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第三話「またしても修羅場は始まる」

 青い空に白い雲。そして、どこまでも広がる豊かな緑。

 そんな心休まる風景を目の当たりにしても、俺の焦燥はなお俺の頭を支配していた。


 「お、お前ら、魔王だ! エミリオンだよ!」


 俺は先程見た、この大陸の宿敵の名を叫ぶ。


 「修真。やっぱりあんた大丈夫?」


 だが美咲は目を細めて、残念なものを見る目で見つめてくる。

 美咲……お前にだけは言われたくなかった。


 「いや、本当にいたんだよ! 魔王エミリオンが!」

 俺は必死だった。なんとしてもこの事実を彼女たちに伝えなければならない。

 さもないとまたしてもこの大陸が修羅場と化してしまう。


 「……ナグモ。シューシン、みてあげて。おかしくなってる」


 みくるちゃんが南雲に操術の使用を促す。

 どうやら俺の言葉をこれっぽちも信じていないようだ。


 「わかりました」


 だが、これで信じてもらえるぞ。

 操術は心を操ると同時に読むこともできるのだ。

 やはり便利なこと極まりない。



 ドクン。



 体に何かが入ってくるこの感覚。操術特有のものだ。


 「……」


 しばしの沈黙。

 南雲はぎゅっと目を瞑り、皆はそれを静かに見守っている。

 早くしてくれ南雲。


 このままでは俺が嘘つきということになる。

 これでは「あの魔王」と一緒になってしまう。


 「……ダメです」

 「は、はい?」


 南雲の言葉を聞いて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


 「修真さんの記憶にはそんなものは見えません」


 ……どういうことだ? 

 俺の記憶に先程の魔王はいない? でも確かに魔王は……。

 やはり、あれは俺の感情が見せた幻覚だったのか……?

 けれど――。


 「修真君も疲れているんだよ。ゆっくりと休んだ方がいい」


 イルマの言うとおり俺は疲れているだけなのだろうか?

 ……わからない。


 「それより修真。あんたヒーリング使えたのね」


 美咲は唐突に(わけ)のわからないことを訊いてきた。


 「何そのまぬけ顔は。あたしたちをヒーリングしたのはあんたでしょ?」

 「違うぞ?」

 「は? そんな謙遜はいいのよ」

 「いやだから違うって」

 「あっそ。まあいいわ」


 この顔は信じてないな。美咲がこの顔の時は何を言っても無駄だ。


 「……」


 俺はここで数秒、思案する。

 そうだよ。なんでこいつらはなんで回復しているんだ。

 美咲たちをはどうやら俺がやったと思っているらしい。

 だが俺は知らないぞ。

 ……わからない。わからないことだらけだ。


 「はい。南雲です」


 その時、突然南雲が声を上げた。

 恐らくこれは操術を使った通信術だろう。

 一緒に旅をしていた時もこの術で連合軍本部と連絡を取ってくれていたしな。


 「はい。はい……」


 通信をする南雲の顔は険しい。

 普段、穏やかな南雲がこんなにも険しい表情を見せるのは珍しかった。


 「っ!」

 そんな南雲の目が唐突に見開かれる。


 「……遅かったか」

 イルマの意味ありげな発言。それはすべてを察したようなものだった。


 「どうやら、そのようね」

 その発言を肯定する美咲。それはすべてを覚悟したようなものだった。


 「……クソ」

 悔しげな、いくるちゃんの表情。それはすべてを憎むようなものだった。


 「皆さん……。最悪の事態はやはり起こってしまいました……」

 通信を終えた南雲に浮かぶ絶望の色。それはすべてを知るものだった。


 なんだ? 何が起こっているんだ? 



 「やはり四部族全面戦争は起こってしまいました……」



 「は?」

 南雲の口にした言葉の意味がわからない。

 一体、俺の周りで何が起きているんだ?

 この四人の表情。

 もしかしたら今も存在する魔王。

 そして、不穏な謎の単語「四部族全面戦争」

 ……わからない。わからないことだらけだ。わからなすぎる。

 

 だが、そんな中でも一つだけわかったことがある。

 俺は『先程までの修羅場はどこに行ったのだろうか?』という疑問を持っていた。その答えがわかりつつある。けれども――それが答えだとは信じたくはない。


 「お、おい何だよ。『四部族全面戦争』って……」


 だから、南雲が発したこの単語の意味を問うのだ。

 不穏な足跡が聞こえるこの単語の真意を。

 ……頼む、俺の思い込みであってくれ。


 「主な戦地となった大陸東南、魔王城跡地の復興権を巡っての争いだと思われます」


 だが、南雲は俺の目を真っ直ぐに見つめてこう言った。

 俺を見つめるその瞳はいつになく鋭い。


 「その土地は確か天条族のものだろう?

  なんでそこを巡って争うんだよ?

  そのまま天条族が治めればいいんじゃないのか?」


 「ええ、そうです」

 「じ、じゃあなんで……?」


 「天条の一族は魔王軍に城を築くに至るまで何もできなかった。

  止める力は彼らにはなかったのです」

 「……」

 「そんな天条一族の不甲斐なさを他の部族たちは目を瞑ることはできなかった。だからあの土地を自らの部族で治めようとする」


 天条の一族であるイルマの顔をちらっと見やる。

 どんなときだって明るさを絶やさなかった彼女の表情はこの時ばかりは曇っていた。


 「――というのは、恐らく建前でしょう」

 「た、建前なのか?」

 「ええ。あんな荒地、もう人は住むことはできないでしょうから。

  あんな土地、どこの部族も欲しがりませんよ」

 「じゃあこの争いは……?」

 「次の大陸の覇権争い、といっていいでしょう」

 「覇権争い……?」

 「そうです。今までの覇権部族だった私たち仙翁一族は魔王の侵攻を食い止めることはできなかった……わけですから」

 「な、なるほどな」


 南雲は自分の苦虫を噛むような表情を見せながらも、これから起こるであろうことを説明してくれるのかと思った矢先――。 


 唐突に――。

 ガシッ

 南雲が俺の腕を掴んだ。


 「ということで、私と来てもらいます」

 南雲は俺を引っ張って、どこかに連れていこうとする。


 「ダメ」

 そんな俺と南雲の間に恐ろしく血相を変えたみくるちゃんが立ちはだかった。


 「南雲ちゃん、ずるいなー。抜け駆けだなんてさ」

 イルマも同様だ。


 おいおい。これはまさか……。


 瞬間、空で鳴り響く雷鳴。

 空を見上げると真っ黒な雲が不自然に集まってきていた。


 「シューシン、みくるのもの」


 ドゴォォーーーーンッ。



 一瞬の光ともに耳をつんざくようなものすごい衝撃音。

 そして、まるで空気をも切り裂くような衝撃が共なった。

 俺の目の前に雷が落ちたのだった。

 そこは先程まで南雲が立っていた場所と一致する。


 「時間がないのです! 今すぐ修真さんを連れてかないといけないのです!」


 だが、南雲はみくるちゃんの天地想像の攻撃を前もって躱していた。

 恐らく操術の応用で心を読んでいたのだろう。

 そんな南雲はみくるちゃんに声を荒上げ、必死に訴えていた。


 俺を連れていかないといけない?

 ……どういうことなんだ?


 「それは僕たちも一緒だよ。南雲ちゃん!」


 イルマの強烈な蹴りが南雲を襲った。

 南雲は躱すことはできずに受身を取るので精一杯。

 南雲はみくるちゃんに気を取られていたのか反応が幾分か遅れたのだ。

 とはいっても、反応が遅れたのはほんの一瞬。

 イルマの蹴りはそれほどまでに強烈かつ素早い一撃だった。


 「この素早く強烈な一撃、自己強化の踊り『進化の舞』ですか」

 「へー。よく知ってるね。君にはあまり見せたことはなかったのに」


 またしても一瞬の光ともに耳をつんざくようなものすごい衝撃音。


 「ちっ、はずした」

 「へー。そういうことするんだ」

 「やるしかないようですね」


 交錯する三人の視線。

 またしても決戦の火蓋はここに切られようとしていた。


 なんでだよ……なんで俺たちが争いをしなくちゃならないんだよ。


 世界は平和になったんじゃないのか? 

 何のために、あの修羅場を乗り越えてきたんだ。

 俺たちは一体何のために……。戦ったんだよ。

 


 「もういいよ。帰ろう。修真」

 そんな中、雀の鳴くような小さな声が俺に届いた。

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