第四十三話 ハジメ、世界大盗賊団武盗会に出場する 19
僕が会場に戻ると、意外なことにすでに試合は終わっていたようだった。
というか、様子がおかしい。
あれだけ騒がしかった会場は、まるでありえないものをみたかのように別の方向で騒然としていた。
「ディアス!一体どうしたんだ?」
「あ!ハジ…フィラー、どこいってやがったんだ!?…いや、んなこたどうでもいい!とにかく大変なんだ!」
「何があったんだ?」
「すごく簡単に言うと。まず、第4試合は終わった。最悪の結末でな。」
「最悪の結末だって?」
「そうだ。今回の試合内容なんだが、災害級指定危険生物ヨルムンガンドの毒液の奪取だった。それが収められてたのがアルバーディステインっつう国なんだが。」
「…それが?」
「ああ、本来ならどうってことない、普通の奪取だ。だが、問題は、今日ってことだった。」
「今日、なんかあったのか?」
「どうにも、国王の娘…つまり王女様の結婚式だったんだ。当然、護衛もたくさんつくし、各国の重鎮たちが集まるんだ。警備はより厳重、しかも、集まった重鎮たちの護衛が…」
「護衛が?」
「ギルドランク指定SSSのパーティ、「ウロボロス」だったんだ。」
「ウロボロス?」
「そうだ。4年前、その災害指定危険生物ヨルムンガンドの討伐に成功した唯一にして無二のパーティ。そして、そのメンバーが有する能力は各国の一師団に勝るとも言われてる。」
「ってことは、たまたま今日、一国の師団並みの力を持ってるパーティが護衛してるところに盗みに入ろうとしてやられたってことか?」
「それならまだいいさ。死んでもパン様が蘇らせてくれるからな。」
「じゃあ何が…?」
「ああ。とっつかまったFブロックの盗賊団、実は今大会が初参加だったらしくてな。それで…まぁ、その、なんだ。この場所のことをバラしちまったんだと。」
「…つまり…?」
「ヤツらが来る。」
瞬間、ズドオオオン!という振動が会場を襲った。この会場は地下にあるため、若干薄暗いのだが。天井を仰ぎ見れば見事なまでの風穴が開いていた。
「あー…もしもーし!ここってWTGとかいう大会の会場であってますかー!?」
…いや、早くない?
と、僕は呟かずにはいられなかった。
大穴の真下、上空から降りてきたと思われる男は、さわやかな笑みを顔に貼り付けていた。いわゆるイケメンというヤツだ。僕の嫌いなタイプである。
「あっれー…おかしいな。違ったのかな…」
「いいや、あってるぜ。」
「おお、あってた!!それじゃーここにいる皆さん、ぜーんいん盗賊ってことでいいのかな?」
「ああ、そうだぜ。ここには1万人近い盗賊がそろってる。それで?アンタらは何しに来たんだよ?」
「うん、まずは自己紹介。僕はジーク。ジーク・フリードっていいます。ギルドSSSランク認定の冒険者で、現在はウロボロスってパーティに入ってます!それで、今日ここに来たのは、各国に毎年乗り込んできては国宝レベルのアイテムを盗み出している盗賊たちの捕縛、もしくは掃討が目的です!おとなしくつかまるって人は僕から見て右側に、抵抗して死ぬって人は僕から見て左側に集まってください!」
「…アア?てめぇ、そんなこと言ってタダで済むと思ってんのか?」
「さっきから威勢がいいね、キミ。名前は?」
「俺はデメテル・スカーリンド。ル・ボード・デュ・モンデの総大将だ!」
「そうなんだ。んじゃ、消えてもらおっかな!」
瞬間、ジークと名乗る男が指先から閃光を放つ。おそらく、当たったらタダじゃすまないタイプの魔法。僕はすでに動いていた。
「危ない!!」
「うおっ!?」
僕の決死のダイブに、デメテルは吹き飛ばされた。そして僕の頭を掠めるように閃光は飛んで行き、背後の地面に衝突するや否やバカデカい轟音を上げて地面が爆散した。
「あんなの人に向けて使う魔法じゃねええええ!!!」
「アレ、外れた?おかしいな。」
「あんたナイトグラスホッパーの!助かったぜ…」
「いや、いいんだけどさ。」
「ねー!君、名前は?」
「でも、死んでも俺たちはパン様に生き返らせてもらえるだろ?そんな心配することじゃ…」
「そーいうことじゃないでしょうが!」
「おーい、そこの男同士で抱き合ってるキミだよ!」
「そうなのか…?」
「そうだよ、絶対そう!」
「いい加減に聞いてくれないかな?」
と、待ちきれないといった様子のジークはまたも同じ魔法を放つ。
「うおああああ!!?」
僕はギリギリでそれを回避した。
「何すんだよ!?」
「だって僕の話聞いてくれないんだもん!」
「だもんって…」
「ねぇ、キミ盗賊にしてはなかなかじゃん!名前なんていうの!」
「…僕はフィラー・ヴィルトス。」
「へぇ…知らない名前だな…」
「そりゃ、そうかもね。」
「まぁ、んなことはいいんだよ。おとなしくつかまってくれない?なんか、キミと戦うのは骨が折れそうなんだもん。」
「そうか…ところでつかまった盗賊はどうなるんだ?」
「そりゃぁ尋問して所属してる盗賊団の場所を言わせて、ひとうひとつしらみつぶしに壊滅させるんだよ。」
「それじゃ、はいそうですかってつかまるわけには行かないね。」
「残念だ。それじゃ、まずキミからだね。周りのザコのみなさんは、おとなしく待っててね!すでにこの地下の入り口はウロボロスのみんなが見張ってる。ここから出ようなんて思わないで、僕と彼の戦いを見ててよ!」
「やるしかないのか…」
「いっくよー!」
ジークは指先からさっきの光線をまた放った。
「だから危ないって!!」
僕はそれを避ける。背後の地面はまたしても爆散。
「よくかわすね!結構狙うのは自信あったんだけどなー。」
「余裕だな!今度はこっちからだ!」
僕はメビウスインベントリから雷神刀を引っ張り出すと、遠雷を放つ。
僕の刀から噴出した雷は、ジークの放った閃光よりも速い速度で飛んでいく。そして、直撃した。
「いってー!なんだそれ、強くない!?」
「僕からすればそれですんでることに驚きだよ!」
「やっぱり厄介だな、キミは。くらえ、テンズ・ブリンガー!」
「う、うわ!」
ジークは両手の指を突き出して閃光を10本放った。それをギリギリのところで全部回避してみせる。
「どーしてかわせるの!?今までかわせた人なんていないのに…」
「こっちこそ、訊きたいね。僕の雷を受けてみた感じ無傷なんだけど?」
「うーん。それは、僕が不死身だからだよ。」
「冗談にしては笑えないな!」
「だって、冗談じゃないからね!!」
ジークはそういい捨てると、背後に背負っていた剣を抜き、切りかかってきた。
接近戦なら、僕は負けない。




