

イオリは自分の財布に入っていた30,000円…全財産をコウキに突き出して言った。

「岡君。あなたのこの週末…この西尾伊織に頂戴…!」


 「………おとなしく誰にも迷惑かけず死ぬとしよう。…そう思っていたのに。そんな私の決意を軽々ぶち壊したのがあなたよ?岡君。あなたにはきっと人の寿命を延ばす能力があるの。」

人通りの多い夕方の商店街。そこをイオリに連れられながら、コウキは後悔していた。30,000円に惹かれて変な女についてきてしまったのは、間違いなく間違いだった。おかげで出会って1時間ですごく暗い身の上話をされてしまった。しかもその話が嘘でないならこの女は人の寿命が見えるらしい。それどころかコウキ自身も能力者らしい。

「本当かよ…」

コウキはイオリに聞こえるか聞こえないかの声量で言った。

「言ってなかったかしら。今それを証明するために歩いているんだけど。」

どうやら聞こえたらしい。…ん?証明?コウキは思ったまま言葉を口にした。

「…証明ってどうやるんだ?」

「さっきもうすぐ亡くなる人を見つけたからつけてるの。珍しいのよ?1日に2度も人の死に立ち会えるのは。」

コウキは始めイオリが何を言っているのか分からなかったが、すぐにその言葉の意味を理解した。コウキがイオリの手首を掴み叫ぶ。

「おい!誰が死ぬんだ!いつ!!どうやって!!」

掴む手を振り払ってイオリが舌打ちをする。やっぱりこういうやつは苦手だ。イオリが商店街の外れの八百屋を指さして言う。

「そこの八百屋で買い物している人。時間はあと30秒後。たぶんあの八百屋に車でも突っ込むんじゃないかしら。八百屋の人も大体同じ時間に死ぬって出てるし。」

淡々と人が死ぬと言ってのけるイオリにコウキは恐怖を覚えた。嘘とは到底思えない。

(そんなまさか…車なんて突っ込むわけがない。さっきもこいつの能力は外れたって言ってたし…でも…もし本当だったら…今から避難を呼びかけた方が…でも普通信じるか?それに信じてもらったところで心臓麻痺で死ぬんじゃ…)

コウキは困惑していた。イオリの言うことを信じるかどうか迷っていた。そのせいで非日常に対し反応が遅れた。

「来たわよ?あなたが怪我しないようにね?」

コウキはようやく気付いた。軽自動車が一台八百屋に向かって突っ込んでいっている。ドライバーは死んでいるのだろうか。運転席に突っ伏している。コウキは思わず叫んだ。

「逃げろ!!速く!!そこの八百屋にいるやつらだよっ!!」

八百屋もその客も一人たりとも逃げることはなかった。警戒することさえしなかった。野菜を見る目をコウキを見る目に変えただけだった。そんな平和を貪る愚民を狩る獣のように、軽自動車は人をはね飛ばしながら八百屋に突っ込んで行った。


 八百屋の前はまさに地獄と化していた。野菜も人もぐちゃぐちゃに潰れ、トマトも臓物も見分けがつかなくなっていた。助けを求める人の声は、無傷の人間の恐怖の叫びと、カメラのシャッター音にかき消されていた。

好奇の目で死体と半死体を観察する人ごみをかき分け、コウキは八百屋の前に向かった。止血をすればまだ助かるかも知れない人が大勢いる。

「あ、その人はもう死ぬわね。その人はもう死んでる。そこの人は助かるよ。」

そんなイオリの気のタガが違っている発言も今は大事な心電図の代わりになっている。それどころかイオリはまだましな方だ。大半の人間はコウキに支持されるまでスマホで動画に取っているだけ。指示を出すと慌てて逃げていく人間すらいる。中には止血が意味をなさない位の怪我をした人間もいたが、コウキは率先して止血を行った。この時ばかりは自分に本当に寿命を延ばす能力があることを切に願った。


 重傷を負った人の心臓が止まり、傷口から血があふれ出さなくなった頃、救急車がやってきた。救急隊員が出てきてコウキのやることが無くなった時には、コウキの学ランは血で真っ赤になっていた。イオリに言われるがまま、ジャージに着替えて、学ランをクリーニングに出して、1人で借りている六畳一間のアパートに戻ってくるまで、記憶はほとんどない。アパートに戻ってくるとそのままベッドに突っ伏した。耳、鼻、網膜にあの地獄が反復される。それを打ち破ったのはいつも嗅いでいるインスタントスープの臭いだった。

「…何で伊織が俺の部屋にいんだよ。」

イオリがコウキの部屋で夕食を作っていた。インスタントを並べただけの簡単なものが、ちゃぶ台に綺麗に二人分ならんでいた。

「一緒に入ってきたでしょ?それと伊織って呼ぶの辞めてくれる?その名前嫌いなの。男の名前だから。西尾さんって呼んで貰える?」

コウキは歯ぎしりする。こいつはわざと論点をすり替えてるのだろうか。それともこいつはあの光景を見て何も感じてないのだろうか。

「…西尾さん。出てってくれ。」

「それはいや。私は今日と明日あなたを買ったんだし、今日はこの部屋で寝る。他人の寿命を延ばす能力があなたと離れると危ないしね。」

ドン!!コウキは壁を叩く。

「俺にそんな能力はない!だから!だからあの人たちは死んだんだ!!」

分かってる。そんなのただの思い上がりで、こんなのただのやつあたりだ。でも叫ばずにはいられなかった。

「確かに今回寿命は延びなかったけど、私の時は成功するかも…」

イオリの反論を遮ってコウキは続ける。

「素直に出て行け…!出て行かないなら…!!」

力ずくで追い出す。そう言おうとして、ベッドから立ち上がり、止まった。なんか反応がおかしい。怖がられるならともかく、必死に平静を装っているが顔を真っ赤にしている。

「…え…えっちなことする気…ですか?」

「は?」

何でこいつは発情してるんだ?寿命が近いからか?今身ごもっても間に合わないだろうに。

「わ…私はお断りよ!私は頭のいい人が好きなの!あなたみたいな筋肉バカ絶対いや!!」

コウキから目をそらさないように少しづつ部屋の出口を目指すイオリに、コウキはもう怒る気をなくしてしまった。こいつは本物のキチガイだ。

「しねーよ…」

コウキがそう言うと、コウキの一挙手一投足を警戒しつつ、イオリはちゃぶ台の前に戻ってくる。そもそも俺頭も結構いいんだけどな。コウキはそう思ったが自分から言うことでもない。とりあえず悔し紛れに嫌味の一つでも言ってみる。

「お前本当に慣れてるんだな…人が死ぬところに。」

コウキの嫌味を意にも介さず、イオリは割り箸に手を伸ばす。

「いただきます…特に交通事故にはね。街中で人が死ぬ理由はほとんどがそれだから。」

ん?コウキは違和感を感じた。その違和感が何なのかは分からなかったが、コウキはそこにイオリを生かすための何かがある気がしたのだ。とりあえず女子と話すのは慣れてないが話を続けることにした。

「…そういえばイオ…西尾さん。親に連絡はしたのか?親だって西尾さんの命日が明日だって知ってるんだろ?」

イオリが珍しく悲しそうな顔をする。両親に恐れられ忌み嫌われて生きてきたのはどうでもよかった、なんて言っていたくせに。

「あの人達は私のことを心配なんてしない…いなくなるのが1日早くなるだけ…きっとそう思ってる…」

思ってるわけない!コウキはそう思ったが、自分の寿命など見えたことのない自分には分からない世界なのかもしれない、とも同時に思った。でもこれがイオリの思い込みだったとしたら、イオリの両親はひどく心配していることだろう。

…んん?思い込み?

「…イオリ。お前やっぱり外で家に電話かけてこい。と言うか少し一人にしてくれ。ちょっと調べ物をしたい。」

イオリは嫌そうな顔をしたが、コウキが真面目な顔をしているのを見て、仕方なく部屋から出て行った。

「…だからイオリって呼ばないで筋肉バカ。」

悪口を一つ残して。コウキは考えた。イオリの能力のこと、イオリの送ってきた人生のこと、そして自分のこと。その考えが纏まるのとイオリが部屋に戻ってくるのは一緒だった。イオリはずいぶんとうれしそうな顔をしている。コウキは表情から分かり切った答えを聞く。

「どうだった?親、心配してたか?」

「ん、まあまあね」

素直じゃない奴だ。コウキもつられて笑う。やっぱり『思い込み』だったんだ。家族関係も「能力」も。

「聞いてくれイオ…西尾さん。西尾さんを助ける方法が分かった。お前が「死ぬ」予定時刻は何時だ?」

「!今からちょうど12時間後…明日の日曜、朝の九時ちょうどよ!教えて。私は何をすればいいの?」

イオリがくい気味に聞いてくる。コウキは自信満々にこう答える。

「明日の八時まで寝る。」


 ピピピピッ!ピピピピッ!!聞きなれぬ目覚ましと見慣れぬ天井。イオリは一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。初めは混乱で頭が冴えていたが、だんだんと記憶がよみがえってくると、二度寝したい感情がこみ上げてくる。昨日は全然寝付けなかった。着なれぬジャージと、薄いかけぶとんと、固いマットと、緊張と、いびきのうるさい男が横に寝ていたことが原因だ。時間はもう八時を回っている。

「そうか…私今日が命日だ…」

イオリはどうせ死ぬならこのまま眠ったまま死にたいと、寝ぼけた頭で思い、寝返りを打った。そこで気づいた。昨日横で寝ていたずのコウキがどこにもいない。イオリは飛び起きた。イオリはコウキを探した。探すと言っても6畳一間の部屋だ。トイレくらいしか探すところはない。いなかった。代わりにちゃぶ台の上にメモが一枚残っていた。汚い字で「メールを見ろ!!」とだけ書いてあった。イオリは急いでメールをチェックする。たくさんの迷惑メールに交じって、一つだけ電話帳に『オカコウキ』と登録されてるメールがあった。メールには

「九時までに捏欠高校体育館前ホールまで来い!捏欠高校までは歩いても30分で着くぞ!事故には気を付けてな。」

とあった。とりあえずイオリは電話帳に登録されている『オカコウキ』と言う名前を『筋肉バカ』に変えた。それからイオリは顔を洗って着替えて、必要最低限の身だしなみを整えてから、外に出た。もう時間はイオリが死ぬまで30分を切っていた。イオリは交通量の多い道は歩き、安全そうな道は走って、何とか時間までに捏欠高校に着いた。だが自分はそもそもこの高校の生徒ではない。今日は日曜で、来ている先生は少ないかもしれないが、部活を行っている生徒は一定数いる。イオリは時には隠れ、時には素知らぬ顔をし、何とか体育館前ホールに着いた。

ケータイのバイブがメールの着信を知らせる。慌てて『筋肉バカ』からのメールを開くとそこには、

「必ず行く。そこでまて!」

とだけ書いてあった。九時まであと3分を切っている。イオリは迷っていた。どうする。コウキを探し行くか。いや無理だ。自分はこの高校に詳しくない。大人しく待っているしかない。残り時間一分を切った。まだコウキが現れる様子はない。まさか自分は騙されたのでは。目の前で死なれるのが嫌で、自分を遠ざけただけなのでは。残り30秒。自分はこのまま誰にも看取られず、こんなどうでもいい所で死ぬのだろうか。こんなことなら家に帰るかあのままベッドで寝ていればよかった。残り10秒。嫌だ。死にたくない。助けてお母さん…。九時になった。心臓の鼓動が止まった。心臓麻痺だ。胸が締め付けられるように苦しい。薄れゆく意識の中でイオリは仰向けにされ、服が脱がされていくのを感じた。 そして…。


 イオリは鋭い刺激と共に息を吹き返した。起き上がりせき込む。なぜか上半身裸にされているが、気にしている場合ではなかった。ようやく呼吸も落ち着いてきて顔を上げる余裕ができ、目の前を見るとそこにはコウキがいた。笑顔で親指を立てて、いわゆるサムズアップをしている。横にはAEDの装置が置いてあった。

「大成功だ!やったな!!」

この男は私の気持ちも知らないで…!イオリはぼろぼろと泣き出した。それからは大変だった。号泣するイオリに「そんな感動しなくてもいいだろ」と余計なことを言ってコウキがぶたれたり。AEDのブザーで集まってきた先生に「忘れ物を持ってきてくれた友人が急に倒れたのでAEDを使いました。」とごまかしたり。コウキの友人等の間でコウキが学校に他校の彼女を連れてきたと話題になったりした。


 それらから二人が解放されたときにはもう夕暮れ時になっていた。帰宅の道すがらイオリが手鏡で寿命を確認すると70年にまで伸びている。コウキが昨日イオリに渡された3万円をイオリの方に向けて言う。

「ほら3万円、返すよ。伸びてんだろ?寿命。だったら必要だろ?」

イオリは何となく申し訳なかったが、確かにこれからお金は必要だ。その三万円を自分の財布にしまったイオリは、隣を歩くコウキの顔を、手鏡で覗き込みながら聞く。

「ねえ岡君…どうして私の寿命が延びてるの?岡君、能力を自由に使えるようになったの?」

「違うよ。俺はやっぱり能力者でもなんでもなかったのさ。すべては西尾さんの思い込みが原因だったんだ。」

「思い込みって?能力が不可避であるってこと?」

相手が知らない知識をひけらかすのはずいぶん気分がいい。幼いころ憧れた名探偵も、犯人を暴くときこんな気分だったんだろうなとコウキは思った。

「それも違う。思い込んでいたのは『人の寿命を知る』ってところさ。」

「そんなはずない!私は幼いころに一年以上調べて回った!誰一人として助からなかったわ!」

「例えば西尾さんが6歳から小学校入学まで毎日外を出歩いていたとしよう。いくら西尾さんがもうすぐ死ぬ人が分かる能力者でもこの平和な日本でどれだけ人の死に立ち会える?6歳だぜ?この市から出るのはまず無理だろう。」

コウキはスマホを取り出し、昨日開いたページを再び開いていく。

「昨日調べ物をしたって言ってただろ?年間日本では100万人の人が死ぬ。だがこのうち97%は自宅や病院、老人ホームで亡くなっているんだ。つまり道端で死ぬのは年に3万人、市区町村が1500もあるのにだぜ?一年に一つの市区町村で、道端で死ぬのは20人だけ。しかもそのほとんどは交通事故だと西尾さんも言っていた。つまり心臓麻痺で死ぬ人は片手で数えられるほどのはずなんだ。」

「…ええ確かに心臓麻痺で死んだ人は少なかった。4人…いや3人だったかしら。でも第一発見者として病院までついて行ったわ。確かに全員亡くなった。」

「その際、すぐに心肺蘇生法が使われたのは何回?AEDが使われたのは?どちらもほぼ0のはずだ。心肺蘇生法のガイドラインが発表されたのは2000年、AEDを民間人が使用可能になったのなんて2004年だ、どちらも10年前はほぼ普及していないと言っていいからだ。」

「…つまり私の能力はきちんと心肺蘇生法やAEDが使われれば助かる能力だった…と。」

少し演出が過剰だっただろうか。コウキは少し恥ずかしくなってしゃべり口調をもとに戻す。

「ここからは想像だけど西尾さんの能力は『心臓が止まる瞬間を知ることができる能力』なんじゃないかな。だから俺は安全で、間違っても通り魔なんていなくて、なおかつAEDがすぐ近くにある体育館前に西尾さんを呼び出した。」

そもそもなんでそんな能力があるのかは謎のままだが。そこは触れないでおこう。岡公木名探偵の謎解きもラストスパートだ。

「それにしたって…じゃあなんで私から隠れたの?あらかじめ計画を説明しておいてくれれば良かったじゃない…。」

「…イオリには悪いが…その方が心臓が止まりやすいかと思ってな。」

決まった。最後の最後にイオリの性分を奪い取る、キチガイの意趣返し。と思った瞬間ミスに気付いた。最後の最後にイオリを呼び捨てにしてしまった。「イオリって呼ばないでもらえる?筋肉バカ。」そう帰されてしまう。閉まらねえなあ。そう思った。だが一向にそんな悪態は帰ってこない。その代わりに真っ赤な顔から帰ってきたセリフがあった。

「私…あなたにならイオリって呼ばれてもいいかも…」

「は?」

何でこいつは発情してるんだ?寿命が延びたっていうのに。 …まあ悪い気はしないが。まんざらでもない表情のコウキを見て、イオリはコウキに抱き着いて言う。

「私…頭のいい人が好きなの。」


読んでいただきありがとうございました。面白いと思ってくださった方は感想くれるとうれしいです。宣伝もしてくださるともっと嬉しいです。

面白くないなと思った方もオブラートに包んで批判をくださるとうれしいです。

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