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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
89/503

氷室ゲーム

「さてと」

地味に困ったぞ。なぜならば控えのノートが無い。

「在庫確認してなかったなぁ」

冬なのでもう外は暗い、今からノートを買いに行くにはリスクが高すぎる。たかがノートを買いに行くのがどうしてこうも難しいかな?これじゃ夜の外出なんか出来ないよ。1人暮らしならば必殺の江里口くん眼鏡が利用できるけど、家族と住んでいるので万が一お父さんや誰かに見られて効果を失うリスクは避けたい。それに眼鏡を外すタイミングも難しすぎる。離れた場所で眼鏡を外して先日のように襲われるのは勘弁だ。

「時間も時間だから、より手ごわい敵が現れそうな気がする」

夜の方がエンカウント率高いもんね。こんな志半ばで捕まって監禁されたり、命を落としちゃうバッドエンディングは嫌だ。…恐らくリセット機能はないと思うので、慎重にならないと。

「いきなり高校から開始! とかイベント途中から開始! ならリセットの希望を持てたんだけどな……生まれた時からなのがリアル過ぎて怖い」

もしリセット機能があったとしても赤子から始めるとしたら?些細なミスで未来が変わってしまったら、絶望してしまう。私の行動で弟が生まれなかったりしたら、自分を責め続ける自信がある。

何度も繰り返せる事は、一見素晴らしく思えるけど同じ状況に辿り着くまでの繰り返しは恐怖を感じる。…人生大往生したら、ちゃんと死ねるのかな、私は。

「いけない、いけない。中学生だからかな?中二病的思考になってきた」

今は氷室ゲームと戦う為にも準備を頑張らないと。

唸りながら机の上に置いた、要にも見せられない『マル秘ノート2』を見つめる。これは明智くんと愛梨ちゃんの為に用意したノートだ。内容は2人の今後についての一ページしか書いていない。いやぁ、書いていたときは確かに興奮していた…だから誰が目にしてもテンション高いなーと読み取れる。間違いなくこれも黒歴史…いやさらに深い闇歴史と言ってもいいものの1つになった。全てが終わったら始末しないと、危険極まりない物になるぞ。

「どうしよう」

もうこれと一緒にするか、それとも別にするか…悩んでしまう。和田くんの教えてくれた事を憶えているうちにメモしておきたいし、まとめて置きたい。なんで新しいノートを買いに行ってなかったんだ。

でも明智くんと愛梨ちゃんか…なんとなく彼と物理的に離れてしまったので、お見合いおばさん熱が下がってしまっている。くっつけたい!という情熱が今は無いので、宙ぶらりんな状態だ。なのでこの黒より深い闇歴史になった一ページを読んでも心が躍らない。いっその事、命名が闇なので闇に葬るか?

「でも裏にして」

ノートをひっくり返し反転する。

「氷室ゲームについて…書こうかな」

なんとなく隠しや秘密っぽくて良くないかな、これ。ノートを見られても後ろから見る人なんて少数派だろう。表のトラップページは濃い内容なので、すぐにノートを閉じたくなるはず。よし、あまり資料も集まらなさそうだし併用で使っていくか。

「ロングが2人で眼鏡が2人、ボブが3人で…そうだ、ツインとポニーだ」

後はなんだったけか…ショートが何人だったっけ?和田くんの言葉を思い出しながらノートに書き綴っていく。


 攻略対象者

  ショート 不明

  ショート 不明

  ボブ 不明

  ボブ 不明

  ボブ 不明

  ツイン 不明

  ポニー 不明

  おさげ 不明

  ロング 宇留間七海

  ロング 伊賀崎花音


 占い師

  攻略対象者達の居場所や趣味嗜好を教えてくれる。

  現在:占いを止め飴屋として違法ハーブ入りキャンディを販売中

  会えない大事な娘がいる※神出鬼没


 店長

  西○×駅に店があり、主に危ない薬を販売。

  営業日:火、木、土

  監禁趣味、氷室と一緒にそういう事を共に楽しむ経緯あり

  現在:香水屋。黒い服を着ていた。左手に銀の指輪(既婚者?)


 氷室(主人公)

  記憶あり:ハーレムエンドを目指していた

  現在:記憶を無し。宇留間さんの事をおぼろげに憶えている様子

  真っ当な剣道少年。でもヘタレ


 和田ライバル

  記憶あり。超モテ男。取り巻きは性別係わらずいる。

  神に全てを捧げており、将来は司祭になるらしい。

  別所さんも信者になった様子、土日は教会で過ごしている。


「あ、そうだった」


 男の娘 不明


すでに私の周りにいるのかな、女装男子が。それとも高校に入ってから知り合うのだろうか…。書いてて少しドキドキしてしまう。

「でも不明の攻略対象者が気になるな」

もう明智くんに聞きたい。でも正直に教えてはくれないんだろう。髪型で探そうにも誰にだって該当するし、見つける目安なんて無いに等しい。もう気にしないのが一番なんだろうけど…。

「眼鏡とおさげ…山崎さんと遥ちゃんでないといいな…」

遥ちゃんは水原くんに告白するまで髪を切らない、と宣言していた。このままおさげで高校に入ったら…考えただけで怖い。明智くんが気にしているようには見えなかったので、たぶん大丈夫だと思いたいけど確信がほしい。

「でもショートからロングまであるなら、坊主にでもしない限り対象者から逃げられそうもないように見えるな」

私にもっと根性と度胸があればリーゼントとかパンチパーマとかモヒカンとかドレッド…そこまでいくと校則違反の髪型になるのかも。うーん、なかなか難しい。それにご近所付き合いもあるんだ、お母さん達が後ろ指を指されるような行為は避けなくては。

「あとは男の娘か…」

この子は小さな時から女の子の格好をしていたのか、それとも高校デビューなのか。儚い系なのか、可愛い系、綺麗系、…モロバレ系じゃないといいな。

「普段から女装しているなら、体育関連出られない子を探せばいいのか」

もし、公認女装子でニューハーフの様にみんなと馴染んでいたら…でもそうなったらゲームとしてはどうだろう。そういう人物を性的対象としてみれるのだろうか?ギャップで萌えさせるのかな。

「どういう意図で作られたのか、製作者側に質問したい」

出来ない事を考えて苦笑する。想定外な状況にならないよう色んな予測を考慮するのも案外疲れるのよ?と問いたいのにね。

「ここは参謀に、といえないのが残念だし」

閉じられたカーテンを見つめ、ため息をつく。要には絶対出来ない相談だ。

「なら明智くんに聞く…それを私が出来るだろうか」

方法としては。


 1.朝早く待ち伏せして聞く

 2.クラスを訪れて聞く

 3.帰りを待ち伏せして聞く

 4.マンションを訊ねて聞く


箇条書きしてみたけど、どれも簡単そうで難しかった。なぜなら彼の前に立ったとき、私はどうしたらいいのか分からなくなってしまいそう。

素直に『久しぶり、氷室ゲームについて教えて!』って言えるのか自信がない。無視されたり、駄目だと一言だけ言われて健康診断の時のようなスピードで歩いていかれたら、涙が出る、絶対に。想像しただけで、泣きそう。

「ほぼ親友に近い状態だと思っていたのに、本当に酷いよ明智くん」

好きじゃなくて好意だったのに、友人として好きなだけだったのに、あっさり姿を消してさ。少しは私の心境を分かってくれてもいいのに。

不満を口にしながらノートを見つめる。そこである疑問が出てしまった。

「あれ?」

私のゲームにあって、氷室くんのゲームに無いもの。

「サポーターっていないのかな」

監禁陵辱系18禁なので、無いのかもしれない。悪事は手伝ってもらってはいけないから?

「そうだよね、そうなるとおかしくなるもんね」

氷室くんだけでなく、その人物もそういう事を一緒に楽しむ事になってしまう可能性がある。そうなると…輪姦?になるのよね。私は男でないのでわからないけど、自分のそういう行為を他人に見られるってどうよ。平気なのか、お互い様と割り切っているのか不思議だ。

そういえば店長と一緒にそういう事をするイベがあると聞いたけど、躊躇しないものなんだろうか。もしかして見られて興奮するとか?

こればかりはいくら考えても理解できないので分からない。

「とりあえず今日はここまでにしておこう」

私はノートを閉じると机の奥深くに隠した。



いつものように朝走り、登校。教室へ向かう階段で、事件が起きた。

事件と言っても昨日の嫌な予想とは違う、いじめではない。靴箱の上履きも異常なしだったし、何も無かった。ただ、声を掛けられたのだ。

「伊賀崎」

あまりに久しぶりに聞いた声なので、驚いてしまった。後ろから声を掛けて来たのは私を避けまくっている人物、明智くんだった。あれ?髪の毛が更に伸びた?

「あ」

明智くん、そう呼ぼうとしたらすれ違うように階段を上っていく。

「和田に近づくな。ゲームの事は忘れろ」

私に聞こえるようにだけ、呟いていく。昨日和田くんと接触した事を怒っているようだ。公園で会っていたなんて知られていたら、怒鳴られていたかも。

「ちょ」

「近づくな!」

彼に伸ばしかけた手が、大きな声で反射的に引っ込む。

「分かったな。忘れろ」

それだけ言うと、さっさと行ってしまった。久しぶりの再会はあっというまで、昔のように戻れないんだなと思い知らされる。周りにあまり人が居なかったけれど、明智くんの大きな声は聞かれたようで、階段を上りきったら視線を思いっきり浴びせられた。

「はぁ……」

修羅場。きっとみんなそう思っているんだろうな。違う意味で泣きそうな気持ちになってきたよ。誤解を招く言葉選びは健在だ。

1組の教室に入り、席に着く。予想だけど、きっと山崎さんが真相を知りに訊ねてくるぞ。何せ周りから見れば、追いすがる私を明智くんが大声で触るな発言だ、これは噂が走りそう。

「最近落ち着いてきたのに、酷いよう」

ああ、江里口くんがいたら、話を聞いて笑ってくれるんだろうなぁ。しかもみんなに聞かれたであろう言葉は、『近づくな』と『忘れろ』だと思われるので好奇心をかきたてるには十分な威力を持っている。どう見ても私が振られた女だ。

「うう、早退したい」

私が明智くんを好きだという噂が出回っているので、尚更面倒くさい。もう氷室ゲームの話をして理解を求めちゃうぞ?その後の視線が更に辛くなりそうだが。

「今日は早く帰ろう」

いの一番、走って帰ろう、誰に呼び止められても帰りきってみせる。そう心に決めていたのに、回りは案外普通だった。

お昼休みになっても誰も私に何も聞かないし、訊ねにも来なかったので、肩透かしを食らった気分になる。

けれど不思議なものでお昼休みを越え、5時限、6時限、HR、何事も無くそこまで来ると疑いが確信に変わる。そんなに目立たなかったのかな、案外大丈夫だったのかも。

上機嫌で帰る準備をしていると、鬼塚さんが肩を軽く叩いてさよならと言ってきた。武智くんと佐原くんの視線もなんだか優しい。

「…んん?」

村野さんはこちらを見る事無く設楽さんを引きずって部活にいき、立石さんは私の頭を軽く撫でて帰っていった。

「あの」

みんな私と一定の距離をとっている。これはいかに。頭を悩ませながら靴箱へ行くと声を掛けられた。

「伊賀崎さん」

「はい」

振り返ると、見知らぬ男子生徒が立っていた。つい首を傾げてしまうと笑われた。お兄さん的な笑みだ。

「ははは、途中まで一緒に帰ろうよ」

知らない人とは一緒に帰りたくないな。どういう風に断ろうかと胸の名札に視線を移動すると驚いた。

「井之口先輩?」

「うん」

確認の呼びかけに肯定で帰ってきたから、再度驚く。

「え、髪の色や制服が」

茶髪から黒髪に、着崩していた制服が標準に変わっていたので全く気が付かなかった。どこからどう見ても標準、一般、普通の男子生徒に見える。名前札も付けるようになったんだ、お蔭でクラスと名字で分かることが出来た。

「以前の姿は忘れてよ、恥かしい」

照れているのか、彼の頬が少し赤くなった。

「あまりのギャップに驚きですよ、スゴイ」

「まだ襟詰めが慣れなくてさ、おかしいんじゃないかって気にしてる」

「いえいえ、標準より男前ですよ、これなら来年のバレンタインは多少期待出来るかもしれませんね」

「大袈裟すぎるよ」

大袈裟じゃないです、なかなか男前度が上がってます。しかも更正後なのでポイントも上がってるんじゃないんですか?

「途中まででいいから、一緒に歩かないか?」

「いいですよ、ちょっと待ってくださいね」

先輩は既に履き替えているので、急いで靴を出すと私も履き替えた。

「お待たせしました」

靴の先を地面にトントンと叩いてから側に行く。

「えっと、伊賀崎さんの家の方向は?」

「駅南口方面になります」

「残念、俺は駅北口。でも途中まで送らせて」

心境の変化か何かを話したいんだろうなと思い、頷く。

「ありがとう」

茶色い髪に整髪料を塗りたくって目つきが悪かった先輩は、切れ長の目を端を下げ、にこやかな先輩へと変貌した。ご機嫌そう、他人が見たらみんなそう批評するだろう。それほど笑顔だ。井之口先輩は校門を出ると、ボソリと話し始めた。

「今なんだか楽しいんだ」

「それはそれは」

「受験前だろ?だから教科書を読み直しているんだけど、よく読んで意味が分かるとスッゲー嬉しくてさ」

「ですよね!理解できたときって興奮しちゃいますよね」

難しい問題が解けた瞬間、ものすごくスッキリします。

「俺って二年の時拗ねてたからさ、授業をちゃんと聞かなくて勿体無い事をしたなって今更だけど気が付いたよ」

気が付かず卒業するよりも、前に気が付いて本当に良かった。

「良かったですね!」

笑うと少し顔を背けられた。あの時の事を恥かしがってるのかな?別に気にしてないのに。私が噂のような遊び人で校内の何人かの人と体の関係を持っていると信じていたことなんか、もう忘れましたよ。

「もう一度三年生をやり直しできたら、と思ったけど足掻いてみる事にした」

「足掻く?」

「ああ。伊賀崎が狙っている新設校を受験するよ」

まさかの宣言ですか!?勇気ありますね、先輩。

「今、塾やら家庭教師やらに助けられてばかりで、まだ先が見通せないけど…受かるために頑張ろうって」

「素敵じゃないですか!今度受験のお守り持って行きますよ」

「ほんとに!?」

すごく勢い良く食いついてきた。

「う、うん。あまり高価なお守りは無理だけど…」

「伊賀崎さんがくれるなら、最強のお守りだよ」

えー!?その思い込みはどこから?失敗したとき恐怖なんですけど!!

「そうだ、来年の元旦」

「えっ」

「良かったらだけど、一緒にお参りに行かないか?」

新年のお祝いで混雑する会場イコール痴漢変態カーニバルになりませんかね。想像だけで怖い。つい顔の制御が出来ず唸ってしまった。

「ごめん、困らせるつもりは無かったんだ」

すぐに謝罪され、申し訳なくなる。

「そんな、ただ人が多いのは苦手で」

怪しい店の店長は正月の三が日は休みかも分からない。

「受験日はいつですか?その日の少し前に行きましょうよ、より効果が強いかもしれません」

「うん、なら約束だよ?」

「はい」

井之口先輩はそういうと自宅の連絡先のメモを渡し、彼は意気揚々と帰っていった。運頼りより、普段の実力が大事なんですからね。



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