現状
遮光眼鏡を頭に乗せたまま、お隣さんが来てくれました。作業中だったのかな?と思いつつも、彼の将来についてこのままでいいのか悩んでます。
ちなみに弟は先に食事をするので、お母さんの元へ戻しました。なので、私の部屋には要しかいません。
「今日出かけたの?」
側に置いたままになっているコートとバッグを見て、聞かれました。
「うん、海浜公園まで」
「え、何もない場所じゃん」
確かに今は何もない場所ですが、これから色んな施設の憩いの場となるのですよ。待ち合わせとか息抜きとか…。
「まぁ…散歩だから」
「散歩?俺を誘えばいいのに」
「1人じゃないよ、とも…学校の人が1人いたし」
『友達が』と言いそうになって止める。彼とは友達になれたんだろうか自信がないからだ。まだ知り合いの範疇に入っているのかもしれない。
「学校の?誰?」
「地場くん」
要は少し口を突き出して、2人の間にあるマル秘ノートを開くとペンを構えた。
「で、なにかあった?」
「別に、地場くんと海浜公園まで歩いただけだよ」
「うん、デートだね」
「へ?違うよ。散歩だよ」
「うん。だからそれを人はデートと呼ぶんだよ」
はいはいと要が適当に流す。
「……なんか機嫌悪い?」
「うんにゃ、全く」
「嘘だ」
要はノートを閉じると、ため息をつきました。
「地場と接触した事、デートに行くことくらい教えておいてよ」
「それは成り行きで決まったから」
「決まっても昨日にだよね?なら朝に一言俺へ言えばいいだけなのに、それを省くな。ったく…サポートとして頼るなら報告ぐらいしろよ」
不満そうにノートに向かうお隣さんは、何が気に入らないんだろう。別に事後報告でも問題はないはずなのに。
「わかった。気をつける」
「以後よろしくお願いします」
私の方が遥かに年上なので、こう偉そうに言われても抑えられますが…なんだ、その私が全面悪かったような言い方は…。
「でもさ、地場を見たことあるけど、本当に攻略対象者なの?」
要が地場くんのページを開き、眉を顰めた。
「いい人だよ?」
「そうじゃなくて、恋愛シミュレーションなんだろ?俺も少し調べたけど…見目麗しい奴が大半なのに、地場はどう見てもそう見えないから」
…うん、言いたい事はわかってる。目が細めでふくよかな彼は、ビジュアル的に入りにくい。今は、だが。
「高校では運動が苦手な高身長の優しい人、になるはずだよ」
最初は冷たく感じるけど、好感度が上がれば優しいと分かるようになる。
「マジで?どう見てもそう見えない。劇○ビフォアアフタークラス?」
それは言いすぎだよ。
「話してみたら印象変わるよ?いい人だなって」
「いい人…それって…」
要が唸り始める。
「え?何?」
「嫌な設定だなって」
「どうしてよ」
「良く聞くぜ?いい人なんだけど…いい人だとは思うけどって」
…あ、あー、そういう事か。
「甘い、甘いよ、要くん」
これだから、酸いも甘いも知らないお子様は…。
「なんだよ、甘いって」
「しょうがないなぁ、こうなったらお姉さんが教えてあげようじゃない」
「…では、ご高説いただきましょーかねー」
あ、馬鹿にしてるな?ま、まだ要は大人じゃないからね。
「この手のゲームはプレイする年齢層が幅広いのよ」
「ふうん」
「だからね、大人になると平凡そうな性格の優しい人と恋愛したかった…って人にも需要があるのね。まぁ単純に優しい人が好きという人向けなんだろうけど」
「平凡そうなって…それってどうなの」
俗に言う日曜長寿アニメ番組の婿養子さんのような人。
「ゲームなので、もちろん顔はイケメンで」
「はいはい、顔は前提なのな」
でないとゲームの広告ポスターに違和感が出るでしょうが…。
「まぁ、そういう仮想恋愛シミュレーションゲームだから」
「で、その平凡な優しいイケメンポストが地場なんだ」
そう括られてると、地場くんが不憫だ。でも確実にファンはいると思うぞ?
「あのさ、そういう人は結構早めに結婚しちゃうから、女性側としては気が付いたときには惜しかった…と思われる存在なの」
「花音の経験談?」
「いや、私の周りにそんな良い人なんていなかった」
「いないって…」
「仕事に追われてばかりで、毎日がいっぱいいっぱいだったから」
「一体どんな仕事してたんだよ…」
ふふふ、毎日パソコンに張り付いてブツブツ言ってる仕事よ…。
「たまに友達に会うと、惜しかったー、手を出しとけばよかったー、まさか優良物件だったとはーって愚痴を聞かされて」
「優良物件って…男ってなんなのさ」
…そう言われても、私が言ったんじゃないから勘弁してよ。
「うん、本当にそう思うよ」
なぜか2人してため息をつく。
「ならさ、他のキャラは遊び相手で、地場が結婚相手なの?」
あからさまな事を聞きにきたな。
「さてね。どうだろう…」
「俺もどういう気持ちでサポートしていくんだろう…アホらしくなるよ」
「ははは、まぁそこらへんはゲーム感覚でいいんじゃない?」
「人の気持ちが入るのに?」
「ゲームが成功すれば気分いいし、攻略対象だって恋人が出来て幸せ、しかもその姿を見れて一石二鳥じゃなく三鳥」
「そうなのかな…」
「とりあえず、幸せそうなカップル誕生…だから幸せなんだよ」
スチルでテレまくる2人を見ると、良かったね!という気分になるから十分に私も幸せだ。
「花音の幸せってそういう奴らを見ることなんだろ?」
「まぁね」
「自分が誰かとくっついて照れるっていう選択肢はないの?」
「ない」
またその質問か…信じてないのかな。
「あのね、人と付き合うってものすっごいエネルギーが要るの」
「…」
「時間とお金と心の余裕を持たないと…ある意味仕事に近いよ」
「仕事ね。誰かと付き合ったことあるの?」
「乞われて付き合いはじめたけど…早く帰りたいのに帰してくれない。こっちが気を遣って色々しているとそれが当たり前になって、最後には偉そうになる。別れたいとお願いしたら、精神的に責めてくる」
今考えても、無駄な時間とお金を使ったと後悔してる。どんな相手と付き合っても最後には同じ事になるので、やらなければよかった。
「しかも別れた後は私が全面的に悪いと吹聴されて印象最悪状態に持っていかれるから、もう笑うしかなかったわよ」
「花音の前の人生、一体何があったんだよ…むしろそっちの方が気になる」
逆に我慢して付き合い続けた場合、フェードアウトして消えていく。別れたかどうか分からないので連絡をしたら、うっとおしいとか俺を理解していない、空気を読め…と駄目だしされて終わる。諭してやる俺優しい!と。
「あー、なんだか思い出したらムカついてきた」
「何を?」
「毎日メールをすることって言ったのは向こうなのに、し続けたら束縛するな!って怒られたり」
「ほうほう」
「私がいないと駄目になると嘆いていた奴は、俺が5分前に話した言葉を言え、本当に俺のこと愛しているのなら覚えているはずって怒るし」
「わぁお」
「俺の歌を聴いてくれって夜中3時に電話してくる奴もいた。私は次の日仕事だっつーの!しかも10分後もう一度電話してきてって…お前は何様だ」
「ハイハイ」
過去を聞かれたので、私のムカつく熱い思いを吐き出したけど、スルーされているようだった。
「…どうでもよさそうだね」
「うん、どうも俺には関係なさそうだし」
「そりゃそうだけどさ、もうちょっと労ってくれてもさ…」
「だって花音が悪いんだもん」
「は!?どこが悪いっていうのよ!」
一気に怒りが脳天を突く。相手を気遣い、自分を消し、我慢し続けてきた私が全部悪いのか!?
「悪い男に引っ掛かったんだって、なんで思わないの?」
「へ」
「どうせ告白されて、断れなかったんだろ?」
思い出して、言葉に詰まる。まさしくその通りだ。何かを見透かした?
「前回の花音は地場のような立場だったんだろうね」
「それって…」
「いい人止まり」
怒りが一気に鎮圧され、クールダウンで貧血を起こしそうだ。
「見る目がなかったんだから、恋愛に対して嫌なイメージしか残ってないんだろ」
上から目線に文句を言いたいが、言葉の槍が心へ突き刺していくので何も言えなくなる。
「それで経験豊富とか…ハッ」
極太の槍が突き刺さった……ような、気がする。
「今は、今は大丈夫だもん」
なけなしの意地で踏ん張ってみた。
「何が大丈夫なのさ」
「前回を踏まえて、恋愛にならないように勘違いさせないように気をつけてるから」
悔し紛れにいえば、すごい皮肉った顔をされる。かなりムカつくぞ、その顔!めちゃくちゃバカにしてるよね?
「何よ、その顔は」
「半世紀過ごしても人間ってなかなか成長しないもんなんだなーって勉強させてもらった所」
半世紀って私の事か、どこが成長していないというのだ。
「なによ、どこら辺が成長してないっていうのよ」
今のところ恋愛の『れ』の字もない私の人生に、文句はつけようがないはず!と強気で訴えてみる。
「どうにかしなきゃといいながら、明智を振り払えなかった花音が断り上手になっていると思えないから」
「あら、振り払えたけど?」
前回明智くんとさよならしたので、全く係わっていない。姿すら見かけていないのだ。縁が切れるという事は寂しいけど、全く見えないというのはすごい。これがゲームだからだろうか。
「外国という素晴らしく離れた場所に行ったのに、明智の支配下に入ってた花音さんは、どのくらいの期間を掛けてどういう風に振り払ったのかお聞きしたいですねぇ」
こいつ、ほんとうに中学生なのか?ぐうの音も出ない。
「…でも、でも…ほら、恋愛にはならなかったんだし」
これは明智くんの深層心理の問題のお蔭なのだが、結果が結果なので恋愛をセーブ出来たと思っておこう。
「なんとなく花音の過去の姿が見えてきたよ、いや、見えた」
「っ」
何を見たんだ、怖いぞ!
「相手から言い寄られると断れず、好きになって尽くしたら、振られる」
好き、って好きになんかなってないし!
「相手と恋愛のヒエラルキーが見事に反比例していくから、すごいと思うよ」
「反比例って?」
「学校で習ったろ?最初は花音が好かれているけど、どんどん相手を好きになっていく代わりに相手の心が離れていく」
「…長く付き合えばそれなりに愛着ぐらいわくもんなの」
「愛着って…それが敗因だろうね」
「あーもー!私の恋愛なんてどうでもいいの!今はこの攻略者達さえ上手く行けば満足なの!」
力強く言えば、はいはいと流された。
「それじゃ大人の余裕のある花音さん、もう少しキャラたちの肉付けをお願いしたいんだけど」
「肉付け?」
「ゲームではどんな性格だったのか、どういう方面の攻略対象なのか。花音の書いた情報って顔や趣味、部活や服装しかないからわからん」
性格をちゃんと書いてなかったっけ…後回しにして書くの忘れてたかも。でも実際にそういわれると、悩んでしまう。上部の性格をそのまま書いて良いのかと…。「うーん、TrueENDを全部迎えたわけじゃないし、うろ覚えだから…」
「ほら、キャラを一言で表すような台詞とかないの?」
「一言で表すって…」
「その文で、そいつは俺様だとか皮肉屋だとか遊び人だとか」
「あー、そういう意味でね」
「うん」
えっとー、あった様な気がするけど…一字一句思い出すのは難しい。
「一先ず、思慮深いのが地場くん。爽やかな笑顔を絶やさないのが水原くん…」
「水原が笑い続けるのってちょっと、ゾッとするけどね…」
「だって、そうだったんだもん」
「はいはい」
次に、誰が思いつくかな…。
水原翔太……爽やか笑顔(現在:熱血バレー少年)
金森大輔……熱血野球少年(現在:不真面目)
地場結人……実は思慮深く優しい(生徒会)(確定)
火野 匠……ストイック
木谷 潤……おちゃらけ
土田龍之介…芸術家肌
天ヶ瀬司……俺様(現在:貴公子)
海堂一真……完璧な王子様
明智新吾……厳しい先生(現在:王子様)
要が私のまとまりのない話をまとめてくれました。
「もうちょっと情報無い?」
「ええ!?……ちょっと待ってよ」
一条遥………ドジっ娘で料理上手(確定?)
野々原ゆい…策略家・養殖女子
南里瑞貴……優しいお姉さん、怒ったら超怖い
日崎陽子……しっかりもので空手の師範代
吉岡凛………キャーキャー叫んでた
緑川琴音……日本舞踊の家の人
宇留間七海…超お嬢様でクール・無表情
「いや、ライバル女子も大事だけどさぁ」
「それでもまとめてくれる要くんすごい!」
「…でも今の所現状と違うキャラばかりなので、花音の未来は分からなくなってきてるんじゃないかな?」
「私の未来?」
「本当に言ってる様なイベントって起きるのかどうか」
そういわれると、かなり自信が無くなる。
「実は、本当に起きるか分からなくなってきたんだ」
「は?なんで?」
「だってさ、現実的にそれってありなの?な強制イベントがあったり、普通そんな反応するかなっていうのもあるから」
「ゲーム上の設定か…」
「ゲームの中では、『ゲームなんだから有りか』も現実ならどん引きするし、普通ならできないと思う」
「例えば?」
「曲がり角でぶつかる」
「鉄板だぁ」
「裏庭で寝ている所に遭遇、こっそり努力している所に遭遇、たまたま困っている時に遭遇、協力しなければならない時に遭遇」
「なんか…いろいろ大変そうだな」
「改めてそう思うわ」
後は学園祭で投票するミス星雲に選ばれたりするんだけど…無理だ。綺麗でかわいい子を押しのけて選ばれるなんて、夢物語にもほどがある。
「んーん?そうか、そういう事か」
「どうしたの?」
「いやね、学園祭でミス星雲に選ばれるイベントもあるんだけど、あれは主人公が根回しをして知名度をあげたからなれたんだって」
「はあ」
「いろんな人に優しく、面倒事を引き受け、いつも笑顔で頑張ってるから入れてあげよう…とそんな気持ちにさせてしまう主人公、恐るべし!」
「いや、今その主人公とやらは花音だから」
「こうなれば、私が影で暗躍してミス星雲の座を意のままにしてみせるわ」
「それって悪役のセリフだよね?」
「でも悩むなぁ、どのヒロインにしよう…遥ちゃん、いや宇留間さんも…いやいや、やはり基本は日本美人で琴音さんか?」
「聞かれても俺知らないし…ライバル女子をヒロインに変換して逃げようとしているのはわかるけど、まず落ち着こう、な」
宥めるように頭を軽く叩かれる。
「失敬な、私は落ち着いてるわよ」
「そうかな…どうも先走りしているようにしか見えないけど」
「ライバル女子をライバルと呼び続けるのを止めただけよ」
「なんで?」
「攻略対象とくっつくんだから、それぞれがヒロインよ」
「…そうですか…」
「全員と是非とも仲良くなって女子会とかしたいなー」
「花音が男ならハーレム作りそうで怖い」
「あ、このゲームでハーレムは無理だから」
「そうなの?」
「うん、だって時間が限られてるしイベントもどっちを優先するかで好感度が変わっていくから無理だと思う」
「へー。普通あるもんじゃないんだ」
「ハーレムENDを迎えるには隠しキャラも合わせて全部攻略しなきゃいけないんでしょ?」
「隠しキャラもいるの?」
「うん、5回くらい攻略しないと出ないらしいよ。他にも二年出かけなかったら出るキャラとか、ひたすら同じ場所へ行かないと出会えないキャラとか…」
「それ初耳だよ、情報は?どこのページ?」
「知らないし、書いてない」
「なんで」
「そこまでしなかった」
「えー!マジで?なんで気にならないの?」
「攻略サイトでそういうキャラがいるって見ただけで…、そうなんだとしか…」
「そのキャラに明智は?明智は入ってないの?」
「違うと思う。SPみたいなキャラじゃないと思う」
「一応読んだんだろ?思い出せよ、くだらない恋愛過去話より、そっちの方が重要!」
くだらないって酷い、酷いよ要…少しは前回の私を労わってよ。
「えーっと、40代の子持ちと20代の社会人と他校の先輩だった…と思う」
「…子持ちって…本当にどんだけ年齢層広いんだよ」
「ほら、興味出ないでしょ」
「確かに。そっか、やっぱり明智はいないんだ…」
「やけにこだわるね」
1年近く明智くんと一緒にいたから、要も気にしてるのか。ううん、私を気遣っているのかもしれない。好きになりかけたって言っちゃったもんね。ごめんね、要…ありがとう。
「俺の勘外れたかなぁ」
「なんで」
「隠しキャラもういないの?ストーカー枠とか犯罪者系」
…要さん?
「痴漢や変態も含めてもいいかも」
ドキッと心臓がはねる。
「明智って踏み間違えると危険な存在になりかねない気がするんだよね」
それは無いと思うけど、痴漢に反応してしまった。
犯罪者枠、それって氷室くんのゲームの事を言っているんでしょうか?
「魔法使い枠は?」
「それはない」
「だって江里口ってやつ、戻ってくるって宣言してるんだろ?」
「あのゲームにファンタジー要素はない」
要が頭を掻きながらノートを見つめる。
「なんか、喉に引っ掛かったみたいで落ち着かないんだ」
「気のせいだよ」
恐るべし、サポート役。頭に何かアンテナのようなものを持っているようだ。妖気に反応する…いや、恋愛に反応するレーダー?ついジッと彼の髪の毛を見つめてしまう。
「ちゃんと俺に全部話してるよな?」
確かめるようにジッと見返される。
「恋メロ…恋する星のメロディー、思い出す限り…自信ないけど」
「隠し事されたらサポートもサポートじゃなくなるからな?憶えてろよ?」
「はい」
差し迫る氷室ゲームに、私は勝利をおさめることが出来るのでしょうか…。近いうちに和田くんと話し合うべきかもしれない。




