第四十二話 ハジメ、世界大盗賊団武盗会に出場する 18
そして一夜明け、翌日。
先日の試合によりもぬけの殻となってしまったグランダルシア国立宝物庫はその名声を地に落とし、その際のグランダルシア国王の悲壮な顔が盗神パンによってディスプレイに映し出されていた。
「かわいそうに…」
と僕は呟いたのであるが、本日はFブロックとGブロックの代表による本戦準々決勝最終戦、ベスト4入りをかけた最後の盗賊団を決める試合ゆえにその会場の盛り上がりはとてつもなく、誰の耳にも届かなかった。
「さあああて!!まずお前らにお知らせだ!!!昨日の試合の被害総額は3兆9800億ルクスにもなったらしく、盗賊協会のお偉方が一夜で盗み出された宝物の価値記録の大幅な塗り替えを確認、この日を持ってアルトワーレ盗賊団をSSランクと認定したぜ!!おめでとうアルトワーレ!!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「と、いうわけで!!本戦第4試合の内容発表に移らせてもらうぜえええええ!!!!!」
「ウオオオオオオオオオオ!!!!」
そんなパンのアナウンスを聞きながら、僕は例のグランダルシア国王の悲壮感あふれる顔がどうしても頭から離れなかったので、どうにかしてやれないかと考えていた。
なんで?と聞かれても、すごく簡単に言ってしまえば、気になったから、の一言に尽きる。
そもそも、奪取する対象は「不死鳥の飾り羽」のみだったはずだ。だとしたら、記録は記録かもしれないけれど、国宝レベルの宝物を一個人たちが持っているというのはどうにも嫌な感じがするのである。
と、いうわけで、僕はおおいに盛り上がっている会場を後にしたのであった。
*
会場の外に出た僕は、記録を塗り替えたアルトワーレ…ではなく、最終的に宝物すべてを持って帰ったル・ボード・デュ・モンデの空中に浮遊している拠点を探知していた。
「不可視」と銘打ってはいるが、その実、内部に人が入る必要がある。だから、完全に見えないというわけではないと思うし、物質がそこにあるということもあるからして、何かしらの方法でその場所を見つけることができると思ったのである。
そしてその考えは正解だったようだ。ちょうど会場の真上、上空おおよそ2000メートルほどの場所に巨大な船の形をした物体があることを発見したのである。
僕は、ル・ボード・デュ・モンデの拠点、「インビジブル・フライング号」に向かって転移を行おうとしたが、どうせなら、と、ゼウス様にもらった力を使って、空を飛んでみることにした。
魔力とはまた違った力…神力を体に纏うと、不思議なほど力が湧いてきた。そして空を舞うイメージをすると、体がブワッと浮かび上がる。
自由自在に飛べる能力。こいつはスゲェ。
僕はテンションが上がってしまい、バビューン!と高速で船に向かって飛んでいったのであった。
*
シュタッ!と上空から甲板に降り立った僕は、地上2000メートルの空中で船上パーティをしている場面に出くわしたのであった。
相手方とて、まさか空の上から突然人が降ってくるなんて考えてもいなかったらしく、突然現れた僕の姿に驚愕の面持ちであった。
「え…え!?誰だお前!?どっから来た!?」
最初に口を開いたのは、シャルテと呼ばれていた少年だった。
ほかのメンバーはというと、すでに臨戦態勢に入っているらしく、武器に手をかけてこちらをにらみつけていた。その数は数え切れないが、目算でいうなら軽く2000人は超えているようである。なるほど、世界に名を馳せるというだけはある。でも、それ以上にこれほどの人数が甲板にでてパーティをできるということに驚きを隠せない僕である。
どうやら、空間魔法までかけられているようで、船の大きさ自体はいわゆる普通の帆船程度だが、船の内部や一部は空間をいじってあるみたいだ。なんとも、不思議な感覚である。
「おい、言葉が通じないのか!!」
「ん、ああ、ごめんごめん。考え事しちゃってた。」
「な、なんなんだお前!!」
「あ、名前?僕はハジメ。」
そんなことを考えていると、シャルテはいつのまに出したのか、武器を構えながら僕に訊いてきた。なるほど、そりゃ自己紹介しなきゃという感じである。
ちなみに、これは僕個人の考えに基づいた行動のため、正体を隠すということはしていない。
「は、ハジメ?」
「…この間現れたって言う「最強剣士」さんじゃねえか?」
と、鉄拳を装備している男がそう言った。ル・ボード・デュ・モンデの総大将だ。
「たぶんそうだよ。」
「チッ、厄介そうな相手だな。で、何のようだ?」
「いやね、君たちが持ってる宝物さ、グランダルシアに返してもらえないかと思ってさ。」
「…あんだと?テメー、どうして俺らが持ってるってこと知ってんだ?」
「それは企業秘密ってやつかな。それより、どうなんだ?返してもらえるの?」
「…ふん…そいつは無理な相談ってやつだな。」
「どうしてさ?全部とは言わないよ、せめて8割。被害総額は4兆ルクス近いはずだ。だからその2割でもあれば十分だろ?」
「そうはいかねえさ。これは俺たちの戦利品だ。急に現れたやつなんかにはいそうですかと渡せるもんじゃねえ。」
「そりゃ道理だね。でも、申し訳ないけど、グランダルシアの国益にかかわる。それだけの多額の被害が出てしまえば、国は国として成り立たなくなるからね。そしたら国民だってタダじゃすまない。不幸な人を増やさないためにも、お願いできないかな。」
「…そうだな、確かに、そりゃそうかもしれねぇ。だが無理だ。」
「なぜだ?」
「ヘヘッ…そりゃ当然、企業秘密ってやつだ。」
「そうか。WTGの賞品ってことなのかな?」
「ッ…テメェ、盗賊なのか?」
「いいや、僕は違うよ。けど、その反応は正解ってことだね。」
「…いけすかねえ野郎だな。いいぜ、ほしいなら力づくで奪って見やがれ。俺たちは盗賊だ。」
「その言葉、ちゃんと聞いたからね。」
「ヘッ…ちっともビビらねえとはな。なるほど最強剣士ってワケだ。でもよ、2000人の相手と戦って生き残れるのか?最強剣士ってやつはよ。」
「そりゃわかんないけどさ。でも、僕は信念を曲げるつもりはない。君たちを倒せば返してもらえるって言うんだったら、そうするまでだよ。」
「ご立派な信念だな?」
「いいや、独りよがりの英雄願望でしかないね。さて、それじゃ、やらせてもらうよ?」
「おいお前ら、気をつけろ、コイツは強いぞ!!」
僕はその言葉に言葉を返す代わりに、雷を具現化したような形の剣を、バリッ!という音と共に右手に生み出した。これは、ゼウスの力を使った、雷そのものを剣のように作り変えたものである。殺傷力を極限まで押さえ、一時的に体内の腕や足に送る電気信号を停止させるようになっている。つまり、こいつで切られた相手は傷も残らないし血も出ない代わりに腕や足を一定時間まったく動かせなくなるという代物なのである。
「さぁて、行こうか。」
まずは、と、前方にいる盗賊に向き合った。相手は、シャルテというゴーレムと一騎打ちした剣士。
「い、いくぞ!ソーディアス・ホリゾンタル!」
と、技名を叫びながら水平に剣戟を振るうシャルテ。しかし、僕は例によって最強剣士の力である見切りの極意を持っているので、そのブレない剣戟を空中にふわりと飛んで回避しながら右手の雷剣で胸部を一閃した。
バチッという音がしたと同時、バタリと地面に伏せるシャルテ。大丈夫、死んでないよ!
しかし、当の盗賊たちからすれば仲間がやられたとしか見えない。その姿を見届け、キッドという男が鋭い眼光をこちらに向けながら銃を撃った。
「カモン、アイギス!」
僕がそう叫んだ瞬間、バチィ!という音と共に、僕の体に動きやすい軽鎧が換装された。
このアイギスという防具は、僕の体を守護する最強の鎧で、ゼウス様本人が放つケラウノスですら防ぐというチート防具である。
キッドの放った銃弾は僕のアイギスに触れたと思うや否やジュワッと蒸発してしまう。
「なにっ!?」
「お返しだよ!」
僕はそういうと、右手の雷剣の切っ先をキッドに向ける。瞬間、バリッ!という音が鳴り、光の速さで雷が飛んで行き、キッドの体を突き抜けた。
当たった瞬間彼の体は硬直し、シャルテ動揺に甲板に倒れこむ。これもまた、電気信号の伝達を不可能にするだけの殺傷性のない雷である。
「次は私だよ!」
キッドが倒れたのを見届けたと同時に、アリュールという男が弦をビュン!と飛ばしてくる。確かに、事前情報がなければ、ひたすら避けていっただろう、その罠を兼ねる弦に対し、僕は雷剣を一振りする。
すると、雷剣に触れたその弦から高電圧がアリュールの手に伝わって行き、アリュールもまた感電、甲板に臥せったのであった。
「やるじゃねえか、最強剣士…」
一方、デメテルはというと、その様子を冷静に観察していたようであった。
一応横目で見ていたのだが、僕の攻撃によってシャルテが倒れたとき、すさまじい形相をしていたのだが、その攻撃によってシャルテが死んでいないばかりか、外相もなくただ倒れているだけで命にまったく別状がないことに気づいたようで、どうやら団員たちのいい訓練だと考え方を変えたらしい。
その顔は若干笑みを浮かべているようであった。
「そらそら、次次!」
僕はといえば、それに気づいていたのであるが、ひっきりなしに突っ込んでくるほかの団員の相手をしていた。
僕としても、相手を殺すことなく宝物が回収できさえすれば万々歳だし、デメテルの不要な怒りを買うこともなさそうだったので、遠慮なく戦っているのである。
しかし、こうも次から次へと向かってくる盗賊たちは、どうやら熟練度以上に仲間のことを大事に思っているらしい。どうやら仲間が一撃で切られたということに悲しみを覚えつつも鬼気迫る表情で迫ってくるのである。
仲間思いのいいヤツらなんだな、と思いつつ、それでも攻撃の手を休めない僕であった。
そんなある種一方的な蹂躙も、残りがデメテル一名となったところで終焉となったようである。
僕はといえば、さほど疲れることもなく涼しい顔で残る最後の一人、デメテルを見ていた。
「ヒュー!やるじゃねえかハジメとやら。まさか俺の盗賊団全員を倒すとはな!しかも無傷で、まったく息も切らさずに、誰一人殺さずとは驚いたぜ。」
「人殺しは趣味じゃないんだ。さて、あとは君一人かな?」
「そうさ、残るは俺一人。こいつらとは一味違うぜ?」
「それなら、今迄で一番早く倒してあげるよ。」
「言うじゃねえか。」
「合図をしてくれ。そしたら一瞬だ。君がその場から1ミリ動く間に倒すよ。」
「ハッ…ここまでコケにされたのは初めてだが…いいぜ、見せてもらおう。このコインが甲板に落ちた瞬間、でどうだ?」
「かまわないよ。」
「んじゃ…よっと。」
デメテルがチィン!とコインを弾く。クルクルと回転しながら空中へと上っていき、コインは自分が受けた力を空気との摩擦で消耗、位置エネルギーへと完全にその力を変えたところで、今度は重力によって引っ張られていき、甲板にチャリンと落ちた。
その瞬間、僕の体は光の速さほどにもなり、雷神流奥義・神鳴葬斬を繰り出していた。
細胞が電気を帯び、脳から発せられた電気信号はまるで細胞自体がその信号を放ったかのような速さで僕の全身の筋肉に通達。風よりも早く地面を蹴り、まったく動いていないデメテルの正面まで100,000分の1秒ほどの速さで移動し、雷剣を振り切っていた。
コインが甲板に落下してからおおよそ0,1秒。人間の反応速度の限界は、0,11秒だと言われている。
その限りなく短い時間で、僕の体はデメテルの背後にあった。
宣言どおり、僕はデメテルが一ミリ動くどころか、体を動かそうと脳が反射を行っている間にデメテルに一太刀を浴びせたのである。
「…みえねぇぜ、そんなもんよ…」
それだけ言うと、デメテルもまた、バタリと地面に倒れたのであった。
「君が人間なら、反応できないさ。」
僕はそれだけ言うと、こちらを地面に伏せて見ている大勢の盗賊の目の前で、フェニックス・フェザーも含めてすべてをメビウスインベントリに詰め込んで、甲板から飛び降りたのであった。
おい、それも持ってくのか!!という視線を浴びせられた気がしたが、僕は少しだけ策があったので、今は許せと心の中で呟いた。
*
僕が悲しみに暮れた雰囲気のあるグランダルシア国の城の門をたたいたのは、それから数十分後のことである。
僕はギルド員のような格好に姿を変えていたので、今まで何度もやらかしていた各国の人々に対し不信感と不安を与えて追われるというなことにはならなかった。
「王様に謁見したいのですが…」
「王様は悲しみに自己を失っておられる。今はあわせることはできん。」
「いえ、その悲しみを払拭するものをお持ちしたのですが。」
「…まさか、宝物を?」
「そうです。僕はハジメ・アツカワと申します。」
「ハジメ・アツカワ…まさか、ルベリアで噂になっていた例の最強剣士か?」
「そうです。ギルドカードはこちらに。」
「…なるほど、確認した。しかし、宝物を持ってきたというのか?どこだ?」
「魔法で格納しています。」
「…いいだろう、どこで見つけたのかは気になるが、それよりも、それが本当なら王様もお喜びになるだろう。さぁ、こちらへ。」
「はい。」
僕は、衛兵に連れられて城の謁見の間についていった。
「失礼いたします。」
「何用だ…私は今は誰にも会いたくないのだが。」
「いえ、是非にでもお会いしていただきたい者がございまして。」
「そうか…いいだろう、通せ。」
そんなやり取りの後、開かれた扉の奥には、半ば、人生をあきらめたような声色の王様が、この世の終わりのような顔色で玉座に座っていた。
「はじめまして、グランダルシアの王。」
「よいよい…して、何用だね?」
「はい。このたび、グランダルシア国立宝物庫より奪取された宝物、奪還してまいりました。」
「…なんだと!!??」
「こちらにお出ししてもかまいませんか?」
「すぐにでも見せてくれ!」
「それでは。オープン。」
と、僕が言うと、ガラガラガラガラ!と国宝達が部屋中に転がった。
「お、おおおおおおお…おおおおおおおおお!!!」
「お気に召されたでしょうか?」
「国王という任について早20年。宝などに興味はなかった私が、宝を前にして興奮を覚えるとは!!!」
「事情が事情ですから。」
「そうだな!!しかし、ああ、なんとも!!」
「お気に召されたようで、私としても光栄の至りと存じます。」
「ふむ、お主には礼を言わねばなるまいな。ありがとう、助かった。」
「王様からそのような言葉をいただけるとは、不肖このハジメ・アツカワ、感激の至りです。」
「そうへりくだらなくてもよい。本来であるならば我が国が総力を挙げて解決しなければならなかった問題。しかし、宝物庫の中に残されていたのは訳のわからない転移札が4枚だけで、行く先の指定すらもなかったのだ。まさに晴天の霹靂であったが、これぞ地獄に仏。して、褒美をとらせようと思うのだが、何を望むのだ?」
「ハッ。それでは、不死鳥の飾り羽をいただけないでしょうか?」
「む、不死鳥の飾り羽。か。なかなか、物の価値を知っていると見受ける。たしかに、冒険者とあれば手にしたいものであろう。しかし、これは個人が持つには大変に過ぎた代物なのだ。いかに国の危機を救った者でも、これを渡すわけには…」
「それでは、1週間の間だけ、お貸ししていただけないでしょうか。」
「何、貸せ、だと?」
「はい。もし、何か証明が必要でしたら、私のギルドカードをお預けします。それなら、文句はないでしょう?」
「…いいだろう。しかし、貸せというのはなぜなのだ?」
「ハッ。実は、私の友人が毒虫に侵されたのです。その毒を取り除くには、毒を血と共に抜かなければならないのですが、それをするためには急速に身体を回復するためのものが必要です。」
「なるほど、回復魔法では足りないのか。いいだろう、それではお主のギルドカードを預かる代わりに、この不死鳥の飾り羽を貸す。」
「ハッ。ありがたき幸せです。」
「いいのだ、本来ならば進呈したいところだが、そうもいかんのでな。こちらこそ、礼を言おう。ありがとう、ハジメ・アツカワ。」
「もったいなきお言葉です。それでは、1週間後に。」
「うむ。気をつけるのだぞ。友人の無事を祈っておる。」
「はい、それでは、失礼します。」
そうして僕は、グランダルシア城を後にしたのであった。
*
「よっとぉ…」
「あ!!お前!!!もうお前に渡す宝なんてないぞ!!」
僕が今ひとたび、ル・ボード・デュ・モンデの拠点の甲板に降り立ったとき、シャルテがやはり目の前にいたのであった。
「ああ、わかってる。これ、返しに来たんだよ。」
「え、それ、フェニックス・フェザーだ!どうして!?」
「君たちにはこれが必要だろ?」
「どうして知ってるんだ!?」
「企業秘密さ。ほら、お頭のとこに持ってきなよ。」
「う、わ、わかったよ。ありがとな!」
「君たちのものを全部持ってったのは僕だから、むしろ怒っていいと思うけど。」
「いや、確かに、あんだけの宝物もってたって僕たちじゃ使い切れないし、知らない人たちが困窮するのは僕らの主義に反する!」
「そうか。いいヤツらだな、この盗賊団は。」
「へへ、分かってるじゃん!それに、お前…ハジメだっけ?あんだけの力を持ってて僕たちを殺さないし、まるで稽古をつけてるみたいだったからな!お頭も「お前たちの弱点が分かっただろう。俺たちはもっと上にいける。あいつはそれを教えてくれたんだ。それに、誰一人欠けなかった!俺はそれで十分だ!」って言ってたしさ!」
「そうか。また、会えるといいな。それじゃ。」
「あ、おう!絶対会おうぜ!どうせ、僕たちの船の場所分かるみたいだし!」
「まあね。」
と、僕はそれだけ言うと、会場へと戻って行った。
フェニックス・フェザーは、僕が優勝してちゃんと返すよ、王様。
いつもの2倍くらいの量を書いた…疲れますね。意外と。




