第十一話 ハジメ、ギルドカードを手に入れる
3人をねじ伏せた僕は、「ふぅ…」と一息ついた。
そして改めて自分の能力がチートだなぁと思ったのである。僕自身、元の世界では剣の扱いはおろか喧嘩だって禄にしたことはなく、ディアスとの戦闘がある意味最初の経験だったのだから、それを考えると特性による自己能力の調整には本当にビックリだ。
どうやら、最強剣士という特性には数多くの補正があるらしい。
まず、敵の攻撃の間合いを見切ることが出来る。
そして、敵のする攻撃を回避するためのビジョンが視える。
更に言えば、それにあわせたこちらからの攻撃の仕方も、まるで何回もそれを行ったかのようにスッと出すことが出来るのだ。
そして身体能力の向上。もともと、運動神経などなかった僕は地面を蹴った一瞬で方向転換することも出来ず、ましてや腕を振った勢いを利用してもう一回グルンと腕を回すというのも考えたことはなかった。
もちろん、人間一人を浮かばせるほどの筋力なんてのも持ってなかった。
つまり、今回も前回の戦闘もすべて特性の補正のおかげで切り抜けられたのだ。
「たすかったぁ…」
と、僕が呟いてしまうのも、無理はないのである。
「御見それしました!!!」
と、日本で言う土下座をかましているのは、先の戦闘を終え、左頬に青あざのついているハヤテである。
ちなみに、残りの二人はまだ目が覚めていないようだ。
「ええっと…いや、顔を上げてください…」
能力のおかげで勝った手前、偉そうなことは言えないなと人並みに思っている僕であったが、ハヤテはかまわず。
「いえ!3対1でも無傷で乗り切り、しかも殺さないように手加減までされては成す術がありません!」
「いや、たまたまですよ…」
「そんなことはないでしょう!あの動き、身のこなしは幾千…いや、幾万回と命のやり取りをした者にしか出来ない所業…一体どうやってそんな経験をつむことが出来たのか分かりませんが、若輩者の俺からすればまさに武神!」
オーバーな男だな、と、身もふたもないことを思ったのだが、彼はお構いなしである。
「それで、試験の結果ですが、文句なしで最強剣士と認めさせていただきます!」
「あ、ありがとうございます…」
僕は、眼をきらきら輝かせてそういうハヤテに、引きつった笑みでそう返すことしか出来なかった。
そんなやり取りがあり、冒険者ギルドの管理者が待つという部屋へ案内された。
道中、3人は僕を案内してくれたのだが、アリストとシュラウドはずうっと平謝りで、僕がなぜ謝るのか?あれは試験だったんだろ?と言葉を返すと、いやぁ、人間が出来てますね先生!とその後に僕に話を振るときは先生!とずっと言っていた。
このギルドという社会は、どうあっても実力主義なようである。かく言う僕も、実力で培ったのならいざ知らず、この3人を打ち倒すほどの力を得たのは数日ほど前に一言叫んだことが起因だったので、終始罪悪感を感じずには居られなかった。
「先生!マスターのお部屋に到着いたしました!」
と、先導していたハヤテが言った。
なるほど、マスターの部屋だ!と思うのは当然で、その扉は重厚感があり、今までの経験に当てはめるのであれば、社長室というプレートが扉にくっついているあの感じと酷似していた。ちなみに、社長室という言葉の響きにいい思い出はひとつもない。
「失礼します。最強剣士様の試験が終了したのでお連れしました。」
と、ノックと共に入室すると、大きな机があり、その後ろに長い白髪を後ろで束ねたいかにも!という御仁が座っていた。
「そうか、そちらが最強剣士殿だな。お役目ご苦労だった。して、何秒持ったのだね?」
「ハッ!戦闘を開始してから5秒ほどだったと記憶しています。」
「ふむ、なるほど本物のようですな。よろしい、3人とも下がってくれるかの。」
「ハッ!失礼いたします!」
ああ、この人、魔法学校かなんかで校長でもやってたんじゃないか?と印象を受けるような、深みのある声で、ギルドマスターと思しき男は言った。
そしてハヤテ以下3人は、入ってきた扉からゆっくりと外に出て行った。
「さて、自己紹介をさせていただきましょうかな。私はアルセナ・グーテンヒルデと申しますのじゃ。」
この男の発する自信に満ちたような、それでいて慈悲深いような声はなんだろう?と僕は思ったのだが、黙っているわけにもいかず、それ以上考えるのはやめて自己紹介を返す。
「どうもはじめまして。僕はハジメ・アツカワといいます。」
「ふむ。東方の名前じゃな?ハジメ殿、と申すか。よい名前じゃな、東方の言葉では確か、出来事の最初を意味する言葉であったと思うがの。」
「はい、その認識で間違いありません。」
「うむ、いい名前ですのう。して、ハジメ殿。本来ではギルドの幹部とたかだか登録試験で戦わせるということはないのじゃが、それがどういうことだか理解はしていただいているのかの?」
と、僕は言葉に詰まった。確かに、登録試験というだけなら実戦までする必要はないんじゃないかと思う。しかも、どうやら真剣での戦闘。一歩間違えれば、登録をしにきただけなのに死んでしまうということもありえるだろう。ということは。
「…もしかして、マジで本当に異例だったってことですか?」
「そうですじゃ。マジで本当に異例だったのじゃ。――申し訳ないが、敬語をやめてもいいですかのう?しゃべりづらくて…」
「ええ、結構ですよ。」
「ありがたい。では、改めて。お主…ハジメ殿には、当ギルド登録に際して、特別な扱いをすることになっておる。」
「…と、いいますと?」
「うむ。そもそも、最強剣士という称号は、この数百年間、ひとりも居なかったのじゃよ。それが、今回ギルドに登録することすら初めての、20歳の男ともなれば異例中の異例。というわけで、細かく診断をした上で登録をせねばならんのじゃ。」
「なるほど…それほどレアなケースだったと。」
「そうじゃ。ふむ、今までの話し方を聞いていると、その称号を手に入れたのは最近だと見受けられるのじゃが…」
おっと、この爺さん只者じゃないな?と僕は思った。でも、確かに手に入れたのは最近だ。それに、僕自身は努力も何もしていないので、降って沸いたような感覚だったので、それが言葉に出ていたのだろうか。
「そうですね、気づいたら手に入れていたので。気づいたのは数日前です。」
「そうじゃったか。やはりのう。それに、おぬしの姿かたちは先日ルベリアに不正入国を試みた賊と一致しておる。それに関係しとるのかの?」
そういうギルドマスターの目つきは、僕を値踏みしているようでもあった。下手なことはいえないな。
「アハハ…そんなわけ…」
「あるのじゃな。まぁそれはいいとしてじゃ。数日前まで国民証を提示できなかった男が今現在ではこの世界でもっとも名誉であると思われる称号をもっているというのは面妖な話じゃろうて。ワシの見立てではもっと世界を揺るがすような秘密をもっているのではないかと思っておる。どうじゃな?話してはいただけないかの?」
目の前の聡明な老人が語った言葉の最後は敬語が混ざっていた。これは、もう何かがばれているんだろうと僕は悟った。
「そうですね…まぁ、人に話せないような事情なんで…」
「うーむ。是が非でも聞きたいところじゃな。まあ、強要はせんがの。して、何ゆえギルドに登録を使用などと思ったのじゃな?」
「はぁ。お金が入用だったんです。」
「ふむ…お金、とのう。これまた面妖な話じゃて。それだけの武才を持っていながら、今まで傭兵もしたことはなく、金に困るとなると…それに、どうやら試験のほうでも剣士でありながら帯刀せず、3人のSSランク保持者を無傷で、刀傷もなく倒したというのだからますます謎が深まるばかりじゃ。」
老人は、ほっほと笑いながら言った。
「ええ、まぁ。それも秘密、ということで。」
「いいじゃろう。名前と出生地以外不明の、未知の世界より来たりし最強剣士…まるで御伽噺のような話じゃが。では、おぬしにギルド登録の許可を出させていただくとしようかのう。まずは、ギルドカードじゃ。ワシからじきじきに進呈しよう。」
そういって、机の上から免許証くらいのサイズの黒いカードを、ギルドマスターは投げてよこした。
ギルドカードを見ると、黒地に白い文字でこう書いてあった。
SSランク・序列2位 ハジメ・アツカワ
通り名:謎に包まれた最強剣士
クエスト受注回数:0
クエスト達成回数:0
わお、SSランクだって!これって、あの3人と同格ってことだよな…ていうか、序列2位ってすごくないか?
「その黒いカードは、ギルドカードの中でも特に上位の者にしか与えられないものでな。そのカードにはクエストの報酬ではいる報奨金も入る。そこに入っておる金は、ホレ、受付に言えば引き出せるぞ。」
「ありがとうございます。」
「うむ。ちなみに最強剣士ともなれば他のメンバーからのパーティ申請も多くなるじゃろうて。パーティに入ることがあれば人となりをみて組むことじゃな。その名前にあやかったり、中には出し抜こうとする輩もおるじゃろう。では、幸運を祈る。」
「はい。それじゃ、失礼します。」
「ではの。また会おうぞ。」
そういって、僕は、ギルド総括者と書いてあるプレートがはまっていた扉から外に出た。
すごい緊張感だった…と、胸をなでおろすのもつかの間、先の3人は僕を待っていたようで、「では、窓口までお送りします。」と、帰り道も案内してくれた。
説明のあった最強剣士。
補正は以下のとおりです。
特性:最強剣士
効果:筋力の大幅上昇
瞬発力の極大上昇
剣タイプの武器修練値が限界突破
反射速度が限界突破
体内電気速度の限界突破
特性「戦闘集中の極意」習得
特性「見切りの極意」習得
特性「受け流しの極意」習得
特性「武神の加護」習得
特性「武士の憧れ」習得
特性「+1の法則」習得
特性「超直感」習得
特性「絶対折れない!」習得
戦闘集中の極意は、戦闘時における集中力が限界突破し、時間の流れが遅くなるかのように敵の動きがわかるようになります。
見切りの極意は、敵の攻撃の間合いや威力、攻撃範囲やその軌跡などを見切ることができるようになります。
受け流しの極意は、あらゆる近接攻撃を受け流すことができるようになります。
武神の加護は、ステータスに補正がかかり、さらにある種の選ばれたものしか扱えないような神器を扱えるようになります。
武士の憧れは、剣士タイプの人々にとって、特性を持つ人に対し畏敬の念を抱くようになるスキルです。
+1の法則は、近接武器を扱う現時点で自分より強い人間よりも必ず少しだけ強くなるという補正をかける特性です。
超直感は、五感では感じ取れないものを感じ取れるようになる特性です。
絶対折れない!は、心と自分の持っている武器が決して折れなくなる特性です。




