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呪われた装備は外せません。 これ、常識……ですよね?

 




 「実はあのナイフは呪具……持ち主に不幸をもたらす呪われた魔導器(アーティファクト)なんだよ」



 あぁ、やっぱりか。


 おじさんの言葉を聞いても私は最初からある程度見当がついていたので差ほど驚きは無かった。


 だって、そのナイフ……めちゃくちゃ禍々しい気配がするし。


 何よりどす黒いオーラみたいの放ってるから一目視ただけで呪具だと分かった。


 だけど、そのオーラはおじさんには視えていなさそうだ。


 視えてたらこんな禍々しい物を欲するとは思えない。


 視るのに呪術的な素質でもいるのかもしれない。



 「半年前、王都である没落貴族の私物を売却するオークションが開かれて私も参加したんだ。 そのオークションでこのナイフは古美術品として売却されていてね、私は一目見てこのナイフに惚れ込んでしまったんだ。 持って来ていた金貨を全部叩いて購入したんだが……そこからが悪夢の始まりだったんだ」



 私はゴクリ…と唾を飲んで話に聞き入る。



 「最初は物を無くしたりこけやすくなって怪我が多くなったりしてたんだ。 でも偶然だと思って気にしてなかった。 でもだんだんその頻度が多くなってきて、ある日誰も触ってない筈の壷が僕に向かって倒れてきて大怪我を負いそうになって、それでようやくただ事じゃないと思って教会で診て貰って、あのナイフが呪具で私が呪われてることが分かったんだよ。 私は呪いを浄化するためナイフを教会に預けて、それで終わる……そう思ってたんだ」



 おじさんは語っている間にどんどん顔色を真っ青にしていく。



 「それから一ヶ月ほど経った頃だったか……私の商店に火事が起こったんだ。 火の手が凄くて商店は全焼、私は財産の殆どを失ってしまったんだ。 その後私は残った私物を整理していたんだが……その時にね、何故かこいつが荷物の中に紛れ込んでいたんだよ。 怖くなってすぐに処分したんだけど、気が付くと何時の間にか荷物に紛れ込んでる。 それからも何回も何回も捨てたんだ。 なのにどうしても手元に戻ってくる……。 今回は有名な神官様に預けた筈なのに………」



 おじさんは話を終えると頭を抱えて蹲ってしまった。




 相当苦労してきたんだろうなあ。


 私みたいな子供に態々話すなんて………誰かに話して溜め込んできたものを吐き出したかったんだろうね。


 私は件のナイフにチラリと視線をやった。


 ただ見ただけでは見事な意匠のナイフにしか見えないが全体にどす黒いオーラを纏っている。


 それさえ無ければ見る者を引き付ける魅力に溢れていた。








 「………私が貰ってあげようか? それ」


 「……………は?」



 ナイフを指差し言う私におじさんは呆然とした返事をする。


 恐らく自分の耳にした言葉が信じられなかったのだろう。



 「え、え、ええええええええ!? じょ、嬢ちゃん、自分が一体何を言っているのか分かって言ってるのかい?」


 「ええ、勿論」



 おじさんは信じられないものを見る眼で私を見た。


 まあ、逆の立場だったら私もそうするだろうしね。


 別にナイフに魅了された訳じゃない。


 ただ………ある予感がしたんだ。


 呪術に伸び悩んでいた私の元に偶然(・・・)巡ってきた恐ろしい呪いを宿す魔導器(アーティファクト)……。


 これは大きな転換点なんじゃないか、と。


 私はこの出会いに運命を感じたのだ。


 この運命がもたらすのが幸か不幸かは分からない。


 大きなリスクを背負う博打、負ければ訪れるのは破滅。







 ……………だけど。



 「お、おい……? な、なんで……笑ってるんだ…」


 「あら?」



 知らず知らずのうちに顔に笑みが浮かんでいた。




 ああ、やばい。


 興奮が止まらない。


 これはチャンスなのだ。


 私が……望月永久が転生するきっかけになった想い。


 世界を呪ってやりたいという想いを叶えるためのチャンス。




 フィオーラさんとの暖かな生活は私に幸せをもたらしてくれた。


 その生活の中で徐々に心の奥底に埋もれていった願望。


 風化し、忘れ去られそうになっていた想い。


 それを叶える事が出来るかもしれない手段を目の前に出されたのだ。


 興奮しないわけが無い。



 「……で、どうします? それ、処分したいんですよね?」


 「で、でもなあ……?」



 私みたいな子供に押し付けることに躊躇いがあるのか、葛藤に苛まれている様子のおじさん。


 せっかくなので私は背中を一押ししてあげることにした。



 「私のことを気に掛けてくれているのなら大丈夫です。 ………ここだけの話なんですけど、実は私、呪術師なんです」


 「ええっ!?」


 「毒をもって毒を制す。 毒には毒なら呪いには呪いを。 呪術に対抗できるのは何も神官様だけじゃないですよ」



 私の言葉に相当迷ってるのか、ナイフと私の間を視線が何度も往復する。


 そして………











 「………………………………………………………頼んで……いいかい、嬢ちゃん」


 「ええ。 お任せ下さいな」



 罪悪感でいっぱいの表情で言葉を搾り出すおじさんに私は笑顔を浮かべるのだった。


















 あれから半月程経った。


 森の魔物は依頼を受けた冒険者達に狩られ、森には平穏が戻った。


 フィオーラさんから森の散策禁止令を解除された私は森の開けた場所…鍛錬所に来ていた。


 いつもよりも多めに採取を済ませ薬草でいっぱいになった籠を下ろすと私は背嚢から先日手に入れた呪われたナイフを取り出した。


 厳重に巻きつけられている布を解き姿を現したナイフを見てホッと一息。


 治療所でナイフを触るのを躊躇ってる内に消えてたらどうしようかと思ったので一安心だ。


 相変わらずどす黒いオーラを放っているナイフ。


 その柄を握ろうとして、ふと自分の手が震えていることに気が付いた。




 ………これは武者震いって奴なのだろうか。


 それとも………。


 まあ、どちらでもいい。




 私は覚悟を決めると一気に柄を握り締めた。






        ドクン






 その瞬間、無機物でしかないナイフが脈動してように感じた。






        ドクン



        ドクン



        ドクン






 いや、間違いなく脈動していた。


 まるで心臓の鼓動のようにリズムよく脈を打つナイフ。


 しかし、その脈動はどんどん強く、早くなっていき…………………………………………………………そして弾けた。



 「~~~~~~~~~~~~くっ!?」



 どす黒いオーラが濃くなったかと思った時には既に遅く、一気にナイフから溢れ出した。


 視界は瞬く間に黒く塗りつぶされ、それでも止まらず溢れ出し続けるオーラは私の体を呆気なく飲み込んでいった。





 

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