番外編 少年と宝石龍 1
今日は諸事情で更新できないので、以前書いていたショートストーリーを載せようと思います。
とある世界の、とある地域のお話。
かつて、宝石龍と呼ばれる、それは美しい龍族が居た。
彼らの体躯を覆う甲殻は、透き通った紺碧の鉱石で、光を浴びると星のように煌いた。
その鉱石で作られた装飾品は、気高き嗜好品として重宝され、宝石龍たちは人々に狩られていった。
周辺の村は栄え、冒険者やハンター達が集う群集地帯となっていった。そして、かつての王族たちもその装飾品を求めたために、宝石龍たちはその姿を段々と消していった。
その地域の外れにある村の、知覚にある洞窟の中に、最後の一体であろう個体が脅えるように潜んでいた。
その一体もやがて狩られてしまったが、その体を覆う鉱石は、すでに光を失っていて、くすんだものに成り果てていたという。
そして次第に人々の熱も冷め、その地域も縮小していき、中規模の村となったころ、宝石龍達の嘆きは忘れ去られていった。
それから数十年の時が過ぎた。
彼らの話はすでに民草として語り継がれてはいたが、信じるのは純粋な子供たちくらいで、大人たちはとある問題と戦いながらも生計を立てている。
では、その問題とは?その地域では、もうひとつ御伽噺があった。
それは、さきほどのお話の続きであり、というのも、宝石龍達の怒りと嘆きが、この地に雨を降らせるといったものである。
その言い伝えどおり、確かにこの地域では雨が多い。それもたたきつけるような豪雨が頻繁に降るために、食物が育たないのである。
幸いにして、栄えていたことがあった過去ゆえに、この地を知る者たちが大勢いるので、定期的に行商人がやってきて食物を大量に卸売りしたり、山が多いので鉱石が豊富なので腕利きの鍛治屋たちが鉱石を求めてやってくるので、暮らせないというわけではなかった。
そのため、このあたりには炭鉱夫が多く、住み着いた鍛冶屋も居るため、冒険者たちもちらほら見受けられる。
ただし、それは地域の中心にある村の話であり、件の、地域の外れにある洞窟のある村には、あまり人が立ち寄らなかった。
訪れるのは、雨宿りをする冒険者と、中央の村からやってくる行商人くらいである。
その村には、数人の村人たちと、これまた数人の子供たちが居た。
このお話は、その村の子供たちの中の、少し臆病で、しかし勇敢な一人の少年のお話である。
彼の名前はラースという。年の瀬は12。母親譲りの綺麗な赤毛と、父親譲りの意志の強い眼が特徴である。
彼は村の子供たちの中では頭がよく、引っ込み思案な一面もあるが、明るく、元気な少年である。
この村の男たちは、少しはなれたところにある山へ数人で一緒に出向き、一週間ほどの間隔で村に鉱石を持ち帰る炭鉱夫であった。そのため、村全体がひとつの家族のようであり、子供たちはみな兄弟のように育った。
子供たちは軒並み冒険者にあこがれていて、「俺はいつか冒険に出て、でっかい宝を持って帰るぞ!」と口をそろえて言うのだが、ラースは少し違っていた。
「僕はそんなに力が強くないから…村のために何かできることをしたいんだ。」と、日ごろから思っているような子供であった。
そんなある日のことである。先週から続いていた少し長めの雨が止んだころ、待ってましたと言わんばかりに子供たちは太陽の下に出向いた。
木の枝を剣に見立てて戦いごっこをしたり、おいかけっこをしたり。
この村の周辺には、雨が多いのでモンスター達や野獣たちの姿はなく、そのため子供たちは、しばしば村より少しはなれた草原や森に遊びに行っていた。
もちろん、母親たちは注意するのだが、監視の目を抜けて遊びに行くようなやんちゃな子供たちばかりであったため、村の女たちは半ば諦めのような、しかし頼もしそうな目で彼らを見送るのであった。
ラースも例に漏れず、村の子供たちと一緒に外に出る。彼も雨は好きではないし、雨の降っているときは外に出ないので、太陽を拝みたくもあり、決して力は強くないが、体を動かすのは好きだったのである。
「よし、今日は西の山のふもとの森で木の実を取ろう!」と、子供たちの誰かが言った。
西の山には、御伽噺の洞窟があり、しかしその中にある取れる範囲の鉱石は大体採ってしまったために、大人たちが出向くことは少なかった。
そのため内部の安全確認は取れておらず、大人たちは「あそこの洞窟には絶対に入るなよ」と注意していたのである。
もちろん、子供たちはそれを知っているし、洞窟の中に入ろう等とは微塵も思っていない。
「あの山の近くは雨のせいで地面がぐちゃぐちゃだから、気をつけようね」と、ラースが言う。子供たちの中では、頭のいいほうであった。
「わかった!よし、行こうぜみんな!」と、子供たちは出発した。まだ昼もまたいでいない、朝の陽気である。
子供たちは、きちんと装備は整えていた。水筒や、ちょっとした干し肉などの携帯食料。もしものときのための毛布や、発炎筒であったり、火をおこすための道具。
これらは、大人たちが与えたもので、自分たちにあこがれる少年たちへの餞別でもあった。
日差しが空の真ん中に輝くころ、彼らは森へと到着した。
この森では、リンゴをはじめとした豊富な果物や木の実が自生していて、実際、木の実などを取ってくるのは村の少年たちの仕事でもあった。
一年のこの時期には、赤くて大きな甘いリンゴが沢山取れる。
子供たちは、年長者と、年少者で二人組になって森の恵みを探し始めた。
大人たちはあまり帰ってこないので、下の子供には、上の子供が教えるというのが、ある種の了解となっていた。
この日は、ラースはひとりだった。そのため、一番年の差が小さい二人組の近くで、木の実を探していた。
おおよそ、日が傾く前に、各自が取ってきた収穫が村人たちの一週間分くらいの量になった。大人たちは、恵みは採りすぎるな、と口酸っぱく言っていたので、子供たちはそろそろ切り上げ時か、と集まった。
と、帰り支度をしていたときであった。天空に轟く雷鳴。太陽は不意に姿を消し、大粒の雫が子供たちに降り注いだ。
「大雨だ!危ないぞ、すぐ帰ろう!」一番年長の子供が声を張り上げた。
子供たちは帰り支度を一瞬のうちに済ませおもむろに駆け出した。
ところが雨はさらに激しく打ちつけ地面に当たる雫が跳ねるので足元は悪く視界も悪い。
さきほどの取り決めた二人組同士で年長者が年少者の手を引いて走る。
ラースも後を追うが次第に視界はさらに悪くなり水を吸った衣服が足をもたつかせた。
ただただ走る。走る。走る。
一心不乱に走っていたが気づけば仲間たちの姿は見えず。
ラースは、一人、
これはまずい。とつぶやいた。
瞬間、轟いた雷鳴。ラースは、大きな衝撃とともに後ろへ吹っ飛んだ。
吹き飛んだ先は、草原。一瞬気を失ったラースだが、すぐに目を開け、周囲を確認した。
危なかった。と、そう思った。雷はおそらく数歩前に落下し、自分はその衝撃で弾き飛ばされたのだと悟った。




