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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
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ショッピング

あまりよろしくないお店、表現がございます。

気分を悪くされましたら、申し訳ありません。

暗くなるまで時間が無い。そう言うと加納さんは、私を色んな店に引き連れていきました。

「次はコレとコレとコレね」

試着室に押し込められ、言われるがまま着替えを何度もしています。ふふ、さすがに30回を超える着替えに眩暈が。フェミニン系、ガーリッシュ系、きれい系、キレカジ系…今は、ギャル系の店です。まだ着替え続けなければいけないのかな?次はどこに行くのかな?

「着た?花音ちゃん」

「もうちょっとです」

いけないいけない、気が遠くなりかけてました。おしゃれの道は険しく厳しい、私がセンスを取得するのはかなり困難かもしれません。

加納さんに渡された服は、ピッタリしたインナーとすごく短いスカートでした。すなわち、胸のなさとガサツな歩きの私に不似合いな気がしてなりません。簡単に下着が見えちゃいますよ、こんなの。

「…はい、着ました」

試着室のカーテンを開けると、加納さんが私を上から下まで見て頷きます。

「うんうん、いいわぁ」

「そ、そうですか?」

どの店でもそう頷いて言っているので、なんかもう信用がないです。今まで試着した服は、本当に似合ってましたか?

「このブーツ入りそう?」

目の前に出されたのは、グレーのロングブーツでした。前から見たらシンプルですが、後ろから見たら編みこみと上部にある飾りの留め金の細工が可愛いです。でもロングブーツも走りにくそう。先程のニーハイブーツよりかは履き易そうですが…しゃがむとパンツが見えそうでどう履こうか悩んでしまう。

「はい、どうぞ」

困った顔をしてみましたが、無視されちゃいました。…そうですよね、言質取られてますもんね…。ここには女性しか居ないですし、私は年下なので下着が見えても別に構わないか。

「では…」

試着室に腰を下ろすと、渡されたブーツに足を入れた。おおう、見た目と違い履きやすい。

「中のファーが気持ちいいでしょ?」

中だけじゃなくて、外側も触り心地がいいです。寒い日には助かるでしょうけどヒールが…これ走りにくいですよ!私でも可愛いと思えますけど、実用的じゃないです。

「あ、いけない」

加納さんが腕時計を見て、私を試着室へ戻しました。

「次のお店に間に合わなくなっちゃうわ、着替えて」

「はい」

ブーツを脱いでから試着室に入ると、数点抱えてレジに向かう姿を見てしまう。本当に買ってるんだよね、いいのかなぁ。

「どう見ても私が試着した服だよね」

カーテンを閉めて、自分の服に着替える。

「ああ。どうしよう…」

自前で二万円、お母さんから『お父さんからよ』とこっそり貰った五千円、合計二万五千円。それが私の予算だ。

加納さんが紙袋を車の後部座席に置いているが、全部買い取れそうな気がしない。絶対に予算オーバーだ。

「うう。二万五千万円以上はアルバイトするまで待ってもらえないかなぁ」

サイズが全部私のなのだ、これから成長する私に勿体無さ過ぎるよ!

「花音ちゃん?嘆いてないで出てきて。次に行きましょう」

嘆きを聞いていたなら、少しは躊躇してください。カーテンを開くと靴を履いて加納さんの後をついていく。

「考えすぎよ、お姉さんに任せておけばいいの」

「ハイ」

「ありがとうございました」

店員さんが笑顔で見送ってくれます。そうですよね、見た目姉妹に見えますから、微笑ましく見えるんでしょうね。紙袋を持った加納さんがウキウキと私の背後に回り、元気に背を押す。保護者(りょうしん)をどう誤魔化すのでしょうか?考えただけで胃が竦むおもいです。

「次はここよ、ここ」

次に押し込められた場所は、ハーブのお店でした。アロマの匂いがほんの少し心地良いです。

「匂いってすごく大事なのよ、きっと気分も向上するわ」

若い時は癒しなんてと思ってたけど、1人暮らしの時にアロマテラピーでかなり助けられた。

「たくさん種類があるんですね」

カラフルな商品を見ていると、ついつい楽しくなってしまう。

「この石鹸可愛いなぁ…柑橘系の匂いかぁ」

花の形をした石鹸や宝石のような石鹸、ボディミルクも容器が可愛くて試供品を手にとってみた。

「薔薇だ、良い匂い」

蓋を開けて匂いを嗅ぐと、気分が良くなる。手が少し乾燥していたので、ついクリームを塗りこんでしまった。これはおばさん臭いかな…、でもいずれ爪になる大事な手の皮なので許してほしい。いつかマネキュアを塗りたいなぁ。指先が綺麗な人が羨ましかった。自分もお手入れをすればよかったのに、似合わないと仕事に逃げていた事を思い出し、ほんの少ししょげる。

「努力もしないで諦めて逃げてたのって勿体無かったかも」

「うん、勿体無いわ。だって時間は無限に無いのよ?大事に使わなきゃ」

後ろから加納さんが覗き込んできた。

「ふふ。帰りましょ」

「え、でも」

「あら?何か気になった?」

もう既に何か買ってらっしゃった!手元にお店のロゴが入った小さな紙袋を持ってる。

「これ?全身用化粧水使ってみる?」

私が見つめていた先の物を手に取って聞いてきた。顔だけじゃなく、全身用なんだ。全身に化粧水をつけるって、贅沢に聞こえるんですが!

「えっと」

「それともボディミルク?」

先程試供品をボトルに持ち替えた。

「その」

「石鹸もオススメね、たくさん泡立てて使うの。気持ちいいわよ」

優柔不断が出てきて困惑してしまう。

「ふふふふ。決めきれないんでしょ?」

「ハイ」

早々に白旗を上げた。ゆっくり見ても多分決めきれない。私はそういう人間なのだ。思いっきり悩んで、諦めて出て行く…いやそれよりもこんなお店には入らないだろうな。

「試供品もたくさん貰ったし、トライアル用のを買っといたから試してみてからでも十分よ」

「!!」

もしやまた負債が増えた?

「じゃ、帰りましょうか。5時には家に戻らないと」

嬉しそうな笑みを浮かべ、加納さんはお店を出て行く。ああ、しっかり後をつけて購入金額を見ておくべきだった。今日はどのくらいのお金が動きましたか?

「加納さん、あのう」

「花音ちゃん、悪いけどちょっと待っててくれる?」

いきなり私に紙袋を押し付けると、彼女がそっと走っていきました。お手洗いでしょうか?渡された紙袋は4つ。服とハーブなので重くはありませんが…。

「それにしても…こんなにたくさん」

まさかこれ全部持ち帰れ、と言わないですよね?そんな怖いことしないですよね?大きくため息をつく。

「!」

外に出ていて寒いのに、胸が熱くなって来ました。アラームです、警告です、敵です、敵ですよ。私は紙袋を両手で持っているので、ちょっと困るんですけど。

「加納さん、まだかなぁ」

彼女が走っていった先を見るけど、まだ戻らないみたい。1人になった瞬間に、痴漢変態が現れるなんて…ゲーム設定者に文句を言いたい。おひとりさまになったら、大変じゃないかと。でもこんなにたくさん人がいる通りで、変態痴漢アラームが鳴るとは…しかもまだ日も高いのに、その人はなんて暇人なんでしょうか。せっかくの日曜日の使い方、間違っていますよ!

「少しはこっちの都合を考えてほしいものだわ」

左右を確認し、私を見ている人がいないか気を配りつつ、警戒を高める。こんなに人目があるんだもの、優しい言葉で場所移動させてから実行ってやつですよ。そう簡単に移動しないぞ?私は。

「あ…」

目の端に、見逃せないものが映った。

「まさか…」

足が一歩、一歩とそちらへ向かってしまう。見間違いじゃないのか、気のせいじゃないのか確認しながら慎重に歩く。

「いらっしゃい。何が望みかな?」

夢じゃない、気のせいじゃない。優しい眼差し、優しい声でこちらを気遣う笑顔のおばさんがそこにいた。

「あ、あの」

この人が?この人がそうなの?別所さんに飴玉を売っていた人なのだろうか?そして、氷室ゲームの怪しいお店屋さんがこの人なのだろうか…。

おばさんと私の間には簡易テーブルがあり、両端にはテーブルクロスを抑える為なのか、幅広のコップが置いてある。中にアロマキャンドルが灯されていて、その周りにも可愛いリボンや造花が飾られていた。そして中央に10個程の飴玉が入った袋が綺麗に並べられ、あの『水色の飴玉袋』もある。私はそれに手を伸ばし、なぞりながらじっくりと見つめた。

「その飴はね、友達と食べると幸運を呼ぶ飴玉なんだよ」

耳にその人の声しか聞こえない。緊張しているからなのか、心臓が五月蝿いような気がする。

「て、手作りなんですか?」

「そうよ。昔から伝わった特別な手法で作った、懐かしい飴玉」

おばさんがテーブルの下から金魚鉢を取り出す。金魚鉢の中には色とりどりの飴玉が大量に入っている。その中に手を入れると飴玉を1つ取り出した。それは飴玉袋のものより、特別大きな水色の飴玉だ。

「ほら、ちょっと食べてみて」

水色の大きな飴玉を私に差し出す。

「あ、ありがとうございます」

簡単に透明フィルムでくるんだ飴玉を受け取る。

「最初はほんの少し不思議な香りがするけれど、どんどん甘くなっていくんだ。口に入れてごらん」

「おいくらですか?」

危ない薬入り、と聞いているので食べにくい。いや、食べたくない。なので話を変えるように訊ねる。

「袋入りの値段がどこにも書いてないし、もし気に入って高かったら、悲しいじゃないですか」

一生懸命笑みを作ってみたけど、怖い。私の心が見抜かれていませんようにと必死に祈る。そしてぎこちなくならない様に、飴玉を眺めてみる。

「いいよ、今日は」

「へ?」

「お嬢さんは可愛いから、特別サービスするよ。2つ好きな袋をあげよう、友達と一緒に食べるんだ。だから早くそれを食べなさい」

なんで?いきなりサービスなの?別所さんにも同じ事を言ったの?

「でも」

「口に入れるだけでいい、本当に美味しいから」

早くとせっつかれる。

「そんな、申し訳ないです。勿体ない」

「ほら、飴玉の袋の両端を引っ張って」

軽く断ったのに、言われたとおり飴玉の袋の両端を引っ張っる。

「次は包装紙を捲るんだよ」

何でだろう、包装紙を開ける手が止まらない。開けるつもりはなかったのに。

「最近の飴は密封しているから、袋の開け方が違うものねぇ」

どうしよう、開いてしまうよ。

「さ、口の中に入れようか」

手のひらの上にある水色の飴を摘まんで、口元に運ぶ。

「きみ可愛いね」

もう少しで食べてしまう。その時、耳元で突然囁かれて驚く。

「高くて困っているの?代わりに買ってあげようか。幾らになった?」

聞き覚えのない声の主が私の両肩に手を置き、後ろに引き寄せた。背後にいるので誰だか認識できないが、声から男性と分かり左肩の方に置かれた手で既婚者だと分かるくらい。でも驚くべきは肌の色は白くて指が長く、爪も綺麗に切っておりとても清潔そう…。

「なんだい、香水屋。商売の邪魔だよ」

優しい笑顔のままのおばさん。

「もしかして初めての子だった?」

男は私から飴玉を取り上げると、なにやら呟く。

「これは通常の5倍って所かな。いきなり5倍はきつくない?」

「返しな。健康体ならどんな反応するか見たかったんだよ」

5倍って、反応って…怖い。

「ふうん、で、この子貰ってもいい?」

「貰うつもりで近づいたな」

いきなりむせかえるような臭いが鼻につき、眩暈がする。

「ここで倒れられたら目立ってしまう…貸しだよ」

「キャンドルを提供したじゃないか」

「キャンドル二つでその子とじゃ割りに合わないね。友達が多そうな子じゃないか」

なんだろう?『友達』という単語の時、ものすごく嬉しそうに聞こえた。やはり新しい顧客獲得の為、私の友達を呼ぶよう利用しようと思っているんだ。愛梨ちゃんや遥ちゃんは絶対に巻き込まないぞ。

「飴屋は融通がきかないな、でもいいよ貸し1つで。この子気に入った」

目が重くなってきた、力を入れてもうっすらとしか開く事が出来ない。昨日あまり寝られなかったから、ここで無理が来たのかな。

「最近前の子に飽きてさ、処分したから暇なんだ」

「もう飽きたのかい。手に入れてあまり経っていないだろうに」

「勘違いして図に乗ってきたから、ちゃんと教えてあげただけだよ」

「はっ。趣味も程々にな」

「へぇ…忠告してくれるの?珍しい」

「勘だよ、勘」

「それこそ珍しい。また占い始めるの?」

「誰が。もうまっぴらごめんだね」

胸のお守りが必死に熱を放って私を起こそうと頑張ってくれている。まるで江里口くんが怒ってるようだ。けれど、痛みよりも眠気が勝ってきて体がいう事を聞きそうにない。腕や足が重くて、なかなか動かないのに夢の中のようにふわふわと感じる。

「きみは1人でここに来たのかな?それともお友達と来たのかな?」

髪を撫でられ、心地良い声で聞かれる。

「…加…納」

「のう?」

「ね…さん」

「お姉さんって姉妹?」

誰か、助けて…溺れそう。

「早めに移動する事を勧めるよ」

「そうだね。お姉ちゃんがいるんじゃ、探されてしまう」

「いや、…もうその子は無理だ。残念だったね」

おばさんの声が聞こえる。

「私も、お前も」

「どういう…」

「すみません、私の連れが失礼しました」

優しい声が私を引き寄せた。この声、この匂いは加納さんだ。戻ってきてくれたんだ!

「体調崩しちゃったのかな?ご迷惑をおかけしてすみません」

目は完全に閉じてしまっているから、わからないけど…良かった、助かった。逃げられたんだ、私。

「じゃ、失礼しますね」

揺ら揺ら揺れて気持ちがいい。ああ、この匂いにホッとする。

「あり…」

「ごめんね、一緒に飲もうとラテ買いにいってたら結構混んでて…大丈夫?」

目を覚まさなきゃ、頑張らなきゃ。

「降り…ます」

「大丈夫?」

私を抱えて歩いているなんて、申し訳ない。地面に両足をつけると、まるで空間がねじれている様にふらついてしまった。

「あ?れ?」

現実はまっすぐ立っているつもりなのに、感覚として膝下がゴムのように曲がって立っているような気がする。視界も上手く認識できない。途中途中のものが、まるでバターのように溶けているように見える。

「大丈夫?無理させちゃったね」

「違うんです。…ひとまず車に…」

「分かったわ」

加納さんは紙袋を抱え直してから、私を抱きかかえた。

「わ、私は」

「いいから、吐きそうなら降ろすから黙ってて」

「はい…」

うう、最近抱えられてばっかしだな。彼女の首にしがみ付いて大人しく、運ばれる。…あれ?加納さん胸が変形した。…これはパッドがずれたんだな…ごめんなさい。

「ハァ…スゥ…ハァ…スゥ…」

一先ず深呼吸を繰り返し、あの場で吸ってしまった臭いを必死になって追い出す。胸の中を綺麗にしよう。

集中して深呼吸していると、パーキングに着いた。

「でもあのおばさん…なんだか」

加納さんがブツブツ言いながら、車のドアを開ける。

「降ろすよ?気持ち悪かったらすぐに言ってね」

助手席に座らせられると、座席を少し倒す。

「水を買ってくるわ。待っててね」

「あ」

また1人になったら、そう思うと怖くて加納さんの服の袖を咄嗟に掴んだ。

「…花音ちゃん」

「すみ…でも、話…」

メッセージ着信音が多数響く。

「分かったわ。車で入れるコンビニに行きましょう」

「ありが…とう…ございます」

私の額に手を滑らせ、髪をかき上げる。

「いいのよ。それじゃ精算するから待ってて。遠くには行かないから」

「はい」

ドアを優しく閉め、鍵を掛けてから加納さんが走っていく。ここは加納さんのテリトリーだ、もう大丈夫。嫌な臭いから、離れられたんだ。

「良かった…」

いくら情報を集めるためとはいえ、近づかずに観察だけしていればよかった。痴漢変態警報も出ていたのに、安易に動いて自分の身を危険にさらしてしまうなんて…。

「まだまだ未熟だなぁ」

目を閉じたまま苦笑していると、窓ガラスをノックする音が聞こえた。

「え?だれ」

『またね』

聞き覚えがある声に驚き、急いで目を開けると、窓から黒い影がパッと移動するのが見えた。頑張って身を起こし、動いた方向を見るけど…誰もいない。…車から降りて確認してみる?いや、さすがにそれは止めておいた方がいいよね?加納さんが戻るまで警戒してよう。

「つけて来ていたなんて…」

気持ち悪さより、恐怖で眩暈が吹っ飛んだ。追いかけて来たんだ、あの声は確か『香水屋』と呼ばれた人だ。

「でもなんで…」

そういえば、前の子に飽きて次の子をって言ってた。その話を聞いたから?こんどこそ、私は消されるの?処分したって言っていたし、簡単に人を始末できる人なんだろうか…。あまりの怖さに両肩を自分で擦る。氷室ゲームの人物達って、恐ろしい人ばかり…さすが18禁?ゲームね。

「でも氷室くん勇気あるなぁ…あんな人たち相手に買い物…取引なのかな?出来ないよ…」

加納さんが携帯を持って走ってくる姿が見えた。ああ、胸が完全にずれてる!これは先に言わなきゃいけないよね。




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