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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
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明智くん


 明智くんへ必死に話をしていたが、さすがにネタが尽きてきた。後ろを向いてくれているので、会話を中断するのも悪い。


「えーっと」


 もう何を話したいのか分からなくなってきた。

 中学生は始まったばかり、出来れば変な奴認定されたくない。この場をどう打開するか考えていると、明智くんが喋りだす。


「俺が習っているものは総合格闘技に近いと思う。実践的だから、女子には辛いかもしれない」


 ひょっとして、私が喋り終わるのを待っててくれてたのかな? 焦って損した。ホッとしたが、待たせて申し訳ない気持ちになる。一人反省をしていると、彼から問われた。


「伊賀崎、さんは何を危険視している? この近辺の治安レベルは高い方だと思われるが」

「念の為なの、念の為」


 やっぱり変に思われたか。


「仮に襲われたとして下手に反撃できると、逃げ遅れたとき危険度が増す」


 ごもっともです。でもこちらにも事情があるのだ。


「軽い気持ちで言ってるわけじゃないの」


 明智くんの目が見えないので、せめてと眼鏡を見据える。護身術をやりたい正直な話をしても、無視されるか笑われるかだろうから言えないが彼のこの対応はアレだな。ちょっと習って強いと勘違いすると、痛い目にあうぞってやつだ。

 私が習ったことを自分の為だけに使うと思ったら、大間違いよ。

 だから少しムッとしてしまった。


「必要なの、絶対に」


 それだけ言うと、腕を組み顔を背けた。


「……悪かった」


 謝られたので、明智くんの方を見るといきなり立ち上がる。そして椅子を片付けて、私の真正面に立った。


「?」


 驚いていると、こちらに手を伸ばされ、私の腕を組んだ両手首を掴む。


「な」


 しっかり掴まれ、身動きが取れなくなる。彼の手は大きいし、びくともしない。


「え? え? 何?」

「腕を組む癖は止めた方がいい」


 腕を組んだ事を、注意された。


「……すぐに拘束されるから?」


 そう訊ねると、頷かれた。


「今は正面だが、後ろからされたら逃げられない」

「え」

「伊賀崎はまだ小さいから、抱えられて連れて行かれる」


 少し想像して、ゾッとする。彼はそっと手を離すと、更に付け加えた。


「素早い誘拐犯だと、後ろから抱えて足も押さえ込み抵抗できなくさせる」


 身振り手振りで教えてくれた。それを聞きながら、私は組んでいた腕を真っ直ぐに伸ばす。手加減無く掴まれたので、痛かった。でも痛いなんていうと、貧弱だと思われそうなので黙る。


「大人の体ではないから、実際はどうなるか見せれないが」


 大人だったら実演ですか!? 先程のも合わせて、そういうのは事前に伝えて欲しい。途中でクラスメイトが入ってきたら、誤解されそう。


「そういうものなんだ、俺が習っているのは。何かの格闘技ではないんだ」


 拘束されないような格闘技って事かしら。色んな流派を考えるが、幾つかの種類しか思いつかない。習いたいという割りに私は勉強不足だ。


「えっと、型にはまらない、と言う事?」

「師……先生は色んな種類の師範代の免許を持っていて、色んな方面から習っている」

「さっきみたいな事かな?」

「ああ」


 どんな先生だろう? 本格的なジムで活躍するプロレスラーの様な人だろうか。もしくは厳ついお爺さんが竹刀を持っている古武術を……いや、色んな種類ってなんだ、流派じゃないの?


「色んな種類って」

「格闘技以外も習得している」


 気になる。格闘技以外って何を指しているんだろう。


「興味があるなら、今度先生に会えるか聞いてみようか?」

「いいの? ありがとう」


 明智くんみたいには無理だけど、キャラを助けれるかもしれない。いや、事件があるかどうか分からないけど……。備えあれば憂いなし、念には念をね。


「あ、授業料はどのくらいになるの?」


 本格的過ぎて、高かったら家族に申し訳ない。だがその問いに、彼は少し考える。


「考えたこと無かった」


 子供だから仕方ないか。親がどれだけ子供にお金を使っているかなんて、子供のうちはなかなか気にならないものだから。


「まだ先生の許可も無いのに変な質問してごめんね」

「いや」


 彼は椅子を引くと、正面を向かず横を向いて座った。まだ話相手になってくれるみたい。もしかして明智くんも会話に飢えていた? 誰かとつるまないし本ばかり読んでいるし……それとも私を気遣ってくれているのかも。

 彼の横顔を見ながら、ちょっと嬉しくなった。でもこうやって男の子と喋れるのも中学生までなんだろうな。高校になると変な勘繰りが始まるから。


「一緒に習っている人はうちの学校にも居たりするの?」

「いや、俺一人だ」


 一人!? もしかしたら、明智くんのお祖父さん?


「もしかして、先生って身内の方?」

「まぁ、身内だな」


 竹刀を持った厳しいお爺様で想像が固まった。一子相伝とか、お祖父さんの見果てぬ夢を叶える明智くんとか……色んな内容のドラマが頭の中を過ぎ去っていく。きっと『祖父と思うな、師匠と呼べ!』だ。


「大変だねぇ」


 厳しい修行をさせられている彼を思い、感慨深くなる。朝から道場で竹刀を振り回すお祖父さんから攻撃を避ける彼を想像していた。


「うちはお父さんが空手の師範代なんだけど、女の子には教えないって逆に徹底されてるから少し羨ましいな」

「そうか」

「別に板を割りたいとか瓦を割りたいわけじゃないのにね」


 自分の手のひらを開いたり閉じたりして眺める。


「板や瓦を割りたいなら、別の手段でやるべきだ。そう先……生は主張されている」

「おおー」


 確かに。身一つで何かよりも、体がなるべくダメージを負わないよう別の手段を考えるというのは、理に適っている。力で解決してはならん心と知恵で解決するのだ……と、のたまうお祖父さんが脳内にいたのだが、少しずつイメージが銀河戦争の緑の肌をした体の小さい理力マスターがちらつく。

 そうだ、ついでに聞きたいこと聞いておこう。


「あの、明智くんは一人っ子?」


 自己紹介で名字を聞いてから、落ち着かなかったんだよね。

 入学式に『明智新吾』と会った時、先生の態度で学校関係者でないと分かった。なら保護者代理かもしれないと睨んでいる。他のクラスに『明智』がいるかどうかは分からないけど、一先ずは近くの『明智』を確認しなければ。


「……ああ」


 よし、兄にあの『明智新吾』はいない。兄弟じゃない。


「なら……明智家に従兄弟やはとこにお兄さんがいたりする?」

「いや、明智家は俺だけだ」


 引っ掛かっていた心配事が消えてホッとする。従兄弟説も消したから、安心して明智くんと友達になれそうだ。


「なぜ?」


 根掘り葉掘り聞かれて不審がられた?


「あー……ごめん、もう少ししたら弟か妹が出来るんだ……だから兄弟の気持ちや心意気を聞きたくなって」


 本音は教職の人間をロリ……無職のピンチに追いやってはいけないから。『明智新吾』関連との接触は少ない方がいい。


「そうか、おめでとう」


 少し笑ってくれたような気がした。

 根はとってもいい子なんだろうな、明智くんありがとう。余計なお世話かもしれないけど、髪の毛は切ったほうがいいと思う。視力の心配もあるけど、視界が悪くない?


「伊賀崎は先程この町の発展について話してたな」


 お、明智くんが話題を振ってくれた。


「うん、今海堂グループが開拓しているから、駅誘致しそうだなって」


 ゲームでは実際に誘致されたんだよ! 言えないけどね。


「人口が多くなれば、可能性が高いな」


 これから増えるんだよ、ゲームの通りなら!


「人口が多くなれば、近くに高校が無いから出来てもおかしくないと思って」


 海堂グループの本社ビルが引っ越してくるんだ。地域活性化計画かな? 税制優遇狙いかな? それで海堂一真くんと宇留間七海ちゃんが引っ越してくるんだ。

 海堂一真くんは海堂グループの御曹司で後継者。宇留間七海ちゃんは海堂グループの会長秘書の娘で、一真くんの補佐を行う為に幼い頃から日夜教育受けているんだ。いつも気を張ってる美人さんで、小さい頃はふわふわな長い髪だったけど、高校ではベリーショートにしているの。いつも一真くんの事を最優先に考えていて、この事は彼には内緒なんだ。

 楽しみだねぇ、色々変わっていく様を見るのは……明智くんに教える事はできないけど。


「近くに高校か……」

「出来たら通学が楽だし、先輩がいないのは寂しいけど最初の生徒って嬉しくない?」


 明智くんは何か考えているようで、口を閉ざした。その時、教室の扉が開いてクラスメイトが入ってくる。チラリとこちらを見てきたが、すぐに視線が外された。

 ふふふ、一番だと思ったでしょう? 残念でした、私が実質の一番だけど、教室到達一番は明智くんなんだよ。


「その、学校へ行きたいのか?」

「もちろん。でもさ、学校の歴史が古いと現行のままで運営や行事が楽だけど、初年度ってどう決めてるんだろうね」

「……ああ、そうだな」


 心ここにあらず、明智くんは動かなくなった。その間にも教室に人が戻ってくる。

 教室がほんの少し騒がしくなってきた。もしかしたら、彼は人前であまり喋りたくないのかもしれない。そうでなくとも思考の邪魔するのもなんだから、私も黙った。かなりお喋りできて、私は満足したと落ち着く。この調子で他のクラスメイトともたくさん話していきたいな。

 気分が良くなり、ついにやついてしまう。

 ご機嫌にしていると、視線を感じた。

 前を見ると、考え事が終わったのか明智くんがこちらを見ていた。いかん、間抜け面を見られたかも。つい誤魔化すために愛想笑いをしていると、担任が教室に入ってきた。


「はーい、着席ー」


 号令をかけながら教卓に歩いていく。


「今日はみんな頑張ったな、早く検査が終わったのでこれで下校だ」


 時刻は午前11時40分。時間より20分も早い。


「明日は体力測定なので、またジャージで登校な」


 家に帰ったら、即洗おう。ジャージは早く乾くので助かる。


「それじゃあ解散、さようなら。ジャージで寄り道すんなよ」


 先生はそれだけ告げると、教室から出て行った。中学校ってこんなものだったかな? とりあえず終わったので遥ちゃんの所へ行くか。


「明智くん、また明日ね」

「ああ、また明日」


 教室を出る時に声を掛けると、返してくれた。

 会話っていいよね。しかも明智くんとはプリントの提出を競った仲なので、ちょっとした戦友的な感じ。明日も声を掛けていいよね?

 目の端に和田くんが見えたけど、女の子達と楽しげに話していた。まるでハーレムみたい。

 廊下を歩きながら、ふと想像してみた。

 男子が女子を囲むのと女子が男子を囲むとでは、前者の方が良くないイメージがある。うん、早く席替えを所望するぞ、先生。

 靴箱で遥ちゃんを待ちながら、強く願った。



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