第九話 ハジメ、国民証を得る
僕とディアスが頭を抱え込んでいると、不意にアッシュが口を開いた。
「ふむ、国民証がそんなにほしいのなら、作ればいいのではないか?」
「おいおいアッシュ、お前何言ってんだ?今自分で無理だって言っただろ?」
「うむ。しかし、国民証は各国の行政機関にある国民管理局が作成しているんだ。作成しているということは作り方もあるはずだとは思わないか?」
なるほど、と僕は思った。行政機関によって作るのは無理でも、作成方法がわかるのであれば自分たちで作れるんじゃないかと言っているのだ。
「っていってもなぁ。どうやってつくりゃいいんだこんなもん。」
そういいながら、ディアスは自分の手の甲を見た。以前から気になっていたのだが、この世界の住民たちはみな一様に手の甲にタトゥーが入っているのだ。
「もしかして、国民証ってそのタトゥーのことを言うのか?」
「ん?ああ、そうか、わからねえもんな。そうだ、これが国民証であり、自己証明にもなる。この世界ではパーソナルタトゥーって言うんだ。」
ディアスは手の甲のタトゥーをこちらに見せるようにかざすと、「開示」と唱えた。瞬間、半透明な文字の羅列している板が浮き上がる。
ディアス・クレイン 26歳 男
出生地:アルバニア公国領 特殊危険地域 旧メルキア
称号:空覆うイナゴ団総大将、1級剣士
なるほど、僕のステータススキルに似ている。っていうか、国民証ってつまり、自分自身に刻印されてるってことなのか。だとすれば…
「僕はパーソナルタトゥーを体に刻まれている。」
そう言った瞬間、僕の右手の甲にタトゥーが刻まれた!
「む、そんなこともできるのか。」
アッシュが驚いたように言った。僕自身、もしかしたらという範疇でしかなかったのだが、これで済むならラッキーだ。
「せっかくだから、お前のも見せてみろよ。」
と、ディアスが言うので、僕も国民証を「開示」してみた。
ハジメ・アツカワ 20歳 男
出生地:日本 東京都 墨田区
称号:2級魔法使い、最強剣士、未知なる世界より来たりし者、モノづくりはじめました、非常識人、ミジンコ
「と、とりあえず、この日本というのは、東方の国の名前だ。だが、ミジンコとは…」
「なぁ、ミジンコってなんなんだ?」
「話したくないんだけど、このミジンコっていうのは水中に棲んでるちっこい微生物のことだよ。」
「…なんでオメーの称号になってんだ?」
「どうやら僕はミジンコ並みの存在価値ってことなんじゃないか?」
「ひでぇ話だな…」
僕としては、これ人に見せれんの?と思ったのだが、おおむね問題ないだろ!とディアスに言われたので大丈夫だと思いたい。
「ま、まぁ、なんにしろ国民証は手に入ったみたいだし?結果オーライってことなんじゃないか?」
「うむ。これでギルドに登録すれば問題なく資金は調達できるだろう。」
「うん、それはよかったと思ってる。ところで、登録に必要なものってコレだけなのか?」
「あぁ、それだけだ。あとは診断、みたいなのがある。能力検査ってやつだな。それによってランクが決まって、あとはそのランク如何で受けれるクエストのレベルも変わることになってる。」
なるほど。なら、もう問題はなさそうだな…
「わかった、ありがとなディアス、アッシュ。とりあえずギルドに行ってみる。」
「おう、また来いよな!」
「うむ。そうだ、次に来たときには俺たちからも依頼をしよう。気が向いたら顔を出すといい。」
「了解。じゃ、また!」
そういって僕はルベリアへと戻った。
――ルベリア商業区 冒険者ギルド
さまざまな人種で賑わうルベリアの商業区。その中でも大きな存在感を放つこの冒険者ギルドは、酒場を兼ねた巨大な施設である。
中に入ると、ご丁寧に「初めての方はコチラ!」と書かれた表示板があり、親切だなーと思いつつ、僕はギルド登録窓口と案内板の置いてある受付へと向かった。
「はじめまして。ギルド登録窓口へようこそ。」
「あ、はじめまして。実は登録するのが初めてなんですが…」
「そうですか!それでは、流れをご説明させていただきます。まず、国民証を拝見し、問題がなければ適合ランク診断を受けていただきます。その際、ちょっとした試験がある場合もございますので、あらかじめご了承くださいませ。」
「わかりました。お願いします。」
「それではまず、国民証の提示をお願いします。」
「はい。「開示」!」
僕の手の甲から浮かび上がった板を、受付は眺めた。
「はい、ハジメ・アツカワさんですね。出身は東方のようですが…」
「はいそうです。僕は転移の魔法が使えるので、いろんなものを見てみたいと思いこのルベリアで登録してみようと思いまして。」
「なるほど、かしこまりました。称号を確認したところ、2級魔法使いと…最強剣士…?」
と、そういった瞬間、ザワザワとしていた周囲が一瞬静まり返る。
おっと?これはちょっと嫌な予感?
「…失礼いたしました。どうやら、お客様には診断と同時に試験を受けていただく必要があるようです。申し訳ありませんが、あちらへ。」
と、受付カウンターの奥にある扉のほうへと、受付嬢は僕を促した。
きっとこれは僕にとって好ましくないんだろうけど、例によって僕はまたも墓穴を掘ったらしい。
いまや周囲の冒険者たちは僕を注視しているし、仲間とひそひそ話している人たちも見受けられた。
「わ、わかりました。」
僕はその視線から逃げるように、扉へと向かうしかなかった。
「それでは、まず診断を受けていただきます。」
扉の先には、先ほどとは別の案内人がいて、その人の後をついていくとさらに扉があった。
その扉の先には、少し開けた部屋があって、その部屋には見たことのない機械らしき道具がたくさんおいてあった。
これ、多分だけど全部何かしらの測定装置だよね…?
「最初に、こちらの機械に手のひらをおいていただけますでしょうか?」
そういって示されたのは、手のひらを置いてくださいと言わんばかりの手ごろな大きさの板と、そこから伸びるさまざまな銅線が大きな機械に接続されているものだった。
「わかりました。」
僕はおずおずと、その板の上に手を載せる。
それを確認した案内人は、「調査」と唱える。すると、僕が手を置いた板がスキャンをするかのように光り、指先から手の腹まで光の帯が通っていった。
「…なるほど、確認しました。どうやら、お客様は本当に「最強剣士」の称号を得ているようです。」
「は、はぁ。そりゃどうも…」
「では、早速試験を受けていただきます。」
と言い、僕は別の部屋へと案内された。そしてその部屋と入ったと同時に、案内人が指をぱちんと鳴らすと、部屋の明かりがすべて消えて真っ暗になった。
「え?なにこれ?」
「試験は簡単です。部屋の明かりがついたと同時に試験官と戦闘をしていただきます。試験官との戦闘を見て、あなたのランクを決定しますので、実力を存分に発揮してくださいませ。なお、この試験によってあなたの生命が危機に瀕しても当方では責任を持ちませんのでご了承願います。」
「へ?いやあの、ちょっとま…」
そこまで言ったところで、部屋の明かりがついてしまったようである。
目の前には、3人の男が立っていた。
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