表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
51/503

辻褄

 来なければいいけれど、やってきてしまうのはしょうがないもので。

 時間が経てば日付が変わり、日が昇る。来て欲しくない『明日』が『今日』になってしまった。

 自宅の前で盛大に溜息をつく。


「今日もいい天気で、学校へ行く道に異常は無しなんだよね……」

「ま、頑張れ」


 お隣の要が笑いながら背を叩いてきた。

 朝のランニングの時、昨日の電話の件を話してある。そう、明智くんの無茶な提案の件だ。

 実行する事を考えたら、頭が痛い。要も少しは私の気持ちを察してほしい。


「でもね」

「最初から下手に考えず、明智にしておけば良かったのにな」

「くっ……」


 反論しようとしたら、それさえさせずに図星を衝かれて耳が痛い。

 でもさ、恩人の名前を借りるなんて出来ないよ。彼が言い出さなければ、一生借りなかった。

 これ以上迷惑をかけたくないもん。


「やっぱりさ……ちゃんと言わないといけないかな?」

「何を?」

「好きな人は明智くんでしたって」


 彼に訊ねれば、ぷいと顔を背けられた。


「約束したんだろ。帰国は脅しじゃないと思うよ? 多分、いや必ず明智は来るね」


 きっぱりと断言された。

 そうなんだよね、脅しに聞こえないから怖い。絶対来る、そんな気がする。そう思わせる底知れない何かを感じるから、更に怖い。


「何故に彼はそこまで……いくら私の保護者とはいえ気持ちが重いよ」

「は? ばっかじゃないの」


 私が沈んでいると、要に罵られた。


「む!?」

「アホらし。俺先に行くわ、たくさん悩め」


 私に背を向けると、彼は走っていく。


「薄情者! 待ってよ」


 君は知らないだろうが、私は1人になると変なエンカウントで敵が出るんだぞ? おいて行かないで。こんな天気のいい朝から変態なんぞに遭遇したくない。


「ねぇ、いきなりどうしたの? 私変なこと言った?」


 もしかして、昨日の件をまだ引きずっていたりする? 機嫌が悪いまま? ちゃんと謝ったのに。

 離れないように要の後を追いかける。


「こちとら悩む事ばっかりなんだよー、 怒らないでよー、助けてよー」

「……自分のしでかした事は自分で解決しなよ」


 いきなり厳しくなった。冷たいぞ、お隣さん。


「難しいから相談に乗って欲しいんじゃない。本当にどうしよう……円満に好きな人のすり替えって、どうやればできるのか不安なのに」


 要が突然立ち止まる。ので、勢いが止まらずぶつかりそうになった。


「っと、いきなり立ち止まらないでよ。危ない」

「なら俺にしておけば」

「へ?」


 今欲しいのはそんな提案じゃない。計画の案だ。


「明智くんだろうが要だろうが、どっちにしてもすり返る時点で複数の男と付き合ってる噂に入るんじゃない。それを消したいのよ」

「簡単じゃん、そんなの」


 おお、名案でも? 名参謀を見つめ期待で胸が高まる。


「何? どんな案が?」

「気にしなきゃいい」

「……根本から覆さないでよ」

「なんだよ、間違ってないぞ」


 何を間違ってないんだ。


「どこが」

「ほら、王子様に失恋して新しい恋に目覚めたとか」


 そういえば昨日武智くんに失恋話をしたから、それも手か。


「なるほど」

「花音?」

「うん、その案で行こう!」

「マジで?」

「うん」


 要が慌て始める。


「本気なの?」

「うん」

「そっか……。ならどう話を合わせる?」


 私は不敵に笑うと、咄嗟に考えた話をする。


「失恋している所に明智くんからの電話。そこで気付く恋ってのはどう?」

「……俺じゃないの?」

「え、それだと難しいじゃない」

「何が難しいのさ?」


要ならすぐに考えつくだろうに。調子が悪いのかな?


「近くにいたら、それなりの行動を求められるでしょ? 明智くんなら海外だから、誰にも確認が出来ない。しかも彼は自ら犠牲を申し出たんだから、話を合わせてくれる」


要がしゃがみこんだ。

どうした? 完璧だと思ったんだけど、この計画に穴でも?


「要? 大丈夫?」

「気にしないで、ちょっと反省しているだけだから」


 二人一緒に行動しなければならなくなるのは大変だからね。そこらへんの憂慮が出来なかったからかい? しょうがないよ、まだ君は13歳なんだから、思考に洩れもあるさ。


「要も噂対策宜しくね!」

「あい……サポートキャラ、頑張ります」

「いつか恩返しするから」

「期待しないで待ってるよ……」


 覇気がないぞ? 落ち込ませすぎたか。


「いつも要には感謝してるって。ありがとう!」

「ハイハイ」


 私の感謝の気持ちがスルーされたようだ……。まあいい、要は反抗期かもしれないし、あまり拘束しないように私も気をつけよう。彼の青春時代を私一色にしては駄目だから。


「花音ちゃん、おはよう」


 声が聞こえたので振り返ると、遥ちゃんがこちらへ走ってくる。あわわ、転びそうだ、足元気をつけて!


「花音、なら俺行くわ。じゃ」

「うん、またね」


 友達の所へ行く彼を見送ると、遥ちゃんが追いついた。


「おはよう、遥ちゃん」

「ふふふ、追いついた。でも大河くん、また背が伸びたのねぇ」


 いつもは彼女と会う前に要が離れていくので、近くで見るのは久しぶりだったらしい。


「そうだね、そろそろ私の背を追い抜きそうだよ」

「成長期なんだ。あ、そうだ、昨日は先生の呼び出し大丈夫だった?」

「うん。ごめんね、せっかく体育館に誘ってくれたのに行けなくて」

「ううん! 先生からの呼び出しだもん。気にしないで」

「ありがとう」


 遥ちゃん本当にごめんね。……そうだ、明智くんの話をしなくては。


「あのさ、昨日明智くんから電話を貰ったよ」

「本当!? 懐かしいなぁ……元気だった?」

「うん。夕方にね。向こうは朝みたいでトレーニングしてた、その合間に掛けてきてくれたの」

「そうなの? 明智くんってばスポーツマンだったんだ。知らなかったな」


 見た目そう見えるよね。私もあの日、彼にぶつからなかったら、ずっと誤解してたかも。……いや、体力測定でみんなの知るところになるか。


「いつも本ばかり読んでいて眼鏡だから、体力なさそうに見えるんだけど実際はめちゃくちゃすごいんだ」

「そうなんだ」


 彼女がくすくす笑い、両肩に掛かったお下げが揺れる。


「昨日明智くんと話してて、その……いろいろと話をしてて……」

「ん?」


 丸い優しい目で見られると、嘘をつくのが辛い。何度もごめんね、遥ちゃん。


「入学式に会った人より、明智くんの方が好きかも、と」

「明智くんを?」

「うん……」


 いかん、声が裏返った。信憑性に欠けるかな? うまく説明出来てますように。


「あの、好きな人が出来たから、約束通りに遥ちゃんへ話そうと思って」

「好きな人が明智くんなのね! 素敵!」


 彼女の目がきらきらと輝いた。予想以上の喜びに驚く。そんなに私と明智くんをくっつけたかったの?


「そう? 素敵かな?」

「うん!とっても」


 頭を少し掻きながら聞くも、彼女はブンブンと頭を上下に動かす。即答で返ってきたので、少し戸惑ってしまう。


「絶対お似合いの2人だと思ってたんだ! 花音ちゃんの隣は明智くんじゃなきゃ駄目ってくらいに」


 おお、浸透が早い。やはり1年間彼と一緒に行動していたから信憑性が高いのかも。


「遠距離になるけど、頑張ってみようかなと」

「うん、頑張ろう! 私、応援するから」

「ありがとう」


 嘘が綺麗に通ると、胸が痛むのは何故だろうか……。それは彼女が私を信じてくれているからだよね。本当にごめんなさい、遥ちゃん。でも恋バナ楽しくしようね?


「花音ちゃんは明智くんのどこが好きなの? きっかけとかは?」


 おおっと、かなり上級問題が来た! ヘルプが使えないから自分で頑張らないと。ここで頑張ってどうするんだ? という気がしないでもないけど。


「一番の印象はあの時かな」

「もしかしてオリエンテーションの時の?」

「うん。あの変態を蹴り飛ばして助けてくれたのは、驚いた」

「え……花音ちゃん襲われてたの!?」


 いかん、素で話してしまった。私はただの野次馬だったのに。


「いや、近づこうとしてきた時に、ね」

「庇ってくれたの? 素敵……」


 思い出せ、あの時の先生の話と氷室くんの話を! 話す辻褄が合っていないと大変な事になる。みんなが私の事を隠してくれたのに、真相を洩らすわけにはいかない。


「他にも私が登下校怖がらないように守ってくれてたのも、申し訳なく……いや頼もしく嬉しかったな」

「それは分かる。花音ちゃんを庇うように道路側を歩いたり、気配りしてたもん。明智くんは絶対に花音ちゃんが好きだよ」


 それは違うんだ。彼は私の自称保護者です。私の事は恋愛対象じゃなくて保護対象だと思う。……恐らく今も。


「昨日、告白したの?」

「まさか!」

「そうだよね……電話で告白は寂しいよね」

「あ、うん、寂しい」

「明智くんが転校した先ってどこだっけ」

「イギリス」


 で間違いないと思う。電話番号に付随している国番号がそこだったから。


「そんなっ……花音ちゃんごめん。そんな遠距離だったなんて」


 楽しそうに笑っていた遥ちゃんの顔が曇りはじめる。そんな深刻に考え込まないで? 本当に好きになったわけじゃなく、名前を借りているだけなんだから!


「あの、遥ちゃん、その、気にしないで?……ほら今は電話があるし、明智くんは携帯持ちだから連絡はいつでもできるから」

「うん……」


 いかん、気を遣わせてる。どうにかしないと。


「それに、もしかしたら高校は日本に戻るかもしれないそうだから」

「そうなの?」


 彼女の顔が上がる。


「うん、そう言ってた」

「良かった……なら楽しみだね」


 嘘です、ごめんなさい。でも再びにっこりと笑う彼女にホッとする。


「うん、ホントウニタノシミ…」


 ああ……嘘に嘘を重ねて……私の業が重くなっていくような気がする。『戻るかもしれない』は可能性なので嘘ではないけど『高校は日本に』は嘘です。

学校に着くと、昨日の話を思い出した。

 5組の女子に囲まれ、靴箱で話した処女膜検査の事を……。明智くんは無視しろと言っていたけど、そうはいかない。でも別所さんの過去を聞いたから、みんなで病院へ強行と出来ない。さて、どうしようか。


「おはよう」


 遥ちゃんと別れて1組の教室に入る。軽く周りを見ながら席に向かうが、少し視線が痛い。これは、どうしたものか。助けを求めるわけじゃないけど、江里口くんの席を見るがまだ来ていない。


「……」


 気のせいであってほしいけど、確実に私を盗み見ながら話している人たちがいる。悪い噂の事についてかな? 怒らないから誰か教えてくださいー。


「伊賀崎さん、おはよう」


 小さな声で鬼塚さんが話してきてくれた。嬉しい! でも小さな声なので、私も小声になる。


「おはよう。何かあったの?」

「……伊賀崎さん、噂になってるよ」


 きたきたきた、来ましたよ、来ましたよ? あれだけ大きく話したんだ。広まるのも早いでしょうに。


「どんな噂なの?」

「その……病院に治療に行くって」


 あれ? 検査じゃないの? 余裕が消えていく。


「私、怪我なんてしてないよ」

「そういうんじゃなくて、再生手術を受けるって」

「再生? 私はどこも欠陥してないけど」


 つい両手を見てしまう。手も足も欠けてない。

 鬼塚さんは席を立つと、私の机の側に座り込んだ。何か怒ってる?


「違うわよ、処女膜再生手術を受けに行くって噂よ」

「は?」


 これはナニかな? あの子達だな? 再生手術を受けるから病院なんて平気になるとでも言ったのかな。

 軽い眩暈に怒りさえも通り過ぎていく。


「根も葉もない噂だよ。だって私そんな手術する必要ないもん」

「だ、だよね。酷いよねー」


 鬼塚さん、少し疑ってますね? まぁ、あのオリエンテーションの日に熱を出して先に帰宅した私が悪いんだけど、ここまで貶められるのは納得いかない。

 ちょーっとムカついてきたぞ? 私は席を立つと、5組に移動するべく廊下へ出る。


「伊賀崎さんどうしたの?」


 呼ばれたので振り返ると、和田くんが居た。


「おはよう、和田くん」

「おはよう」


 彼はにっこり笑うと側に寄ってくる。あう、江里口くんから接近禁止命令が……。


「大丈夫? かなり怒ってるようだけど」


 心配してくれているのだが、何かを含むような言い方だったので、首を振って両手を軽く挙げる。お手上げよ、と。


「噂の事で心配してくれたのね」

「まぁね。ちょっと内容が酷すぎる」

「無くなってもないものを再生するなんて……お金が勿体無いよね」

「まぁ、そうだね」


 クスリと笑われた。おおい、真面目に私とって大変な問題だよ?


「流している人は分かっているの?」

「多分5組の別所さんとその友人達」

「別所さんが?」


 しまった、ぺろりと洩らしちゃった。……ま、もういいよね。ここまで私を追い落としてきているんだから、反撃してもいいはず。


「私が氷室くんに気があると勘違いして、攻撃されてんの」

「別所さんが、ね」

「とことん私を追い詰めたいみたい。質問したら泣いて逃げるし、叫んで人を呼ぶし……本当にお手上げ状態なの」

「そんな事があったんだね」


 和田くんが顎に手を当てて考える。


「怒って廊下に出たのは、彼女に問い詰めに?」

「そう」

「それは止めておいたほうがいいと思うよ」

「え? なぜ?」

「質問だけで泣いて、周りを巻き込んでいくんでしょ? なら伊賀崎さんの立場が更に悪くなるよ」

「………」


 昨日は別所さん抜きだったけど、もし5人全員を相手に話し合いは多勢に無勢だ。危ない、昨日と同じ轍を踏むところだった。


「ありがとう和田くん。少し頭が冷えた」

「どういたしまして。氷室絡みなら僕が動こうか?」

「危なくない?」

「どうだろう。現実が僕の味方に付いてくれるなら」

「危険は避けた方がいいよ?」

「僕の心配してくれてありがとう」


 その時チャイムが鳴り響いた。朝のHRが始まってしまう。


「少し落ち着けた、ありがとう和田くん」

「伊賀崎さん、応援してるね」


 私は軽く手を振り、教室に入った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ