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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
二年生編・夏休み
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お勉強×息抜き

 友達である陽子さんの通う桜花おうか高校総合演劇科。そこが夏休みの半分を利用して地方を巡る演劇公演の手伝いをしていた俺は、無事三日間の予定を終えて昨日自宅へと帰って来た。

 予定ではお昼頃に自宅へと帰り着く予定だったんだけど、帰り着いたのは17時を過ぎてから。

 なぜそんなに遅くなったのかと言うと、あの宿泊所にあったレトロシューティングゲームをやっていたからだ。

 あの後、陽子さん達を見送ってからすぐに帰ろうと思っていたんだけど、どうしてもあのゲームをクリアーしたかった俺は、あのまま温泉旅館でゲームに熱中していた。しかし前に行き詰まったステージで止まってしまい、かなりの時間を費やしてしまった。

 そしてゲームに熱中している時に杏子から電話が入り、帰って来ない事について随分ブツブツと文句を言われたのだが、事情を説明するととりあえず納得し、しかも俺にゲーム攻略のアドバイスまでしてくれた。

 それにしても、問題のステージを動画で撮影したのを送り、それを見ただけで的確なアドバイスを出来るとは、我が妹ながら見事なゲーマーっぷりで恐れ入る。まあ、おかげであの難解なゲームをクリアーできたんだから良かった。

 でも、こんな事なら最初から杏子にアドバイスをもらえば良かったなと、今更ながらにそう思う。

 そんなこんなで地元へと戻った俺は、とりあえず今日から思いっきり夏休みを楽しもうと思っていたわけだが、その考えは朝早くに自宅へとやって来た人物によって脆くも崩れ去る事になった。


「どうしたの龍之介? 解らないところでもあった?」


 今日も強力な陽射しが地表を照らしていた午前10時過ぎ。

 俺の部屋にある小さなテーブルの上にノートを広げてペンを走らせていたまひろが、小首を傾げながらそう聞いてきた。


「ああ。ちょっとここが解らなくてさ」


 まひろの左斜め前に座っていた俺は、解けない数式が書かれた教科書をまひろの方へと差し出した。するとまひろは指し示した問題を見ながら、軽やかに自分のノートに計算の走り書きをしていく。

 そしてその答えを導き出すと、俺に向けてその解き方の説明をしてきた。


「えっとね、これは――」


 説明を始めたまひろの隣へと移動し、まひろの言葉に耳を、走らせるペンの動きに目を向ける。

 まひろの教え方は上手いもので、まるで俺がどこでどうやってその問題が解けなかったのか、その全てを理解しているかの様な解説だった。

 それにしても、今更だがまひろって本当に女子みたいだ。肌は白いし線も細いし仕草も可愛いし、何より男子とは違った凄く良い匂いがする。少し甘い感じのフルーティーな匂いが。


「龍之介? ちゃんと聞いてる?」

「あっ、わりいわりい」

「もう。ちゃんと聞いててよね」


 まひろはそう言いながらぷくっと頬を膨らませる。


 ――何この可愛い子! もっと怒らせてみたい!


 などと危ない考えが脳裏を横切る中、その危険な発想を頭を振る事で振り払いつつ、まひろの説明に再び目と耳を傾ける。

 夏休み四日目。俺はまひろと共に夏休みの宿題と向き合っていた。

 この状況は何だか去年の事を思い出してしまうが、教えてもらう相手がまひろと言うのが最大にして決定的な違いだ。

 去年は茜によって部屋の中に缶詰にされ、しかもスパルタ先生の様に竹刀でビシビシと叩かれながらの作業だったから、それに比べたらまひろの包み込む様な優しい教え方は天国。まさに月とスッポン程の差がある。

 本来は去年と同じく俺の親に頼まれた茜が来るはずだったらしいのだが、急に家族旅行へ行く事になったとかで予定が変わり、茜が急遽まひろに代打を頼んだらしい。

 それにしても、急な申し出だったと言うのにこんな面倒な事を引き受けてくれるなんて、まひろは本当に優しい奴だ。しかも茜と違って少々サボっても竹刀が打ち下ろされる心配も無いし、至って快適なホームワークライフだと言えるだろう。

 だがやはり、こうして勉強漬けの一日を送るというのも味気無い。そこで俺は、一つの提案をまひろに申し出てみた。


「なあ、まひろ。気晴らしに少し遊びに行かないか?」

「えっ? 駄目だよ。だってまだ今日の予定範囲まで終わってないもん。茜ちゃんにも『甘やかしちゃダメだよ?』って言われてるし」


 困った様な表情でそう言うまひろ。どうやら茜に先手を打たれていたらしい。


 ――ちっ! 茜の奴め、余計な事を吹き込みやがって。


 しかしここで茜の思惑どおりに事が進むのは面白くない。俺は何とかまひろを説得出来ないかと抵抗を試みた。


「そう言うなよまひろ。せっかくの待ちに待った夏休みなんだぜ? 少しくらい遊んだっていいじゃないか」

「うーん……でも予定もあるし……」


 まひろはしっかりしている奴だが、結構押しに弱いところもある。それに長年親友をやっているから、どう攻めると効果的かはよく知っているんだ。


「予定はあくまでも予定じゃないか。人生予定通りに行く事の方が珍しいんだからさ」

「それはちゃんと予定通りにしようとしてないからでしょ?」


 ――うっ……今日のまひろはちょっと手強いな。


 正論中の正論を突かれて勢いを失いそうになるが、ここでめげるくらいなら最初から抵抗などしていない。


「それはそうかもしれんが、こうして夏休みをたっぷりと満喫できるのは学生の内だけなんだぜ? 宿題なんて遊び終わってからやってもいいじゃないか。要は今日中に予定の場所まで終わればいいわけだし」


 そう、結果が同じなら過程など大した問題ではない。まあ、あくまでもそれは宿題においての話だが。

 それにせっかくの休みを部屋での勉強だけに費やすのは、俺にとって息苦しくてたまらない。やはり少しでも息抜きはしたいんだ。


「……それじゃあ、遊び終わった後でちゃんと予定の場所まで勉強するって約束できる?」

「もちろん! ちゃんとするから!」

「……分かった。それじゃあいいよ」


 俺の返事に対してにこっと微笑むと、まひろは開いていたノートとテキストをそっと閉じた。

 それを見た俺も、同じくノートとテキストを閉じて積み重ねる。


「それで、何をして遊ぶの?」

「そうだな……久しぶりにゲーセンにでも行ってみないか?」

「うん、いいよ。それじゃあ行こっか」


 まひろは準備を済ませて立ち上がると、そのまま部屋を出て行く。

 そういえば、こうしてまひろと二人でゲーセンに行くのもかなり久々だ。中学一年生、二年生の時は一週間に一度の頻度で行ってた時期もあったけど、さすがに三年生になると受験の事もあるから、一緒に行く事はなくなった。

 そんな懐かしい事を思い出しつつ、まひろと一緒に駅近くにあるゲームセンターへと向かう――。




「ここは相変らず盛況みたいだね」

「そうだな」


 目的地へ着いて中へ入ると、まひろは久々のその雰囲気に少々圧倒されている様だった。

 俺もゲーセンに来るのは前に愛紗と行った時以来だから、かれこれ四ヶ月ぶりくらいだろうか。

 それにまひろと最後に行ったのは、中学三年になる直前の三月頃だったと思う。てことは、二年ちょっとの間は一緒に来てなかった事になる。


「どれで遊ぶ?」

「そうだな……久しぶりにあれをやるか」


 そう言って一つのゲームを指差す。するとまひろは笑顔で一言『うん!』と言ってそのゲーム機へと向かい始める。


 ――うむ……やっぱりまひろって可愛いよな。何とかまひろを女性にする方法は無いだろうか? 今度ネットでそんな方法が無いか探ってみるか……。


 そんな事をわりと本気で考えつつ、俺はまひろの後を追う。


「――いやー、あれから随分経ってるってのに、全然腕が衰えてないな。ギャラリーも絶賛してたし」

「は、恥ずかしいから止めてよ」


 そう言いながら綺麗で白い顔を真っ赤にし、手にした紅茶缶にちびちびと口をつけるまひろ。

 今までずっとリズムゲーで遊んでいたんだが、まひろはリズム系ゲームが凄く上手だ。その上手さたるや、最高難易度の内容を涼しげな笑顔でノーミスクリアーできるぐらいの腕前で、それを見た通りすがりの人を平気でギャラリーとして惹き込めるくらいに凄い。


「しかしホントに音楽ゲーとかリズムゲーは上手いよな。こればっかりは俺も太刀打ちできん」

「あははっ。多分、小さな頃からピアノを習ってたりしたからだと思うよ」


 そう、まひろは小さな頃からピアノを習っていたらしく、その腕前はなかなかのものだ。

 小学生や中学生の時に何度かまひろがピアノを弾くのを見た事があるけど、素晴らしく優雅で美しいものだったのを覚えている。それでいて他の楽器もある程度そつなくこなすんだから、そこがまた凄い。


「流石はまひろってところだな」

「ありがとう」


 にこにこと微笑むまひろは本当に可愛らしい。この微笑だけでご飯三杯、いや、五杯はいける。

 こんな事を言うとアッチの気があるのかと思われそうだが、実際にまひろを前にしたら絶対に俺と同じ事を想像するようになるはずだ。

 それから休憩がてら店の隅っこにある椅子に座ってのんびりしていると、まひろがある一点をじっと見つめ始めた。


「どうかしたのか?」

「えっ? あ、うん。あそこのクレーンゲームにあるうさうさが可愛いなと思って」


 まひろはそう言ってクレーンゲームコーナーの一角を指差す。そこにはうさぎのキャラクター、うさうさが大きなにんじんを抱えたぬいぐるみがあり、中学生くらいの女子達が必死でそれを取ろうとしていた。

 しかしその子達は何度挑戦してもぬいぐるみが取れず、ついには諦めてその場から去って行った。


「あれが欲しいのか?」

「うん。でも、高校生にもなって変だよね」


 そう言って苦笑いを浮かべるまひろ。

 まあ、普通に考えれば変に思うかもしれないけど、まひろに限ってはまったくもって違和感がない。


「別に変じゃないさ。どーれ、いっちょ俺の腕を見せてやるか!」


 そう言って空になったコーヒー缶をゴミ箱に入れ、目的のうさうさがあるコーナーへと向かう。

 そしてぬいぐるみの状況を一通り観察した後、この状態では取るのが困難だと判断した俺は、店員さんに言って元の位置までぬいぐるみを戻してもらった。

 こういった大物を狙う場合、一回で取ろうなどと考えてはいけない。少なくとも五回は挑戦するくらいの気概でいたほうがいい。まあ、五回でも少ないとは思うけど。

 俺は慎重に狙いを定め、うさうさゲットの為にクレーンを動かし始める。


「――良かったな、まひろ」

「うん。ありがとう」


 高さ六十センチ程はあるうさうさを、両手でギュッと抱きしめながら嬉しそうにしているまひろ。こんな大物が三回で見事に取れたのは、本当にラッキーだったと言えるだろう。

 だが、500円で四回プレイだったので、残る一回は店員さんに言って新しいぬいぐるみをセットしてもらったんだけど、流石に一回で取るのは不可能だと俺は思っていた。

 しかし何の偶然か、最後の一回で見事に二個目をゲットできてしまった。

 とりあえず運が良かったんだなと思った俺は、二個目を杏子にでもやるかと思っていたんだけど、俺の前にプレイしていた女子中学生が羨ましそうにこちらを見ていたのが見え、俺は二個目のうさうさをその子達に進呈した。

 我ながら甘いとは思うけど、妹が居るからか、ああいった視線にはめっぽう弱い。まあ、喜んでたからいいけどな。

 この後も俺とまひろは、久しぶりのゲーセンを思いっきり楽しんだ――。




 時刻は18時を少し過ぎたところ。ゲーセンで思いっきり遊んだ後、俺はまひろを駅まで送っていた。


「あーあ。龍之介に乗せられてこんな時間まで遊んじゃった」


 そうは言いながらも、非常に楽しげな笑顔のまひろ。

 まあ、確かにまひろの言う様に、息抜きと言うにはかなり長い時間遊んでしまった。


「そう言うなよ、まひろ。お前も結構楽しんでたじゃないか」

「そうだね」


 うさうさを抱き抱えたまひろが、にこにこと笑顔を浮かべる。その表情は本当に嬉しそうだ。


「気をつけて帰るんだぞ?」

「うん。あっ、龍之介、ちゃんと宿題はやっておかないと駄目だよ?」

「わ、分かってるよ」


 でもまあ、今日くらいこのまま放置してても大丈夫だろう。明日頑張ればいいだろうし。


「もし明日来た時にちゃんとしてなかったら、龍之介の事を嫌いになっちゃうからね?」


 意地悪な感じでそう言うのだが、それがまた可愛らしい。まひろ程何をやっても可愛い男など、この世には居ないだろう。


「あっ! 何でニヤニヤしてるの?」


 どうやら思わずニヤついていたらしく、それを見たまひろが口をアヒルの様にして抗議してくる。

 それがまたまた可愛らしいので、更にニヤケそうになるが、俺はそれを必死に我慢した。


「わ、わりい、わりい」

「もうっ! ちゃんと勉強しておかないと、本当に嫌いになっちゃうからね?」

「分かってるって。ほら、電車来ちゃうぞ」

「あっ、本当だ。それじゃあ、また明日来るから」

「おう! また明日な」


 片手を振って駅へと入って行くまひろを見送った後、俺はのんびりと歩きながら家へと向かった。


「さてと、帰って勉強しないとな」


 非常に気は重いが、まひろに嫌われるのは嫌なので頑張らないといけない。

 そしてこの日、予定の場所まで宿題を終わらせるのに時間がかかり、ベッドに入ったのは深夜遅くになってからだった。

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