第三十五話 ハジメ、世界大盗賊団武盗会に出場する 11
「トドメだ、盗賊!」
カルナッツォの刃がニッケに迫る。避けられない!とニッケは悟った。
が、しかしである。
瞬間、とてつもない衝撃が建物を襲った。
ズドオオオオオオオン!!!という爆音と共に、グラッと揺れる部屋。
「な、何事だ!?」
カルナッツォは不意に訪れたその揺れに動揺し、攻撃の手を緩める。
しめた!とニッケは爆音のした方向を見ているカルナッツォの手の甲を隠し持っていた短剣で切りつけた!
「グゥ…きさまぁぁぁ!!!」
激昂するカルナッツォだが、すでにその手に魔剣はなく。目の前の盗賊が自分の剣を握り締めているのを見た。
「へぇ…この剣、すごいんだな…」
月並みな感想を漏らすニッケだが、その目は鋭く輝いていた。形勢逆転である。
「か、返せ!それは私が生涯をかけて手に入れた魔剣…貴様などが握っていい代物ではないぞ!」
「ああ、わかってるよ。」
ニッケは、自分が握り締めている剣が自分に分不相応だということを感じ取っていた。魔剣テュルフィングは、伝承にもあるとおりの血塗られたものである。ゆえに、使用者を選ぶのである。
選ばれたものは、伝承に従い、3度までは大いなる勝利を得ることができるが、反面、それ以上の功を剣によって得ようとすれば身を滅ぼす。
また、一度鞘から抜かれたこの魔剣は、血をその身に纏わなければ鞘に納まらない。
ゆえにテュルフィングが選ぶのは、経歴が血塗られた者であり、ニッケはそれに当てはまらなかったのである。
「今、返してやるさ!!」
そう言い捨てるとニッケは、カルナッツォめがけて剣を投げつけた。
まさか投げるとは思っても居なかったカルナッツォは一瞬反応が遅れたようである。
その隙はニッケには十分であった。本来、盗賊にとって短剣は使い捨てである。刃渡りも短く、比較的安価な素材で出来上がっている短剣は、有事の際には相手に投擲することを考えられている。ニッケは、幾度となく短剣を投げる練習をつんでいた。
そのため、魔剣でさえも、彼はナイフ投げの要領で投げつけることができた。
剣は回転しながらもまっすぐにカルナッツォの体に向かって行った。
しかし、カルナッツォも並の人間ではない。反応が遅れたとはいえ、まっすぐ飛んでくるだけの剣などは回避することなどたやすかった。
カルナッツォは剣をスレスレでかわし、右手でその剣の柄をつかむ。しかし、剣の後に続くニッケの接近には、反応できなかったのであった。
短剣スキル、マスカレード。
一瞬のうちに相手の懐にもぐりこみ、回転しながら相手を切りつける優美な技である。
カルナッツォの体は3回、4回と切りつけられ、フィニッシュとばかりに回転蹴りを浴びせられ、数メートルほど吹き飛ぶ。
「グゥゥ…」
とうめき声をもらすが、その眼は敵を睨み続けていた。
「どうだよ、俺の短剣の味は?」
ニッケはしてやったり!という顔でそう言った。
「ふん…外が気になるところではあるが、まずは貴様を葬らなくてはな。その身を以って、この剣の力を見るがいい。」
両者は、再び相見舞える。
*
「オラアアアア!!!!」
と、威勢の良い声を上げてディアスは元帥の私室の扉を蹴飛ばした。
バキッ!と音を上げて吹き飛ばされるドア。その先には、血まみれで倒れているニッケと、返り血を浴びて真っ赤に染まったカルナッツォの姿があった。
「ッ!おいニッケ!無事か!」
ディアスはカルナッツォを睨みながらそう叫ぶ。
「お頭ァ…気をつけてくだせェ…こいつやりますぜ…」
ニッケは虫の息ながらも言葉をひねり出す様に言った。
「テメェ…よくもうちの団員を殺しやがったな…」
「いや、俺まだ生きてますって…」
「ニッケ…仇は俺が取ってやる!!」
ディアスは聞いてなかったようである。
「ニッケ、今助ける。」
と、臨戦態勢になっているディアスを横目に見ながら、アッシュがニッケに駆け寄り、その体をヒョイと担ぐ。
「アッシュさん…勝ったんすね…さすがでさぁ…」
「…ああ、それは後で話そう。手当てが先だ。」
アッシュは苦い顔をしながら私室から出て行った。僕はといえば、アッシュにエリクサーをもう一瓶渡しておいたので心配ないと思い、ディアス同様、カルナッツォに目を向けた。
「賑やかな連中だ…まったく。」
カルナッツォは一部始終を見ていたが、どうやら今度は2人が相手か、と見定めると、口を開いた。
「アンタがカルナッツォ・フリードリヒだな?悪いが、魔剣テュルフィングは僕たちが頂くぞ!」
僕はそう言うと、雷神刀に手をかける。
「ふむ、いかにも。しかしこのカルナッツォ、そうやすやすとやられはせんぞ?」
カルナッツォは血まみれの魔剣をブン!と振るうと、下向きに構えた。
「ハッ!こちとら仲間が殺されて気が立ってんだ、その大層な口をきけなくしてやるよ!!!」
ディアスはハァァァ!!!と声を張ると、再び獅子の姿へと体を変化させた。
僕はもうツッコまないことにした。
「黙るのはどちらか…思い知らせてやろう。」
直後、ブン!と残像が残るスピードでカルナッツォが迫る。狙っているのはどうやら、獅子の姿をして頑丈そうなディアスよりも、普通の人間である僕のほうである。
「僕を甘く見ると痛い目を見るぞ!」
下から上へと振り上げる剣戟がくることは、僕の特性をもってして容易に判断がついた。その切り上げの間合いも、僕にとっては丸見えだったし、なにより僕は集中していた。だからその切り上げに対し、体の向きを少しずらすだけで回避することができた。
無駄のない動きでカルナッツォの剣戟をかわした僕は、抜刀術、居合い抜きをがら空きのカルナッツォの体へと叩き込んだ。
瞬間、バリバリッ!と雷が鳴り、青白い閃光と共に刀身が現れ、カルナッツォの全身を雷が奔る。
「グボォッ!!」
これにはたまらずカルナッツォも後ろへ飛び退る。しかしその隙を見逃さないディアスは、その大きな体からは予想できないほど俊敏な動きで体制の整っていないカルナッツォの目の前までひとっ飛びし、巨大なバスタードで切りつけた。
カルナッツォは迫る巨大な剣に、防御しなくては真っ二つになると察知し、とっさにテュルフィングで受ける。
受けたテュルフィングは、力に押されたものの、その特性である呪いにより、ディアスのバスタードを両断したのであった。
「なんだと!?」
まるで紙を切るかのように自分の剣が真っ二つになったのを見て、ディアスは一度地面を蹴り、僕の隣へと舞い戻った。
「あの剣、なんだってんだ?」
ディアスは自分の剣が両断されてしまったことを悲しんでいるようである。僕は後で治してやろうと思った。
「どうやら、所持者に勝利をもたらす剣ってのは本当みたいだね。」
僕はディアスに言った。防御することも、攻撃することも難しい相手ともなると、ディアスには分が悪い。
「ケッ…厄介な剣があったもんだな。」
「そうだね…魔剣だけに、負けん!ってことかな…」
沈黙が部屋を襲った。
「なぁハジメ。それマジか?」
「…またやっちまった…」
すごく久しぶりにダジャレが出てしまった。心なしか、カルナッツォは引いた目でこちらを見ているようである。僕はすごく恥ずかしくなった。
「チクショオオオ!!!魔剣なんてクソくらえだ!!!!」
「それは八つ当たりというものではないのか!?」
僕は旅雷を使って脚力をブーストし、一気にカルナッツォの目前まで迫って雷神刀を振るった。
カルナッツォは僕の発言にツッコみながらもそれをテュルフィングで受ける。ガキィン!という音と共に、僕とカルナッツォは鍔迫り合いに発展した。
「な、なぜだ!?なぜ貴様の刀は切れぬ!?」
「折れない心が僕たちの武器だからさ!!!」
もはや自分で何を言っているかわからなくなってきた僕であったが、強引に力押しでテュルフィングを押し込んでいく。
「クッ、しゃらくさい!!!」
一瞬力を入れてブウン!とカルナッツォが剣を振るう。僕はその勢いを殺さずに後方へと着地した。
「面倒な相手だな、貴様は!」
「それはコッチの台詞だ!」
僕は、刀を一度納刀すると、姿勢を低くして構えに入った。
特性、細胞雷震を発動。僕の体は青白く発光し始める。
「悪いけど、これで終わらせる…尺もそんなにないしね!」
「待て、尺とは何だ?」
「アンタには関係…ないっ!!!」
瞬間、僕の周りの時が止まる。雷神流奥義には、組み合わせによって発動する技がいくつかある。その中のひとつ、居雷・神鳴葬斬。
この技は、居雷の構えで神鳴葬斬を放つというシンプルなものだが、その威力は計り知れない。
「疾ッ!」
僕の体は光の速さに近づく。時が切り取られたかのように、僕だけが世界を進んでいるような感覚。
目の前に居るカルナッツォは身動きすらしない。辺りに溢れている空気でさえ、その場から動こうとはしない。
僕は、その中を駆け抜ける。
そしてすれ違いざま、居合いの要領で振りぬいたその一刀は。
紛れも無く、ただひとつの雷でしかなかった。
「ヌゴオオオオオオオオオオアアアアアアアア!!!!!!!」
雷の轟音と共にカルナッツォの悲鳴が響き、彼はドサリ、と地面に伏せた。
こうして、僕たちは無事カルナッツォの得物であるテュルフィングと、おまけにティソーダまでを奪い、転移を使って会場まで帰り着いたのであった。
本戦第二試合、勝者。空覆うイナゴ団。
書いている僕ですらマンネリ気味になってきたこのWTG編。まだまだ続きますのでいろいろネタを仕込もうと思ってます。




