第三十一話 ハジメ、世界大盗賊団武盗会に出場する 7
僕は、というと、その状況を探知と会場に映し出された映像で見ていた。
というか、見ている感じ、ディアスの無双状態であり、後ろを追従している二人に関しては本当についてきているだけといった感じである。
ディアス達が位置しているのは、アンリッヒヘイゼン共和国軍の本部の正面入り口である。
エントランスからカルナッツォの私室まではまだまだあるのだが、ほぼ何も考えずに直進する彼らには、戦いを避けようなどという考えは見て取れない。
第3軍隊が全滅すると、すぐさま別の軍隊がやってきた。
今度は魔法を得意とする、第5軍隊であり、総数88名、そのどれもがえりすぐりの魔術師であり、他国からも恐れられている者たちである。
しかしディアスは止まることを知らず。
火の玉、つらら、土の塊や風の刃など、多種多様な魔法が飛んでくるも回避したり打ち返したりして見る間見る間に詰め寄っていく。
一方、アッシュとニッケは本当に何にもしていないようで、目の前で戦闘が起きているのにもかかわらず手助けをする様子もない。
それもそのはず。ディアスに追従するアッシュとニッケはハリボテなのである。正確に言うと、魔術で作り出した実体を持たないが魔力反応を持つ分身。
事実、ディアス一人で戦っているのである。
「オラオラアアア!!!あまっちょろいぜテメーら!」
ディアスは幾百もの魔法にさらされてもなお挑発している。というか、あれだけの魔法をかいくぐって進んでいるのだから、お前は化け物か?と訊きたくなる。
実際、獅子と化している彼の見た目は化け物そのものなのではあるが。
さて、それではアッシュ達であるが、彼らはどこに行ったのだろう?と思ったので、探知をしてみる。
すると、ディアスが戦闘をしている地点からちょうど建物をはさんで向こう側、つまり、軍本部の裏にいたのであった。
「表が騒がしくなってきたな。」
「そろそろ、ですかね?」
「ああ、俺たちも動くとしよう。」
と、アッシュとニッケは行動を開始した。
作戦なんてない、と言っていた彼らであったが、難しいことは考えないという意味であったらしい。つまりは、彼らの普通の作戦なのであろう。このディアスを囮に…もとい、陽動に使う作戦は、実に危なっかしいものであった。
まず、ディアスが正面から突撃する。普通の軍隊ですら一瞬にして叩きのめしてしまうのだから、当然相手はあせり、そちらに人員を割く。
そして、混乱が混乱を呼び、戦力が大体そちらに向かったくらいで裏に回りこんでいた者たちが進入、最短距離で目標物まで近寄り奪取するというものである。
それ、ちょっと頭使ってるけど結局力任せじゃね?なんて僕には言えなかった。
なにしろ、この世界に来てからというもの、思い返せば力技でしか窮地を乗り切っていなかった自分に気づいたからである。
竜種と聞けばスナイパーライフルをぶっ放し、物を集めるといえばドリルで掘り出して全部持ち帰り、バトルロワイヤルといえば特攻して邪魔なものをぶっ飛ばし…まさに行き当たりばったりではないか。
状況に適応しているなんて冗談でも言えない。壁が現れれば何も考えず乗り越えてばかりだった。
こんなことを考えていると、そういえば、僕は昔からそうだったなぁ、と、昔の世界のことも考え及んでしまっていた。
勉強ができず、それなら働こうと思い立ってはバイトばかりの生活をし、高校を卒業するも就職はできず、フリーターという生活を送ってはいたが常に行き当たりばったり。人と話せば角が立ち、やってはいけないと分かっていてもやってしまう。
ある意味頑固者で、にしてはすごく中途半端な人生だったなぁ。
などと、僕は考え込んでしまった。
いや、僕は生まれ変わったんだ。だったら、そんな自分を変えればいい。今の僕なら、それができるじゃないか!と、無理やりポジティブになると、ちらり、と、映像に目を移した。
みると、「ナイトメア・グール」の一団もディアスと軍隊たちの戦いの輪に加わっていた。例のグローセルとかいうやつなんかは、軍隊とディアス両軍に向けて魔法を撃っている。え、なんで?と思ったのだが、たぶん、「あいつらやりそうじゃね?」と不安になったんじゃないかと推測する。
だって、正直僕だって無謀だと思った行動である。端から見れば自殺行為以外の何者でもない。
しかし、事実、ディアスはすでに魔法軍隊も退け、ガンガン突き進んで行ってるし、裏で行動を始めたアッシュ達はすでにカルナッツォの私室までの道のりを半分ほども進んでいる。
ディアスが異常に強いのか、はたまた、この軍隊が実はそれほど強くないのか。それは分からなかったが、何はともあれ僕たちは優勢だった。
しかし、「ナイトメア・グール」という第3の勢力が参加するとなると、どうなるかまったく予想できない。
「僕は、自分を変えたい。」
そう決意すると、転移を使ってディアスの下へと飛んで行ったのであった。
*
「チッ!厄介なやつらが現れてくれたもんだぜ!」
俺はそう毒づくと、近くに寄ってきた軍隊の一匹を蹴り飛ばした。
「半獣人」である俺が体を変化させる「ビーストフォーゼ」は、一度使うとかなりの体力を消耗する上に、一度解除しちまうと1日は使えない。その分、身体能力は人間じゃありえないくらいに上昇するし、一個小隊じゃあ一瞬ですら止められやしない。
だが、案の定、発動できる時間ってもんがある。
あと10分程度。それ以上はこいつらを両方とも足止めするなんてできねえ。
ハジメには「お前抜きでもやれそうだ」なんて言っちまったが、いたらどんなに心強いか。なんせ、俺を倒しちまった男だからな。
なんて考えていると、すぐ真後ろで転移の光が見えた。
「分かってんじゃねえか!さっすがナイトグラスホッパーのニューエースだな!」
俺はそう言うと、目の前にドンドン迫ってくる軍隊どもに力任せに大剣をぶち当てた。
「オラアアアアアアアアア!最強コンビの完成だああああ!!!!」
気分は、最高潮になった。
*
「だあああれがニューエースだああああ!僕はまだ入ったわけじゃねえええええ!!!!」
僕は転移するなりそれに気づいたディアスがそう叫ぶのを訊いて、ついツッコんでしまう。
悲しいが、彼が相手だといつもこうだ。
僕はそんな自分を哀れみながら、新手がやってきたと動揺しつつもこちらに切り込んできた兵士を一閃する。もちろん、峰打ちだ。人を殺すなんて、僕にはできないからな。
ちなみに使っているのは、雷神刀・不殺之剣。
雷神刀を改良し、対人戦闘用に、絶対に相手を殺さないし、致命傷も残さないがこっぴどくやると一日は起き上がれないほどのダメージを与えるというモードをつけたのである。
この状況下で雷神流奥義・閃却万雷を使ってしまうとディアスにもぶち当たるため、背中側の敵はディアスに任せ、目の前の敵を倒すべく、技を放った。
雷神流奥義・雷音頭。
この技は、いわば雷による一斉砲撃のようなものである。
リズムを刻むように前方に飛来する雷の音頭。
ひと時の祭囃子の後には、敵兵がうめきながら倒れている光景だけが残るのであった。
「な、なんだ、あの技は…」
そうつぶやく声が聞こえた。そちらを見ると、例のグローセルとかいう盗賊がいた。
「見たことがない…」
そういって驚くように話す彼の眼は、僕から見ると爛々としていて狂気をはらんでいるように見えた。
「美しい…実に、美しい。」
グローセルは少し恍惚的な表情で、こちらへ向かってきていた。
な、なんだこいつは。そう思うのは、仕様のないことで。
そして、なんなら彼は敵であるからして。
「もっと…見せておくれ…」
などと近寄ってくる彼に、僕は身震いを覚えた。そして。
「神鳴葬斬!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
僕は、一刀の元に切り捨ててやった。
成敗!
彼は今後出演しません(たぶん)




