第三十七話 ハジメ、世界大盗賊団武盗会に出場する 13
その後、ゼウス様はブワァ!と光り輝く体を分散させながら、「それではまた会おう!」と言い残して消えていった。
そんな神様との邂逅、および契約をするというおかしな夜を越えて翌日。
本日は、Dブロック予選を勝ち抜いた、盗賊団らしい盗賊団、アルトワーレ盗賊団と、Hブロック予選を同じく勝ち抜いた|ル・ボード・デュ・モンデ《世界の果て》という盗賊団の試合である。
アルトワーレ盗賊団、ル・ボード・デュ・モンデ共に、世界に名を馳せる大盗賊団であり、人数もさることながら堅実的な(?)強さやスキルを持った優秀な盗賊たちが多く名を連ねているとのことだ。
それゆえにハイレベルな…つまり、僕らがやったようなドンチャン騒ぎの大乱闘ではない、スマートでトレビアーンな戦略をもってして盗賊行為に及ぶということが推測される。
と、いうわけで、僕らとナイトメア・グールの試合とは別のベクトルですでに会場は大盛り上がりといった次第である。
と、会場で売られているチキンレッグを食べながら観戦しようとしていた僕の耳にとある会話が聞こえてきた。
「いやー、昨日は盛りあがるっちゃ盛り上がったけどアイツラやりすぎだったよなー!」
「ホントホント!なんだあの盗賊らしからぬ立ち回りはよー!」
「ありゃー、盗みっていうよりはどっちかというと強盗に近いよな。」
「ほんとほんと!そもそもあのフィラーとかいうやつ、ありえねぇだろ!盗みに行くってのにあんなでっかい風穴開けることねえってのに…」
「つうか、アイツ「ハジメ」って呼ばれてなかったか?」
「え、気のせいだろ?ハジメっつったら最近噂の最強剣士じゃねえか。そんなやつが盗賊家業やってるわけねーって!しかもあんなド派手にするわけないじゃんか!」
「まあそれもそうか。俺の聞き違いかな!」
「きっとそうだろ、でもあのフィラーってやつ、そのハジメとかいうやつと戦ったらどうなるんだろうな?」
「うーん、最強剣士ってくらいだから、さすがにフィラーより強いんじゃねえか?」
「おったまげー!あんな滅茶苦茶なやつよりもつえーやつがいるなんてなー」
「世界って、広いな…」
「ああ…」
う、うおおおおお…僕の目の前でかなり確信に近い話をされているだと…!?し、しばらくはあんな派手なことはしないようにしないと…これ以上推測されすぎると色々バレる気がする!!
と、まぁ、そのことはおいといて…。
時刻は9時。つまり、本戦第3試合が始まるのである。
「バッドガアアアアアアル!!!エエエエエンド!!バッドガアアアアアアアイ!!!WTG本戦もとうとう第3試合!準々決勝も折り返し!今日の試合は世界に名だたる大!大!大盗賊団同士の戦いだぜ!!とてつもなくハアアアイレベルな試合が予想されるんで、お前ら全員目の玉かっぴらいて観戦しやがれってんだ!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「まー、昨日の試合も別の意味でハイレベルだったけどな!!!フィラー・ヴェルトスが派手にやらかしてくれたおかげでこの試合の窃盗対象が変わっちまうことになったが、概ね問題なし!!!俺様は死ぬほど寝不足だが、ヤツラの本部は元通りに直しておいてやったから安心しろよナイトグラスホッパーのカス野郎共!!!さあ、そろそろ試合内容の発表だ!!そんじゃー、はじめんぜええええええええええ!!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
そんなこんなで、今回の試合の内容が発表される運びとなったのである。
今回の試合は、さすがにアンリッヒヘイゼン協和国軍の私宝を狙うのはヤバイことになったらしく、距離も近いアンリッヒヘイゼン共和国領下、東のグランダルシアの国宝を狙うことになったらしい。
グランダルシアの国宝は、「鳳凰の飾り羽」という代物で、それを持つものに、寿命以外での死を無効化する力を与えると言われる秘宝である。
すごくぶっちゃけていうと完全にチートアイテムであり、なるほど国宝という形で使用を誰にもさせないという防護策なんだろうなと思った次第である。
では、それを盗むってことがどういうことかと言うと、そりゃもう無理難題ってレベルである。
まず、グランダルシアという国自体が、アンリッヒヘイゼンと距離が近い。場所的に言うと、アンリッヒヘイゼンとその西にある国との距離がひとつの県と県の両端くらいの距離だと仮定すると、もう同じ市内とか言うレベルで近い。
つまり、なにかしらの侵略行為を察知されてしまうとセ○ム真っ青の速さで共和国軍が押し寄せるとか言う難攻不落の国である。
それに加えて、その国宝が安置されている場所が場所であり、グランダルシア大宝物庫という場所にあるのだが、まず進入を探知する魔法式と原始的な多重式のワイヤートラップが当たり一面に張り巡らされており、それに引っかかった時点で拘束魔法が何重にも飛んでくる。
それをかいくぐっても、宝物庫の管理者のみが知る解錠魔法を唱えなければ宝物に通じる道が出現せず、落差2000メートルにも及ぶ大穴を目の前に成す術もないという堅牢っぷりである。
しかも、宝物庫に入り無事に全てを完遂したとしても、持って帰れるのはたったひとつだけ。
なんとも盗賊泣かせの宝物庫なのであった。
そして、例のごとく内容が知らされた瞬間から試合開始の運びとなり、期限は明日の夜明けまで。
アルトワーレ盗賊団と、ル・ボード・デュ・モンデの両盗賊団は、作戦会議を始めたのであった。
アルトワーレ盗賊団
世界に名を馳せる大盗賊団。拠点のある地域はクルード共和国(アンリッヒヘイゼン共和国からはるか西の方角に位置する軍事大国。)。
世界中から腕の立つ盗賊が集い、盗賊団内部でいくつものチームに分かれてあちらこちらで盗みを働く。今回のWTGに参加しているのは、盗賊団内部でチームを選抜するために行われたトーナメント方式の模擬試合で優勝したチームである。
グラトニー・ディバニスタン
アルトワーレ盗賊団、チーム・ナイトホークのリーダー。
かつては単独でさまざまな財宝を盗み出す天才的な盗賊だったが、現在はアルトワーレ盗賊団に入団しチーム・ナイトホークのリーダーを務める。
潜入、および隠蔽や隠匿について、あらゆる盗賊の中でトップの実力を持ち、彼に盗めないものはないとまで言われている。
ダルタニアン・ディーグラス
アルトワーレ盗賊団、チーム・ナイトホークのメンバー。
もともとは貴族専門の詐欺師で、何千にも及ぶ貴族から金を巻き上げた経歴を持つ。
ある日、たったひとつのミスが元で捕縛され、牢で死刑を待っていたときにアルトワーレ盗賊団に助けてもらったことから入団。以降、得意の話術と魔法を使って情報を聞き出したり、陽動作戦においての重要な役割を務めることになった。
クリストファー・フレシェット
アルトワーレ盗賊団、チーム・ナイトホークのメンバー。
盗賊道具作りのスペシャリスト。細工師を家業とする一家に生まれ、その技術を叩き込まれたが、父親との諍いによって勘当され実家を飛び出し、得意の指先の器用さを生かして盗賊道具を作り盗みを働き、時に依頼されて道具を作り、そのルクスで生計を得ていた。
ある日、アルトワーレ盗賊団に依頼され道具を作ったところ、その出来栄えにほれ込んだアルトワーレ盗賊団が専属のクラフターとしてスカウトし、それを受けて入団。その後盗賊技術も磨いて現在に至る。
サラ・ケインハルト
アルトワーレ盗賊団、チーム・ナイトホークのメンバー。
チームの紅一点。100人が100人振り返るほどの美貌を持ち、その容姿を生かして男をたぶらかし金を巻き上げていた。
そのうちそんな生活に飽きてしまい、スリルを求めて盗賊団へ。もともと盗賊の素質があったようで、グラトニーに匹敵するほどの腕を持つ。
ル・ボード・デュ・モンデ
世界に名だたる盗賊団。名前は古代語で「世界の果て」という意味である(フランス語で世界の果てという意味です)。
名前の由来は、世界の果てまでどんな宝でも探しに行くという意味がこめられており、合言葉は「ボンボヤージュ!(いい航海を!)」である。
決まった拠点を持たない。総大将である「デメテル・スカーリンド」という男が持つマジックアイテム、「不可視の空飛ぶ海賊船(インビジブル・フライング号)」が拠点代わりである。
デメテル・スカーリンド
ル・ボード・デュ・モンデの総大将。
とある海賊団の船長の息子であったが、カナヅチであるために海賊で生きていくのをあきらめた。人望に厚かったのと、父親が病死したことで、海賊団そのものを引き連れて盗賊家業をすることになる。
豪快な性格であるが、盗賊団の仲間を家族同然と捕らえており、自然と仲間を犠牲にしないために緻密な戦略を立てて盗みを行うようになった。
そのおかげで余計に盗賊団から愛されるようになる。
キッド・トリスタン
ル・ボード・デュ・モンデのメンバー。
早撃ちキッドの愛称で恐れられる盗賊界一(であり、盗賊界初)のガンマンである。
愛銃である「レディ」というリボルバーは世界一と言われる武器技巧士が作り上げた最高傑作とされ、今までにない機構をもつ特殊な武器とされている。ハジメが魔法で作る銃よりもはるかに簡単な構造ではあるが、この世界では銃という存在自体が認知されていないので、その希少性は高く、それを狙って盗みにきた若き日のル・ボード・デュ・モンデを返り討ち。が、その生活に興味が出て入団。以降、デメテルの人柄に惚れて今に至る。
シャグ・フルテ・グランデル・フォル・デ・ヴァレンツェ
ル・ボード・デュ・モンデのメンバー。
名前が長いので「シャルテ」という愛称で呼ばれる。もともと、ヴァレンツェという国の王子だったが、退屈な日々に嫌気が差していた。そんなとき、ヴァレンツェに盗みを行いにきたル・ボード・デュ・モンテの一団とたまたま盗みの現場に居合わせ、見たことを黙っていてやるから僕も連れて行けと恐喝。その結果入団する運びとなり、王族に伝わる剣術により活躍し今に至る。
アリュール・セレンテ
ル・ボード・デュ・モンデのメンバー。
世界中を旅する吟遊詩人。その生活からして、山賊達から身を守るために引き語り用のギターの弦を使う弦武術を体得している。
ある日、不可視の空飛ぶ海賊船が不調の際にその姿を目撃。その不思議な船の魅力に惹かれ、後を追いかけた彼は、シャルテと戦闘することを強要される。
その結果、それが入団テストだったということを知らされ、それもまた運命と入団を決意した。
ル・ボード・デュ・モンデは思いつきで考えたら存外面白そうな感じだったので番外編、もしくは別口の小説で書くことがあるかも…?




