第三十八話 ハジメ、世界大盗賊団武盗会に出場する 14
本戦第3試合。それが今日。
天気は晴れ。
俺、デメテル・スカーリンドは、この本戦の試合を心待ちにしていた。
今回のWTGはいつもより断然レベルが高い。つまり、今までよりも難しいことに挑戦できるいい機会だ。
しかも、もし死んじまっても、パン様が生き返らせてくれるというから、WTGは新たな挑戦と、自分たちのステップアップにはちょうどいい。
そして公表された試合内容は、やっぱりいつもよりも難易度が高かった。
まず、宝物庫への侵入。まずそれが難しいし、持ち出したとしてそれを感知されずにとんずらするのもまた一仕事だ。
だから今回は限られた時間の中で作戦を決めてミスなく遂行しなきゃ盗み出すのは難しい。
そんなわけで、俺は仲間を集めて一度拠点に戻って作戦会議をすることにした。
「さて、そんじゃー作戦会議するとすっかぁ!」
「アイアイサー!」
「とはいっても、どうなんだ?今回の試合ってのは。」
シャルテが元気よく答えたのに続いて、キッドがそう訊いた。
シャルテは元王族だ。だから言葉遣いがむずがゆいけど、優しい性格をしているから、いつだって俺たちは助けられてる。ヒョロっちい見た目な割には剣術に長けていて、なかなか頼りになる。
そんでもって、キッドは見たこともない武器を扱う面白いやつだ。しかも、今まで戦って負けたとこを見たことはない。それだからすごく信頼している。
「ああ、今回のはいつにもまして難しいと思う。だから作戦会議なんだ。」
「なるほどな。それで、どうするんだ?あの忌々しい宝物庫はいまだに破られたことないらしいじゃないか。」
「そうだ。だからこそ、俺たちが世界で初めての宝物庫から盗みを成功させた盗賊団になるチャンスでもある!」
「グランダルシア宝物庫を破った最初の盗賊団、ル・ボード・デュ・モンデ。うーん!これはすばらしい唄になりそうだよ!」
と、アリュールが言った。こいつは吟遊詩人だった。いや、今だってそうだ。だから盗賊兼吟遊詩人。だからって弱いわけじゃなくて、こいつの使うギターの弦を使った武術は見えない。それに、シャルテと戦ったときは、気づいたらシャルテの回りに弦が張り巡らされてて心底驚いたもんだ。
「ふ。そうだな。俺たちの名前がもっともっと売れることになる!」
「ああ、そうだ。だからこそ、今回だって失敗は許されない。それに、みんなも俺たちが成功することを信じてるからな。裏切るわけにはいかねえさ。」
「それでこそ船長だ!!」
「だな。」
「さって、そんじゃ一個ずつ考えてくとするか。まず、グランダルシアに入国する手段だが…」
「やっぱり、船の力を使うしかないんじゃない?」
「そうだな。船の転送装置を使えば上空から侵入できる。なら、次はグランダルシア国立宝物庫に入り込む手段だ。」
「そこが問題だ。まず、ロビーにはグランダルシアが誇る魔法使防衛団のお出迎え。それを怪しまれずに抜けるのですら難しいが、その先には例の魔法と物理のスーパー検知網。」
「無理だな。まず、俺たちは変装して侵入するスキルすら持ってない。それに、そのやたらえげつない検知網を抜けるのだって無理だと思う。」
「おやおや、柄にもなく弱気じゃないか。それじゃ、どうするんだい?」
「うん。それなんだが…俺たちはどっちかっていうと、今大会きっての大乱闘をかましたナイトグラスホッパーに近い。つまり、戦闘が得意だ。」
「それについては同意しかねる。今回のメンバーがそんな感じだからだろう。」
「…たしかに、潜入だったらアイツがいれば百人力なんだがな。前回は予選を突破するのが難しかったから楽に行けるようなメンバーにしたかったんだよ。」
「それでこのメンバーか。まあ正直、船長ならアレを使えば…」
「いや、アレは使おうと思ってない。というか、今回は優勝するのが目的じゃないんだ。」
「え、そうなの?」
「そうだ。ま、それについては後で話すよ。それより、だ。」
「うん?」
「今回、ブツを盗むのにはとっておきのやつらがいるだろ?」
俺は、ニヤリと笑った。
*
「よし、いくぞお前たち。作戦名・消失点、ミッションスタートだ。」
「イエッサー!」
俺たち、アルトワーレの面々は作戦を決行する。
「ハロー、お嬢さん。」
ダルタニアン・ディーグラス。コードネーム、ハートキャッチャー。
彼がはグランダルシア国立宝物庫のロビーにいた。
女受けのいい顔と誘惑の魔法を使い、受付嬢達に話しかけている。
「こんにちは。こちらはグランダルシア国立宝物庫です。どういったご用件でしょうか?」
心なしか頬を赤く染めた受付嬢がダルタニアンに返した。
「ああ、実はちょっと宝物を拝見したくてね。」
「えっ…あの、申し訳ありませんが、それは不可能です…」
「えー!駄目なのかい!?残念だなぁ…せっかくフォルツマギナから来たってのに…」
「まぁ…あんな遠くからいらしたのですね…?そうですか…」
「ああ、道のりは険しかったが、まあ仕方ない。なら、これを見せれば気が変わるかな?」
といいながら、ダルタニアンが取り出したのは一枚のカード。それは、フォルツマギナという国の国王からの勅命を示すカードである。
グランダルシア国立宝物庫の国宝たちは他国からも注目されているのであり、それゆえに他国からその詳細を観察することが許可されていて、もちろん、そのためにはある一定の階級以上の閲覧許可、および国王からの勅命であるということを証明しなければならず、これはその勅命を示すもの。
の、超精密なレプリカである。
「そ、それは…!…失礼いたしました。それでは、こちらへどうぞ。魔法使親衛隊が後はお引継ぎします。」
「ああ、助かるよ。ありがとね、素敵なお嬢さん。」
ダルタニアンはいたずらっぽく流し目を受付嬢に向けるとウインクをした。
ああ、ありゃぁ落ちたな。
*
ダルタニアンは魔法使親衛隊の一人についていく。
宝物庫の入り口は仰々しい扉で守られており、それが開くと光線が当たり一面に張られている通路があった。通路はよく見るとツヤの消されたワイヤーが張り巡らされているようであった。うーん、さすが国立宝物庫だ。
それを魔法使が一言魔法をつぶやくと解除される。
その通路を進んだ先には、地獄のそこまで続くような大穴が待っていた。宝物の飾り什器だけが浮かび上がっている。こりゃ、空でも飛ばないとゆっくり見物できそうにないな。
ここでもやはり魔法使が一言つぶやくと、大穴の横から床がニューっと伸びてきて歩行可能になった。すごい技術だな国立宝物庫。
「へぇ、これがフェニックス・フェザーか…美しいね。」
「ええ。こちらは不死鳥の飾り羽です。特殊な魔力を生み出す繊維で構成されており、その魔力はすぐに消えてしまうのですが、その魔力を浴びていると細胞が活性化し致命的なダメージを受けても対組織が治癒する力を持っています。なるほど、不死鳥とはよく言ったものですよ。」
「すごいね…それが不死の力の源ってわけだ。」
「ええ、そうです。まだ見ていかれますか?」
「ああ、そうするよ。」
「わかりました。それでは後ろでお待ちしておりますので、十分堪能していただけたらお声をおかけください。」
それだけいうと魔法使親衛隊は後ろに下がっていった。
ダルタニアンはそのほか、さまざまな宝物を、宝物庫の隅々まで堪能したようだ。
「オーケー、もういいよ。ありがとね。」
「いいえ。それではお送りいたします。」
ダルタニアンは国立宝物庫を後にした。
*
「オーケー、じっくり堪能させてもらったよ。あれは侵入なんて考えないほうがいいね。」
「そうか。やはりな。ところで、パーティの準備はできたか?」
「ああ。バッチリさ。」
「わかった。お役目ご苦労。」
「じゃ、あとは頼んだよ、ボス。」
「次は…」
*
とある女がグランダルシアを歩いていた。
誰もが振り返るほどの美しい女。そう、彼女はサラ・ケインハルト。
その彼女が向かっているのは、グランダルシア国立宝物庫。と、ハンサムな男とすれ違う。そのすれ違いざまに何かを受け取った彼女は、優美な動きで宝物庫のロビーへと入っていった。
「こんにちは。」
「こんにちは。どういったご用件でしょうか?」
「いいえ、大した用ではないのだけれど・・・さっきカッコイイ男の人に話しかけられたの。」
「そう…ですか。それで…?」
「ええ。彼にこれを宝物庫の受付の女の子に渡してくれってこれを…。」
そういって何かを差し出すサラ。その手には、美しい装飾が掘り込まれたネックレスが握られていた。
「まぁ…きれい…」
「ええ。とっても。あなた、よかったわね。それじゃ、またね。」
「あ、ありがとうございました!」
サラはそれだけいうと、宝物庫から出て行った。
「招待状を渡してきたわ。」
「そうか。ありがとう。」
「またあの人は女の子を落としたのね。さすがね。」
「君も人のことは言えないんじゃないのか?」
「どうかしら。私だってうまくいかないことはあるわ。」
「その男はきっと熱心な宗教信者だろう。でなきゃ女に興味がないのさ。」
「あら、そうなの?だったらダルタニアンに頼んだら落とせるかしらね。」
「さあな。さて、戻っていいぞ。」
「ふふ、あなたも罪な男よね。じゃあね。」
そういってサラもどこかへ行った。あとは待つだけ。
しかし…
「なんのことかわからないな。」
俺は彼女の言葉を考えたが、やっぱりなんのことかわからなかった。




