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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
二年生編・二学期前半
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知りたい×悩み

 修学旅行が約2週間後に迫っていた今日。1時間目の時間を丸々使って俺たちのクラスは修学旅行での班決めをしていた。


「おう、龍之介。今年は俺たち誰と組もうか?」


 悪友の渡が俺へと近づきながら、今年の班のメンバーについて声をかけてきた。

 それにしても、既に俺と一緒の班になっている気でいるのがなんとなく面白くない。


「えっ? 今年は渡とは組まないぜ?」

「ええっ!? なんでだよ!」


 ちょっと意地悪かもしれないが、そんなことを口にしてみた。

 渡は俺からの予想もしなかった言葉に驚いたようで、凄まじく焦りに満ちた形相で俺に詰め寄って来る。


「だって渡とは去年組んだしなあ~」

「んなこと言うなよ龍之介ちゃ~ん。今年も一緒に組もうぜ」

「こ、こらっ、まとわりついてくるな! 鬱陶しい!」


 タコのように身体をくねらせながら、渡は俺の身体に纏わりつく。いつもながら気持ちの悪いアプローチをして来るやつだ。


「ちっ、つれないやつだなあ~」


 渡を力ずくで引き剥がすと、口を尖らせながらそんなことを言ってきた。

 ほんの冗談のつもりだったが、ここまで鬱陶しいと本気になりたくなる。


「ねえ、龍之介、良かったら今年も一緒の班にならない?」


 そんな中、右隣の席に居るまひろが声をかけてきた。


「お、ちょうど良かった。俺もまひろに声をかけようと思ってたんだよ」

「そうだったんだ、良かった」


 にっこりと笑顔を浮かべるまひろ。んー、今日も可愛いぜ!


「おい龍之介! 涼風さんのお願いは快諾して、なんで俺のお願いは拒否るんだよ!」

「あれっ? 渡、まだ居たの?」

「ウッキ――――! 龍之介の鬼畜――――――――!」


 凄まじい勢いと剣幕で俺を罵ってくる。いつもながら口の悪いやつだ。


「もう、龍之介、あんまり意地悪しちゃ駄目だよ?」

「ちぇっ、分かったよ」


 まあ元から冗談だったわけだけど、まひろにこう言われたらこれ以上おたわむれを続けるわけにもいかないだろう。


「さすが涼風さん、この世の天使だ」


 半泣きでまひろに擦り寄って行こうとする渡。

 そんな渡をまひろに近づけさせないようにと、俺は渡の服を背中から掴んで進行を妨害する。


「なんだよ、龍之介」

「なんでもないが、まひろには近づくな。まひろがけがれてしまう」

「穢れるってアンタ……俺はそんなに穢れてるのか?」

「ほら、渡って変態だから」

「なるほど! ――って、誰が変態じゃコラーッ!」


 教室内でうるさくがなり立てる。そんな騒がしい渡は他のみんなの注目を集めて非常に恥ずかしい。


「龍之介さんと日比野さんはいつも元気ですね」

「ホント、いっつも龍ちゃんと渡くんは騒がしいよね」

「おいおい、俺とこのへんたいを一緒にするのは止めてくれないか? 俺が可哀相じゃないか!」

「アンタ本当に容赦ないねっ!」

「ところで茜、美月さん、修学旅行の班はどうする?」

「ちょっと!? 俺を無視しないでくれる!?」


 必死な渡を華麗にスルーし、俺は2人の返答を待つ。


「私は龍ちゃんたちと組もうと思ってそれを言いに来たんだ」

「私もです。今年もご一緒して下さい」

「うん、じゃあそうしよう!」


 俺は快く2人の申し出に頷いた。メンバー的には去年と大して変わらないが、気心が知れている分は楽でいい。


「あ、あの……私も仲間に入れてもらっていいかな?」


 渡がワーワーとわめき散らす中、後ろの席のるーちゃんが遠慮がちにそう声をかけてきた。

 そうだった。るーちゃんにはもう、一緒の班になりたいっていう意思表示は受けてたからな。


「る――朝陽さんは転校して来たばかりだし、みんなどうかな?」

「俺は全然OKだぜ!」

「うん、僕も歓迎するよ」

「同じ転校生同士ですし、仲良くしたいです」

「…………」


 渡、まひろ、美月さんが歓迎の意を示す中で、ただ1人、茜だけがその口をつぐんだ。


「な、なあ茜、一緒にいいだろ?」

「…………」


 そう聞きなおしてもなお、茜はその口を開こうとしない。

 そんないつもと違う茜の雰囲気を察したのか、渡もまひろも美月さんも、少し困惑したように茜とるーちゃんを交互に見ていた。


「みんながいいって言うなら、いいんじゃないかな……」


 茜はそう言うと俺たちから離れ、自分の席へと戻って行った。


「急にどうしたんだ? 水沢さん」


 そう言いながら渡が俺へと視線を向けてくる。そしてそれを聞いたまひろと美0月さんも、同じように俺へと視線を向けてきた。


「いやまあ、なんと言うか……」

「お前がまたなにかしたんじゃないのか?」


 どう言えばいいのだろうかと返答に困ってポリポリ頭を掻いていると、渡がそんなことを言ってきた。

 直接的に俺がなにかをしたわけではないけど、茜にとっては俺がるーちゃんを同じ班に迎え入れようとしたことが面白くない――と言った思いもあったかもしれない。


「みんなごめんね。鳴沢くんも水沢さんも、なにも悪くないの。私が悪いだけだから……」


 るーちゃんは伏せ目がちにそう言うと、しょぼんとした感じで自分の席へと戻ってから顔を伏せた。

 俺にはるーちゃんの言った言葉の意味が分かるけど、他の3人には分かりようもないだろう。

 本来なら“それってどういうこと”――みたいなことを聞き返されてもおかしくないところだけど、なにかを察してくれているのか、3人はそんな問いかけもせずに黙ってるーちゃんを独りにしてくれた。

 しかしそれでも3人がなにかを聞きたそうにしていたのは確かだった。


× × × ×


 その日の放課後、俺はいつものように荷物をまとめて鞄に詰め、教室をあとにした。


「うーん、どうしたもんかな」


 ホームルームでの班決めを行ってからずっと、俺はるーちゃんと茜のことをどうしようかと悩んでいた。

 行動を共にする以上、ホームルームの時のようなギスギスした感じでいてもらうのはやはり困る。

 しかしあの2人の間にある確執は、簡単なことでは解消できないだろう。

 だとすれば最悪の場合、俺はともかくとして、渡やまひろ、美月さん、るーちゃんや茜にも嫌な思いをさせることにもなりかねない。それだけはなんとしても避けたいところだ。


「――龍之介ー!」


 校門を出てしばらくした所で、後ろから涼やかで明るい声がかけられた。

 俺はその聞き慣れた涼やかな声の持ち主の姿を目に捉えるため、足を止めて後ろを振り返る。


「どうしたまひろ? 部活はどうしたんだ?」

「今日は顧問の先生に急用ができて部活がお休みになったんだ」

「あー、そうだったんだ。じゃあ一緒に帰るか」

「うん」


 俺はまひろと並んでのろのろと歩きだす。

 こうしてまひろと2人で帰るのは、かなり久しぶりな気がする。


「――ねえ、龍之介、なにか悩んでない?」


 帰り道、るーちゃんと茜の件を考えつつも、俺はまひろとの会話を続けていた。しかしどこか上の空だったのか、心配そうな表情でまひろがそんなことを言ってきた。


「いや、別になにもないよ」

「本当に?」

「ああ」

「…………」


 俺がそう返答すると、まひろはなんだか寂しそうに顔を俯かせた。


「ねえ、龍之介。僕も龍之介と友達になって長いから、なんとなく龍之介が悩んでいることは分かるよ。だからね、悩みがあるなら話してほしいんだ。もちろん無理にとは言わないし、僕なんかじゃ頼りにならないかもしれないけど……」


 そう言いながら苦笑いを浮かべて俺を見てくる。

 そっか、まひろとも随分長いつき合いだからな。俺が悩んでいることなんてお見とおしってわけか。


「……すまん、まひろ。ちょっと話を聞いてくれないか?」

「うん、もちろん聞くよ」


 まひろは俺の言葉に対してにこやかに微笑んでくれた。

 考えてみればまひろも過去の出来事を知る1人。ならば今回の件についても他の人よりは理解できるはずだ。

 俺はちゃんと話をするために帰路の途中にある公園にまひろを誘い、そこでこれまでのことをまひろに話して聞かせた――。




「そっか、なんだか見たことがある女の子だなとは思ってたけど、まさか朝陽さんがあの子だったなんてね……」


 俺から話を聞いたまひろは、なんとも複雑な表情を浮かべていた。まあそうなるのは分かる気はする。

 なんと言ってもあの出来事は俺のトラウマ3本指に入る出来事だったし、まひろもそんな俺の気持ちを知っていたしな。


「なあ、まひろ。どうしたらいいと思う?」


 情けなくも俺はそうまひろに尋ねる。

 その言葉にまひろは少し悩むように右手を口元に当てて悩んだあと、俺の方を向いてこう質問してきた。


「ねえ、龍之介は朝陽さんのことをもう許してるの?」

「えっ?」

「だってあんなことをされたんだよ? 普通だったら許せないと思うんだけど」


 確かにまひろの言うことはもっともだと思う。現に俺のトラウマになった出来事だし、あの出来事の経緯を聞けば俺がるーちゃんを許せないと思うのが普通だろう。

 でも俺にはあの出来事についてちょっとに落ちないこともあった。


「……実はあの出来事なんだけどさ。四年生になっていつの間にかるーちゃんが引っ越してた時、友達の1人からちょっとした噂を聞いたんだ」

「噂?」

「ああ、実はるーちゃんはある女子グループの虐めを受けていたんだけど、その虐めに加担していた女子が、るーちゃんに告白してきた男子を言いふらしておとしめていたって話を聞いたんだよ」

「龍之介はその噂を信じるってこと?」

「もちろん確証があるわけじゃないけど、確かにその虐めをしてたっていう女子連中とるーちゃんの間には確執のようなものがあったのは確かだと思うんだよ。俺も何度かそんな場面を見たことがあるし、それに俺はるーちゃんがそんな酷いことをするとは思えないんだよ。だから許すとか許さないとか言うことより、どうにかしてあげたい――って気持ちの方が強いのかもしれない」


 そうは思いつつも、それが俺の都合のいい思い込みだという可能性はある。

 るーちゃんを信じたいと思いながらも、どこかで疑っている自分も居ることが本当に嫌になり、俺は顔を深く俯かせた。


「話はよく分かったよ。ありがとう、ちゃんと話してくれて。なにができるかは分からないけど、僕なりに協力するから」

「悪いなまひろ、話せて少し気が楽になったよ。ありがとな」

「ううん、どういたしまして」


 そう言って優しく微笑んでくれるまひろの表情は、本当に天使のように見えた。

 そして少しだけ心が軽くなったのを感じながら、俺は再びまひろと談笑をしてから公園をあとにした。

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