「奴は貴方の大切な物を盗んでいきました。 それは貴方の……」
読んでくれてありがとうございます。
プロット無しで書いているのでちょくちょく訂正が入るかも知れませんがよろしくお願いします
僕は暗い闇の中にいた。
ぷかぷかと水に浮かんでいるように脱力し、闇に体をゆだねている。
どれくらい時間が経っただろうか。 ふと、闇の中に淡い光を放つ珠を見つけた。
ふわふわと漂いながらもゆっくりとこちらに近づいてくる。
「………! ……!?」
「………!!」
……何だ? 声が聞こえる?
珠が近くなるにつれ誰かのしゃべる声が聞こえた。
「……やめ………ちが……」
「や………おね………」
女性の声……? 何だ、何を言っている?
声に耳を傾けているうちに珠が目の前まで来ていた。
そして珠が僕に触れた瞬間、珠が光を放ち僕は光に飲み込まれた。
眼が覚めると見慣れない木目の天井が見えた。
見慣れた自室のものと違うことに疑問を感じ、周囲に眼をやる。
眼に入ったのは自分の部屋とは明らかに違う小さな部屋だった。
「良かった……。 目を覚ましたのねアリアちゃん」
「……あれ、……僕は、一体?」
声をかけられ、顔を傾けると赤茶色の髪をした妙齢の女性がこちらに近寄ってきた。
日本人のものとは違う、彫りの深い目鼻立ちをした女性の顔が心配そうな眼で僕の顔を覗き込んでくる。
女性は手を伸ばし僕の額の上に置いた。
「熱は……大丈夫みたいね。 アリアちゃん、高熱で3日も寝たきりだったのよ。 熱は下がったし峠は越えたと思うけど念のため、もう少し寝ていなさいね」
「は…い。 先生」
女性は微笑むと僕の額にキスをして部屋から出て行った。
誰だあの女性は…? 僕に外国人の知り合いなんていなかった筈…?
それなのに何故かあの人のことを自然と『先生』と呼んでしまった。
おかしい。 一体どうなっている?
ベッドから体を起こそうとした時、枕元に何かが置いてあることに気が付いた。
手をやるとそこには一通の封書が置かれていた。
黒色の封筒に金色の文字で『望月永久様』と書かれている。
興味が引かれて封筒を開封した。
『やあ、ご機嫌如何かな望月永久君。 みんな大好き邪神様だよ』
「あっ!!」
黒色の便箋に書かれた銀色の文字を見た瞬間、僕はあの白い世界での邪神との邂逅を思い出した。
『転生は成功したみたいだね。 良かった良かった。 赤ん坊の時から永久君の意識があると色々と大変そうだと思ったので一旦記憶を封じて、頃合を見て前世の記憶が蘇るようにしておきました。 今は記憶の統合中なので何がなんだか分からない事が多いと思うけど時間の問題だから安心してね』
なるほど、記憶の統合中か……。 それで知らない筈の女性のことを『先生』と言ってしまったりしたのか。
便箋を持つ手を見ると記憶にある自分の手よりも小さくプニプニしている。 今何歳ぐらいなんだろ、僕?
『この手紙は記憶が戻った際、君が困ったことにならないようにするために書いておきました。 ちゃんと最後まで読んでね。 それじゃあ、まずは………』
その時、コンコンとドアがノックされた。
「アリアちゃん、入るわよ」
声を聞いて慌てて布団の中に手紙を隠した瞬間、先程の女性……『先生』が部屋に入ってきた。
「気分は大丈夫? 大丈夫そうなら薬湯を入れてきたから、これを飲んで」
体を起こし差し出された木製のカップを受け取ると薬独特の臭いが漂ってきて思わず顔をしかめてしまった。
少しの間、飲むのに躊躇してしまったが、ちゃんと飲み干すとそれを見ていた先生が「よし」と呟いた。
その後直ぐ、薬湯の効果が出たのか眠気がしてきた。
「ふふ、それじゃおやすみなさいね」
僕はうなずくと直ぐに眠りに付いた。
………
……
…
あれからどれくらい時間が経ったのだろうか、僕は再び目を覚ました。
シン……と静寂の満ちる暗い部屋の中、窓から入る月明かりだけが室内を照らしている。
今は完全に真夜中のようで部屋の外からも人の気配が感じられない。
よく寝ていたからか、眼が完全に冴えてしまっていた。
手紙を読みたかったが暗いために読めないので仕方なく大人しく寝ているとおなかに違和感。
僕はベッドから抜け出すと静かに部屋を出た。
廊下も真っ暗だったが、記憶の統合が進んでいるからか目的地の場所まで迷うことなく来れた。
目的地……トイレに入ると僕は壁に手をかざした。
すると天井にはめ込まれていた魔力灯が光り、灯りを燈した。
おお~、凄い。
なんとなく、こうしたらいいってのが分かったのだが、実際に魔力灯が光るのを見てちょっと感動した。
何回か魔力灯を付けたり消したりした後、用を足そうとして貫頭衣の裾を捲り上げた。
「………あれ?」
下着はトランクスのような短パン状の物を着用していた。
その下着を下げようとした時に違和感がした。
いや、何も感じなかったのだが、それがおかしいというか……。
……嫌な予感がした。
思わずゴクリ…と唾を飲む。
下腹部に意識が集中したからか更に違和感が増した。
僕は覚悟を決めると一気に下着を下ろした。
「ヒィィィィィィィィィィィィィィィッ!!??」
「ちょっとアリアちゃん!? どうしたの!?」
先生がドンドンとドアを叩いているが僕はそれ所じゃなかった。
ない!! ナイ!! 無い!?
下腹部に僕のあれの姿は無く、代わりにアレがあった。
あまりの衝撃に呆然としていると頭の中で何かがカチリと填まる音が聞こえた気がした。
その瞬間、僕の頭の中で今まで押さえ込まれていた情報が一気にあふれ出した。
そして僕は自分の記憶を全てを思い出した。
「は……はは。 ……僕、女の子になっちゃった………」
僕が力なく洩らした呟きは扉越しに聞こえる先生の声に呑まれて消えていった。