第四十話 ハジメ、世界大盗賊団武盗会に出場する 16
「ちぃっ…!」
一度デメテルの接近を察知し双剣により間合いを詰められすぎるのを防いだグラトニーだが、執拗に詰めいるデメテルに焦りを募らせる。
一方、デメテルは引いては詰め、引いては詰めを繰り返し、敵方の武器である双剣の間合いをインプットしようとしていた。
至近距離では向こうが有利。しかし、超至近距離ではこちらが有利。武器の特性を理解している双方は、いかに自分が有利な立ち位置で相対するかを考えている。
そのため、一進一退であるかのよう見えてしかしその実、絶妙な距離の測りあいをしているのである。
先に攻撃が届くのはグラトニーだが、その一振りで決定的なダメージを与えなければその次の瞬間で大きなダメージをもらうことになる。
ある意味では、初撃を与えることはできるのだが、それではあまりに対価が大きすぎる。
一方、デメテルとしては、ダメージを多少もらったとしても懐に一度もぐりこめればしめたもので、自分がもらった傷よりも大きなダメージを相手に残すことができる。
肉を切らせて骨を絶つ。そんな戦い方がデメテルの頭の中にあった。
その拮抗もいつまでもは続かないわけであり。
意外にも、初撃を与えたのはデメテルのほうであった。
危ない!と思った間合いで、グラトニーが剣を振らなかったのである。
これはチャンスと一気に踏み込み、勢いを利用した強烈なボディブローを浴びせたデメテルであったが、自分の体勢に気づいてその攻撃が過ちであったと気付く。
今まさに、デメテルは拳を振りぬいた状態である。つまり、右手は伸びきっているので、いったん少しでも引き伸ばさなければもう一度右で攻撃するのは立ち位置的に不可能である。
対し、グラトニーといえば、ボディに一発打撃をもらったものの、食らう瞬間に半歩下がることでその勢いを幾ばくか殺すことに成功し、なおかつ、剣を今すぐにでも振ることのできる状況。
2撃目は、当然グラトニーのものであった。
グラトニーは、大きく後ろに振りかぶっていた両手を、後ろにステップしながら前方に振りぬく予備動作をしていた。
つまり、攻撃を受けること前提。そして、相手が攻撃した直後のわずかばかりの隙を突くためだけに、あらかじめ攻撃動作を行っていたのである。
そして、デメテルが自らの立ち位置に気付いた次の瞬間には、胸部と腹部に鋭く燃えるような痛みが奔ったのである。
「グッ…」
たまらず、デメテルは後方に大きくステップし、体勢を立て直そうとするが、その隙を見逃すグラトニーではない。
その動きすら読んでいるように、追いすがる一撃。
その刃はデメテルの鉄拳から広がる腕自体をガードする甲の部分を捉えたが、やはり鎧のような扱いであるその甲は、キッチリとその剣戟を防いだ。
キィン!という高い音が響き、火花が散る。
受けたのは左腕の甲。そして、先ほどとは真逆の状態である。つまり、グラトニーは左手を振り切った状態。そして、デメテルは左腕を眼前で固めているが、右腕はひねり出せる。
デメテルはグッ、と地面を一蹴りすると、左腕を眼前に構えたまま右腕を振りかぶる。
続き、グラトニーも右腕の剣でデメテルの右腕の横っ面を弾くが、デメテルの放ったブローはフェイク。力のこもっていない速度だけのものであり、それを弾いた剣は軽い当たりでグラトニーの後ろ側へ。これで防御するものはなく。
デメテルが繰り出す、本命の左ストレートは、グラトニーの左頬を捉えた。
強烈な打撃と、少し飛び出た刃による刺傷を受けて後方へと吹き飛ぶグラトニー。
「チッ…腕を上げたか、鉄拳船長。」
「その名で呼ばれるのは久しぶりだな。」
互いに受けた傷を見ることもなく相手の目をにらみつける。
闘志に揺らぎはなく、むしろ始まる前よりも熱く燃え上がるようであり。
そんなリーダー格の戦闘が行われている中、残された6人の戦士も、互いとの戦いを繰り広げていた。
「私の相手はあなたよね…えーっと、なんていったかしら。アリウル…?」
「私の名前はアリュール・セレンテ。僕のことは是非、麗しの唄歌いと呼んでくれないかい、お嬢さん?」
「あら、お嬢さんだなんて、今じゃ死語なのよ?いまどきの言葉を覚えたらどう?」
「では、今時の言葉をご教授願えますか?」
「いいわ。教えてあげる。ただし、私の前にひれ伏した後でね?」
「気の強い女性は好みじゃないな。さぁ、私の奏でる旋律をお聴きなさい。」
「いいわ、でもお上品なクラシックなんて御免なのよね!!」
サラはそう言うと、どこからともなく暗器を取り出して投擲した。
アリュールはそれを優雅な動きでサラリと回避する。
「ではご希望のとおり、激しいロックでおもてなしと行こう。」
アリュールはギュイイイン!とギターをかき鳴らす。すると、弦がサラの投擲した暗器よりも早いスピードで飛んでいく。
「厄介な糸ね。」
地面や辺りの岩、木にビイィィン!という音を出しながら突き刺さっていく無数の弦を体操選手のような動きで回避するサラ。
「この程度でへばってもらっちゃ困るんだ。まだまだチューニングだよ。さて、そろそろライブスタートと行こうじゃないか。」
アリュールは激しいロックのような音色をかき鳴らしながら弦をドンドンと増やし飛ばしていく。
サラが回避する弦は、着弾すると共に音を奏でていき、ひとつの音楽となってあたりに響きだした。
ビュン!ビュン!と飛んでいく弦による攻撃をヒラリヒラリとかわすサラは、舞いながらも暗器を飛ばし続ける。アリュールは自分に飛んでくる暗器の場所が把握できるようで、最小限の動きをしながらそれを避け、自らもギターのサウンドを奏でていく。
さながらその光景は、ロックとダンスのリミックス。
その音楽も終盤に差し掛かったころ。
「存外、いい音楽を奏でるのね詩人さん。」
「お褒めに預かり光栄だよ。君もなかなか、いい踊りを舞うんだね。」
「ただ舞ってるだけじゃないのよ?そろそろ周りを見てみたら?」
「私はいつだって周りを見ているんだよ。だから、君が作った魔力のこもった暗器に作り出された私を封じ込める魔方陣だって把握しているんだ。」
「あら、気付いてたのね。でも、完成しちゃったわよ?どうするの?」
「それこそ、君もよーく周りを見てみるんだね。」
アリュールの言葉に、サラは周囲を見渡した。見ると、弦と弦の間にさらに弦が張られ、さながらクモの巣のようである。そして、サラがいるその場所こそ、雁字搦めに張られた弦による包囲網の真っ只中。
「ッ…!」
「さぁ、フィナーレだ。」
アリュールは最後とばかりにギターをかき鳴らす。その音に反応し、共鳴する弦たちは、その隙間を縫うようにギリギリと締まり始める。そして、その中心にいるサラの四肢は締め付けられ、身動きが取れなくなった。
「やってくれたわね。私が相手した最低の男たちよりも強く縛ってくれるなんて、やるじゃない。」
「そうさ、これこそ私のアート。「レディ・ロック」。そして縛るだけが能じゃない。さよなら、また後で。」
アリュールはクルリと背を向けると、ギターのヘッドを下げてギュイイイン!と鳴らす。瞬間、すべての弦が回収され、アリュールの元へと戻っていった。
その背後にいたサラは体中を切り裂かれて戦闘不能。
「ご清聴、ありがとうございました。アンコールはございません。それでは、いい夜を。」
アリュールは、そう言うと不適に笑ったのであった。
*
「おい、お前!」
「お前じゃねえ。僕はクリストファーだ。」
「そ、そうか。じゃぁクリストファー!悪いけど君には死んでもらうぞ!」
「物騒なこと言う奴だな!いいぜ、僕のウォークラフトの餌食にしてやる!」
そして、傍らのミュージックが始まる寸前、こちらでは剣士とゴーレムの観劇が始まろうとしていた。
「行けぇ!僕のゴーレムよ!」
グオォン!という声が響き、地中からドリルのようなものによって地上に現れた身の丈4メートルはあろうかというゴーレム。それに相対するは、シャグ・フルテ・グランデル・フォル・デ・ヴァレンツェ。小国、ヴァレンツェの王子であり、ヴァレンツェ王家に伝わる剣術、ヴァレンツェ・ソーディアスの正統後継者である。
「かかってこいよ、泥人形なんて怖くないぜ!」
ゴーレムは月明かりに照らされた鎮座し、その姿は雄雄しき王にも、要塞のようにも見える。
対し、背中に背負った鞘からシャキン!という鋭い音をたてて剣を引き抜くシャルテ。掲げた剣は闇夜を照らす光を反射し、美しく輝いた。
「いっくぞおおおお!ソーディアス・ホリゾンタル!」
掲げた剣をクルリと回転させながら体の前で構え、シャルテはタッタッと駆け出した。
そしてゴーレムが間合いに入るが早いがブン!と剣を振るった。
ソーディアス・ホリゾンタル。真水平に振られるその剣の軌跡は、さながら水平線。ブレもなく、ただただまっすぐに、目の前の景色を二分するその剣戟は、海と空を分かつ剣。
しかし、対する土の化身。その剣戟を雄雄しき体で受け止める。
「僕のゴーレムに剣の攻撃が効くと思うなよ!」
ゴォン!という音が鳴り、水平線を東と西に分かつその体。
ゴーレムは剣士の攻撃をその身で防いだのである。
「グッソォ…!かてえ!!!」
歯を食いしばって痺れる手を見る剣士。いまだ成年にも達しない少年である。
「次はこっちの番だ!ゴーレム・クラッシュ!!」
クリストファーの掛け声によりゴーレムが動き出す。愚鈍な見た目とは裏腹に、すばやい動きで腕を振り上げシャルテにたたきつける。
しかし、寸前シャルテは後方に飛び退り、その攻撃を回避するも、目の前の自分がいた地面が陥没しているの目の当たりにし、驚愕した。
「な、なんて重い攻撃だ…こんなの食らったらひとたまりもないぞ!?」
「そうだろうそうだろう!僕のゴーレムのパワーはそんじゃそこいらの雑魚とは違うぜ!」
「だったら、今度はこうだ!ソーディアス・ディヴァイド!」
お次は、と、月明かりにキラリと煌き、上段に構えた剣。
その構えのまま、シャルテは人間離れした跳躍を見せる。そしてそのまま、ゴーレムの頭部めがけて振り下ろす。
ガゴォン!という打撃音。ゴーレムの頭部には幾ばくかのダメージはあったようであるが、それ以上にシャルテの両腕にかかる衝撃。
「やっぱかてぇぇぇぇ!」
「そーだろ!!僕のゴーレムはアロンダイト製だ、生半可な攻撃じゃ壊せないぜ!ゴーレム、ゴー!!」
痺れの残る体に襲いくるゴレームの右ストレートに、シャルテは吹き飛ばされる。
「ぐあああああ!」
シャルテの体は軽く宙を舞い、ドサッと地面に落下した。
「クッソー…一発もらっただけでこのダメージかよ!」
悪態をつくシャルテであるが、額からは血を流している。相当のダメージであったようであり、フラリと立ち上がった。
「いいや、まだまだこれからだぞ。しかし認めてやる!そのゴーレムは強い!」
「ふふん、いいだろう、受けてたつぞ!さぁ、超えてみろよ、僕のウォークラフトを!!」
「いっくぞおおおおお!!」
「いっけぇぇぇ!ひねりつぶせぇぇぇぇ!!!」
剣士と、ゴーレムの観劇はまだまだ続く。




