第一話 ハジメ、捕縛される
僕はハジメ。
転生者であり、もともとはフリーターでした。
人には話せないような恥ずかしい死に方をしたために転生者としてある世界に送られた僕は、チートとも呼べる特性をもらってその世界に降り立ちました。
新しい人生の始まり、新しい世界での物語が始まる!とどきどきわくわくしながら。
そんな僕は今、小国ルベリアの城下町の牢屋にいます。どうしてこうなった。
「おい囚人、飯だ。」
薄暗くて少し埃っぽい地下牢の中で、僕は味のないスープと硬いパンを噛み締めています。
ことの発端は、街の入り口に近寄ったときのこと。
入り口の警備をしている兵士に声をかけられました。
「こんにちは旅の人。入国されますか?」
「はい、そうです。」
柔和な表情と、優しそうな声。ルベリアという街は、本当にいい街なんだ!と、僕は感じていました。
「それでは、パスポートを拝見してもよろしいでしょうか?」
「え、パスポート?」
「はいそうです。パスポートがなければルベリアには入れません。」
「えーーーっと…」
徐々に悪くなる雰囲気に、冷や汗がたれました。
「もしや、お持ちでない?」
「あ、あのー…」
さきほどまで柔和な表情だった兵士の顔が訝しげになったあたりで、僕はやらかしたなーと思ったんです。
「なぜ、お持ちになっていないのですか?」
「いや、それはっ…」
まさか、僕あなたの知らない世界から来たんですよ、だからパスポートとか持ってないし必要ってことも知らなかったです!なんていえるわけないじゃないですか?
「…あなたまさか、パスポートをもたずに自分のいた国を抜けてきたんですか?」
「いやっ、だからその!」
この時点で、相当ヤバイ状況にたたされているのかもしれないと思いました。
「それって、不正出国…さらに言えば、不正入国…ですよね?」
「やっ、じ、実は僕ちょっと遠くのちーーーーーさな村から来たんですよ!だからそういうのわからなくて…」
「なるほど…では!その村はなんと言う村なんですか?」
とっさにでた言葉に、兵士は尋ねてきました。
そりゃそうだよねーと思いつつ、僕は適当に考えた村の名前を出すことにしました。
「テルミナっていう村です!」
そういった瞬間、兵士だけではなく、周りを歩いていた人たちの歩みが止まり、唖然とした顔でこちらを見てきた瞬間、これはマジでヤバイと悟りました。
「…逆賊だああああああああああああ!!!!!」
僕の目の前の兵士が突然大声でそう叫ぶと、周囲のやぐらからこれまた大音量の鐘が鳴り響き、あれよあれよという間に詰め所から大勢の兵士がやってきて、周囲の人々も悲鳴を上げて逃げ惑い、入り口付近は阿鼻叫喚。兵士たちは口々に僕を罵倒しながら距離をつめ、僕のことを力任せに拘束し、今に至ります。
いやー。やっぱり人間って正直が一番ですねー。
ハジメが口走ったテルミナという村は現在は滅びており、そこに住んでいるのはアルバニア公国領にその名を馳せる超大型盗賊団「空覆うイナゴ団」という極悪集団であった。
強盗殺人略奪などなど、この世界で罪とされる行為をいともたやすく行い、彼らが進軍した村は何一つのこらないということから、ナイトグラスホッパーという名前がついたとされる。
そりゃ、逆賊だって言われても仕方ないよなー、と、僕は思ったのである。