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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
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失態

鍵を解除して車に乗り込むと、加納さんは急いでエンジンを掛けた。

「加納さん、あの」

「ちょっと待ってて」

周りを確認して急発進する。今までの運転の仕方と違って荒い。座席を倒しているけど、とりあえずシートベルトをしてみる。助手席は絶対しなきゃいけないんだよね。でないと、免許未取得の私の分まで加納さんの違反点数に入ってしまう。

しばらく無茶な運転をしていたけど、次第に車の軌道は落ち着いていった。

「あの…何かあったんですか?」

「…精算している時に、あの黒い服の男が車の中を覗き込んでいた」

「声だけ聞こえました。またねって」

「ちっ…離れるんじゃなかったわ」

加納さんの口が荒い。ほんの少し素がでてるのかな。

「飴屋と香水屋、そう呼ばれあってました」

「飴屋ってあのおばさんが?あの男とグルなの?」

「はい。どうやら真っ当な人ではないようです」

ハンドルを握りつつ、彼女は人差し指をトントンと叩く。

「ではないようです、って知っているのね?」

「……」

声が怒っている。…きっと私でも怒ると思う。自分でも馬鹿な事をしたと思っているので、尚更申し訳ない。

「危ない人であろうと知っているのに、分かって近づいたのね?」

「…はい」

大きくため息をつかれる。

「あのね、花音ちゃん。なぜあえて踏み込むの?」

耳が痛い。

「…話に聞いていただけで、本当にあるなんて驚いてしまったんです」

「ならせめて私を待ちなさい」

「はい。反省してます」

だいぶ気分が楽になったので、座席を元に戻して反省する。

「近づいた理由は何?もちろんあるのよね?教えてくれるんでしょ」

有無を言わせない空気をかもし出して、加納さんが聞いてきた。拒否権はなさそう…どこまで話そうか。

「…私の通っている中学校の別所さん、覚えていますよね」

「花音ちゃんを排除しようとした子ね」

「はい。その子がばら撒いていた飴が、あそこの飴屋さんの飴なんです」

「あの体に悪そうな色つき飴を?」

蛍光色に見えますもんね…。一目見て臭いを嗅いで、好んで口にしたくないシロモノです。巻淵さんも食べたふりをして逃げたって言ってたな。

「ばら撒いていた事に特別意図があった訳じゃないそうです」

「知らずに配ってたってわけね」

でも愛梨ちゃんの手に渡って、問題が発覚した。

「飴を貰った友達の家の人が不審がって、成分を調べたんです。常習性が低い物ですが、薬物が出たそうです」

「薬物!?」

加納さんの声が荒くなる。

「薬物と分かってて近づいたの?」

「す、すみません、何か対処できないかと…」

「分別ある大人のすることじゃ無い、本当に大人の自意識持っているの!」

「ごめんなさいっ」

怖い、凄く怖い。逃げ出したいくらい、怖い。

「…ほら、しっかり怒られなさい」

加納さんが私の膝に携帯を放り投げました。私の膝の上で震えながら着信音が鳴り響いています。ディスプレイに『新吾』とだけ書いてあり…、そういえば盗聴器がつけてあるんでしたね、この車。

「早く出なさい」

笑顔が消えた加納さん、自分が仕出かした事と後悔と彼女の怒りで居た堪れない。私車を降りて電車で帰るので、許してくださいと言おうか。恥かしくて穴があったら入りたい、消えたい、逃げたい。

「出ない分、説教時間が増えるわよ」

「はい」

私は更に覚悟を決めて電話に出ました。

『花音』

もちろん冥加さんも怒ってるようで重い、静かな声です。

「はい」

『君は以前、痴漢や変態から逃げれる勘を持っていると言っていたね』

「はい」

『危険から逃げる為に努力している事も聞いた』

「はい」

『では、なぜ薬物の売人と分かっていて近づいた』

「…はい」

『それは危険回避になっていないんじゃないかな』

「……はい」

『しかも、目をつけられたようだよ』

「え?」

『音声に残っている。男の声で「またね」と告げていた』

「…でも私はあまり遠出をしません。あそこにも初めてで」

『…砂織に変わって』

「はい。…加納さん、冥加さんが変わってほしいって」

加納さんは車を路肩に寄せると、ハザードをつけて携帯を受け取った。

「変わった」

機嫌の悪いままの彼女が上司である冥加さんと話し合ってる。

「ああ。それでいいと思う。分かった。用意は…、なら今から向かう」

電話が終わるとまた私に携帯を渡して、車を発進させた。

「あの…」

「黙って」

「………」

私は口を閉じると、窓の外へ目を向ける。うう、謝罪も出来なさそう。確かに私の行動は軽率だった。きっと明智くんが知ったら…ってもうそんな関係じゃないから、怒られないのか。まだあの不思議な関係が続いていたら、重圧のある怒り方するんだろうな、要だって大激怒するだろう。

あの飴屋さんになんで話しかけちゃったんだろう…ただの冷やかしみたく、チラミして通り過ぎていけばよかったのに。泣きたくなってきたけど、ここで泣いても加納さんに迷惑を掛けるようなものだ。黙って我慢しよう。今、失敗を悔い続けるより、今後を考えなければ。

…それにしてもあの香水屋、またねって私とまた会うつもりなんだろうか?大きな街、しかもオシャレな場所になんか初めて行ったから、待ち伏せされても会わないのに。…まさか今も後を付けてたりとかないよね?つい心配になって車の後ろを少し覗いて見る。いやいや、それは無理でしょ。なんとなく後ろを見ちゃったけど、車の尾行なんてムリムリって。それに私ごときそこまでする訳無いじゃない、自意識過剰で恥かしい。

車はしばらくすると、お店とかがないビルばかりの場所に来た。日曜日なので、サラリーマンとかあまりいないけど、平日はすごいんだろうなぁと想像する。お父さんの会社はどのへんだろう?どこ勤務でどんな仕事をしているか、知らないなぁ。今度聞いてみようか。

大きな立体駐車場に入ると、車はするすると上の階へと登っていく。別に満車じゃないのにどうして…と次の瞬間、車が止まった。

「降りて」

言われるがまま自分の手荷物だけを持って車から降りる。

「あの…」

「黙って」

加納さんが私の腕を掴み、引っ張って歩く。足の長さが違うので、歩幅が違う。だから、必死に私が追いかける形だ。うう、けっこうこの体勢で歩くの辛いです…でも文句は言えない。

「………」

エレベーターに乗りこみ、B1ボタンを押した。地下に行くんだ…もしや私ここら辺で捨てられたりするんでしょうか?ならばせめて駅のある方向を教えてもらえないかなぁ。

地下につくと、大きなトラックが目の前に止まっていました。荷物を入れるであろうコンテナの戸が開き、その周りを黒い服の人たちが数人立ってます。何?私バラされるの?と身の危険を感じてしまうほどの雰囲気ですよ、これ。

「こっちよ」

加納さんが側の人に車のキーを渡し、トラックのほうへ歩いていきました。ああ、コンテナの中身はなんですか?まさか手術台とか?でっかい回転のこぎりで私はバラバラにされるんじゃないか、怖くてたまりません。

コンテナの扉まで階段が用意されています!うう、死の階段となりませんようにと祈りながら中に入ると、扉を閉められました。中は真っ暗です。

「ひぃいい」

情けない声を出した瞬間、明かりがつきました。なんてことは無い、普通のコンテナの中です。ただ、衝立と紙袋があるくらいで…。

「さ、話しても大丈夫。服を脱いで」

「は?え?どうして?」

「いいから、早く」

加納さんが私の服に手を掛けてきたので、かなり焦りました。

「どうして脱ぐんですか!」

「こっちに着替えるの。早く、怪しまれないうちに」

「は、はい」

加納さんが間に衝立を置いたので、思い切って服を脱ぎましたよ。ええ、見られがいの無い貧相な体ですが、きっと理由があるんだと。

「用意した新吾様の趣味だから、勘弁してね」

紙袋の中身は、ピンクのワンピースでした。

「…う、うわお」

これは可愛らしすぎて、愛理ちゃん用じゃないかと躊躇してしまう。お嬢様チック過ぎませんか?冥加さん!!

「そうそう、下着もよ」

衝立の向こうで加納さんから注意される。

「うえええええええ!!」

下着も冥加さんが用意したんですか!?本当に?

「いいから、早くなさい」

別の紙袋を見ると下着らしきものが入っていた。その中身は…ひー、総レースですか!!なんかベビードールみたいな物なんですけど!!

「加納さぁん」

「泣きそうな声を出さない!今全部私に剥かれるか、自分で脱ぐか、三秒で決断しなさい」

「脱ぎまぁす」

「っよし!!」

泣きそうな気分で全裸になって、総レースの下着に手を通す。ひー、なんか肌触りいいですよ、これ!中学生になんてスゴいものを!

「着た?」

「下着を替えました…」

「なら、ワンピースも早く着なさい。私はもう終わったわよ」

加納さんも衝立の向こうで着替えていたようです。は、早いよう。

「ううううう」

総レースのベビードールの上にピンクのお嬢様ワンピース…。

「とりあえずよ、裸よりマシと思いなさい」

加納さん…。

「…頑張ります」

覚悟を決めて服を着ました。ぴったりです、サイズ合ってます。それがまたなんだか怖いですが、香水屋さんよりいいですよね、お兄ちゃんなんだから。

「ワンピースも着ました…」

そう言うと、衝立を外されてさっきとは違うスーツの加納さんが現れる。カジュアルさが無くなり、仕事モードの服みたい。

「靴下と靴も念のためにこっちに変更ね」

出されるストッキングと高そうな革靴…コスプレに近い気分になってきましたよ、これ。該当するキャラとかいませんよね?

「あと、髪の毛を梳かさせてね」

何度も何度も髪を梳かされ、いわれたストッキングと革靴を履いて、何かの機械を当てられる。

「花音ちゃんのバッグの中身も全部出して」

「は、はいい」

加納さんがチェックしながら、なんか凄そうな白いバッグに入れていく。

「あの…私のカバン…」

「完全のチェックしてから、後日返すわ」

「…一体、何を…」

「さ、行くわよ」

ブランド物の様なカバンを渡され、コンテナの扉を開いて出て行く。このカバンも冥加さんが選んだんでしょうか?

「待ってください」

履き慣れない革靴で必死に階段を下りると、目の前に車が止まる。運転席から出てきたのは、いつか見た冥加さんの護衛の人だ。

「これを」

「ありがとう。後は宜しく」

加納さんが運転席に乗り込むと、護衛の人が助手席を開き、私を促す。

「すみません、ありがとうございます」

「いいえ、気をつけて」

「?」

助手席に座ると、シートベルトを着けた。これでもういいのかな?

「加納さん、もう喋ってもいいんですか?」

「いいわよ」

車が静かに動き出し、駐車場から車道へ戻る。

「あの…なんでこんな事を?」

加納さんはもう落ち着いたのか、いつもの彼女に戻ったようだ。良かった…本当に。

「あの黒い服の香水屋?が自信満々に『またね』なんて言ったから、発信機や盗聴器をつけられたんじゃないかって疑ったのよ」

「へ!?」

「かーなーり花音ちゃんべったりだったから、服から紙袋から全部、チェックしてから渡すわね」

べったりって…好きでそんな事されたわけじゃないですよ!

「カバンの中身は電磁波検知器でチェックしたし、車も交換したから、…すぐに近くまではまだ来ないと思うわ」

「まだ来ないって…まさかそんな、そこまで私に手数なんて掛けませんよ」

「そうかしら」

声がほんの少し鋭くなった。

「ずいぶん気に入られたように見えるわ」

「まさか」

「窓からあなたを覗く姿、かなり執着している様にも見えた」

背筋がゾッとする。そういえば、胸のお守りがものすごく熱かった気がする。あの人も痴漢変態の部類に入るんだろうか?

「た、確かに気に入ったとは言ってましたけど」

「ほら、あなたそういう人たちを惹きつけるんでしょ。より一層気をつけなくちゃ」

「…はい」

でも、今の私には問題があるんですよ…。どうしよう、香水屋よりも難しい相手が立ちはだかってます。

「あの…私の服はいつ…」

「後日ね」

「その場合、この服で帰宅しなければいけないのですが…」

「大丈夫。気にしない、気にしない」

気にしますよ、ちょっと!

『反応、出たぞ』

突然冥加さんの声が車内に響いた。

「え?え?なんで」

「…通信機能をつけた車よ。一方通行な会話や携帯電話でだと運転しにくいじゃない」

「そんな車もあるんですか?」

「まぁね。特殊な場合、仕事で必要になるのよ…」

「……そうなんですか」

どんな用途で用意されている車なんでしょうか…ちょっと加納さんの言う『特殊』の意味が怖いんですけど。いや、きっと仕事関連で仕方なくですよね?

「んん?」

仕事に必要なもの…もしかしてこの車は社用車って事ですか?その場合私用で使っていいんですかね?事故が起きたときに保険とかどうするんですか、危ないですよ!私の危惧をよそに、加納さんは冥加さんへと話しかけている。

「それで、何に何の反応が出たの?」

『花音の………から』

「なに、聞こえない」

『だから、その、花音の、からだ』

「体?はっきり言いなさい」

『花音のし、した、下着から』

冥加さん…大人っぽく見えますが、19歳のまだ未成年でしたね。声が裏返るほどに恥かしい思いを…すみません、そんな言葉を言わせてしまって申し訳ないです。

「花音ちゃんの下着から出たの?どっちの?」

『ど、どっちって…その上だ』

「下着の上?だからどちらの」

『上半身の方だ!』

加納さん、なんだか楽しそう。にやにや笑っている。昔からこうやって冥加さんをいじってきたのかな?でも下着ってけっこう恥かしいな、でもどうやって?触られたりしてませんよ?

「触られてませんよ?そんな!」

「ならどうやって」

「あ」

ふと思い出した。

「そういえば、首筋を触られたような…」

「そこから入れたのか」

『なんて卑劣な!』

「でも何が出たんですか?」

「発信機だ。それと砂織の車の下にもセットされていた」

「盗聴器では無かったんですね」

『まだ調査中だ、改めて連絡する』

「あの男の写真は撮れてた?」

『いや、帽子のふちで顔が撮れていない』

「ちっ」

加納さん、舌打ちって…。

『花音』

「は、はい!」

突然呼ばれたので、驚く。

『彼の手がどこまで広いか分からない状態だから、分かってるね』

「…はい。外出を控えます」

『あと、ネット上に写真や名前を出すのは控えたほうがいい』

「大丈夫です、ブログやHP、メールは持っていませんから」

『君だけじゃない。友人にも徹底させなさい』

「はい」

「ならさ、外見を替えれば多少時間稼ぎにならないかしら」

「外見ですか?」

『花音に手術でもさせる気か』

「違いますって、化粧や髪型で女の子の印象は変わります」

「お化粧ですか!?」

『花音はまだ14歳だぞ。化粧は早い』

「これだから新吾様は固いんですよ」

『俺は普通だ』

「はいはい。じゃ花音ちゃん、髪を切ったり眉を整えたり、リップつけたりしましょうねぇ」

髪を切ったり…その言葉で遥ちゃんの顔が、頭の中を横切った。

「切るのは…」

「あれ?もしかして伸ばし中?」

「いえ、やっぱり切っちゃいます」

「どうして、何か理由があるんじゃないの?」

遥ちゃんとの約束…いきなり願掛けの約束を破るのは申し訳ないけど、明智くんに振られたから、で許してもらえるかな。…今の状態で独り身になったら余計に遥ちゃんの側にいけなかったりするかも。水原くんと少しでも親しくなったら、明智くんがいない状態で誰に助けを求めれるのか…。

「ううっ」

上手い今後の活動が考えられずに、悩んでしまう。

「どうしたの?花音ちゃん」

本気で心配してくれる加納さんには申し訳ないような内容の話です。

「実は辻褄合わせで友達と髪を伸ばす願掛けをしてしまいまして…」

「願掛け?どんな?」

『くだらない。実力で掴み取ってこその願いだろうが』

「新吾様は黙って調査しててください。それで?辻褄合わせって?」

冥加さんが黙る。真の実力者って加納さんじゃないでしょうか?

「明智くんが好きで、告白するのに髪を長くしてからと誤魔化してたら」

「明智?」

加納さんの声が1オクターブ下がる。

「友達も好きな人がいるから、告白するまで一緒に伸ばそうって」

「だから切りたくないの?」

「いいえ、失恋したことにして切っちゃいましょう」

「ダメ」

『駄目だ』

そんな2人仲良く一緒に言わなくても。

「花音ちゃんはそんな奴に失恋も何もしてないんだから、切る必要なし」

『辻褄合わせで誤解を招くような事をしてはいけない』

「は、はぁ」

「とりあえず、髪を二つで分けて結ぶくらいから始めましょう」

「分かりました」

髪は切らないことにして、帰りは薬局でとりあえずのものを購入してから、家に戻りました。



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