第十五話「ユメノとちゅう――修羅場に問うカクセイ」
視線を走らせ、ナグモとイルマとミサキの姿を確認すると、彼女たちは魔族と交戦していた。
ナグモとイルマはみくるたちに近い中央で左右に分かれて、ミサキは後方でこちらに背を向けてだ。
つまり、誰も前方にいるシューシンを手を貸すことのできない状況だ。それにシューシンのピンチに気が付いているのもみくるだけだろう。本人もまだ気が付いてなさそうだ。
「ギイイィィィッッッッ!!!!!」
その声が上がってようやくシューシンは気が付いたようだ。
けれど今のシューシンは剣を持ってない。よって不意を付かれた場合、ほぼ抵抗する手段を持たない。
みくるを助けてくれた「あの時」とは勝手が違った。
今のみくるは天地想像の力の限界、『三つ』の上限を知っている。お父さんもいる。それに酸性雨も降っている。たくさんの枷がみくるを縛り付けていた。だから今この状況でみくるが何もできないのはすぐに想像できた。
だけれども――。
あの時のように、魔王の時のように、もうシューシンに助けられてばかりじゃダメなんだ。
『眠れる森の美女』。あの時に湧き上がった激情がそれを証明している。
だから、今度はみくるがシューシンをなんとしても助ける。絶対に助けてみせる。
みくるは――「想像」を超える。
× × ×
「ギイイィィィッッッッ!!!!!」
「っ!」
俺が振り返った時には、汚い涎を垂らした魔族が目の前にいた。
『目的地瞬間移動穴』。エミリオンの仕業だろう。
咄嗟に躱そうとするが魔族の動きが早い。酸性雨のダメージを受けていない魔族だった。
そう。気づいたときにはすべてが遅かったのだ。
俺はただでは済まないことを覚悟した俺は抵抗することもなく身構えて、不覚にも目を瞑ってしまった。
痛いから逃げようとするのが、情けなくも人間の性なのであろう。
「……?」
しかし、いつまで経っても痛いがこない。不審に思った俺は薄目をあけて状況を確認する。
すると、そこには――。
「みくるは、シューシンを、ぜったいまもる!」
背後にいたはずのみくるちゃんが感情を露にして俺に背を向けていた。
俺は辺りを見回し状況を確認する。すると 『目的地瞬間移動穴』から出現した魔族はもちろん、『目的地瞬間移動穴』自体も、辺りにいた酸性雨に打たれた魔族も忽然と姿を消していた。
辺りには雨が降る音だけが聞こえていた。
「みくる……ちゃん?」
俺は事情を聞こうと、その小さな背を問いかける。
ゆっくりと振り返った彼女を見て、俺は――瞠目した。
「みくるちゃん……その瞳……」
みくるちゃんの瞳は確かに綺麗な蒼色だった。
だが、今は――紅色。彼女の右目だけが真紅に染まっていた。
「ちょ、ちょっと突然魔族たちが消えたんだけど一体――何その目!?」
恐らく美咲たちも事情を聞きに来たのだろう。彼女たちは後方からやってきた。
美咲を始めとする彼女たちもみくるちゃんの異変に気がついたようで驚いていた。
「……俗にいわれるオッドアイ、というやつでしょか」
南雲が顎に手を当てて言う。オッドアイ。俺も聞いたことがある。
でも、それは物語の中でのみ存在する架空もの、想像上のものだとばかりだと思っていたが、まさか現実で見ることになるとは……。
「シューシン。これ」
それまで一切口を開かなかったみくるちゃんが俺たちの疑問に答えずに唐突に言い放つと、目の前に俺が以前使っていた刀にして、世界が平和になったと思い込み手入れを怠っていたためかあっさりと魔王に破壊された『叢雲』そっくりの刀が創造された。俺は宙に浮くそれを両手で受け取った。
そして、俺は奇異に気がつく。
「え……みくるちゃん、これ『四つ目』じゃない!?」
頭上の岩盤はいまだ俺たちを酸性雨とひぐまの振り回す大木から守ってくれている。
その数――『三つ』。
そして俺の剣を創造したことによって――『四つ』
これは今までの天地想像の力では成し得ないことだ。
「……」
またしてもみくるちゃんは答えず、両腕を前に突出して瞑目する。
目をかっと見開いたかと思うと紅と蒼の輝きが岩盤に小さな穴をあけ、みくるちゃんから天へと真っ直ぐに伸びていく。すると死の雨降る魔界上空に無数の大きな穴が出現した。
「あ、雨が……」
そして、魔界はその魔界らしさを失った。
酸性雨をもたらしていた雲はどこかに消え去り、魔界の空には俺たちの暮らす大陸よりも燦々と輝く太陽が戻ってきたのだ。
「シューシン、てんちそーぞーのチカラは、かくせいした」
それと同時にみくるちゃんはこちらに紅と蒼の瞳を向けて、唐突に断言した。
『覚醒』
それは俺が魔王と対峙した時にしたものだと勘違いされたものだ。
でも、みくるちゃんのこれは間違いない。
みくるちゃんは自分の壁を超えた。
先程、みくるちゃんが雲を消す際に見せた数えきれないほど大量の『目的地瞬間移動穴』。
それが今の彼女の技量を示していた。これは以前の彼女とは桁違いのものであろう。
「だから、シューシンいくよ」
心なしか、ぶっきらぼうないつも話し方とは違い、子供らしい愛嬌あふれるものに変わっている。
この二つの変化が俺に確信をもたらした。
だから――答えを得ることできなかったあの問いを今一度問うのだ。
「みくるちゃんは今も、つまんないかな?」
「いろいろ、ふくざつだけど――」
「まあまあ、かな」
みくるちゃんは異なる色を持つ左右の瞳を雲一つなくなった空に向けて、綻んだ小さな笑顔をくれた。
彼女はその瞳を遠くにいる己の父親へと移すと、彼が創りだした大木と、自らが創った岩盤を『目的地瞬間移動穴』に飲み込ませる。
それと同時に俺たちはひぐまに立ち向かうのだった。
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