出発
第二章
出発
今も昔も、夜景というのは、人の欲望そのものだろう。
決勝戦から一週間が過ぎ、いよいよ明日、世界大会本戦会場のアメリカに向かう。
これで、しばらくはこの閉塞的な日常から抜け出せると思うと、落ち着かない。
この100年、人類の技術は飛躍的に進歩し、月に人が住む時代だ。
しかし、世界の格差は広がる一方だ。
中学受験に失敗し、両親とは一気に疎遠となり、このだだっ広い高層マンションの一室にやられ、鬱屈した生活を送ってきた。
TMWをやり始めたのも、ただの憂さ晴らしのつもりだったのだが、何時の間にか世界大会出場というところまで来てしまった。
賞金などには興味はないが、ここでチャンスを掴むことが出来たのなら、つまらない過去やしがらみとおさらばし、太陽系調査航団に志願する口実ができる。
明くる日、空港に到着すると、声援を送る人々でごった返していた。
サインや握手を求められ、時間ギリギリに飛行機に搭乗することになり、イライラしていた。
どうせ、奴らは、負ければすぐに批判を投げかけてくるだろう。
飛行機は、大会主催側から本戦出場者一人ひとりにチャーター機が用意された。
これから、1日かけ、セレモニー会場のニューヨークに向かう。
何かしら掴めるものがあることを期待し、目を閉じ、その時を待った。