第四十四話 ハジメ、世界大盗賊団武盗会に出場する 20
ジークが振りかざす剣は、見たところ刃渡り1メートルほどの長剣である。
幅広の刀身と、黄金の柄が確認でき、そこには青い宝石が埋め込まれているようだ。
一方、僕の刀は雷神刀。名前は仰々しいが、その実は、いわゆるただの刀であり、形状から得られる情報はそれだけである。
実際には、刀身に高電圧が迸っているので、輝きを放ってはいるのだが。
さて、ジークは剣を抜き、真横から一閃する水平切りを初手に決めたようだ。
見切りの極意により、その間合いを見切った僕は、カウンターを狙う。
水平切りは、基本的に相手の胴を狙うものであり、正直に言ってすごく使われたくない技なのである。
というのも、普通の切り合いならば、飛び上がって回避するのも隙が生じるし、姿勢を下げて回避するのも難しい上に頭上ががら空きになるし自分の得物が長いとそれだけで攻撃手段が限られてしまう。
そして、武器でそれを受け止めようものなら、普通に考えればこちらの剣の横腹を攻撃されるので、剣自体にダメージが入るし、下手すれば折れてしまうのである。
僕なんかは、絶対折れない!という最強剣士の特性を持っているがために、剣へのダメージはさほど心配することでもないが、縦方向の動きに対し横から攻撃を受けると太刀筋はズレてしまう。下手すれば、僕の横っ腹を切られてしまう結果にだってつながるのである。
だとすれば、本来行うべき回避行動として、後ろへ下がるというものがあるのだが。
なんたって、僕は最強剣士なのだ。ここは華麗にカウンターを決めて敵の意思を叩き折ってやるのが親切というものだろう。
先ほど、飛び上がって回避するのは隙ができると言った。しかし、これは相手にも言えることであり、水平に切った剣戟の軌跡に被るように回避されると、慣性の法則とその他もろもろの物理法則があいまって非常に反撃しづらい。こういう場合、双剣といった片腕で攻撃してももう片方が残ってる武器ならば対応しやすいのだが、今回の相手は一振り。
だから僕は、水平に繰り出されたジークの剣戟を飛び上がって回避しつつ、がら空きの頭上に向けて刀を振り下ろした。
定石の回避行動は、後ろに下がるというものである。おそらく、普通の刀で戦う人間ならばそうするだろうし、当然、目の前のジークという男もその行動を予測しただろう。
しかし、その実繰り出されたのはノーガードの頭上への攻撃。
やはり、人間というのは予想外の行動に対して、一瞬隙が生じるものである。
ゆえにSSSランク認定冒険者のジークでさえも、今まで何千、何万と戦闘してきた敵たちが使ったことのない攻撃を放ってきた僕に対しては、驚きを隠せなかったようである。
「なんで!?」と短く呟きながら、水平に放った剣戟の勢いに乗って体を回転させて僕の刀を避けようとした。
しかし、当然ながら僕が放った振り降ろしは彼の体のセンターラインを捕らえていたし、その一瞬の隙が回避行動のタイミングをズラしたが故に、僕の一撃を完全に回避することはできなかった。
前述したとおり、僕の雷神刀には高電圧が迸っている。説明したかは忘れてしまったのだが、人間というのは脳からの電気信号を脊髄が受け取り、その脊髄から神経を伝って体の各部分の神経細胞へ伝達、そしてその信号を受け取った細胞郡が動くことでなんらかの動作を行うのである。
この電気信号が、外部、もしくは内部からの干渉により各体細胞に届かない場合、その部分は動くことができない。そして僕の雷神刀に流されているその電圧とは、身体の電気信号を混乱させるばかりか、各体の部分にランダムに伝達するので、触れた相手の体の自由を奪うことができるのである。
つまり、結果からすると、かすりでもして体にこの高電圧が流れた時点で彼の体は動かせなくなってしまうのである。
そして、それは不死身だと言っていた彼の体にも、多少なりとも影響はあったようである。ちなみに、遠雷や落雷といった雷神流奥義による雷の攻撃で相手に流れる電圧よりも、刀で近距離から電圧を流されたほうが威力は高い。
それは、電気というものが空気との摩擦により放電してしまうからであり、日常で使用される電化製品は、それらを伝達する神経の役目をするケーブルや銅線によってその放電を防ぎ、必要量の電気を得ているのである。
何が言いたいかというと、遠距離から放つ電気よりも、近距離から流し込む電気のほうが強いのである。
だから、遠雷を受けてほぼノーダメージであった自称不死身の彼でも、僕の雷神刀から流れた高電圧には耐えられなかったのである。
「ウガアアア!!!!」
と獣のような叫びを上げ、体に流れる高電圧に苦しむジーク。電気はすさまじいエネルギーを内包している。その移動速度は光と同じとも言われているので、いかに短距離の流動といえど、物質が高速度で動く際には電熱と呼ばれる熱が発生する。
僕の雷神刀が放つ電気が相手に流れ込むことによって発生する電熱は非常に高いので、当然、彼は体中の神経が焼かれるような痛みを受けるのである。
また、電気を流された相手は先ほども述べたとおり、体中の神経に電気信号という微弱な電流よりもはるかに強い電流が走るので脳からのメッセージは届かない。だから体中の力が抜けるような感覚にも陥るのである。
そしてそれに付随して体中の麻痺。
その隙を見逃す僕ではなく、苦しんでいる彼の体にさらに数回切り込んでやったのであった。
当然ながら、その痛みは尋常ではない。僕も、雷神の力を授かっていなければ普通に感電しただろうし、その痛みを考えれば絶対にされたくない行動だと思う。
人間、耐えられないほどの痛みを受けると、脳が神経による痛みの伝達が引き起こすダメージをシャットアウトするために失神する。
この時点で、彼、ジーク・フリードは戦闘不能となったのである。
「ふぅ、終わった…。」
「終わったじゃねえよ…お前ホントえげつないことするな。」
「そんなこというなよディアス。僕だってこの大会が最後まで続いてくれないと(グランダルシアの国王様と約束したフェニックス・フェザーの返還が達成できなくてギルドカードが帰ってこないから)困るんだよ。」
「お、お前…なんで…(まさか、WTGという大会を最後までやり遂げて俺たちと一緒に祝杯を挙げるのを望んでいたってのか?)」
「わかるだろ?(ギルドカードが返ってこないとすごい面倒なことになるし、そうなると)僕の目的が達成できないからね。」
「そうだったのか…(オマエ、いいやつだなやっぱり。俺の目に狂いはなかった!!)」
「うん!さぁ、彼を縛り上げて動けなくしたら、転移でどっかにやってしまおう!その後は、会場の出入り口を封鎖してるって言う彼の仲間もどうにかしないとね。」
「おう、やったるぜ!!」
と、そんな勘違いが生まれてるとも知らない僕はそう会話を終えると、出入り口のほうへと向かっていった。
ちなみに、ジークの捕縛は、アルトワーレのダルタニアンがグレイプニルを使って行ったらしい。
*
「おっとぉ。ここは通せないぜ、盗賊さん。」
「いやいや、通るつもりなんてないよ。ただ、君たちにWTGを邪魔されると困るんでね。おとなしく帰ってもらえないか交渉に来たんだ。」
「そいつは無理な相談さな。WTGの中止、および全盗賊団の捕縛、もしくは掃討が俺たちの任務だからな。」
「どうあっても帰ってくれないのか?」
「そりゃ当然。」
「だったら、力づくで帰ってもらうしかないかな。」
「おお、やる気だな。いいぜ、相手になってやるよ。俺はヘラクレス!ギルドSSSランク認定の冒険者だ。オマエは?」
「僕はフィラー・ヴィルトス。さぁ、はじめよう。」
「ギルドランクSSSに恐れを抱かないとはな!いい度胸だ。いっくぜー!」
そういうなり、ヘラクレスは殴りかかってきた。直線的ながらも、その速さは人間にしては異常。というか、武器も出さないで素手で向かってくるとかすごいな!!
と、感心している場合ではなかった。僕はその突進を起点とする強烈な拳の振り下ろしを背後にバックステップして回避したのだが、彼の拳が地面にぶつかるや否やドゴォン!という衝撃音がしたと思うと目の前に土ぼこりの柱が5メートルほども立ち上ったのである。
みると、拳が当たった場所は超小規模なクレーターのように大きく陥没しており、彼の異常な腕力が垣間見える。
冗談じゃない、こんなもの当たったら死んでしまうじゃないか!
「チッ、損ねたか!まだまだ行くぜー!」
ヘラクレスはそう叫ぶと土煙の柱を突き抜けてやはりこちらへ突進気味に殴りかかってくる。当たったら本当にただじゃ済まなさそうなので、僕は今度は横っ飛びに回避、彼の拳が振り下ろされまたしても土煙が上がったあたりで、雷神刀を引き抜くと疾雷を放つ。
疾雷は瞬く間にヘラクレスへと飛んで行き直撃。しかし、ヘラクレスは意外な反応をしたのであった。
「今、なんか撃ったな?すっげー熱かったぞ!」
コイツも不死身かよ!!と僕は思ったのだが、どうやら雷に対して耐性があるみたいだ。どうやら、電熱に対する耐性はないようである。
よくよく考えてみれば、彼が名乗ったヘラクレスという名前は、ギリシャ神話に登場する英雄の名前である。
さきほど戦闘したジークフリード。これもまた、ドイツの英雄叙事詩、ニーベルンゲンの歌に登場する主人公の英雄の名前だ。
彼らウロボロスというパーティが何をもってしてその名前を使っているか、はたまた本人なのかはよく分からないが、少なくとも、彼らの逸話に沿った人物であるということは想像できた。
ヘラクレスは、雷神とも言われるゼウスの子であるのだ。だから、雷に耐性があったところで驚くことでもない気がする。
それに、電熱には少なからずダメージを負ったようだから、炎に包まれて死んだヘラクレスの弱点とも言える部分に関しては、その性質どおりであるとも思われる。
だとすると、彼の弱点は炎。だとすると、使ったことのないあの技を試してみる価値はありそうだと僕は思ったのであった。
「オラオラー!行くぜフィラー・ヴィルトス!」
彼の剛力はもはや考えるに値しない。ヘラクレスという英雄は、山を登るのが面倒だからという理由で山肌を棍棒でぶん殴って真っ二つにしたほどの力の持ち主なのだ。
だから、先ほどと同じように、突進気味で突っ込んでくる彼の拳を横っ飛びで回避した。
直後、僕は雷神流奥義・火雷を放った。
火雷は、雷による電熱を用いて増幅、数万度にまで上る超高熱の炎柱を発生させる奥義である。
グオオオオオオ!!!という轟音と共に発生した炎柱は砂煙を起こすヘラクレスに直撃した模様であった。
「うわっ!ぐああああああああ!!!!?」
彼の頭の中で、僕が果たして雷を主として戦う人間だと思っていたのか定かではないが、とにもかくにも突如として発生した超高温の炎柱に飲まれてもがき苦しんでいるようである。
通常、人間が焼け死ぬというのは非常に稀な出来事である。
人間が火事に巻き込まれて死ぬ主な理由は、炎によって生み出された大量の有害ガスによる窒息死なのである。
もとい、人間の体というのは70パーセントが水分でできているとも言われている。それゆえ、焼け死ぬ前に窒息死。
しかし、彼の身を包むのは数万度もの業火である。水分など片っ端から蒸発し、体細胞は燃焼、炭化してしまう。
例のごとく、僕の攻撃によって死者は出ないようにしてある。それは、この圧倒的熱量を誇る火雷でも同様で、さまざまなこの世の理をガン無視して致死量のダメージを無効化し、後の生活に後遺症などが出ないようにしてある。
だから、目の前で業火にさらされ見た目黒焦げの焼死体のようになって地面に臥せっている彼でも、一応大丈夫なはずである。
僕は気絶していると思われるヘラクレスを会場の中に運んだ。
会場の中では、1万人近い盗賊たちがどう動こうかといろいろ話し合って騒然としていたのだが、ジークが鎖らしきものでがんじがらめになっている場所を見つけ、そこにヘラクレスを送り届けた。
さて、あと出入り口は4つだ。




