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ねえ、おじさん……幼女に手を出したらどうなるか……分かってるよね?

 



 「ちょっと待ってよお兄さ~ん」


 「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!」


 「今ならセットでこの価格!! どう?」



 市の開かれている広場は普段とは比べ物にならないくらい活気がいい。


 自分の露店の前を歩く人に声をかける商人、商品を手に激しい値引き交渉を繰り広げる女性、買い物が終わりくたびれた様子で座り込む男性。


 普段見ないようにしていた人の営みがギュッと詰め込まれたような賑わいについキョロキョロと視線を彷徨わせてしまう。


 前世でも似た光景は見た事があるが、世界観が違うと醸し出される風情も全然異なるように感じるから不思議だ。


 食べ物を扱ってる店、衣服を扱ってる店、雑貨を扱ってる店………その他にも様々な店があり、私はそれぞれの露店を一軒一軒ゆっくりと見て回った。


 『隠者の呪カース・オブ・エクシステンス』がしっかりと効果を発揮しているからか、完全に冷やかしでしかない私が商品をジロジロ見ていても見事にスルーしてくれている。


 おかげで私は人目を気にせずに思う存分ウインドウショッピングを楽しむことが出来た。






 一通り店を回り終えた頃、私は広場の隅っこで果汁水を飲みながら小休止をしていた。



 「女の子が買い物に夢中になる気持ちがよく分かったわ」



 私はしみじみと呟いた。



 ウインドウショッピングがこれほど楽しいものだったとは……。


 楽しくて時間があっという間に経ってしまった。


 男だった時の自分は買い物を楽しむタイプではなかったというのに、いつの間にか変わっていた自分の心境の変化には驚いた。


 男だった時は買い物なんてポチるだけだったしね。


 これが乙女脳という奴なのだろうか。




 まあそれはさておき、これからどうしようか。


 まだ時間は問題ないし、お金もさほど使ってない上にフィオーラさんからお小遣いをもらったので余裕がある。


 何も買わないのは勿体無い気がするのでもう一度回って服か装飾品でも買おうかな。




 私は木製のコップを店に返すと再び目当ての露店へと足を向けた………その時だった。


 ゾクリ……と冷や水を浴びせられたかのような悪寒を感じた。


 背筋が粟立ち体が硬直する。


 周囲の喧騒が嘘のように音が遠くなり世界から色が消えた。


 しかし、それは一瞬の出来事だった。


 次の瞬間には再び何も無かったかのように世界は色づき喧騒が戻った。




 今のは一体何なんだ!?


 辺りを見回すが周囲の人々は何も感じてない様子で買い物を続けていた。


 見てる感じでは周囲に何もおかしな所はない。


 それでも私の第六感が猛烈な違和感を訴えているし、私の勘がこの違和感を無視するな、と主張していた。




 ………だが、いいのか?


 確かにこの違和感の正体は気になる。


 ……だけどもし何かあったらどうする。


 何かトラブルに巻き込まれたらフィオーラさんに迷惑を掛けることになる。


 好奇心は猫を殺す、と言うし態々変なことに首を突っ込むべきではない。


 私は自分に言い聞かせるように繰り返すと、当初の目的どおり目指してた露店に向かって歩き出した。

















 「~~~~~~~~~……クソッ!!」



 やっぱり駄目だ。


 どうしても気になって仕方がない。


 私は踵を返して目指していた露店とは正反対の方へと向かった。






 「この辺りか……」



 私は先程から感じる違和感を辿って広場の隅っこの方に来ていた。


 中央と比べて露店には人が少なく、離れた位置からでも商品を見る事が出来た。


 私は違和感を感じる辺りをキョロキョロを見渡す。



 「………ん?」



 ……………見つけた。



 視線の先、雑多な商品が並べられている棚の上。


 そこで強烈な違和感を放ちながらそれは置かれていた。



 「あの、すみません」


 「んおっ? な、なんだいお嬢ちゃん」



 店主のおじさんは『隠者の呪カース・オブ・エクシステンス』のせいで私の存在に気が付いてなかったからか、いきなり現れた私に軽く眼を見開き驚いた様子で応対してきた。



 「あの、これなんですけど……どんな物なのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」



 私はそう言うと『それ』を指差した。



 「どれどれ………って、これは!?」



 おじさんは私が指差した物………綺麗な装飾の施され、柄に紅い宝石が填め込まれた刃渡り20センチ程のナイフを見て、驚いた様子で声を上げた。



 「う、あ……お、お嬢ちゃん、これは元からここに置いてあったのかい?」



 なにやら青ざめた顔色でおじさんは尋ねてきた。


 「なんで……」「どうして……」とうわ言の様に呟いている様はどう見ても尋常な様子ではない。



 「はい、そうですよ。 商品を見ていたら目に付いたので気になって……」


 「そ、そうか! 気に入ったのかい? とても綺麗なナイフだから女の子が持つにはぴったりだし護身用にもいいからね。 今なら金貨、いや、銀貨1枚で譲ってあげよう。 サービス価格だよ。 安いだろ。 勿論買うよね?」


 「えっ!? ちょ、ちょっと……!?」



 青白い顔色のまま眼を血ばらせたおじさんが詰め寄って来るなり、いきなりもの凄い勢いで捲くし立ててきたので思わず後ずさってしまった。


 おじさんはナイフを手に取ると私に押し付けるように握らせようとしてくる。


 嫌な予感がビンビンと感じて慌てておじさんから距離を取った。



 「いい加減にして!! 落ち着いて下さい!!」



 私が叫んだ瞬間、おじさんは正気に戻ったのか気まずそうにして私に頭を下げた。



 「うっ……すまんなお嬢ちゃん」


 「落ち着いてくれたらそれでいいです。 それで、一体どうしたんですか? そのナイフに何か?」



 私が問い詰めるとおじさんは気まずそうに視線を逸らし、口元をもごもごさせていたが視線を逸らさせないよう移動しながらジーッとおじさんの目を見つめてやった。


 暫しの沈黙。


 私の視線がひたすらおじさんに突き刺さり続ける。


 おじさんの頬から冷や汗がだらだらと垂れる。


 やがて観念したのか溜め息をついた後、重い口を開き始めた。





 

昨今の世の中、幼女は見ただけで通報されるそうですよ。

触れたりなんかしたら………。

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