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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
69/503

村野美香

 気分良く教室へ戻ると、みんな掃除から戻ってきたようで雑多な声で埋め尽くされていた。

 ゴミ箱を所定の場所へ置き、自分の席へと戻る。急いで5時限目の準備をと思ったけど慌てていた佐原くんを思い出し、彼の席を見た。私の斜め前、武智くんの隣にいるのだけれど、背を丸めている。今声を掛けて大丈夫だろうか。


「佐原くん、さっき窓から何か言いたかった?」

「あ、伊賀崎さん」


 声を掛けたら、びくりと体が震えた。え、なに? 何か驚いてる? 周りを伺いながら彼が振りかえる。一体どうしたのだろう。


「何?」

「さっき、外で……怖い」

「井之口先輩? 話したら普通だったよ。私の怪我を見てゴミ箱を持ってくれてね」

「そうじゃないよ、その人じゃなくて」


 口数の少ない彼が、饒舌に話す。普通に話せるんだ。


「その、後ろに……」

「後ろに?」


 佐原くんの視線が右往左往して、怯えて背を向けられた。


「ごめん、やっぱりなんでもない」

「???」


 彼は何を話したかったんだろう? 私の後ろに何か見えたのだろうか? もしやそれは人ならざるもの? そんな馬鹿な。痛むけれど、頑張って肩越しに背中を見てみる。すると後ろの席の立石さんが顔を上げた。


「ん? 伊賀崎さん、何」

「え? いや、背中に何か憑いてるかなって」

「何も付いてないよ?」

「そっか、ありがとう」


 佐原くん霊感があったらやだなぁ。でも江里口くんなら背中にいても大丈夫かな? 化けて出られてもお話出来そうだし……って、いやいや、駄目、絶対駄目! 江里口くんは消えたけど死んじゃったわけじゃないもん、また来るって言ってたもんね! 胸にあるお守りを握ると、一生懸命祈った。

 どうか元気でいてね、病気なんかしないでね、ご飯食べてね! あと良く寝てね!


「伊賀崎さん?」


 名前を呼ばれて顔を上げると、周りみんなが席を立っていた。

 前を見れば先生が教卓に立っており、授業が開始されようとしているのが分かって慌てて立ち上がる。


「伊賀崎さん、気分でも悪いの? 胸を押さえて……吐きそう?」

「いえ、大丈夫です!」


 先生がこちらを見ている。首を振ってみんなと一緒に礼をした。危ない危ない、胸を押さえ込んでジッとしてたらあらぬ心配を掛けてしまう、気をつけなければ。


「伊賀崎さん、大丈夫?」

「ごめん、心配掛けちゃって」


 5時限目の授業が終わると、村野さんが心配をしてくれた。


「ホントに?」

「ちょっと考え事してて」

「考え事って悩み事?」

「うん、江里口くんのことだよ」

「え」

「?」


 村野さんが困った様に微笑む。


「えっと、伊賀崎さんの知り合い?」

「違うよ、同じクラスの江里口くんだよ」

「またまた」

「設楽さんの隣の席で……」


 朝から先生が彼の所在を聞いたり、お昼にみんなで行方を心配したじゃないか。彼女の態度が何かおかしい。


「設楽の隣?」

「そう」


 彼女が振り返ったので、私も江里口くんの席を見る。


「そうだっけ?」

「え? 何? どうしたの?」


 設楽さんが視線に気が付き、首を傾げた。


「設楽の隣って誰だっけ」

「隣? 空席だけど?」


 私は席を立つと、江里口くんの席に移動した。机の側にカバンが無い。机の中を覗くも空っぽだ。


「あれ? あれ?」

「もー、伊賀崎さん寝てたんじゃない? 寝ぼけてる」

「だって、だって」


 つい胸のお守りに手を伸ばして確認する。


「朝、江里口くん来てて……体調悪いから保健室に……」

「やだ、驚かさないでよ」

「そうよ、エイプリルフールでも無いのに」


 制服の下にお守りの感触がちゃんとある。でも彼のカバンが無い。


「そうだ」

「まさか、伊賀崎さん、霊感でも?」


 朝、彼のカバンから引き抜いた写真を探す。確か理科の教科書に挿んだはずだ。


「……ない」

「どうしたの? 寝不足?」


 村野さんと設楽さんが江里口くんの存在を否定する。そして証拠である写真、それすらも消えていた。


「ない、ないよ……」

「どうしたの?」


 私の席の後ろの立石さんも心配して来てくれた。


「あのね、江里口くんの事を……設楽さんの席の隣にいた」

「あ、ああ!」


 立石さんが何か分かったように頷く。良かった、知ってる人がいた! 村野さんと設楽さんに否定されたので、嬉しくてホッとする。


「居たよね、立石さん。ちゃんと居たよね」

「でも春先に転校して行った人でしょ? ……え? その人のことじゃない?」

「春休みに転校した人?」

「うん。だから出席番号が1つずれたって先生が言ってなかったっけ?」

「聞いたような、聞いてないような。伊賀崎さん知ってた人?」


 どうしよう、この事実を受け止められない。江里口くんがいた事を忘れられてるなんて。給食の時、みんなで心配したのに、急に記憶から存在が消えてるなんて。どうやったら? なんで? お守りを押さえる手を離す事ができない。いつの間にかこれが消えてしまうんじゃ、と恐怖に陥る。


「伊賀崎さん、本気で言ってたりするの?」

「大丈夫かしら」

「先生に報告する?」


 三人の言葉に、戸惑いつつも話を合わせる事にした。私だけ覚えていて、江里口くんの存在を訴え続けるのは、大丈夫な事だろうか? と。


「そ、そうだね。ごめん、寝ぼけてたみたい」

「もう、伊賀崎さんってば」


 やっぱりねとみんなに笑われる。


「給食の後って眠いから」

「日差しが心地良い時にはもうお布団が欲しいわよね。お昼寝の時間にしたい」

「でもさ、食べて寝たら太るって……本当かな」

「夜じゃなきゃいいんじゃない?」


 三人とも別に何も変化は見られない。ごく普通な会話だ。でも江里口くんを忘れている。……もしかして私も忘れていくのだろうか? あの時、彼に触れた左頬に手を添えて思い出す。ちゃんといたんだよね? 魔法使いが。

 6時限目は全く授業が身に入らなかった。江里口くんの事をいつ忘れてしまうのかと思うと、不安だった。誰か、誰か私以外に彼を憶えていないだろうか?


「……」


 深く憶えていそうなのは、考え付くのは三人だけ。

 愛梨ちゃんと氷室くんと明智くんの顔が浮かぶ。オリエンテーリングの時に一緒に写真を撮った、あの班なら憶えているよね? 他に思いつくのは同じ学級委員だった長谷川さん、くらいだろうか。となると聞きたくてたまらなくなる。知ってて欲しいし、早く聞かないと忘れていってしまうかもしれない。心が急く。

 6時限目の授業が終わるのを待つのだが、なかなか時間が進まない。先生の雑談さえイラついてみんなと一緒に笑えないから辛くて困る。


「おっと、ここは試験に出そうかな? 憶えておくといい事あるかもしれないぞ」


 先生の好意がうっとうしいなんて失礼だよね。自分の都合で人に嫌悪感を抱くなんて、私もまだまだだ。壁に掛けてある時計と先生を交互に見つめ、早く時間が進む事だけを祈る。


「……それじゃあ今日はここまでにしようかな」


 終了チャイムが鳴るまで5分もあったので、先生が素敵に見えた。なんてありがたいのだろう、さっき先生を悪く思ってごめんなさい!


「残り時間は質問を受け付ける。試験前だから特別だ」


 一気に先生への好感度が最低値になったのは、言うまでもない。おのれ、先生……ぬか喜びさせるなんて酷い。しかも質問が多く、授業が終了してもHRで担任が来るまで授業延長しました。

 いい先生なのは分かっています。難しい質問にみんなが分かりやすいよう黒板で説明したり、教科書に載っている似た設問を教えてくれる。


「でも、よりによってなぜ今日……」


 授業が終わると同時にHRになり、来週の期末試験についての説明がされた。黒板に期末の時間割が書かれ、今日の放課後から部活動停止期間に入る旨を伝えられる。

先生はいつも通りで、江里口くんがどこかへ消えた事にイライラしていたのが嘘のようだ。こうなってみると、そうであるのが良かったような気もする。

 魔法使いだもの、きっと違う世界から来たんだ。だから目の前から消失したんだ。でも、なぜ私は忘れないんだろうか? 目の前で消えたから? 魔法の道具を貰ったから? そうすると、まだ疑問がでる。

 写真が消えたのはなぜか?

 江里口くんが持っていたわけでもない、カバンの中にあったし、カバンが消える前に抜き取った。何か条件付けでもあるのだろうか。


「部活が無いからといって下校は寄り道しないでください。それでは終わります」


 先生はそういうとさっさと教室を出て行く。

 先生と言えば、加ヶ良先生は憶えていないかな? 生徒会へ入れたがっていたもの、仕事だって任せていたから可能性が高いと思う。


「ね、伊賀崎さん」

「なに?」


 席を立って職員室へ行こうとしたら、村野さんに呼び止められる。正直走って先生の元へ行きたいので用件を早くしてもらえないかな。


「あの、今日一緒に帰らない?」

「へ? 部活……そうか、試験期間中だもんね」

「うん、だから」

「いいよ。待ってて、ちょっと職員室に用事があるんだ」


 笑顔で話すけど、既に足が進んでいる。


「わかった。教室に居るから」

「はーい」


 急いで教室を出ると、職員室まで向かう。加ヶ良先生いるといいなぁ。


「伊賀崎さん」

「はぁい」


 5組前で山崎さんに捕まる。どうしてこうタイミングが……。


「あれ? トイレ?」

「ううん」

「なら手ぶらでどうしたの」

「ちょっと職員室まで」

「そっか、なら靴箱でまたね」

「あーい」


 早く職員室へ。……って、山崎さんと靴箱!? 村野さんが話があるから教室に戻る時に断らなきゃ。


「伊賀崎」

「ちょっとごめんね、職員室へ行きたいの」


 どうして今かな? なんで引き止められるの。


「そうか」


 引いてくれたのでホッとしてバッと振り向く。ちょっと、まったぁ! 会いたかった三人のうちの一人だと気が付き、彼を捕まえる。


「ごめん、明智くん待って」

「大丈夫だ。待てる」

「いやいや、そうじゃなくて」


 江里口くんについて聞きたい人最有力候補がここにいた! 見逃すところだったよ。慌ててるとうっかりしちゃう。


「あのね、あのね」

「落ち着け。どうした? 伊賀崎。職員室はいいのか?」

「明智くんにもどうしても聞きたいの」

「なんだ」


 聞く体制になってくれたのはいいが、場所が場所なので渡り廊下へ制服の袖を引っ張る。女子トイレの前で話し合うのは、ちょっといただけないからね。


「ちょっとこっち」

「おい」


 強くは引っ張らないけど、ついて来てくれたので手を離す。私は周りを見渡し、側に人がいない事を確認するとこっそり呟くように聞いた。


「1年生の時、オリエンテーリングに行ったよね」

「行った」

「その時の班の人を憶えている? 江里口くん、学級委員で魔法使いの」

「……ああ」


 嬉しくて安心する。


「良かった……江里口くんが消えて、みんな知らないって」

「消えた?」

「うん、そう。まるで狐に化かされたみたいに綺麗に消えたの」

「みんな知らないとはどういう意味だ?」

「今朝はカバンがあったし、保健室まで一緒だったんだよ? それにお昼までみんな心配してたのに、5時限目にはみんな忘れちゃってて……泣きそうになったよ」

「泣いたのか?」

「明智くんが憶えてくれているから安心できた。ありがとう」

「そうか」


 私以外に1人でも憶えているのだ、彼の存在は証明された。これなら愛梨ちゃんや氷室くんに先生も憶えているよね。


「そうだ、お母さん達にも聞いてみようっと」


 オリエンテーリングの後、家に来た時に会ったので憶えているはず。男子生徒が朝から家に来るなんて、なかなか忘れられない事だもの。


「じゃ、帰る準備しようかな」

「ああ」


 教室棟に戻り、1組に戻るべく移動する。明智くんはカバンを持っており、帰る準備万端の様だ。


「先に下駄箱に行ってて、すぐに行くから」

「分かった」


 教室へ入ると、村野さんが待っていた。一緒に帰る約束をしたけど、村野さんはどこに住んでいるのだろうか? 方向が違えば途中までしかご一緒できませんよ? 現に愛梨ちゃんは校門までだ。明智くんには下駄箱で事情を話して先に帰ってもらった方がいいかな……後ろからついてきそうだけど。


「ごめん、お待たせ」

「え、あ、ううん、大丈夫」


 手鏡を覗いていたようで、声を掛けたら驚かれた。


「おお、すごいね」

「べ、別に普通だよ」


 彼女の机の上にはリップやグロスにハンドクリームに、女の子らしい物が並べてある。ケースや模様も可愛かったり……いいなぁ。でも欲しいような欲しくないような。


「このグロスなんか、みんな持ってるわよ」

「そうなの? 私何もつけてないや」


 がさつかなぁと頭を軽くかけば、少し睨むようにジッと見られた。


「ちゃんと日焼け止めとか付けないと、すぐにそばかすとか出るんだから」

「そうなの?」

「そうなの。もう、後から後悔するわよ?」


 そういえば日焼け止めは使っていた。前に氷室くんに注意されてからは、毎日つけていたんだった。なら私も多少女子力ありかな? そう思ったけど、村野さんの道具を見て足元にも近づいてないと気付く。日焼け止めくらいじゃ女子力って言えないか。厳しいな女子力。


「でも一緒に帰りたいなんて、何か相談でも?」

「それは……」


 言い難いから二人になりたかったんだろう。……ならばやはり明智くんと遥ちゃんには先に帰ってもらおう。魔法使いの眼鏡を持っているから1人で帰っても問題は無い。山崎さんには今度か急ぎなら電話にでもしてもらうか。


「そうだ、ちょっと待っててね。明智くんに先に帰ってもらうよう言ってくるから」

「駄目!」

「へ?」


 いきなり大きな声で止められた。まだ帰っていないクラスメイトもいるので、みんなが驚いてこちらをみている。


「明智くんと帰りたいから、お願いしてるんじゃない」


 耳元でそっと囁かれた。なんだ、そういう事か。私は村野さんに顔を向けると笑顔で伝える。


「なら明智くんを誘ってきたら? 今下駄箱にいると思うから」

「駄目よ、最初は伊賀崎さんも居なきゃ」

「なんで? お邪魔でしょ」

「今は邪魔だけど、突然話しかけても相手してくれないわ」

「……」


 なんだろう、潔いね、彼女。はっきり邪魔者扱いされた。恋する乙女って強い。


「こういうのは少しずつ仲良くなって、2人だけになるものよ」

「ふぅん。そっか」


 なら山崎さんの『ちょっと話が』もそういう事なのかもしれない。なんだか私そっちのけで明智くんばかりモテている。なんだか悔しいぞ? 私は彼の娘役だが受付嬢じゃないんだから、変にパイプ役にしないでほしいな。


「でも今、明智くんファンクラブが囲んでいるかも」

「なに? それ」


 私にツンケンしないでください。設立したの、私じゃないよ?


「前に明智くんが来たときに出来たらしいの?」

「前っていつよ」

「えっと」

「ああ、もう! 早く行きましょ、彼を助けなきゃ」


 助けるって……彼が助けを求めるシーンが想像できない。うーん、あれか? 火山の噴火口で引き上げてやるくらいの場面かな? いや、明智くんなら平気な顔して自分で這い上がりそう。時限爆弾を用意しても簡単に解除して、墜落しそうな飛行機であろうと助かりそうなイメージが。サバイバルでも大丈夫そう……完全無欠だな! なんか弱点無いだろうか?


「苦手なものが分からない……」

「は? 何を言ってるの、急いで」

「ごめん、ごめん」


 いや、あったぞ!唯一知っている弱点。チョコレートが駄目だった。でもそれがどうした、だよね。チョコなんて匂いが強いものをどうやって彼に食べさせるんだ? 食べさせて何かショックを受けるだけならいいけど、アナフィラキシーショック状態になったら危険だ。彼に何か仕掛けるなら気をつけなくちゃ。


「伊賀崎さん、集中してる?」

「あ、ごめん、考え事してた」

「もう……この間にも明智くんが告白されたらどうするのよ」

「え? 別にどうも」

「私の味方じゃないの?」

「どちらかと言えば明智くんの味方になるのかな?」


 何をどう思ったら味方と判断されるんだろう?

 彼が幸せになればいいので、彼の味方です。カップル一押しは愛梨ちゃんだけど、そこは黙っておく。


「何よ、それ酷い」

「え?」


 村野さんが泣きそうに顔を顰める。どうして? 私、何か酷い事を言ったかな?


「私を優先させてよ」

「村野さん、私は等しく誰にでもチャンスがあるべきだと」

「誰よりも私が好きなのに?」


 えー……人の心って計れませんよ? 誰よりもって誰? 上手くクラスでご近所付き合いをしていたけど、ここでトラブル発生するとは思わなかった。どうしたもんだろう。


「1人の好きの大きさで付き合いが決まるのかな」

「何よ」

「お互いが好きにならないと、お付き合いって難しいよ?」

「娘の、伊賀崎さんが私を押せば、他の人より私を優先すると思うんですけど」


 私は斡旋業者ですか! ってツッコミしたい。でも同じクラスメイトだし、面倒は避けたいからどうすべきか。


「娘役なんでしょ? ならお母さん役に私を薦めてよ、ね、お願い」

「……」


 鬼気迫る彼女の想いは分かりました。恋はすごいですね、村野さんをこうも変えてしまうんですから。


「そんな……もし、明智くんに好きな人がいたら悪いし」

「いるの?」

「多分」


 愛梨ちゃん押しの私としては、布石を用意して牽制したい。


「誰よ、聞いてきてよ、ね、ね。伊賀崎さんだけが頼りなの」

「あまり自分の好きな人って話さないと思うよ」

「なら好みのタイプでいい。どんな女の子が好きか聞いて」

「そういうのって本人が聞いた方が」

「好きなのばれちゃうじゃない」


 どうしよう、逃げたい。村野さんそういう女子だったんだと内心頭を抱える。


「考えてみてよ、私が聞いたらさ、明智くんに好意があると思われちゃうよ」

「だからって私が聞くのも間違ってるよ」


 異性の友達に聞く質問じゃないよ、これは。飲み会でも極力避けたい話題だ。だれか紹介してくれと言われでもしなければ、絶対聞かない。


「そうだ、期末試験があるから勉強会しない? 明智くんを誘って」

「私は弟の面倒があるから、無理」

「約束だけしてくれればいいよ。明智くんの家か私の家でお願い」


 さっきからお願いばかりされて、どうしてこうなったんだろう。


「ごめん、私は協力できない」

「どうしてよ、やっぱり明智くんが惜しくなったの?」

「そうじゃないって」

「なら証明してみせてよ」

「私は誰が明智くんと付き合おうと拍手で応援する。それを以って証明って事で」

「なら私でもいいじゃない」

「村野さん……」

「いいでしょ? お願い、一生のお願い」


 両手を組んで祈るように私に言われても、困る。


「恋愛事は係わらない事が一番、何が起きるかわからないし、私の所為にされるかもしれないし」

「そんな事しないって、ね、ね」


 しつこいぞ、村野さん、私を頼らないで。


「花音ちゃーん、まだ帰らないの?」


 清涼飲料水の様にすっきりする声で振り返った。もちろん声の主は遥ちゃんだ。私の体を心配して一緒に帰る約束をしていたから、待っててくれたんだね。


「遥ちゃん、ゴメン」

「今、伊賀崎さんは私と話しているの!」


 村野さん、もう話は終わりにしようよ。私はもう帰って体を休めたい。湿布も張らなきゃ。


「そっか。なら下で明智くんと待ってるね」

「は!?」

「うん、分かった。後でね」

「? はーい」


 可愛い笑顔でお下げを揺らし、遥ちゃんが扉から消える。そして、地雷が投入された。そう感じたよ、もうどうしよう。


「伊賀崎さん、どういう事?」

「どういう事って言われても、私と遥ちゃんと明智くんは毎朝一緒に登校してるし」

「なによ、それ」

「なによって……だって家が近いし」

「ずるい」

「もう帰ろうよ、一先ずは学生の本分である勉強を頑張ろう? 試験があるしさ」

「あの子ね? 明智くんに言い寄ってるの」

「違うわよ」

「なら明智くんが好きな子なの?」

「知らないよ、そんなの」


 もう逃げよう。嫌われてもいい。カバンを持つと、その手を押さえられた。


「一生のお願い。大好きなの、もう彼以外考えられないの……お願い」


 中学生で1人の人に決めるって、止めといた方がいいよ? 将来もっと素敵な人だって現れるかもしれないんだからさ。

 カバンを持ち上げようとしても、強い力で動かない。涙を浮かべている女の子がしている事とは思えないくらいだ。


「ねぇ、お願い」


 ここで協力するって言えば開放されるけど、明智くんに振られたら全力で私を恨みに来るぞ、全て私の所為だと。恋する女の子は砂糖菓子だけでは出来ていない。だからこそ係わらない方がいかばかりかいい。



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