豪火
第八章
豪火
まばゆい緋色の光が、二人の目をくらませ、体制をなんとか立て直す。
刀を構え直すと、緋色の輝きはおさまったが、深紅へと変化していき、熱量が凄まじく上昇していく。
頭上の木の葉がその熱量によって発火し、木々に張り巡らされていたクモの糸も、一瞬のうちに蒸発していった。
その光景に、ラウラ、ジャンの両名が甲高い声で笑った。おそらく、かれらは、驚きよりも、面白い獲物が見つかったくらいにしか感じなかったのだろう。
両者も体制を整え、ジリジリとこちらに距離を詰めてくる。
「ぼうや、新人のわりには面白い戦い方してくれるじゃないの。いいわ、ゾクゾクしちゃう。可愛がってあげるわ。オーバースキル、「王水」発動。」
何もかもを溶かす王水のオーバースキル。刀には相性が悪い。糸が放出され、触れた部分がジュッと溶けていく。
回避すればするほど、足場をなくしていく。
一方、ジャンの方も、オーバースキルを発動したようで、彼の身体の周りには、大小無数の黒い球体が浮遊している。彼はそれを掌の上でクルクル回し、ステップを踏みながら、まるでサーカスのショーのように、クモの糸を回避している。
ある程度、近づいてくると、黒い球体を空中にばら撒き、それよりも上空にジャンプした。
そのまま、滞空し、ヒャヒャヒャと奇声をあげて、腕を月に向かって掲げる。
そして、彼が指をパチンと鳴らすと、黒い球体が渦を巻くように空中でグルグルと回り出し、プラズマが発生した。
そこに、ラウラの放出した糸が触れると、プラズマエネルギーが彼女を襲った。高速で回避する彼女に、上空からナイフが追い打ちをかける。
それに連鎖し、プラズマが球体の範囲にほとばしり、襲ってくる。加えて、上空からのナイフ攻撃。完全になぶられていた。
ラウラは、木の間に糸を張り、少しでも球体の少ない方に逃れようとするが、球体が彼女を追跡していく。王水を含んだ糸でさえ、壊すことも、動きを止めることもできない。
そんなものに、刀の斬撃でも加えればひとたまりもないだろう。
だが、刀の熱量はさらに上昇し、刀身が黒く変化していき、球体から発せられるプラズマの熱量さえ吸収し、刀身の表面に帯電していた。
投じられるナイフの量はさらに増え、額めがけ飛んできた。回避は間に合わないと判断し、刀を空に切りつける。
すると、全てのプラズマが刀に集まり、パっと稲光を発し、巨大な炎の渦が起こり、天高く立ち昇ると、豪火が辺り一帯を飲み込んでいった。