第十九話 ハジメ、次のクエストへ 3
インドラと戦闘していた時間はおおよそ5分足らずであったのだが、彼らはどうなのかと気になった僕は、いつの間にか転移で1キロも離れていたという事実に驚きつつも、またも転移で彼らの戦闘していた場所へと飛んで行った。
どうやら、今も変わらず戦闘継続中のようである。
ただし変化がないわけではないようで、彼らはやっとこさインペリアルサンダードラゴンの外殻8割程度を破損させている。
今のところ致命的なダメージを追っているメンバーもいないようで、竜人たちは得意の近接武器での攻撃を始めているところであった。
これなら心配あるまい、と、僕は思ったのだが、よく考えてみると、僕は確かにイレギュラーであるインドラを討伐したものの、今回の討伐対象であるインペリアルサンダードラゴンに対しては何もしていない。
これでは、報酬をもらうわけにはいかないんじゃないか?と思ったのである。
とはいえ、彼らは彼らとして、インペリアルサンダードラゴンの竜玉がほしいのであり、そのためには攻撃しすぎてもいけないだろう。
と、いうわけで、僕はちょっとだけ、ほんとうにちょっとだけお手伝いしようと思ったのである。
ちょうど、サイアスが得意の武器である大剣を横なぎに降ったあたりで、僕は魔法を発動させた。
「スパイクプラス!」
といった瞬間である。サイアスが振った剣戟の、まだ到達していない通過予想の空中座標に10個程度の楔が発生したのである。
サイアスは少し驚いたかもしれないが、そのままブゥン!と振り切ると、それらの楔が剣戟を受けて発射され、大剣での剣戟+楔による刺突が加わり、インペリアルサンダードラゴンの外殻を大きく破損させた。
たまらずうめき声を上げるインペリアルサンダードラゴンだが、その隙を見逃さない竜人たちではなかった。
これが好機!と思ったのか、全員が全員一気に飛んでいって、おのおのの武器を振りかぶった。どうやらそれが止めとなったらしく、目に見えて大ダメージを追ったインペリアルサンダードラゴンは空中に浮遊できなくなり地面に足をついた。
地上に降りてきたんならこっちのもんだとばかりに攻撃の手を緩めない竜人たち。端から見ればリンチである。
意外にも総攻撃に耐えていたインペリアルサンダードラゴンであったが、とうとう、コロネアが放った「大槍一貫」と呼ばれる技によって体を貫かれてその生命活動に幕を閉じたようであった。
「よっしゃああああああああ!!!!」
と、鬨の声を上げる竜人たちに、僕は心の中で惜しみない拍手を送った。
*
「ようリベル!お前も電気石集め終わったようだな!」
と、合流したときに上機嫌のサイアスが言った。かなり疲れているようだし、その体にはいくつもの傷があるが元気そうである。
ほかのメンバーもえもいわれぬ達成感を感じているのか、晴れやかな顔をしていた。
「ええ。無事、集め終わりました。途中、魔物に襲われましたが問題なしです。」
「そうか。そういや悪かったな。戦闘に夢中になっちまってアンタを呼ぶの忘れてたぜ。」
「いえ、いいんですよ。おかげで楽できましたし。」
「おう。そういや、一回手助けしてくれたみたいだな?あんなのはじめてみたからビックリしたが、あれは助かったぜ。」
と、どうやら気づいている様子のサイアスである。
「はは、いえ、何もしてないようなもんですよ。本当にアレ一回くらいしかやってませんしね。」
「いやー、どうにも気を使わせちまったみたいでな。ま、なんにせよ討伐完了だ!」
と、そういったサイアスは、帰ろうぜーと続けたので、僕らは転移札でギルドへと戻ることとなった。
*
「お疲れ様でした!」
と、戻ってきた僕たちに声をかけてきたのは、例によって解体工プロイセンであった。
「今度はインペリアルサンダードラゴンっすか!アンタらめっちゃ強い見たいっすね?」
今回は苦戦したようですけど!と、彼は僕らの成果を見ながらいった。
「今日はリベルに竜玉をもってかれないようにがんばったからな!」と臆面もなくいうサイアスに、僕は豪気な男だと感想を抱いた。
というか、僕はこのパーティのメンバーが好きになりつつあったので、今回はちょっとしたプレゼントをしたのである。
そのプレゼントというのは、何を隠そう、先ほどの戦闘で僕が放った唯一の魔法、スパイクプラスである。
僕がスパイクプラスで放った楔の中身は、超不思議アイテム「プライマリーコア」という代物で、竜の体内に埋め込まれると、なんともまぁ都合よく竜玉に変化するのである。
基本的に、竜玉の所有数の多い固体は順じて強力になるのだが、体内器官に直結しないとその力は発揮されない。そのため、楔として埋め込まれ変化した竜玉は固体の強さにさほど影響しないのである。
というわけで。
「あの、こいつの外殻近くから竜玉がごろごろ出てきたんですけど…」とプロイセンが言うと、竜人たちは開いた口がふさがらないといった様相であった。
閑話休題。
その夜、宴となった僕の2回目のクエスト。竜人たちは、全員が全員竜玉を手に入れたことがよほどうれしかったのか、目も当てられないほどに泥酔して寝てしまったのである。
僕はというと、さほど飲まなかったし、やることがあったので、寝てしまった彼らに毛布を借りてかけてやると、とある場所へと向かった。
そのとあう場所というのは、ギルドマスターの部屋である。
ノックをすると、入れ。という声が聞こえてきたので入室する。
「む、誰じゃね?」
「あ、ハジメです。こんばんは。」
「…ほう、イミテーションか。なるほど、話は聞いておるよ。して、何があったのじゃ?」
「ええ。少しお見せしたいものがあります。広めの部屋はありませんか?」
「ふむ、いいじゃろう。こっちじゃ。」
と、ギルドマスターは年齢を感じさせない優雅な動きで席を立つと、部屋を出て行った。僕もそれについていく。
通された部屋は、おそらくではあるが演習場といわれる広い部屋だった。
「して、何を見せるというのじゃな?」
「ええ、こちらです。メビウスインベントリ!」
と、僕が言うが早いが演習場に全長20メートルのインドラの死体がドスン!と現れた。
瞬間、ギルドマスターは驚愕する。
「雷神竜…」
「ええ。」
「まさか討伐するものが現れるとは…」
と、ギルドマスターが驚くのも無理はない。そもそも、神と名前のつく竜種を討伐することすら、不可能とされるのである。その理由はいくつかあるが、まず、神竜自体の戦闘能力が同じ竜種の中でも群を抜いて強いということ。
インドラも例に漏れず、先の戦闘でも目の当たりにしたとおり、やむことのないクレーターを伴うほどの強力な雷撃を放ってくる。しかも、本体は雷雲に隠れ、高電圧のバリアを張っているようなもので攻撃は届かない。他の神竜も同様であり、自己を守護する外殻とは異なった防御方法を備えていて、なおかつ、攻撃は圧倒的な威力を誇り、並みの冒険者ならば対峙することすら間々ならない。
さらに、生息数が少なく、出会うこと自体が稀である。今回に関して言えば、僕のイレギュラーな行為によって導かれたとも取れるが、そもそも一生のうちに一度でも対峙することができる冒険者すら少なく、出会っても、姿を確認することなく瞬殺。もしくは、気配を察知して遠くまで逃げることが普通であり、戦おうなどと思うものは自殺願望を持っているか相当な命知らずだろう。
そもそも、ギルドですらクエストを発行していない上に、襲われた村や大地は基本的に一瞬で滅ぼされてしまうがゆえに発注もなく、どこに生息しているかすら記録がないほどである。
ゆえに、インドラの死体などというイレギュラー中のイレギュラーな物体が目の前に鎮座している光景など、以下に何十年も年を重ねているギルドマスターでさえはじめてみるのであるからして、驚かないほうが異常ってもんである。
「…しかし、これをワシに見せて何を聞きたいんじゃね?」
「はい。こんなもの、売るわけにもいかないし、かといって放置しておいたら大事件になるし。いっそのこと、こいつの素材で武器や防具をこしらえてやろうと思ったんですが…」
「いや、おそらく、この世界でも雷神竜の素材で武具を作ったことのあるものはいないだろうな。おぬし自身が作るしかあるまいて。」
「ですよねぇ…で、それは大体予想していたんです。問題はそのあとで、コイツで武具を作ったとしても大量に素材が余るんですが、どうでしょう?ギルドとして買い取ったりはしてもらえませんかね?」
僕が提案したのは、ビジネスの話である。この世に一度も出回っていない雷神竜の死体。つまり、ルベリア冒険者ギルドが独自にインドラという魔物を研究し、生態などを発表することができるのだ。というのは、ギルドとしての箔がつくなんてレベルじゃない快挙であろう。
「ハジメ、といったかの?お主、なかなかに世を見据えておるな。いいじゃろうて。素材の量にも寄るが、ここまでの研究材料はこの世界でもかなりの僥倖。ギルドとして、おぬしが満足するほどの謝礼を払おうぞ。」
「わかりました。それじゃ、武具を作り終わって僕が満足したらまた声をかけますね。」
といって、僕はインドラの死体をインベントリにしまいこんだ。
「その魔法のほうがよっぽど見たことないがのう…」と、ギルドマスターがつぶやいていたのは聞かなかったことにして、僕は挨拶を終えると、ギルドを後にしたのであった。




