「うわー、○○菌が付いた~」って経験は誰しもが一度は通る道……だよね?
累計PV1000突破!!
嬉しくていつもより頑張ってちょっと長めに執筆しました。
『呪術』
それを聞いて人は一体どんなものを想像するだろうか。
藁人形に釘を打つ『丑の刻参り』?
文字を書いた紙の上に置いた十円玉に人差し指を乗せて様々な疑問を尋ねる『コックリさん』?
それともゲーム等で使われる弱体化魔法?
少なくとも私は呪術というものにそんなイメージを持っている………持って、いたんだ。
異世界転生を果たし邪神様から力を授けてもらった私が1ヶ月間の鍛錬の末、使えるようになった呪術がこちら!!
『悪臭の呪』……対象の臭いが臭くなる呪い。
『隠者の呪』……対象の影が薄くなる呪い。
『憂鬱の呪』……対象の精神的な打たれ強さを弱くして憂鬱にする呪い。
……………。
「どうして……こうなった……?」
………なんすかこれ。
めちゃくちゃショボイんですけど……。
邪神からの手紙には呪術のハウツーなんて書いてなかったんで色々試してみた結果、魔力を集中→どんな呪術にするか明確なイメージ……主に相手をどのように苦しめるか……を思い浮かべる→魔力を放出、という流れで呪術を具現化することに成功した。
ちなみに最初に使えるようになった呪術が悪臭の呪。
初めて使った不思議パワーにテンション上げ上げで他にどんな呪術が使えるか試してみたのだが、どうも魔力、もしくは熟練度というべきものが足りていないのか殆どのイメージを呪術として具現化する事が出来なかった。
それでもめげずに毎日毎日森に来る度に呪術の開発と鍛錬をし続けた結果、使えるようになったのがこの3つの呪術で隠者の呪、憂鬱の呪に至っては使えるようになったのはごく最近である。
正直、悪臭の呪以外の呪術を習得するまでの日々はめちゃくちゃ辛かった。
だって邪神に『力を授けてやろう』とか言われて期待してたのに、いざ使えるようになったのは相手を臭くする悪臭の呪だた一つ。
………虫じゃん。
春先になると湧く、触ると臭い汁を出す虫。
あれとやってること変わらないじゃん。
毎日そんな思いに苛まれながら周囲に悪臭を撒き散らすだけの簡単なお仕事を続け、ようやく他の呪術が使えるようになった時の感動は半端なかった。
………まぁ、今にして思えば相当精神的にきていたんだろうなぁ。
こんなショボイ呪術を覚えただけであんなに歓喜するなんて。
人呪わば穴二つ……人呪うために自分が駄目になりそうだったなんて笑えない。
せっかく手に入れたこの力、もっともっと研かなければならない。
もうただ黙ってやられるだけの弱者でいるのはご免だ。
やられたら、それ以上にやり返す。
これはそのための力なのだから。
人気のない森の中、初心を思い返した私は日が暮れるまで鍛錬を続けるのだった。
あれから数日たったある日、朝の仕事を終わらせた私は森に散策に向かうべく村の通りを歩いていたら嫌な予感に襲われた。
ヒュ~っと何かが飛来する音が聞こえ、そちらの方へ振り向いた瞬間、ベチャっと飛んできた何かが頭にぶつかり帽子が弾き飛ばされた。
「よっしゃ!! ファーストアタック成功だぜ!!」
「スゲー。 それじゃ俺も俺も」
「じゃあ今度は魔人の角を狙おうぜ!!」
そこにいたのは3人の男の子。
腕に大量のドロ団子を抱え、嫌らしい眼でこちらを見ている。
「おりゃっ!!」
放たれたドロ団子は私の足元に落ちて私の靴が飛び散った泥で汚れた。
「下手糞だなー。 見てろ、こうやるんだ」
中央にいる男の子に投げられたドロ団子は綺麗な放物線を描きながら私の方へと飛来する。
思わず顔を庇うと胸元にドロ団子が当たった。
「どうだ!!」
得意げな顔をして他の二人の方へ振り向く男の子。
「おいおい、角から外れてるじゃんか」
「それじゃ、誰が最初に角に当てられるか競走しようぜ」
その言葉を皮切りに一斉にドロ団子が放たれた。
ベチャベチャベチャ。
次々とドロ団子が当たり体がドロに塗れていく。
私はすぐに彼らに背を向け、帽子を回収すると駆け出した。
「逃げたぞ、追えーっ!!」
「魔人を倒すんだーっ!!」
「やっつけろーっ!!」
彼らは逃げる私を追いかけてきた。
走りながらもドロ団子が投げつけられて体中泥まみれだ。
結局、村の外に出るまで私は彼らに追いかけ続けられた。
道中、そんな私たちの様子を見ていた大人たちは誰も彼らを止めようとはしなかった。
むしろ私がやられている様を見て笑ってさえいた。
この村で唯一の亜人である私が無様な姿を晒しているのが滑稽なのだろう。
少数派が多数派に虐げられるのは世界や時代が変わろうとも同じらしい。
森に入る手前、私は村の方へ振り向くと笑い声を上げる彼らを睨みつけた。
この恨み、晴らさでおくべきか~~~。
森の中の川で汚れを落とし、薬草の採取を済ませた私はいつも訪れる鍛錬場(森の中の開けた場所)に来ていた。
だが今日は鍛錬をするために来たわけじゃない。
私は陰っている場所の柔らかい土を掘り、せっせとドロ団子を作っていた。
今日みたいな出来事があったのは初めてではない。
この1ヶ月間、何度も何度もやられた。
しかしまだ今の状態にしっかりと馴染んでいると言えない時だったので耐えた。
堪忍袋の尾がブチブチいってるのを自覚しながらも必死に我慢した。
だがもう限界である。
今の生活にも慣れ、体の状態にも馴染んできた今、我慢する理由は何処にもない。
ククク………奴らは我が力を試すための生贄にしてやろうぞ!!
私は出来上がったドロ団子に赤黒い魔力を注ぎながら暗い笑みを浮かべるのだった。
キュピーン。
帰り道、村の通りを歩いていると冴え渡った私の感覚が嫌な気配を捉えたので素早くしゃがみ込んだ。
するとドロ団子が私の頭上を通り過ぎていった。
「あーっ! 避けやがった」
「ハハハッ。 下手糞ー」
「うるせーぞ!!」
出たな!! 糞餓鬼3人集。
どうやら待ち伏せされていたらしい。
彼らもやる事がある筈だが、いつも同じ時間帯に帰ってるからその時間に合わせて切り上げてきたのだろう。
この暇人共め。
だが彼奴らの出現はこちらも願ったり叶ったりだ。
私は背負っていた籠を下ろすと中から大き目の葉っぱで包んでいたドロ団子を取り出した。
彼らはいつもと違う私の行動に怪訝そうな顔をしている。
こちらが反撃するとは夢にも思っていないのだろう。
その驕りが命取りだ!!
復讐の時、今来たれり!!
私は先制攻撃をすることにした。
わざわざ奴らを待ってやるつもりはない。
狙うは真ん中の糞餓鬼。
今朝、最初に私にドロ団子をぶつけた奴なので真っ先に狙うことにした。
赤黒い魔力がたっぷりと籠められたドロ団子を彼らに向かって投げつけた。
ベチャ。
「うわっ!! あいつドロ投げてきやがった」
「あんにゃろ~」
私の投げたドロ団子は狙い通りに相手の頭にクリーンヒット。
相手に反撃される前に2投目を投げつけるがかわされてしまった。
奴らもドロ団子を投げつけてくるが私もかわし、場は硬直状態に陥った。
先に動いたほうがやられる……何故かそんな予感がして迂闊に動けない。
お互いドロ団子を片手に相手を睨みつけているとヒュ~と風が吹いた。
「うっ……なんだこの臭い?」
「くっせええええ!!」
「うわっ! 近寄んなよ!」
ドロ団子を頭に受けた奴が顔を顰め、周りにいた奴らが風で流れてきた悪臭に悶えながら鼻を押さえた。
………ククク、素晴らしい!! どうだ悪臭の呪がかけられたドロ団子の味は!!
当たった瞬間まで呪術が発動しないように抑えるのは大変だったが、苦労した甲斐があった。
パニックになってる奴らを見ていると気分がスカッとしてものすんごい気分がいい。
ニヤニヤして奴らを見ていると頭にドロ団子を受けた奴が頭に付いた泥を掬うと隣にいた奴に擦り付けた。
「うわっ!! 何すんだよ!! 臭いドロが付いたじゃねえか」
「うっ、くっせぇ。 何でこんなに臭いんだよ」
「きっとあれだ! 魔人の汁か何かがドロ団子に付いたんだ」
「やべーな、魔人汁」
「きったねえな、魔人汁」
「ぱねぇな、魔人汁」
………………………………………………………えっ?
「くっそ、覚えてろよ魔人!!」
「いや、ちょ、待って」
私の声を無視して奴らは退散していった。
一人残され呆然として佇んでいた私の脳裏にある記憶が蘇った。
懐かしい前世の記憶が。
『うわ~、望月菌が付いた~』
『ぎゃ、やめろ、望月菌に感染した~! 助けてくれ~』
『もう手遅れです』
『『『わははははは~~~~』』』
私に触った後、触れた部分を擦り付け合う、嘗ての同級生の笑い声が聞こえた気がした。
「………………………………………………………ぐはっ!!」
心が、心がめっちゃ痛い。
復讐は果たした筈なのに、更なる傷を負ってしまったでござる。
私は密かに涙を流すと治療所まで走って帰っていった。
クソ、奴らめ絶対に許さんからな~!!
私はこの夜、更に精進することを誓った。
○○菌~は誰もが通る道。
私、間違ってませんよね?