第十話「修羅場に咲く一輪の花のつぶやき――修羅場の正体」
「「「「魔界!?」」」」
アタシに力を貸してくれた今のところは味方の四人の女の子が驚きの声を上げた。
『味方』
それだけならば聞こえはいいかもしれない。だが、これはアタシが彼女たちを脅した結果に生まれた関係だ。この関係は決して本物ではない。虚偽の関係だ。『味方』であっても『仲間』ではないのだ。そして、それらの虚偽の関係性は瓦解するものだ。それは戦争における勝者と敗者のような関係性に似ている。
なぜなら、そこには『信頼』の二文字は存在しない。あるのは『疑念』と『怒り』と『恐怖』だ。
「な、なんでこんなところに……まさかっ!」
疑念をあたしにぶつけたのは岸野の二本刀の一刀。
光の剣『天羽々斬』をこの世で唯一扱うことができるといわれる女剣士。岸野美咲。
彼女は、その活発そうな目を吊り上げつつ、短い髪を束ねたショートポニーテールを揺らしていた。それに加えて、虎を思わせるような威嚇の構えを取っていた。ものすごい威圧感だ。さすがは、あの岸野修真に並び立つ者、といったところか。
まあ、近しいゆえに遠いといったところか。彼女なりに頑張ってきたのだろうけど。
「美咲さん。どうやらそういうつもりは彼女にはないようです。……今のところは」
次にあたしに怒りと疑念が織り交ざったような視線を向けたのは仙翁南雲。
大陸の北に大きく広がる領土を持つ仙翁一族の次期当主筆頭。彼女は頭の回転が早く、操術を駆使して他人の心が読める。そういうことから彼女は参謀として岸野修真たちを支えていた。彼女の考える作戦には何度苦戦を強いられたことか。
それにアタシが見た限りだと彼女も……。
頭が良くて、心が読めても、こればっかりはうまくはいかないということか。
地味で奥手そうな見た目のわりには結構面白そうな人間だ。
「そ、それよりも修真君は本当に大丈夫なのかい?」
疑念をぶつけるでもなく怒りでもぶつけるでもなく修真の心配をしたのは天条イルマ。彼女はその中性的な顔だちや言葉遣いとは裏腹に乙女な一面が他の三人よりも強いように思える。
仮に仙翁南雲の『操術』を守りとするならば、彼女の『舞い』は攻めといったところだろうか。現に今もアタシが抱きかかえている岸野修真の額に手を当て、積極的に看病していた。
先程の戦いの後ということを考えるともう一段階進んだアクションの一つでも起こしてもよさそうなものだが。まあ、これはこれで面白そうななのでよしとしよう。
「…………」
無言で辺りをきょろきょろと見回しているのはユメノみくる。
彼女はなんというかよくわからない。
彼女はそもそも言動が少ないし、あまり表情を変えることがない。ミステリアスな存在だ。
それに彼女は…………。まあ、それは関係ないか。
実に色とりどりな彼女たちだが、今ばかりは同じ色を示している。
具体的にその色はあげるとするならば、それは『黄色』。警戒の色だ。
まあ視点を変えて『桃色』という表現も悪くはなくはないか。
「エミリオンさん。あなたは修真さんがああなったことに心当たりがある、そうですよね?」
仙翁南雲はそう断言した。これが心が読める仙翁一族の秘術『操術』か。
素晴らしい術だとしみじみ思う。けれど、術者は正直まだまだだね。
「ナグナグ。君にも心辺りがある。そうだね?」
『操術』を用いることなくてもそれはわかる。
なぜなら彼女、いや彼女たちの行動はあまりに不自然なものだったから。
「君たちは修ちゃんの前であんなにもわざとらしく争って見せたよね。君たちが大好きな修ちゃんの静止の声も聞かずにさ」
「そ、それは……」
「ナグナグ……君たちは――」
この後は、あえて言葉にしなかった。仙翁南雲の操術を逆に利用させてもらおう。
――卑怯だよ。
「……っ!」
一番の最初の修羅場は岸野美咲を除いて、三人で意図したものだった。
まあ、どうせ仙翁南雲のことだから、岸野美咲が来ることも想定済みだったのかもしれないね。そして、修羅場を演じて見せた。
君たちはおぼろげながらに気づいているんだ。岸野修真の力の正体を。
そして、あわよくばそれを利用しようとした。『四部族全面戦争』の抑止力として。
どう? あってる?
言葉にせず問いかけてみる。
「……そうよ」
仙翁南雲はそう答えた。
やっぱりそうか。君たちは――とことん卑怯だね。
岸野修真にもそうやって嘘をついてきたんだね。彼には何も真実を伝えずにさ。
仙翁南雲の表情に少しばかりの動きが見られた。
やっぱり半人前だね。
最初の修羅場は、前哨戦だったんじゃなくて、代理戦争といったところだったんでしょうね。四部族全面戦争のね。
仙翁南雲、天条イルマ、ユメノみくる。君たち三人は平和を望んだ。そうだよね?
だから――あんな醜い自己犠牲を払おうとしたんだ。
「……」
仙翁南雲は何も答えない。図星であろう。
そして、岸野修真はそんな君たちを見て、拒否反応を起こしたんだ。
それはもう君たちをこの世から消さんばかりにね。
それが――修羅場の正体でしょ?
「……ええ、そのとおりです。魔王エミリオン。
私たちは『四部族全面』を止められなかった。私たちは間違えたんです。
あの時の修真さんを見たくなかったから、その一心で私が発案したんです。二人に」
あの時というのは恐らくアタシと対峙した、その時のことを言っているのだろう。
仙翁南雲は天条イルマとユメノみくるを、ちらりと見やる。どうやらそれだけで二人には伝わったようで、
「……そうか。バレてしまったんだね」
「……しかたない」
二人はそう言った。
「え、何?」
一人、状況がわからない岸野美咲は仙翁南雲に説明を求めた。
小さくため息をついた仙翁南雲は肩をすくめた後、それに応じた。
――……――……――……――……。
「……ねえ、それってさ」
話しを聞いた岸野美咲が、頬を赤らめて、下を俯きながら呟いた。
「あたし……なんか恥ずかしいわよね……」
「そんなことないよ。美咲君」
天条イルマは岸野美咲の言葉を即座に否定した。
「だってそれだけ君が修真君のことを愛してるってことだろ?」
天条イルマは何気なくそう言ったが、仙翁南雲は顔をしかめ、ユメノみくるはいつもより一層無表情に、岸野美咲に関してはもう真っ赤になっていた。
「べ、べべ別にそういう意味で言ったわけじゃ――」
「いいんだよ。恥ずかしがらなくても」
「そうですね。美咲さんと修真さんは兄妹ですから。当たり前のことですよね?」
「そのとーり」
「……でも兄妹とは言っても、血はつながってないから」
なんだか面白い展開になってきたから、ここで一つ起爆剤を用意してあげようかな。
「――ねえ『眠れる森の美女』って知ってる?」
魔界にて、決死の戦いが始まった瞬間だった。
でも――岸野修真を始めとする彼女たちは、
時に笑いあえる関係性で――。
時に自己犠牲を払いあえるような関係性で――。
時に譲れないものがそこにはあるような関係性で――。
アタシは――。
ただそんな関係性――『仲間』が欲しかったんだ。




