気持ち
私も村野さんにお願いをしたかった。
そういう件については私を頼らないでください、と。事務的に話し笑えたら楽なんだろうな。
「そもそも、明智くんのどこを好きになったの? 接点もなさそうなのに」
「何よ。いつも一緒に居たからって」
いつも一緒にいるから、彼のモテ期の意味が分からなくて困惑してるんです。必死に困った顔をすれば、呆れるように教えてくれた。
「しょうがないわね……1年生の時、体力測定でスゴかったと聞いたわ」
「うん」
確かにずば抜けてました、悔しいくらいに。でもどれくらい運動すれば彼のようになれるんだろう? 実力の開きが大きすぎて追いつけるかどうかは……無理かも。
「それに伊賀崎さんを守る姿は騎士みたいで素敵だって」
「な、ないと!?」
そ、それはどうでしょう? 実際は口煩いお父さんの様な存在だ。その口煩さも私の為を思ってだから、言わせている罪悪感はちゃんとある。耳痛いけど、毎回反省しているし、次回に気をつけたい。
「明智くんは前髪長いし、表情豊かじゃないから何を見て考えているのかはっきり分からないよ?」
「それは隠しているから、しかたないのよ!」
「へ?」
「眼鏡を取って髪を上げれば、すっごくカッコイイんだから」
……それは見たって事? 明智くんの素顔を。私は見た事無いから、教えてほしいなぁ。そうか、カッコイイ顔をしているんだ。想像がつかないから、私はのっぺらぼうしか頭に浮かばない。
「へぇ、知らなかった。そうなんだ」
「え、違うの?」
あれ? なんだか村野さんとの間に深い溝を感じる。気の所為じゃない? 眼鏡を取れば、誰もが美男美女。そういう意味なの?
「とにかく、私は確信しているの。明智くんは身を隠しているって」
「身を隠す?」
「そう。誰にもバレない様に」
私だけが知っていると、自慢げに話してくるけど、その話の信憑性はいかほど?
「そうなの?」
「そうよ。そうでなきゃ顔を隠したりしないもの」
「えー……」
前髪が長くて顔が見えにくい人全員が身分を隠している、になるのかな。
「何か事情があってこの学校にいるけど、本当にいる場所は違うの」
「へ、へぇ」
えらく自信ありげに話してるけど、それって想像だよね。いや、想像より希望に近い気が。理想と現実が違ったら、彼女は自分の気持ちにどう決着をつけるのか怖い。切り替えて新しい恋へ向かうならいいけど、他人の所為にして悲嘆されたら……。
「もし、明智くんの素顔がカッコ良くなくて、それで顔を隠していたら?」
「まさか、絶対に無いわ!」
盲信だ。いいのかな、これは。
「でもなぜ今?」
「これも運命なのよ」
「運命、ですか」
「明智くんと親しい伊賀崎さんと同じクラスで、隣の席なのってものすごい確率だと思うの」
別にものすごくもないと思うけど。
「急がなきゃ、駄目よ。高校生になって学校が別々になったらもっとチャンスが無くなっちゃう」
思いつめる姿に、気持ちが分からなくもない。が、係わるのは、きわめて怖い。でも紹介くらいなら大丈夫だろうか?
「一先ず下駄箱に行くよ。人を待たせてるから」
「ええ、一緒に頑張りましょうね」
「だから一緒には」
「もう。なら一番応援するのは私にしてね」
「……」
「私は橋渡しできないからね、自分でしてね」
私は早くクラス替えか、もしくは席替えがないかと切実に願わずにいられない。階段を降りながらお願いするけど、彼女は私よりも急いで向かっているので聞いているかどうか……。これはあれか? ゲームの副作用か何かなのかな?
「ごめんなさい、遅れちゃって!」
下駄箱で雑談しあってた愛梨ちゃんと5組の明智ファンクラブが少し驚く。何せ村野さんが真っ直ぐに明智くんと遥ちゃんに謝りながら駆け寄って行くのだから。
「え、う、ううん?」
遥ちゃんは明智くんと村野さんを交互に見ながら困っている。知り合いじゃないのに声を掛けられたら、そうなるよね。ごめん、遥ちゃん。
「あの、私、花音ちゃんの友達の村野美香と言います」
私の名前に違和感が。ああ、近づきたくない。今まで伊賀崎さんだったのに、突然そんな呼び方されたら戸惑ってしまう。
「お互いに悩み相談とかしてたらこんな時間が過ぎちゃって。ホントごめんなさい」
「そ、そうなんだ」
明智くんを見ながら話しているのに、彼が無言なので遥ちゃんが代わりに話している。それが村野さんは気に入らないみたいで不満そう。
「で、何をしてるの?」
「え?」
山崎さんが近づいてきて、質問してきた。ニヤニヤ笑いながら来ないで!
「その、避難?」
「微妙な隠れ具合」
実は教室棟から下駄箱をこっそり覗きこんでました。村野さんの後について行く気力がない私を許して。ただでさえ江里口くんの件で元気が無いのに、これ以上気力を吸い取られたくない。…いやだって、何か奪いとる魔法か何かを掛けられたような気分になるんですもん。自己防衛です、自己防衛。でもこれで私がいなくてもアピール出来る事を学んで、村野さん1人の力で頑張ってほしい。
「まぁ、巻き込まれたんだなって想像くらいつくよ」
「なんか突然こうなっちゃったんだ。なんでだろ」
「気持ち分からなくもないけどね。でも露骨で焦ってる感はある」
「高校に入ったら間に合わないって言ってたけど」
「ははーん、高校に入ったらもっと倍率上がりそうだもんな」
倍率……いいなぁ、魅力がそれだけあるって事だよね。私はパラメータ的にどうなんだろう? 上手くイベントをこなして公式カプを育て上げることが出来るかな? 来週末の加納お姉さまとのデートが待ち遠しい。私のセンスを見て確認してもらおう。
「そういえば山崎さん、私に話ってなに?」
「そうそう。明智くんまた帰ってきたけど、どこまでいったかなって」
どこまで……。いや、何処にも出かけてないし遊びに行ってもいない、って事で許してもらえないかな。
「お隣の要と一緒に近くの海岸までランニングに」
「お約束のボケはいいから」
「どこまでも行こうとお父さんと娘関係に代わりはないわよ」
「そこだ」
「どこ?」
背後に顔を向ければ、頭に軽く手刀が入った。
うう、山崎さん許して。
「ごめん……」
「もう、ここにいた」
山崎さんと話していたら、村野さんが戻ってきてしまった。私が居なくても会話してたじゃないか! と全身で訴えてみたけど、残念ながら通じなかった。
「花音ちゃんったら後ろにいると思ったのに、いないからビックリしちゃうじゃない」
「えっと」
そういいながらも、目が笑ってませんね。恋すれば中学生でも大人の女と同じ、ってやつですか?
「ほら、早く行きましょ」
「っ」
無理やり腕を引っ張られる。いきなりだったので、痛みに対応できず、つい顔を顰めてしまった。
「待て」
「えっ……」
明智くんが村野さんの腕を掴み上げた。その瞬間、私の腕が開放される。良かった、正直助かった。
「あの、私……」
顔を真っ赤にさせて、村野さんは明智くんを見つめているのだが、痛くないのかな? 彼の握力は破壊的だからな。なんとなく彼女らから一歩下がると、明智くんが村野さんから離れた。そして私の方へと近付く。
「伊賀崎、怪我は大丈夫か?」
「い、いい!?」
なんと、今度は私の腕を掴もうと手を伸ばされそうになったので、急いで無事を伝える。村野さんの手よりも明智くんの手の方が数倍怖い。今の体の状態で触られたら、骨が折れちゃう! 試験前だし利き腕なので、絶対に触られたくない。
「大丈夫、大丈夫だから、ね? うん、全く問題ないから!」
「……そうか」
必死にそう伝えれば寂しそうに手を下ろす。罪悪感が生まれるが、無理なものは無理なので、遠慮してもらおう。元気な時でお願いします。
「あの、遥ちゃん。待たせてゴメンね」
「ううん、花音ちゃんの体が大丈夫なら」
「あの……花音ちゃんが怪我したって本当?」
おずおずと愛梨ちゃんが遥ちゃんへ近づいてきた。
「へへ、昼休みちょっとドジしちゃって」
「あ、あああ」
彼女の目が潤み始めたので、気を逸らすように遥ちゃんを紹介する。愛梨ちゃんは泣かないで笑っていて欲しい。涙なんか絶対似合わないから。
「あ、そうだ、愛梨ちゃん、こちら2組の一条遥ちゃん」
「は、はじめまして、頼元愛梨です。5組です」
「はじめまして、2組の一条遥です」
可愛い系の美少女と笑顔が硬い美少女の組み合わせだ。うん、さすがモブと違うね、絵になる。そういえば恋愛シミュレーションのゲームの主人公ってモブに近いくらい本人画像が薄いよね。そんな私がどうやってこんな美少女達と攻略者を取り合うというのだろう? 疑問も甚だしい。絶対に無理です。
可能性があるとすれば、きっとあれだ。フランス料理ばかり食べているとお漬物が恋しくなるのと一緒のやつ。それとも高級品ばかりの中に安い漬物があると、高級品に見えるという勘違いのほうかな? 友達と一緒に行動する事で、何か能力がアップするのだからそうなのかもしれない。
「実はちょっと転んじゃって……もう大した事ない傷だから」
「本当に?」
「うん! もう元気だから」
ついでにそう愛梨ちゃんに伝えれば、不安そうに見つめてくる。ああっ、遥ちゃんまで慈愛に満ちた心配な目で! ごめんなさい、すみません! 今後気をつけます!
「心配掛けてごめんなさい! でも、次はもっと注意するから」
「ううん、でも良かった。酷い怪我じゃなくて」
必死に謝れば愛梨ちゃんが悲しそうに笑う。そして遥ちゃんが申し訳なさそうに下を向く。
「私も気をつければ良かった。自分の事ばかりで……ごめん」
「違う違う、遥ちゃんの所為じゃないんだから気にしないで」
こんなに心配してくれて、私って幸せものだよ。おばちゃん、嬉しい。ふと明智ファンクラブの方を見てみれば、さっそく彼を囲んでいた。なにやら話し合ってるようなので、気にせずに2人と話す。近寄ってこないなら、遥ちゃんに紹介しなくてもいいよね。
「愛梨ちゃんはこれからお迎え?」
「はい。迎えが外で待っています」
「そっか、じゃまた遊ぼうね」
「はい」
私の無事を確認して安心した彼女が1人で校門へ向かう。良く見れば彼女だけ上靴でなく、靴を履いていた。
「あれ? 明智ファンクラブと一緒に帰らないの?」
「はい。今日は親睦を深めるのだと聞きました」
「そっか、じゃまたね」
素敵な笑顔で校門へと歩いていく彼女に、ふと思い出して声を掛ける。
「そうだ、藤間さんにお礼言っておいて!台所感動したって」
「愛梨、またね」
「また明日」
「バイバーイ」
私の声に気が付いて、ファンクラブも彼女に手を振った。本当に別々で帰るんだ。そういえば堤さんは藤間さんのファンでもあるんじゃなかったっけ? いいのかな、一緒に帰らなくて。
愛梨ちゃんは少し微笑みながら会釈して、帰っていった。
「さてと。なら遥ちゃん、私達も帰ろうか」
「その、村野さんなんだけど」
「あー、うん」
遥ちゃんがほんの少し距離をつめてくる。
小声になってしまうのは、本人が近くにいるのでしょうがない。そんな村野さんはファンクラブと一緒に彼を囲む1人となっている。
「明智くんの事がすごく好きなんだね」
「みたい」
「みたい?」
「うん。なんだか運命って言ってたし」
「どういう意味かな?」
「明智くんと友達の私と隣の席になれて、明智くんが帰ってきたから」
まとめてみると、そういう事だよね。ちょっと悲しいぞ、これは。私はナビゲータか何かか?
「なんとなく、分かっちゃうかな」
「え!? 分かるの?」
遥ちゃんの言葉に驚いてしまう。村野さんの気持ちが分かるなんて。
「え? え? どうして? なんで分かるの?」
「だって、全然近くに行けなくて話せないなら、花音ちゃんを頼っちゃうよ。彼とすっごく仲がいいなら特に」
「え」
「好きなのに近寄れないのって、すごく胸が苦しいもん」
ほんのり頬を赤くして遥ちゃんが頬に手を添える。きっと水原くんの事を考えているんだろうな。うーん、可愛い。
そう考えると、一気に私との距離を縮めて頑張る村野さんも嫌いにならないで済みそう。欲しいものが手に入りそうになったら、集中して焦っちゃうもんね。クレーンゲームでもあと少しになったら、追加料金出しちゃうし。
「そっか」
「でもね、花音ちゃんは自分の『好き』を遠慮しちゃ駄目だと思うの」
「……はい?」
「やっと遠距離じゃなくなったのに、自分の気持ちを隠すなんて絶対駄目」
上目遣いでガッツポーズをとられるけど、彼女の可愛さに言葉が頭になかなか入らない。自分の気持ちって何を言ってるのよ、私と明智くんは親子関係なのに、って。
「あちゃー」
頭を抱えたくなった。そうだよ、そうだった。明智くんとの誤解が解けていないままだ。
「どうしたの? 花音ちゃん」
「自分の考えなさに涙しそうになったところ」
「そうだよね、花音ちゃん人が良いから」
違う、違うのよ遥ちゃん。明智くんの指令で『好きな人の差し替え』で誤解なのよ。ああ、もうどうしよう。これ以上変に好きな人を替えたら、私って目移り激しい子になってしまう。
「告白するなら、私朝の時間ずらすよ?」
「う、うん」
全部話してしまえたら……でもそれは私が楽になりたいからであって、彼女の為じゃない。話したら彼女は泣きそうな顔で許してくれるだろう。嫌だ、それは見たくない。
「あのね、私長い髪に憧れてるんだ」
「え? そうなの」
「だから遥ちゃんみたいに長くなって、女の子らしくなったら告白したい」
昔の歌であったよね、そんな歌詞。告白じゃなくて、結婚だけど。逆を言えば、髪が伸びなかったら無かった事に……、とお断りの歌なんじゃと思った私はひねくれてたっけ。
「分かった、分かったよ、花音ちゃん」
「遥ちゃん?」
力強く頷いた遥ちゃんは、私の手を握ると熱く語り始めた。
「一緒に伸ばそう? 私も告白できるよう頑張る、だから花音ちゃんも切らないでね」
「え?」
「実は願掛けなの。2人で一緒に願掛けしたら、きっと叶いそう」
「う、うん」
実は事故さえなければ、昨日髪を切りに行く予定だったんだよね。しまった、2人で願掛けなら自由に髪を切る事ができない。もしもだけど、髪を勝手に切って万が一遥ちゃんと水原くんに気まずい事でも起きたら……ああっ、なんて危険な験担ぎを宣言しちゃったんだろう。
「でもさ、枝毛で痛んだら、少し切っても」
「大丈夫! 毎日チェックしてあげるね」
毎日って一緒に学校へ行ってるから、出来ますね。遥ちゃん詳しいのかな? 髪が長いから色々気をつけているのかも。彼女の髪はほんの少し茶色だけど、触りたくなるような三つ編みだ。綺麗で柔らかそう。
「もしかして美容師になりたいとか?」
「ううん、家が美容室をしているの」
「……そっか」
聞かなかった私も私だけど、知らなかった。親の職業は関係ないけど、知らな過ぎるのも駄目だよね。ほんの少し江里口くんの事を思い出して悲しくなる。私は彼がどんなところに住んで、どんな家族と一緒にいたか知らない。知ろうともしなかった。
「ふふ、髪に良いシャンプーとか色々あるから今度来てね」
「わーい、ありがとう」
いかん、余計なフラグを立ててしまった。これはピンチ? 背中まで伸びたら告白しなきゃいけないの? いや、明智くんに口裏あわせをしてもらえれば大丈夫だよね。そう思ったら安心してきた。
「そろそろ帰るぞ」
「うぉっ」
突然真後ろにプレッシャーがきてビックリした。明智くん、頭の上から声を掛けないでください。
「あれ? ファンクラブの集いはいいの?」
「それはない。情報交換をしただけだ」
なんの情報交換ですか、それは。少しでもいいから聞き耳を立てておけばよかったかも。山崎さんに聞けばいいかもしれないけど、なんとなく代償が怖い。
「そっか」
自分の靴を取りにいくと、上履きと履き替える。みんなでそのまま校門へ向かい、山崎さん達と別れようとした時、声を掛けられた。
「花音ちゃん! あの、勉強会はどうするの?」
「え? っと」
声の主はもちろん村野さんだ。
そういえばそういう話もありましたね。ここは彼女の為に一肌脱ぐべき?でも参加を呼びかけておいて行かないのって人としてどうだろう。
「勉強会って?」
遥ちゃん優しいなぁ、みんなが黙る中、話を聞いてあげるんだから。
「あの、花音ちゃんが期末の前に一緒に勉強しないかって誘われて」
「……え」
私が勉強会の主催者? ならばより一層ブッチできませんよ、それ?
「ほぉーっ」
山崎さんが反応した。あの顔は何か分かっているような気がする。いや、彼女なら見抜いてるな。
「それはそれは楽しそうな会だな」
「みんなで勉強するの? どこで?」
「それは、その…」
堤さんの問いに村野さんがこちらを見てくる。無理、無理です、村野さん宅か明智くん宅でしましょう! なんて誰が言えよう? 誰も言えませんって。
「ね、花音ちゃん」
「え、えっと」
村野さんから追い込みがくる。山崎さんは楽しそうに微笑んでる。眼鏡の下はきっと冷酷な観察者として見てますね? 一番察しがいいんだから、助けて欲しい。
「楽しそうだね!」
緊張した空気は堤さんの明るい声でゆるくなった。
「みんなで遊ぶんでしょ? お菓子もって集まる? お昼も挿むならコロッケ持ってくよ? でも、うちなら揚げたてアツアツご馳走する」
嬉しそうに笑う彼女に抱きついてお礼が言いたい。癒し系美女候補、ありがとうと。せっかくホワホワ空気になったのに、村野さんの怒気に緊張が走る。
「遊びなんかじゃないわ、期末試験勉強よ。誰かのうちで、真面目にするの」
「だからうちでも……」
「揚げたてコロッケなんてカロリーどんだけあると思ってるの! それに食事じゃなくて勉強よ、勉強!」
村野さんが言葉を正そうとするけど、無理だよね。『誰かのうちで勉強する』は基本無理なんだよ。ホントに勉強したかったら、図書館にでも行って静かにしなければ。
「意味がない。伊賀崎、止めておけ」
「明智くん」
保護者から指摘が入りました。分かってます、あなたの娘は分かってますよ? でもね、恋絡みなんです。村野さん、君の事が好きだから頑張ってるんです。
「でも、最近花音ちゃんは休んでたから勉強会をして教えあいたいって、ね、ね」
「なら俺が教える」
「そんな駄目よ」
「何故だ」
明智くんが私に教えるの? なんでそんな事に?
「勉強会の、意味は、あるから」
村野さんが真っ赤になりながら、一生懸命言葉を紡いでいく。
「だって、今まで明智くんは外国だったじゃない。学校の授業を知らないわ」
頑張る彼女を見ていたら、無下に出来なくなってきた。なんとかしてあげたい。さっき遥ちゃんから言われた事もあって、同情的になる。
「そうだね、村野さんに一緒に教えてもらおうか、明智くん」
「花音ちゃん!」
村野さんの顔が笑顔になった、が。
「うんうん。勉強会、いいよね! 私も教えてー、数学解んないの」
「ならみんなで勉強しようか」
「え」
堤さんと山崎さんが入ってきたので、村野さんが困り果てる。
「えっと。私は家の用事があるから、見送らせてね」
遥ちゃんが気をつかって遠慮した。ああ、私も遠慮したいよ!
「みんなじゃ無理よ、ね、伊賀崎さん」
「そ、そうだね。村野さんの家には入らないね」
「村野さんの家はどこ?」
巻淵さんも伏せ目がちに入ってきた。お化粧をしていないのに、そのまつげ量は羨ましい物があります。
「……すぐそこ」
「そこって?」
「□○△酒屋の隣」
なんと裏門の近くにある酒屋さんのお隣らしい。あれ? なら帰る道が逆方向だったりするのかな? 校門から出たら、回り道して戻らないといけないぞ?
「なら裏門から出た方が近くない?」
「そ、れは」
「みんなと話していて楽しかったから来ちゃったんだよね」
巻淵さんの言葉に詰まる村野さんへ、つい手を差し伸べる。味方が誰もいないってキツイよ。
「うん、そ、そう。それに勉強会の話がまだ終わってなかったから」
「ならば学校ですればいい」
明智くんが容赦なく切り捨ててきた。と、取り付く島がなさそう。少しは村野さんの気持ちを考えてくれてもいいんじゃないか、それとも男の子だから気が付いてないのか。
「その、日曜日に対策した方がいいよ。直前なら憶えてテストに」
「一夜漬けでいいのか?」
「それは」
「確かにテスト勉強はいいだろう。が、それは復習だ。無理に憶えこんでも意味がないし応用も出来ない」
相変わらず正論をぶち込んでくる。それはそうだけど、一日くらい付き合ってあげても。
「なら明日授業内容を教えてもらって、日曜日に勘違いしてないか意識あわせというか、答えを確認しあうというか」
「教科書からしか問題が出ない。だから授業内容を教えてもらう事は何も無い」
頑張って村野さんを擁護してみたけど、私に敵う相手ではありませんでした。ごめん、村野さん。勉強会はちょっと難しそうです。




