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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
48/503

お兄さん

 私にしては思い切った提案なのだが、彼女らにとってはそうでなかったみたい。なんでもなさそうにこちらを見ている。

 もう一緒にしてもらおうかな、……処女膜検査なんて中学生にはかなりキツイよ?


「でもさ、子供が行くんだから、病院が可哀想だと嘘をついてくれるんじゃない?」


 情報屋もどき……もう、君の事を情報屋もどきと呼ぶよ。だって私に名前を名乗らないんだもの、そう呼んでも構わないという事だよね?


「そう言うと思ったから複数の病院にいくんじゃない」

「全員のお医者さんに泣ついてお願いするの?」


 えーっと、またまた名乗らないので別所友人1と呼ぶぞ、ふわふわな髪のキミ! 私をなんだと思っているんだ。


「そうそう、いつも男子にしているみたいに」


 この中で一番背の高い別所友人2? いつもしているのって見たことあるの? 泣いてしまった事はあるが要の前だけだぞ。

 いや、一年のオリエンテーションのあの変態から逃げられた時、三人の前で泣いてしまったか。

 もう何を言っても彼女らは態度を変えないので、巻き込むことにしましょう! 絶対に逃がさないよ?


「なら全員で受けよう! あなた達4人と…そうだ、別所さんも入れよう。私と、で検査だ」


 名案の様に私が笑う。

 愛梨ちゃんには絶対そんな事はさせないけどね。


「なんで私たちがそんな事をしなきゃいけないのよ」

「医者が信用ならないんでしょ? なら一緒に受ければ信用度がわかるじゃない」

「だからって、あなたと一緒になんか受けたくないわ」

「どうして?」

「汚いもの」

「だ・か・ら、それを調べに行くんでしょ? 私の処女が顕在なら汚くないになるんだから」


 絶対全員連れて行く、そして全員受けさせる。それだけの屈辱を味わうんだから、私の決意を思い知れ。


「うん、すっごく名案。さ、今日は帰りましょう」


 私は愛梨ちゃんの手を引っ張った。もう靴に履き替えているので、帰るのに問題は何もない。


「ちょっと、待ちなさいよ」

「明日別所さんにもその事を伝えておいてね、楽しみだわー、結果が」


 思いっきり笑みを浮かべてから、軽く睨む。彼女たちは病院行きを躊躇しているのか、最初の時ほど勢い無く立ちすくんでいる。


「さよなら、またね」

「逃げないでよ」

「逃げないわ。みんなで受ける病院は、明日先生に相談しましょう」


 そして振り切るように早歩きで校門へと向かう。愛梨ちゃんは小走りでついてきてくれた。


「花音ちゃん、大丈夫?」

「もちろん」

「ごめんなさい、私は無力だった」

「謝らないで、愛梨ちゃんは何も悪くないもん。……それより大丈夫?」

「え?」


 私が心配すると、彼女は何がと不思議そうな顔になる。


「私を庇ったから5組で変な事にならない?」

「そんな!」

「ならいいんだけど」


 別所さんと一対一で話せたらいいんだけど、それは無理なんだろうな。きっと泣いて嫌がって周りに助けを求めるだろう。


「本当にどうしたものだか……」


 溜息をつくと彼女が心配してしまう。ここは平気な顔でさくっと帰ろう。


「そうだ、今度の日曜にお菓子でも一緒に作らない?」

「お菓子を?」

「うん、簡単なクッキーでも」


 面白そうと彼女に笑みが戻る。やっぱり愛梨ちゃんは笑っている方がいい。出会った頃は表情の動かし方がぎこちなかったけど、今は自然に笑う。それがなんだか嬉しいな。


「私にできるかな……料理もなにもしていないから」

「私だってお菓子を作るなんてなかなかやらないよ? だから本を読みながら作ろう!」

「はい」


 わーい、女の子とお菓子作りだ。

 ウキウキと校門を潜ると彼女とはお別れだ。愛梨ちゃん家とうちは方向が違うので、校門まで。

 もう少し時間があれば、立ち話が出来るのに……今日は余計なものに引っ掛かったので帰らなければならない。残念。


「もっと愛梨ちゃんと話したかったな」

「また明日、話しましょう」

「そうだね。それじゃまた明日」

「はい、また明日に」


 お互いに手を振ると別れた。

 さ、今日は帰ったら病院を調べよう。なるべく女医さんがいて評判のいい産婦人科が望ましい。


「でもこの歳で産婦人科だなんて、気が滅入るわ」


 カバンの中に手を差し入れて眼鏡ケースを取り出す。


「あら、いつ眼鏡になったの?」


 驚き振り向くと、加納さんがいた。側に黒い車もある。加納さんの後ろに冥加さんもいたが、固まっているかのように動かない。


「こ、こんにちは」


 めちゃくちゃ驚いた。そして、なぜにここに? また待ち伏せか?

 最近の車はエンジン音がしないので、気をつけなくちゃ。


「こんにちは、花音さん」


 お姉さんがにっこりと微笑む。今日も黒いスーツがかっこいい。


「キミは、その、あの」


 その後ろでは冥加さんが動揺していて、何やら問いかけられているが、言葉になっていない。どうした先生。


「新吾様。人目が気になりますから、車に乗ってください」


 そんな彼を加納さんは車へと押しやる。


「花音さんも少しいいかしら? 今日はすぐにお家へ返すから」


 周りに目を光らせながら、私に車へどうぞと勧めてくる。これは即断で動かないと迷惑を掛けそう。

 頷くと急いで車に乗り込んだ。

 車に乗り込む時に明智くんを思い出す。きっと彼なら、知って間もない人の車に乗るのは軽率だと怒るんだろうな。

 そういえば私の家に何度も電話を掛けていると愛梨ちゃんが教えてくれた。すっかり忘れていた、帰ったらお母さんにでも聞こう。

 もしそうなら、海外に電話してもいいかも聞いてみよう。海外へ掛けるのっていくらお金が掛かるのかな? 高くないといいんだけど。

 この前と同じ場所に座らせてもらうと、車の扉が閉まった。


「ごめんなさいね、この間お母様に説明した学校の話を聞いてもらおうと思って」


 加納さんがパンフレットを私に見せる。

 そこには『私立星雲学園高等学校』と印字されて表紙に写真はなかった。

 本当にここに通う事になるのだろうかと思うと、少し戸惑いがある。この為に努力してきたはずなのに、覚悟が。


「伊賀崎さん、何があったんだ? その、女性特有の何かその」

「新吾様、落ち着いてください」

「私は落ち着いている」


 声が上ずった。何を動揺しているんだ、冥加さん。


「病院ですか? 独り言大きくてすみません」


 あまり男性には聞かせたくない話なんだけどな。事情を聞かないと調べられそうだし、話しちゃうか。


「もしかしたら、今度検査をするかもしれないんです」

「何か問題が?」


 加納さんが心配してくれる。すみません、くだらない理由なんです。


「私が処女じゃないから汚いといわれましたので、証明しに」

「なっ」

「新吾様。お願いですから顔に出さず、冷静でいてください。今後どうするんですか? これ以上の話も出るかもしれないんですよ?」

「わ、かっている。何も驚いていない」


 でも頬が赤い。先生、あなたは今幾つなんですか? 大人になってまで純情だと色々苦労しますよ。

 彼女の心配も頷けてしまう。


「花音ちゃん、いじめか何かを受けているのね」

「いじめ……になるんでしょうか」


 加納さんが断定で聞いてくる。

 やはりこれはいじめに入るのだろうか。不満を溜め込んでいたので、ついつい口が軽くなってしまう。


「知り合いに突然暴言を叩きつけられるようになって、私も意味がわからないんです」

「暴言を?」

「はい。私が男と遊んでいるとか、前に御影山で捕まった盗撮強姦犯に襲われたとか」


 ふと視線を感じて冥加さんを見れば、赤い顔で眉を顰めている。怒っている? のかちょっと怖い。


「新吾様、顔が怖いです。誰が花音さんにそんな事を? 同じクラスの方?」

「いいえ、別のクラスで一年生の時に一緒だった女の子です」

「下校が遅れたのも、彼女に捕まって?」

「はい。でも彼女の友人達にです。彼女は早退しちゃいましたから」

「そうなの……。ごめんなさい、少し待ってね」


 お姉さんは携帯を取り出すと、なにやら操作しだす。


「い、……ゴホン。伊賀崎さん」


 呼ばれたので冥加さんへ顔を向けると、思ったよりちょっと顔が近かった。どアップにならないでくださいよ、心臓に悪い。


「なんですか?」


 つい後ろへのけぞってしまったのは、嫌だからじゃないですよ? あ、怒らないでください。


「その、そういう検査は……未婚の女性にとってかなり恥ずかしいものでは?」

「知っています」

「ならどうして」

「だって、そういう事を調べる検査ですから」


 私はキレているんだと思う。

 絶対にあいつらも同じ事をさせる。私が汚いというなら、先に検査を受けさせる。そうだ、加納さんにいい医者を聞いてみようか。清潔な病院で、女医さんで腕がいい病院を。


「……何か私に出来ないでしょうか?」

「え」


 冥加さん、声は静かなのに怖さが増したんですが。


「その、大丈夫です」

「妹の一大事に何かしたい」

「い、もうと!?」


 なにを言い出した! 先生。


「妹ってなんですか!」

「……実は、昨日よくよく考えて、あなたへの気持ちを認識しました。砂織に言われて妹だと」

「加納さんに……」


 ちらりと彼女をみれば、にっこりと笑い返された。

 一体何を話したんですか? 彼も認識した、というわりに加納さんから指摘されてですよね。どう聞いても彼女に説かれて納得したんだとしか思えませんよ?

 それにしても冥加さん、いいように扱われてるな。大丈夫だろうか、こんな人が家督を継いで。冥加家の先行きが不安になるよ。


「妹が困っているなら助けるのが兄の務め」


 そして彼が不敵に笑い始める。


「そう、君の敵は私の敵だ。全力を持って叩き潰そうではないか」


 彼は側にあるカバンから小型パソコンを取り出すと、嬉しそうにカタカタ入力を始めた。


「あの、冥加さん?」

「花音。私の事は兄と呼びたまえ」


 敬語じゃなくなった! しかも呼び捨て!

 冥加さんはまたパソコンに集中していく。加納さんを見れば、苦笑していた。本当に昨日は何があったんですか!


「私と、兄弟ですか?」

「これでも昨日はかなり悩んでたんですよ? 中学生に気があるんじゃって。我々もからかいにくくなりましたので、正しい道を。ね」


 彼は部下からからかわれているんですか? でもその所為で中学生に気があるんじゃと思うようになったのでは?

 原因を突き詰めれば、それは…。ツッコミませんが、大人なんですから少しは考えて発言しましょうよ。


「新吾様は一人っ子ですから。納得した後、あなたに会うのを楽しみにしていました」

「は、はぁ」


 戸惑う私に、加納さんは艶然な笑みを浮かべたので見とれていると、とんでもない情報を提供してきた。


「そうそう別所百花さん。去年からかなり病院通いをしていますね」

「病院?」

「主に精神科です」


 情緒不安定な彼女を思えば、それもありえるかも。やはりあの事件で不安定になったのだろうか。ならばあの暴言の数々は、薬のせい?


「でもね、一番の問題はあなたを犠牲スケープゴートにしたてている事だわ」

「へ?」

「ただ、怪我だけをしたあなたを」


 なぜ私が犠牲にならなくてはならないの? 確かに犠牲者だが、追い詰められただけだ。それを知っているのは1班と先生のみ。

 どうも冥加さんたちもその中に入ってしまったが、なんで知っているんだろう……。怖い。

 そうだ、どこで私のその情報を手に入れたのかソースも知りたい。ほかに情報が漏れないか怖いから。考え込んでいると、お姉さんは続きを話す。


「彼女もあの事件の犠牲者なのよ」


 どんな? とは聞けなかった。

 あの、お風呂にいつ入ったのかと思う程の悪臭、手慣れた行動、たくさんのSDカード。別所さんもあの男に遭ったのだろうか? 朝は私、ならば夜に? そう考えるだけで鳥肌が立つ。


「あれ? そういえば私、別所さんの名前言いましたっけ」

「今日早退した生徒は彼女だけよ、すぐに分かったわ」


 確かに早退の話はしたけど、何故その情報が? 学校か?

 個人情報はどうなっているのよ。そっちの方もかなり怖いんですが。

 情報ただ漏れだな。


「しかも別所さんが犠牲者だなんて何故分かるんです? 犯人を見ただけかもしれませんよ? あの男を見たら、誰だってショック受けます。話だけでも怖気が立ちましたもん」


 いくら嫌われていても、彼女が襲われてたなんて認めたくない。

 だって、あんな人格無視な行動をされたら、心が折れてしまう。普通の中学生なら尚更だ。


「彼女は産婦人科でアフターピルを処方されているの」


 アフターピルって妊娠を防ぐ為の薬を?


「あの事件の日に、ね」


 私は、絶句してしまった。

 あの男に……考えるまでも無い。アフターピルを処方されているというだけで、彼女は、彼女こそが真の犠牲者だったんだ。


「彼女は自分が襲われたのではなく、あなたが襲われたのだと思い込みたいのかもね」

「……もしかしたら、あの犯人じゃなくて、違う件で薬を処方されたのかも」

「ありえないわ」


 言葉を遮るように彼女が否定する。


「オリエンテーション解散後、すぐに病院へ駆け込んだみたい」


 彼女が覗き込む携帯端末に情報が載っているようだ。


「被害に遭ったのは可哀想だけど、他人を貶めるのは感心しないわ」


 私の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、別所さんの気持ちも分からないでもない。触られた私でさえ吐き気を抑えるのが精一杯、なのに初めてをあの男とだなんてどれ程苦しんだだろう。

 ここは我慢して彼女を陰ながら支えてみようか。


「駄目よ」

「え」


 別所さんの事を考えていたら、いきなり否定された。


「今、自分の身を犠牲にすれば彼女の気持ちを救えるかもと思ってない?」

「……それは」

「絶対駄目よ。それは駄目。自分を大切にしなさい」

「でも、実際に傷つけられた訳ではないので私は平気です」

「それは救いじゃないわ。このままだと彼女もおかしくなる」

「……はい」

「他人を貶めないと進めない人生は間違っているから」


 確かにそうだ。そうだけど……彼女の涙を思い出すといたたまれない。


「別所さんは立ち直らないといけない。でもそれは自分自身の力でなければ彼女は負けてしまう」


 加納さんは正しい、正しいけど誰が彼女を助けられるだろうか。


「よし、5組だったな。データが揃ったぞ」


 冥加さんが嬉しそうにパソコンを覗いている。


「花音、お前をいじめたやつは誰だ?」


 神妙なお話をしていた所で、彼が乱入してきた。妹扱いなので、すでに呼び捨てにされている。上品な兄ではなく、鼻息荒い兄が。


「新吾様……」


 加納さんは人差し指をこめかみに当てて溜息をつく。そんな所作も絵になるように綺麗。

 そう思える自分もまだ心に余裕があるのかもしれない。


「写真から選んでくれ」


 パソコンの画面を見えるように向けてきた。そこには写真が並んで……先程やっていた何かの操作で5組の写真を出したのだろうか? もしやクラッキングじゃ……犯罪はいけませんよ?


「この子と、この子……後はこの2人です」


 学生証の為に新学期で撮られた写真だろうか、背景が青い。


「分かった、少し待て」


 またなにやら操作し始める。


「右から、三条澄香、堤日菜美、巻淵美咲、山崎千尋だ」

「え!?」

「三条と巻淵は父親が会社員だから動かせるな。堤は地元で山崎は新聞社か……」


 何が? 言葉の端々に聞いてはいけなさそうな単語があるんですけど。うわー、冥加さん、要より怖いかも。


「何を、するおつもりなんでしょうか? 冥加さん」

「兄だ」

「ええっ?」

「兄と呼べ」


 どんなプレイだと、つい口にしそうになった。

 いやいや、彼の事だから真剣に兄弟設定かもしれない。ちらりと加納さんを見れば、お願いといわんばかりに首を少し傾げている。うう、美女のお願いは聞きたくなる不思議。


「お兄さん」

「なんだ」


 応えた。これは真剣にお兄さんになる気だ。


「あの、先程の4人をどうするおつもりですか?」

「もちろん、花音に危害が及ばない場所にまで家族ごと飛ばす」

「は!?」

「海外がいいか? 自営業の堤はどうするか……吸収合併するか」


 お、恐ろしい事を言わないで!?


「いやいや、何もしないでくださいよ! 加納さん止めてください」

「何故だ。後顧の憂いを感じることは無いぞ。もし親が有能ならば、それなりのポストも作るつもりだ」

「そんな簡単に作らないでください」


 怖い! 私の事で他人の人生を左右させないで!


「ならば……どうするか。消すのはリスクが高いから避けたいのだか」

「消すとか絶対駄目!」


 お金持ちって怖い。つくづく実感した。

 そんな事をしてたら、会社なんか簡単に潰れたり乗っ取られたりするんですからね! 因果応報! 人を呪わば穴2つ!


「ならどうしたら、花音の役に立つ?」


 悲しそうな目で冥加さんがこちらを見つめてくる。

 ああ、なんでこうも厄介ごとが増えるかな。


「その、時々でいいんで話を聞いてくださるだけで、嬉しいです」

「そんな事でいいのか?」

「そんな事でいいんです」


 絶対に何もさせないようにしなくては。

 念を押すように話すと、渋々分かってくれた。


「ならば、砂織」

「はい」


 加納さんが奥の席から紙袋を持ってきて、箱を取り出すと私に差し出した。両手に乗るくらいの箱で、軽い。


「これは?」

「妹にプレゼントだ」

「いえ、いりません!」

「良いから、中身を見てくれ」

「でも」

「良いから」


 仕方が無いので、そっと箱を傷つけないように開ける。すると中にはテディベアのキーホルダーが入っていた。


「可愛い!」


 色はブラウンで首のリボンがピンク、サイズは5cmくらいかな? ふわふわしていて頬擦りしたくなる。


「どうだ、なかなかの出来だろう」

「出来? え、まさか」


 満面笑顔の冥加さんに恐る恐る聞いてみた。


「作ったんですか?」

「ああ」

「冥加さんが?」


 ギロリと睨まれる。


「兄」


 そうだった、兄弟設定だった。

 すみません……どうも慣れなくて。


「お兄さんが作ったんでしょうか?」

「そうだ」


 昨日の今日で渡すのなら、昨日の夜に作成したか今朝から作成したか。

 少女趣味なのかな? そういえばゲームでも可愛い系に好意的だった。


「すごく上手なんですね……って、裏のこの小さなスライドは?」


 ベアの背中になにやら突起があり、スライド出来そうだ。


「救急信号だ」

「へ?」


 ふふん、と自慢げに鼻を鳴らす自称私のお兄さん。楽しそうに詳細を説明してくれた。


「君は危険な目に遭いやすい、もし、逃げ切れないときは即スイッチを入れるんだ」

「入れるとどうなるんでしょうか」

「発信機が作動して、私に届く」

「うわお……」


 つい棒読みで受け答えしてしまう、けれど彼は気付かず得意げだ。

 私の身を心配してくれたのだ、その気持ちをありがたく思おう。


「ありがとうございます。ではバッグにつけますね」


 抱えていた学生カバンにつける。うん、可愛い。小さいからそんなに目立たない。みんなかなり何かをつけているから、私もつけてもいいよね。


「実はもう一品あるのだが、明日までに用意できるから待っていてくれ」

「これだけで十分です、大丈夫ですよ」


 発信機なんて実際幾らするんだろう。これ以上迷惑は掛けられない。


「駄目だ。カバンなんていつもは持っていないだろう」

「では持ち歩けるものに付け替えますから」

「落としたらどうするんだ。だから外せないものにしたんだ」

「え……なんだか怖いんですが」

「次の楽しみにしておいてくれ」


 嬉しそうに笑う彼はとっても素敵なんだが、素直にその笑顔を堪能できない。


「さ、花音さん。お家に着きました。学校の話はまた後日しましょうね」


 加納さんがにっこりと微笑みながら車の扉を開けてくれる。


「は、はい」


 車から降りて、お二人に頭を下げた。


「ありがとうございました」

「それじゃ、またね」

「またな、花音」


 扉が閉まり、静かなエンジン音で車が遠ざかっていく。

 私はそれを見送りながら、明日も会うのかなとひそかに溜息をついた。



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