第三十話 ハジメ、世界大盗賊団武盗会に出場する 6
はてさて、と、僕は自分が泊まっている部屋で考えていた。
というのも、明日は僕らの試合の日なのである。
試合内容は明日発表されるが、やはりいくつかの戦術というか、作戦みたいなものは考えておいたほうがいい。
と、思ったのであるが、僕はあることに気がついた。ディアスの戦闘能力については、理解している。しかし、アッシュもニッケも戦闘をしたわけでも見たわけでもないし、そもそも盗賊行為なんてしたことがない。
ならば、話し合うべきなんじゃないか?と、僕は思うのであった。
*
「というわけで。」
「いや、なにがだよ?」
思いっきりツッコまれてしまった。
僕が訪ねたのは、ディアスの部屋である。
僕はかくかくしかじか、と、説明をした。
「なるほどなぁ。わりいがハ…フィラー、俺たちに作戦なんてものはないぜ。」
「どういうことだ?」
「おう、そもそも俺たちはプランを練って計画に及ぶような連中じゃねえんだ。」
僕の頭の中には、さらに疑問符が浮かんだ。
「わかんねぇって顔だな。俺たちはそもそも計画なんて持ってない。ただ、正面切って戦争してお宝をいただいてとんずら!それが俺たちのパワフルな略奪スタイルなんだよ!」
と、あっけらかんというディアス。その表情はどうだ!といわんばかりであったが、たぶん僕の顔は以前討伐したインペリアルサンダードラゴンの体から竜玉がゴロゴロ出てきたときの竜人たちと同じだった。
「ってことは、つまり?隠れて行動するわけでもなく?」
「そうだ。奪取対象が決定し、それが伝えられたら即目的地に向かい、正面切って戦闘してお宝いただいて帰る!それだけだ。」
「…なんというか、ディアスらしいな。」
「なんだ、馬鹿にしてんのかほめてんのかどっちだ?」
「どっちもかな。わかった、僕は寝るよ。おやすみ。」
「わっかんねーやつだなぁ。あいよ、おやすみ。」
時刻は0時を回っていた。今日こそ、本戦第二試合、つまり、EブロックVSBブロックの試合の日であった。
*
「ヘーイ!今日も道化師の俺様だぜ!!!今日はクソ厄介な試合を展開してくれたクソ忌々しい魔法使い兼盗賊、「グローセル」を招き入れた浅ましい魔物共、「夢荒らし」と!今大会予選最速記録を更新した一瞬の閃光「フィラー」という懐刀を隠し持っていた常連「空覆うイナゴ団」の試合だぜ!!!個人的には俺様にとんでもなくグロくてサイテーな仕事を投げつけてきたグローセルの野郎をボッコボコにしてくれるのを期待しているが、どっちが勝つかはわからねえ…さぁ、今日も始めんぞおおおおおお!!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
会場では、大歓声が響いていた。
先ほど、この長い前口上がアナウンスされる前に、この本戦の仕様を聞いた僕である。
どうも、試合自体は、内容が発表された瞬間から始まるとのことだ。そして、提示された条件を提示された時間までに先にこなしたほうが次の試合に進めるということらしい。
そして、提示された試合内容。
アンリッヒヘイゼン共和国、国王直属親衛隊隊長にして軍隊最強とも歌われるアイゼンリッヒヘイゼン共和国軍元帥。その名をカルナッツォ・フリードリヒという。
その男が生涯をかけて手に入れ、愛剣としてその腰に帯刀している呪われし魔剣。その名を「テュルフィング」という。
此度は、その帯刀している「テュルフィング」を奪取し、翌朝、日が昇るまでに持ち帰ることである。
「テュルフィング」とは、数ある魔剣の中でも特に悪名高い存在であり、その身に受けた呪いは、「一度鞘から抜くとひとつの命を刈り取らなければ決して鞘に収まらぬ」というものである。
その呪いに反し、込められている特性はすさまじく、鉄を服と同じように切り裂き、決してさび付かず、持ち主が誰であろうと勝利をもたらすというものであり、その名の示すとおり、まさに呪われし剣なのである。
「いや、絶対ムリだろ。」
僕はそうつぶやかざるを得なかった。
一度抜けば相手を殺さなければ鞘に収まらない代わりに、所持者には絶対の勝利をもたらし、そればかりか鉄を切り裂き錆付きもしないという本当にチートじみた剣を、幾度となく戦で功績を挙げ元帥という位置にまで上り詰めた男が肌身離さず携えているのにも関わらず奪い取って逃げて来いという。
なんなら、ディアスいわく、ウチらは作戦なんかない。あるとすれば猪突猛進、特攻一本槍。カミカゼアタックとはよく言ったもので、まあいわゆる正面切手の大戦争だというのである。
まず、本当に魔剣に呪いが込められているとして、だとすると僕らに勝利はない。
また、相手も剣を抜いた瞬間にその呪いに呑まれ、こっち側の人間を最低でも一人殺すだろう。
そうなると、正面突破はほとんど無理そうである。
「無理なもんあるかよ!簡単じゃねえかよ!」
「何を言ってるんだディアス…そんなに頭が弱かったのか?」
「言ってろ!いいか、ああいうやつはな、己の力を過信しすぎて隙が生まれるもんなんだよ!」
「そうそううまくいくもんかね?」
「ああ、絶対勝てるね。」
「にしたって、あの剣を持つものには勝利をもたらすんだろ?じゃあ僕たちは勝てないんじゃないか?」
「ハハハ!フィラーよう、そんな子供だまし信じまってんのか?」
「…いや、嘘だと信じたいんだけどさ…」
「だーいじょうぶ大丈夫。ま、今回に限ってはお前抜きでもやれそうだ。お前さんはここに残って高みの見物でもしてるんだな!」
僕は毎度思うのだが、盗賊たちのこの根拠のなさそうな自信はいったいどこから出てくるんだろうか。しかし、ディアスが自信満々にそういっているようなので、僕としては、お手並み拝見といった心持ちである。
いや、正直な話、偽名を使ってるとはいえ自分が入っている盗賊団が国に喧嘩を売るようなまねは見たくはないのだが。自分から関わりにいくのはもっと願い下げである。
「うーし、行くぞお前ら!」
「うむ。」
「ハイ!」
そして、心配と不安で突っ立っている僕を尻目に、彼らは本当に作戦も何も考えずに出発してしまった。
え?ホントに正面突破なの?相手の国、軍隊にすごく力入れてるって聞いたんだけど?
と、僕がそんなことを思っていることなど、彼らは知る由もなかった。
*
アンリッヒヘイゼン共和国軍、元帥の部屋にて。
私、カルナッツォは朝のひと時であるティータイムを楽しんでいた。
この街の空気はおいしいとは言えないが、最高級の茶葉を使って淹れた紅茶を飲みながら朝日を見るのはとても心地のよいものだ。
だが、そんな優雅なティータイムも、城に鳴り響く警告音に邪魔されてしまった。
何があったのだろうか。私はすぐに部下を呼びつけて何事かと訊いた。
「は!どうやら3人組の男が城に侵入した模様です!ただいま中佐率いる第3軍隊が交戦中です!」
なるほど、白昼堂々と喧嘩を売るとは、よっぽど死にたい連中なのだろう。
私は、とるに足らず。と、部下を部屋から「わかった、ありがとう」と追いやり、邪魔されてしまったティータイムを再開した。
*
「オラアアアアアアアア!!!!!そんなもんじゃとまらねえぜえええええ!!!!」
ディアスの雄たけびが響いた。
その姿は金色に輝き、体毛がきらめいている。
ディアス・クレイン。空覆うイナゴ団の総大将にして、獅子族の王と人間のハーフである。
獣人族とのハーフである人間は、「デミビースト」といわれ、その体を親の獣人と同じような形へと変異させることができる。
今、ディアスは、その力を使って獅子のような黄金色の体毛と、圧倒的な筋力や野生的な勘をその身に宿しているのである。
「オラアアアアアア!!!!」
彼が使用する大剣、ブレイジング・レオーニ。かつて、獅子族に伝わる宝剣であったそれは、使用者の力に合わせて形状や特性が変化するものである。現在では、身の丈の3倍はあろうかというほどの超巨大なバスタードへと姿を変えている。
ディアスはそれをやすやすと振り回し、目の前にドンドン追加されてくる衛兵たちを片っ端からなぎ倒しているのであった。
その力はすさまじく、一振りで2、3人の衛兵たちが鎧を一撃で砕かれながら吹っ飛んでいき、なまじ力任せに攻撃しているだけなのだが、剣自体の重さもあいまって中途に剣で受けようとする彼らの獲物すらも粉々に粉砕しているのである。
「オラオラオラアアアアア!」
まさに快進撃といっても過言ではなく、気づけば第3軍隊の男たちは鎧と武器を砕かれて全滅、そこらでうめきながら転がっているのであった。
智代アフターもやりました。なけるね。




