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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
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感情

また来てしまった。でも今度はリビングと呼ばれる場所に座ってます。

「こ、ここも広いね」

「そうか?」

明智くんってこんな広い場所に住んでで疲れないだろうか?長い廊下の先に広いリビングがありました。そこには大きなL字型ソファーとテーブル、大画面のテレビしかありません。シンプルすぎる。

「水でいいか?」

目の前にドンと置かれたのは、500mlのペットボトルの水。ラベルは見たことの無いものだ。どこのだろう?

「ありがと」

明智くんが水を持ってきた扉の奥に台所らしきものが見えたけど、何もなさそう。本当に冷凍食品で生きているのかな?…明智くんは病気になったり、危険な目に遭ったらどうするんだろう。1人きりだと生存が不安になる。

「伊賀崎みたいに茶は出せない。道具もないからな」

そういうと側に座る。なんだか近くありませんかね?普通こういうときは対角とか端とかもう少し離れて座るものじゃないかな。

「ま、普通はそんなものだよ。洗うの面倒だしね」

「食器洗浄機はある」

「…なら片づけが面倒ってことで」

フォローしたつもりなのにフォローになってない。

「では聞こうか」

「あ、うん…」

夢の話をするために、またお邪魔したのだけれど…気持ちそれどころではなかった。下校時、靴箱に遥ちゃんからの手紙が入っていた。内容が一緒に帰れないことの謝罪。それだけしか書かれてないのにしゃがみこんで何度も手紙を凝視してしまった。朝の誤解は解けておらず…というより誤解も何も無いはずなのに誤解になってる。

「大丈夫だ。明日の朝話せばいい。一晩経てば一条も落ち着くだろう」

「ならいいんだけどね」

盛大なため息をついてしまう。何が彼女の地雷だったんだろうか…。もしかしてライバルフラグか何か立ててしまったのかと思うと、気が重い。解消するには攻略対象とある一定仲良くなる必要があるので、その間遥ちゃんに嫌われるなんて嫌だ。

「大丈夫だ」

明智くんが大きな手で私の頭を撫でる。

「はは、ごめんね」

夢の話の件で明智くんの家へ再度誘われた時、遥ちゃんの話も聞いて欲しかったので即頷いて来てしまった。本当は遠慮するつもりだったのに、二日続けてお邪魔するってどうなんだろう。

要が離れて、遥ちゃんが離れて、弟がお母さんと友達のところへ遊びに行っているので寂しかったのかもしれない。そのせいだろうか、彼の慰めが心地良くて困る。

「来るか?」

「どこに?」

明智くんを見ると、私に向かって両手を開いていた。

「……………えっと…まだ大丈夫かな」

「そうか」

彼はそう言うとペットボトルを開けて水を飲む。なので、私もそれに倣う。いかん、一瞬頭が真っ白になってしまった。あんなのを素でやられるとは…明智くんとの距離感を間違えないようにしないと、歪な関係になりそうで怖い。つい甘えそうになっちゃったぞ。

「それでどんな夢を見たんだ?」

「そうそう、それなんだけどさ」

あれはどう話したらいいんだろう?

「なんかビデオレターの様な感じだった」

「ビデオレター?」

「うん。前に撮っておいたものを流している、って感じ」

「内容は?」

「最初はミスしたことを謝られて、なんかすごい大きな作業をしている話と…そうだお守り」

後はなんだっけ…。

「そして弟子になりたいって言ったことが嬉しかったって話と、接続しすぎ、そうだ!話しすぎると何かにばれるみたいな事も言ってた」

「ほう」

「その後、なんか砂嵐のような音がして真っ暗になって…」

あれはあの時の、江里口くんが消えた時の言葉かな?でもなんて言ってたか、忘れてる気がする。しまった!夢って忘れやすいからメモしておかないとダメじゃん。

「伊賀崎?」

「ちょっと待って、えーっと…なんか切羽詰まった声で見つかったやら、誰にも喋るなやらまた戻るとか話してたと思う」

「他には?」

他?他には、他には…。

「そうだ、アクセス権がなんやら言ってた」

「だいぶ抽象的だな」

「朝はもっと覚えてたと思ってたんだけど、ごめんなさい」

「いや、先伸ばしにした俺も悪い」

「そんな…メモしなかった私が悪いよ」

「でもこれで俺達が知らない第三者が確実になったな」

みんなの記憶を消した人が側にいるかもしれない。

「疑問なんだが、お守りとはなんだ?」

「あ…それは喋っていいのかな…」

見つかるとやばいのは眼鏡だけかな…。

「問題でもあるのか?」

「ある件でね、江里口くんがばれたら効果がなくなるという品物が…」

眼鏡の事だけかな?お守りは話していいのかな?

「そうだ、お守りのほかに、め…力とか鍵とかも言ってた」

「目力?」

「違う違う、力と鍵」

「なんだ、それは」

「わからない」

「教えられていないのか?」

「うん。貰った記憶が無いから盗られたのか忘れたのか…」

時間が無かったから説明不足で悲しい。

「お守りはばれても大丈夫なのか?」

「どうだろう、でも貰ったときにそういう注意は受けてないし」

痴漢に赤い光を見られたと思うし、病院で先生や加納さんに袋越しに見られたけど問題なく効果を発揮したので大丈夫かな?

「いつも首から提げているんだけど、痴漢や変態が近づいたら赤く光って温かくなるの」

そっと胸にあるお守りを抑えてしまう。

「見ても?」

「効果が消えたら怖いので、ちょっと勘弁して欲しいかな」

「そうか」

「でもものすごく役に立ったんだよ」

「ほう」

「明智くんが転校した後、もうかなりの痴漢と変態が増えてさ」

「なに」

「毎日走ってばかりで、外出なんて出来なかったんだ」

「そんなにか」

「そう、もうお守りが何度も警告するから…気が休まる時がなくて泣きそうだったよ。そんな時に…」

そうだ、眼鏡の話は出来ないな、黙らなきゃ。

「まぁ、今の私には大事なアイテムだね」

「何故俺はそんな状況の伊賀崎を置いて転校したんだ…」

「それは江里口くんがいたからだよ。江里口くんが色々助けてくれた」

「だがおかしい、俺は…」

明智くんが真剣に悩みこみはじめた。いかん、記憶の欠如した部分で辻褄あわせが出来ていないのかもしれない。

「私が知っているのは、当分私に何も起きないから江里口くんに頼んで違う人たちを助けに行ったって事」

「助け…そうか、のちのち伊賀崎に係わるようだから、懸念を排除しにいったんだ」

「そうだったの?」

「俺は伊賀崎以外の事で動くつもりはない」

「へ」

「全員を助けれるほど俺の手は広くないからな」

私の専属SPという事でしょうか?なんだか申し訳ない気分になってくるんですけど…。私よりもっと違う人を助けたほうがいいのに。

「えっと、ありがとう」

一先ずお礼を述べてみる。

「俺がやりたいからやっている。伊賀崎は気にする必要はない」

「…」

こういう扱いをされた事が無いので、対処できない。これはおいおい考えよう。うん、そうしよう。

「やっぱり氷室ノートは見せてくれないの?」

「内容が良くない」

「内容ってどんな?大抵の話は引かないよ」

「自分がどういう風に陵辱されていくのか、知りたいか?」

氷室くん、そういう話を記録してたんだ。

「私とは別人だから、気にしないし、そういう風になるつもりはないから」

「させない」

「はは。でも、登場人物くらい知っておきたい」

「駄目だ」

「やっぱり駄目か…そこらへんは変わらないんだね」

「どういう意味だ?」

「電話で話したじゃない、係わるなーって」

「ああ。伊賀崎は真っ先に飛び込んでいきそうだからな」

「…まさか」

「いや、絶対に行く。だから教えられない」

もやもやする。助けられるかもしれないのに、何もしないのは絶対良くない。注意や気をつけるだけで、私みたいに無事でいられるかもしれないのに。

「江里口くんがいなくなった今、氷室ゲームを知っているのは明智くんと和田くんだけなんだよね」

「聞きに行くのか」

「最初のイベントだけ、それだけでいいんだ。教えて?」

「……教えたくない」

明智くんが顔を背けた。

「私さ、平気だよ?」

「何が平気だと言うんだ」

「ノートを見て嫌悪したりする事はあっても、見なければ良かったとは思わない。むしろ役立てたい」

「伊賀崎…」

「陵辱系も監禁系もBLからGLも別に文章として見れるし、昔そういうゲームを面白半分でやったことあるし…悪意からヒロイン達を逃していくのもクリアしたわ」

「伊賀崎?」

どうしよう、言うべきか言わざるべきか。自分にもう1つの人生があったことを話しても大丈夫だろうか判断に迷う。要に相談してからにしようか、もうぶっちゃけちゃおうか。

「…悪い」

ぼそりと明智くんが呟く。何が悪いというの?やっぱり私かな?

「もう氷室の事を書いた紙はない」

「へ」

「焼却した」

「は?」

「向こうで燃やした。全部」

「はぁ!?なんて事を」

つい頭を抱えてしまう。やっぱり教室で明智くんが読んでいた時に取り上げれば良かった。悔しい。

「すまん」

「内容は覚えてないの?」

「覚えている」

「なら、私と宇留間さんがどういう関係になるの?宇留間さんを助けた意味は?それくらいならいいでしょ」

「…お互い話が合って、仲良くなる」

宇留間さんと私が?

「良い事じゃない」

「宇留間が捕まると、伊賀崎が助けに行き、結局捕まる」

「それって別に捕まらなければいいだけの事でしょ」

「いや…」

明智くんが口ごもる。

「別に平気だから話して」

今度は体も背けられた。私を見て話したくないという事か。

「宇留間は誘拐された時に女性とも関係を持った事で性癖が変わる」

「性癖って」

「伊賀崎、お前と仲良くなり性的に興味を持ち始める」

「それっ監禁前から?」

「ああ。氷室に捕まった後、性癖を知られたくないために最初はお前の前で嫌がるが、時期に望んでするようになる」

…はい?

「色んな道具で、薬で、最後には氷室と一緒になって伊賀崎を精神的に落とす」

落とすって、上から下にじゃなくて、ですよね…。

「氷室は宇留間の家の力も借り、更に監禁を拡大していく」

「それって、始めに私がって事?」

「いや、実質的には宇留間からになるんだろうな」

まさしくGLって事か…宇留間さんは海堂くんが好きなはずなのに、何ででしょうね。

「宇留間さんに好きな人はいないんでしょうか?」

「…さあな」

誘拐された宇留間さんは女性に目覚めるから、そうならないように誘拐を阻止した、でいいのかな?

「百合も混合とは、さすが男性向けゲーム」

「話を聞いて、大丈夫か?」

「平気、コレくらいなら全然」

猟奇的な成分があるなら全力拒否したいけどね。

「今回誘拐を阻止したのなら、もう関係ないよね」

「わからない」

「だって同性同士にってなかなか難しいと思うけど」

「伊賀崎に興味を持つかもしれないんだぞ」

「素で私と寝たいって事?」

「っ、それは」

「大丈夫よ、多分幼馴染とか知り合いに好きな人いると思うから」

恐らく氷室ゲームの様な出会いより、私のゲームの出会いを済ませたら、きっと海堂一真を好きな宇留間さんに会えるはず。海堂一真が生徒会長で、宇留間さんが副会長になっているはずだから、5月くらいに海堂一真と接触して次に会えば問題解決だ。

「うん、私もめどがついた」

「何のめどだ?」

「宇留間さんとの接触の仕方」

「…そうか」

明智くんが振り返る。

「ならそろそろお暇するね」

「今日は早く帰るのか?」

「昨日が遅かったくらいだよ」

隣に置いたコートを持ち、ソファーから立ち上がる。

「でも今日は水原くんの事ありがとう、断るの頼んで悪かったわね」

「いや、特別何も言っていない」

「え?お断りをしたんでしょ?」

「ああ。俺が伊賀崎の体の管理をしているから、問題ないと話しておいた」

…明智くん、言葉を選びましょうよ。それ、教室で話してませんよね?

「水原くん驚いていたんじゃない?」

「よく分かったな」

「なんだかいかがわしく聞こえるので。今度があったら違う言い方を…いや、もう自分で話すね」

頼りきりがいけないというのに、また頼ってしまった。甘えすぎに注意しなければ。

「伊賀崎」

「なに?」

「今日は抱かせてくれないのか?」

「!」

明智くんは側にあったクッションを膝の上に置くと、こちらを見上げた。それはそこに座れという意思表示でしょうか。それにしても単語を変えさせなければ、心臓にかなり悪い。

「出来れば『ハグ』と言ってもらえないかな」

「分かった、ハグさせてくれないのか?」

「う、うーん」

前髪が眼鏡にかかり、少し見える眼鏡も光ってどんな表情をしているのか判断に困る。やっぱり家に来たからにはしなければならないのか。

「そうか、嫌か」

項垂れそうな彼に、申し訳なく側へ行く。

「嫌じゃないよ」

そして立ったまま明智くんを軽くハグする。

「それじゃあ、またね」

「こちらがいい」

腰を掴まれ、体を回されると膝の上に座らされた。せっかく体が密着しない離れたハグをしたのに!

「あのね、明智くん」

「立ったままより、姿勢が楽だろう」

「そりゃ楽だけど」

彼の両腕に挟まれ、しっかりホールドされる。捕まった…そう思うのは私だけだろうか。でも思いっきり抱きしめられている訳ではないので、痛くはない。明智くんも成長したなと感心しておこう。

「なぁ、伊賀崎」

「なに?」

「聞いてもいいか?」

「質問によるかな」

「そうか」

話をするなら長くなるだろうと、私は明智くんを椅子だと思うことにした。背中を預けると、少し驚いたのか身じろぎされる。それとも髪の毛が当たってこそばゆいのかも。ははは、ならば早く解放することだ!

「伊賀崎は昨日、感情が抜け落ちていると言ったな」

「ん?言ったっけ」

「言った。好きな人が出来ることはないと」

「あー、その件か。少し語弊があるから言っておくけど、彼氏彼女とかそういう関連についてだから。友愛はあるわよ」

「何かあったのか?」

「はは、あったような無かったような」

過去の話をしても、理論的な明智くんは認めないだろうな。恋愛はもう十分過ぎるほど経験したので、もういいですなんて認めてくれなさそう。

「俺も抜け落ちているものがある」

「えっと、笑いだっけ」

「ああ。心から楽しいというものが、分からない」

「でも笑えたから抜けてなかったのよ、良かったね」

「伊賀崎のお蔭だ」

頭を多分頬ずりされてる。うう、あまり押さないで。

「昔、異母兄妹に一度だけ会った」

「え」

「父は嫌な顔をしたが、相手の女性が願ったので一度だけ」

不倫相手が願ったって、それって正妻から旦那を奪う予定で明智くんと会いたがったの!?ならかなり怖いね、その人。

「色々良くしてくれたんだと思うが、楽しいという顔が出来ず失敗に終わった」

いや、それ楽しい顔なんて出来ませんって!どっか間違ってますよ、それは!不倫相手も何考えてんだってんですよ。

「それで俺より年上の、兄と呼ぶべきなんだろうな。兄は何も言わなかったが、妹の方…といっても年上なので姉か。姉を怒らせてしまった」

明智くんが怒るべきなんじゃないの?そこは。

「あの時、伊賀崎が隣にいてくれたら、状況が変わったのかもしれない」

「それっていつの事?」

「11歳の時の話だ」

10歳で抱きつき事件、11歳で父の不倫相手に呼ばれる…あなたの人生波乱万丈ですね…。

「よく頑張ったね」

目の前にある彼の手を撫でる。

「また兄弟が増えたらしいが、伊賀崎の様に喜んでやれないのが悪くて」

「いやいや、無理に喜ばなくていいと思うよ?無理はいけない」

明智くんのお父さんって、節操無しなの?酷い人だね。彼の実父なので、悪口は言わないけど、人として絶対良くないよ。

「キミはさ、まだ14歳なんだから、自分の思うようにしていいよ」

「思うように?」

「犯罪に触れたり、警察のお世話になるような事さえしなければだけど」

まぁ彼が犯罪行為に走るのなんて、想像がつかないから大丈夫だろうけどね。ただ、走り出したら止まらなさそうなので、やらないでね?

「伊賀崎はなぜ感情が抜けたんだ?」

うーん、説明が難しいぞ。

「なんだろう、恋愛って。私にとって難しいものなんだよ」

「難しい?」

「うん。みんなどこかしらいい所があるよね」

「ああ」

「でもね、誰だけを好きという気持ちが沸かない」

「みんな好きという事か?」

「友情しか沸かないんだ」

「…それは」

「私が誰かと付き合うよりも、幸せなカップルを見ている方が満たされる」

「伊賀崎」

「幸せそうな2人を見ていると、私は嬉しいな」

「そうか」

「明智くんもそんな姿を見せてね」

「無理だ」

「何故に」

「俺には出来ない」

「大丈夫だよ、笑顔なんてこれからもっとできるようになるよ」

腕をポンポン叩いて叱咤激励したつもりだけど、首もとに頭を下げられた。髪が肌に当たってこそばゆい。彼は落ち込んでいるのだろうか、柔らかめな髪が簾のように垂れ下がっていて、頬を擽る。

「そういえば江里口くんの最後の言葉、頬っぺたについてだったよ」

「頬について?」

耳元で喋られると変な感じがするな。

「うん、私の頬っぺたが柔らかいねって」

「なぜ?」

なぜってそれは…。

「そうだ、頬を通じてアクセス権がって言ってた」

忘れてた話を思いだし、なんだかスッキリとした気分になる。

「伊賀崎の頬に…」

「あ…」

思い出して話せたのは良かったが、なんだか嫌な予感がして冷や汗が流れたような気がした。



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