第二十八話 ハジメ、世界大盗賊団武盗会に出場する 4
そして翌日。
今日こそ、本戦である。
本戦からは一日一試合。ちなみに、僕らの試合は2日目だ。本日はAブロックVSCブロックというカードであり、その内容は、Aブロックの予選において迷宮のゴールで出場券を持ち帰った盗賊を葬り、奪取してそのままゴールするという当初の僕らの作戦と同じような戦法で勝利した「ブリッツ・シーフ」と、開始からわずか5分ほどですべての盗賊の目をすり抜けて一人も殺傷せずに出場券を奪取した盗賊「アルドア・ディキシソン」のワンサイドゲーム感あふれる勝利を見せ付けた「サイレント・インセクト」である。
強襲する盗賊兵団
元軍人であるグレイス・オルドワルト率いる統率の取れた盗賊団。
戦略性に秀でたプランと、突き抜けた統率による盗品劇は、さまざまな国に恐れられている。基本的にはあまり派手には動かないが、一度の盗賊行為で多くの財産を奪取する。
ゆえに盗賊行為のスパンは短く、狙われるのも裕福すぎる者だけである上に、盗んだものを売ったルクスを恵まれない人民にバラまいていたりするので、人々からはもっとやれ!と思われているようである。
グレイス・オルドワルト 42歳 男
盗賊軍人という異名で恐れられる、ブリッツ・シーフの総大将。
団員の強化を目的とした訓練を毎日欠かさず行っている。
軍師的な役割を務め、組織的な団員の運用を得意とする頭脳と戦略を生かした略奪を主とする男であり、本人もまた数多くの死線を乗り越えた筋骨隆々の元ガイルス帝国王立軍中佐である。
ディック・アルフレッド 38歳 男
ブリッツ・シーフ総大将グレイス・オルドワルトの右腕と称される男。
グレイスの命令を忠実に遂行する。彼もまた元軍人であり、グレイスとの間に強い信頼関係があったため、盗賊になったという。
現状、グレイスに意見できる数少ない人物である。
ウルフベック・アーライン 20歳 男
ガイルス帝国皇帝の落胤(愛人との間の隠し子)。捨てられてしまった彼は孤児となり、元から店先の品物などを盗んで飢えをしのいでいたが、ある日ブリッツ・シーフからの恵みを受け、入団を決意。その特殊な出自と立場をグレイスが知り、彼自らが修行をつけた青年であり、戦闘能力は盗賊団随一と呼ばれる。
フォルト・オルドワルト 18歳 男
グレイスの実子。父親譲りの戦略眼と、魔法使いであった母親の能力を持ち、経験が浅いということを除けば天性の力を持つ次期団長候補。
盗賊団内での評判も高く、また、彼自身盗賊団を家族だと思っているため、無謀なことはせずに誰も死なせないという覚悟を持って活動をしている。
それゆえに甘いと言われることもあるが、そう叱るグレイスの目は笑みをたたえているともっぱらの噂。
蠢く静寂
世界で最も静かな盗賊行為を行うと言われる隠密型盗賊団。
夜の闇を利用した略奪行為は彼らの真骨頂であり、進入はおろか盗まれたことにさえ気づかず、発覚したときにはすでに別の国で略奪を行っていたという逸話が残っている。メンバーは少数精鋭で、全員が素顔を隠し、団長以外の実名や出自、特徴は最小限にとどめられ、謎に包まれている。
アルドア・アーデリッヒ 男
年齢不明、出自不明。コードネーム、スパイダー(クモ)。
サイレント・インセクトの団長であり、幾人も存在する盗賊の中でもそのハイディングスキルはナンバーワンとも言われ、捕縛された回数はゼロである。探知にも優れ、奪取すると決めた宝物の場所を誤差数メートルで察知することができるとも。
「マンティス」
コードネーム、マンティス(カマキリ)。眠り薬の塗りこまれた二振りの鎌を持つ。
一瞬のうちに敵を眠らせ、主に退路を確保するのが役目とされている。
「ファイアーフライ」
コードネーム、ファイアーフライ(ホタル)。幻術魔法を得意とする。
進入時に衛兵などの目をごまかすなど、サポートとしての役割が主である。
「ホーネット」
コードネーム、ホーネット(スズメバチ)。暗殺を伴う作戦のときに要となる。
サイレント・インセクトの中でもっとも対人戦闘に強い。
両盗賊団ともに、予選通過は当然とも言われるほどの実力を持っているようである。というか、毎年予選を通過する常連であり、この両者による本戦の試合は一種のパロメータとも言われていて、彼らを上回る実力を発揮できるかどうかが本戦においての重要なファクターとなる。
そんな彼らに課せられた試合内容は、アンリッヒヘイゼン共和国の公爵家、グリンベルツに伝わる宝玉を盗み出すことであった。
グリンベルツ公爵家にはアンリッヒヘイゼン共和国の設立に際し、多大な出資を行った初代当主、アンドル・フォルニッツガイア・ディアヘルプス・グリンベルツという初見じゃ絶対名前を覚えられないだろうなというような名前の男が作り上げた不可侵領域が存在する。
というのも、それは上述の家宝、「グリフォンの涙」が安置されている場所であり、その「グリフォンの涙」という宝玉は、価値がつけられないほどの値打ちを持っており、グリンベルツ家現当主曰く、富と名声をもたらす魔力が備わっているそうで、幾度となくこの宝物を狙う盗賊が現れたために、アンドル氏が多くの年月と経験を生かした絶対不可侵防護壁などという強大な魔方陣の中に安置することとなったという。
そして、今回の目標こそが、その「グリフォンの涙」なのであった。
それ、もしかして決勝戦で課せられるくらいの超難しい略奪作戦なんじゃねえの?と僕は思ったのだが、僕は盗賊という家業をなめていたらしい。
当の本人たちは「なんだ、案外楽勝じゃん?」みたいな顔つきで作戦を練り始めたのである。
課題の内容は、「この課題の発表時より、グリンベルツ公爵家に伝わる秘宝、グリフォンの涙を日が変わるまでに持ち帰った盗賊団が次の試合へと望むことができる」などという開始時間すらも任務に赴く彼らしだいというようなものであり、とりあえず日が変わるまでにもって帰ってくりゃいいんだろ?楽勝楽勝!といわんばかりに余裕綽々と言う様子であった。
僕からすれば、得体の知れない「絶対不可侵防護壁」とかいう聖域と思しき場所に入ることすら難しいのではないか?と思うのであるが、ディアスによれば、個人の家から物を取ってくるんならそこまで大きなリスクはないと言う。
お前ら全員ミッション・イン・ポッシブルに出られるんじゃねえの?とか思うくらいであった。




