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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
40/503

恋する星のメロディー2

 涙が溢れそうな私の側に駆けつけ、要は何度も背を擦ってくれた。その優しさを利用しようとする私は、なんて最低な人間だろう。


「ひとまず家に入ろう、な?」


 要が私を優しく部屋に連れて行ってくれた。

 年下とは思えない気配りに、罪悪感が増える。でも、縋ってしまった、お願いしてしまった。

 あれは私の責任なのだから、彼の幸せも引受けなければ。引きずり込みすぎて、私と同じ場所に立たせることは絶対に避けなければ。そう思ってきたのに、絶対に話さないって誓っていたのに。

 自分の部屋に着くと、少し落ち着いた。

 これからしなければならない事があるのだから、泣いてばかりいられない。


「座れよ。落ち着いたらでいいから、話して」


 私をベッドに座らせると、要は対面するように座り込み、下から伺う。


「何があったの?」


 よく見ると要の服が汚れている。サッカーの練習で今日も疲れているだろうに私を気遣って……本当にいい子だ。


「まずは、まずは私の話を笑わずに聞いて欲しい」

「わかった」


 真剣を、真剣で応えてくれた。

 少し躊躇していたけど、要の様子を見て安心し続きを話す。


「あのね、私には」

「ああ」

「私には奇妙な記憶があるの」

「そう」


 彼がジッとこちらを見て、頷く。


「内容が内容だから、誰にも言えなかった。相談できなかった」

「明智にも?」


 また明智くんだ。そうだよね、一年間一緒に居続けたんだから、そう思われても仕方ないよね。


「言えるはず無いよ、この世界がゲームの世界に似通っているだなんて」

「ゲームの世界?」


 要が驚く。そうだよね、酷い中二病にしか聞こえないよね。


「そうよ、よりによって誰にも言い難い恋愛シミュレーションゲームの世界に似ているの」


 話して少し頬が熱くなる。

 恥ずかしい、口に出すと、思いっきり恥ずかしい。穴があったら、入りたいほど恥ずかしい。


「それで?」


 笑わない彼に感謝して、先を続けた。


「嫌な気分にならないでね。そこで要はサポート役で助けてくれるの」

「俺、手伝う方なんだ。そっか……」


 主役クラスでないから、落ち込ませてしまったかも。本当にごめん。代わりにという訳ではないが、頑張って褒めてみた。


「それはもうめちゃくちゃ有能すぎて、将来が心配になるほどの情報収集能力を持っているの。それにピンチに対する前準備はヒーロークラスだからね」

「そう? 何かの諜報員になれそうだね」


 気を悪くする事なく、明るく笑ってくれた。それに少しホッとする。


「小学生の時に、ゲームの冒頭の人と会って、中学校で少し登場人物に会った」

「実在したんだ」

「そう」


 天ヶ瀬司、彼に会わなければ、何も思い出さなかったと思う。要は信じてくれているかな? 心臓の鼓動が五月蝿く耳鳴りが酷い。


「最初はたまたまだと思ったり、痛い妄想だと思ったよ?」

「うん」

「でもいるのよ、同姓同名で顔が似ている人たちが」

「……それで?」


 情報開示は私のゲームだけにしよう。

 絶対に心配されるの分かるもん、これ以上迷惑は掛けたくない。しかも氷室くんのゲームは監禁陵辱系。……江里口くんも認めた影響力の強いゲームだ。話すには、重すぎる。

 もし要が介入して巻き込まれたら、絶対に嫌だ。


「その中の登場人物が14歳の時に、誘拐される事件があるの」

「誘拐?」

「そう。誘拐……そして彼女は感情を表に出せなくなった」


 ゲームの中では同級生だったので、安心していた。でも実際、彼女は年上だった。お嬢様で宇留間七海という名で、もう1人似た人物がいるだろうか? 珍しい名前だし、お嬢様という時点で難しいと思う。

 夏休み中、彼女が苦しんでいたかと思うと、胸が締め付けられる。


「作品の中では同級生だったから、安心してた。でも今日愛梨ちゃんに1つ年上にその名前の知り合いがいると」


 目から涙が零れてくる。

 嗚咽を我慢して話していると、要は机の上にあったティッシュ箱を取りに行き、手元に置いてくれた。ゴミ箱も引き寄せてくれる。


「ゴメ……ン」

「普通ならハンカチかタオルを渡したいところだけど、俺の汚れてるしね」


 笑いながら話してくれる。


「よし、纏めよう? 花音」

「え」

「登場人物について、詳しく教えてくれ」


 要が手をパンと拍手するように叩く。そして腕を組み、もう一度座り込む。

 意気込む要を見て、私は立ち上がると机の中にあるマル秘ノートを取りに行った。


「これ、憶えていること書いてみたの」

「見せて」


 ノートを受け取ると、真剣に読み始める。

 あ、恥ずかしい事書いてなかったかな? 見せる前提用に書き直して、綺麗にしたかったかも。


「あー、だから水原の事聞いてたのか」

「ごめん」

「いや、普通に気になるだろ? 俺もきっと調べるよ」


 ふ~んと彼はページを捲っていく。部屋にノートを捲る音だけ響く、静かでなんだか気まずいのは内容の所為だ。

 私もサポートキャラか、モブだったら良かったのに。なんで主人公? そういうゲームは外見も何も設定がないから、気負わなくていいのは助かるけど。

 一条遥ちゃんなら料理上手に、南里瑞貴さんならお淑やかに。

 ……うん、無理。

 宇留間さんに関しては既に将来が決まっていて、トップの補佐になるべく頑張り続けるなんて私には無理だ。


「ちょっと鉛筆貸して」

「あ、うん」

「このノートに俺も書いていい?」

「もちろん」

「へへ、サポーターだもんね」


 彼が屈託無く笑う。


「えっと、この明智新吾って、あの明智?」


 明智くんの事を指しているんだろう。勘違いしちゃうよね、同じ苗字なのだから。


「全くの別人」

「明智の関係者でもないの?」

「うん。明智くんに色々聞いたけど、全く該当しなかった」

「可哀想すぎる。不憫だ」


 不憫? いや、むしろ良かったのではないか? ゲームの登場人物よりも、そうでない方がいい。決まったシナリオや何かに動かされるのは、辛いよ? しかも攻略相手は大抵トラウマか葛藤を持っていて、主人公と共に解決していくのだ。そんなの現実りあるでやるには間違っている。

 いくらメインキャラでも、そういうのって可哀想過ぎない? だから言ってみた。


「私はユニーク存在だからいいけど。他の人たちは大体の先が見えてるんだよ? それって悲しくない?」


 話して意見交換できるって嬉しいね。今まで1人だったから、ぐるぐる悩み続けるしかなかった。

 要には巻き込んで悪いけど、嬉しい。


「そうなるとも限らないだろ? 悲観しすぎだよ」

「うん……そうだね」


 反論されて、自分が悲観主義になっていたことに気付く。

 決め付けていたのは私か。そうだよね、楽しい結末を期待するんだから、楽観主義にならなきゃ。でも希望的観測はあまり良くない気が……いや、でも、うーん。

 彼が何も書かれていないページに名前を書き始める。


「後さ、一条遥さんって、一緒に登校している人だろ?」

「うん」

「狙って近づいたの?」


 にやりと見られれば、焦って否定する。誤解だ!


「まさか! 高校までは近づかない方がいいと思って避けてたの」

「なんで?」

「だって、高校で会う時に初対面だったから」

「ふうん」


 疑ってしまうよね、しょうがないよね、でも不可抗力だったんだ、本当に。自分でも躊躇して思考が止まるほど、驚いたんだ。


「髪型も違うし、転んで大変だったから手伝ったら……彼女だったの」

「やっぱりゲームの通りにいかないじゃん。良かったね」


 嬉しそうな要には申し訳ないが、宇留間さんは助けられなかった。その事実がずしんと私に落ちてきて、苦しい。


「俺に協力を求めたのは、なんで?」

「宇留間さんは駄目だったけど、回避可能な事があるなら回避したい」


 これは心から思うこと。


「普通の高校生活が出来るように、応援して……その、あと」

「あと?」


 ノートにも書かなかった決意を口にするのは、勇気がいる。

 要に見上げられて、覚悟を決めた。


「攻略対象人物とライバルをカップルにしたい」

「はあ?」


 奇妙な顔で驚かれる。そりゃそうだよね、そんな理由おかしいよね。


「少なくとも遥ちゃんは、今まさに水原くんに夢中だよ」

「このノートの通りだね」


 中学生の時に彼に一目ぼれと書いておいたから、そこを見たんだろう。


「こうなったら、幸せな2人を見たくない?」

「え、あ、……うん」

「爽やかなスポーツ少年と少しドジっ子な女の子の将来を!」

「爽やか?ドジっ子?」

「照れるようにデートする2人は、可愛いに違いない!」


 熱が入り始めて、話し始めると若干引かれたようだ。いかん、浮かれてしまった。


「水原が爽やか少年ね……でも気になる点は、サッカー少年のところだ」

「そう、そこよ。要が言う情熱を持ってバレーをしているのに、サッカー転向はおかしいよね」

「うん。これは急ぎ調べてみるよ」


 そしてノートを私に見せるよう開き、床に置いた。


 水原翔太……一条遥

 金森大輔……野々原ゆい

 地場結人……南里瑞貴

 火野 匠……日崎陽子

 木谷 潤……吉岡凛

 土田龍之介…緑川琴音

 天ヶ瀬司

 海堂一真……宇留間七海

 明智新吾


 登場人物とライバルを書き終えた彼が、考え込む。


「なぁ、天ヶ瀬司と明智新吾用のライバル女子は?」

「それが、いないんだ」

「えー」


 眉を顰める彼に、大丈夫と太鼓判を押す。


「天才バイオリニストと美形教師だよ? 私の手伝いが無くても周りの女子が放って置かないって」


 要が唸る。


「そうかなぁ……」

「何か問題でもあるの?」


 そしたら大きな溜息をつかれた。

 え、なに? なに?


「自分とくっつくかもしれないだろ?」

「ありえない!」


 即反論して笑う。


「ゲームでもスペックをあげて相手好みの人間にならないと、振り向かない人たちだよ?」

「だから、ゲームじゃなく現実を見ろよ。可能性高いと思う」


 私は要に近付くと彼の肩をバンバン叩いた。


「ありがとう、でも本当に大丈夫! 優しいねぇ、要は」


 味方だから、私を持ち上げてくれているんだろう。でも納得がいっていない様で、ブツブツ文句を言っている。ゲームのサポートキャラは、主人公を過大評価してくれるからね。

 残念ながら私はヨイショに乗るような性格じゃないんだ。自分を良く知っているから……あ、なんだか悲しくなってきた。


「でも目下、水原と地場がメインだな」


 話を切り替えてくれたので、自分への悲観を止めてノートに集中する。私よりも他のみんなだ。


「同じ中学校だしね」


 でも今一番気になるのは、宇留間さんだ。


「ちょっと良かったら、宇留間さんの話も気に掛けてくれないかな?」

「ええ! あの海堂グループの令息と付き合えるお嬢様だろ?」

「噂でもいい、耳に入ったらでいいから」


 そこではっと気が付く。


「無理な情報収集は駄目よ! 身の安全や自分の生活を優先させてね」

「うん、わかった」


 私の剣幕に圧され、彼が両手を軽く上げる。


「無事ならいいんだ。もし誘拐されて酷い目に遭っていたり、トラウマになっていたら……嫌だけど」

「ね、思ったんだけどさ」

「何?」

「何でその人だけ年上なんだろ」

「え」

「まだ全員調べてないから、わからないんだけどさ」


 要がノートを掴み、ページを捲っていく。


「そこに希望があるかもよ?」

「希望?」

「うん。同級生じゃないなら、高校で海堂一真の補佐は出来ないだろ?」


 そうかな?


「同級生の友達くらい、幾らでも用意できそうだからな」


 なんとなく? と彼が笑う。


「そしたら、ライバル女子代わるかもよ」

「ええ! そんな!」


 つい大声を出してしまう。


「宇留間さんの鉄壁の仮面を外せるのは、海堂くんだけなのよ! はにかむ彼女が見れないのは嫌だ」

「そんな無茶な」


 でも、本当にそうなら、誘拐されていないなら……。


「悲しい事件が起きていないなら、いいな」

「そうだね」


 しんみりとなる。


「頼元さんは頼れないの?」

「手段を選んでる場合じゃないから、聞いてみる」

「うん」


 そうだ、私にはやらなければならない事がたくさんなんだ。


「そうよ、警察のお世話になっている場合じゃないわ」

「え」

「保護観察つきになったら、自由に動けないもの」

「花音?」

「要も! 警察にはお互い気をつけようね」

「花音、ちょっとここに座って」


 彼の表情が固くなる。

 尋常じゃない空気を察して、私は彼と向き合うよう正座した。


「なにかな?」

「警察って何?」

「……」

「保護観察を受ける様なことって何?」

「……」

「一体今日何をしたの?」

「……や、病んでました」


 小さい声にうんん? と凄まれて慄く。


「どんな風に?」

「その……宇留間さんの事でむしゃくしゃして」

「して?」

「そんな時、痴漢にあったの」

「はあ??? それで?」


 要の目が荒んでいく。

 怖い、怖いよ、要。ああ、可愛いざかりの13歳なのになんて目をするの。


「こんな奴らに変な目に遭わされたのかと思ったら、頭に血が……登って」

「何をしたの?」


 真剣な眼差しで問い詰められ、目が左右に揺れる。どうしてこうも要に弱いんだろう、私。どんどん背が丸まっていく。


「えっと、カッターとドライバーで脅して、もういっそのこと息の根をってね」


 明るく言えば、頭をゴツンと叩かれた。


「酷い! 拳骨だなんて」

「当たり前だ!」

「何もしてないよ、それに私は被害者だよ?」

「普通なら逃げるの! 大通りに出て助けを求めてよ」

「後ろから襲われるより、前を向きながら抵抗した方が勝率が」

「あのね」


 要が膝だけで立つ。

 見下ろすように見ないでほしい。余計萎縮してしまうよ。


「相手は大人だったんだろ? カッターとドライバーでどう戦うんだよ」

「大丈夫だよ、カッターはこう、ね、短く出せば折れにくいし」


 そしてポケットからドライバーを出して説明する。


「こんなに短くて丈夫なドライバーだから、刺さるとかなり痛いよ」

「甘い、甘いよ、花音」


 安心させる為に話したけど、こめかみを抑えて唸られた。

 そしていきなり手首を掴まれて、上に伸ばされた。


「ここのどこに筋肉があるって言うんだよ、武器を持ち続けるのも力がいるんだよ?」


 痛い所を突かれて、あの時勘違いするほど強くなれた気持ちがしょんぼりしぼんでいく。めちゃくちゃ自信があったのに、今は霞ほどもない。


「多少の傷を気にしない変態だったら、どうするんだ」


 もう片方の手首も掴まれる。


「それに」


 そのまま後ろのベッドに手首を押される。体制的に仰け反ってしまう体勢になった。


「抵抗してみて? 子供の俺の力でも勝てないだろ」


 要は完全に立ち上がり、覆いかぶさるよう更に後ろへ手を押していく。


「あ、あれ? あれれ」

「ほら、どう?」

「……体勢が悪いんだよ、今仰け反っているし」


 簡単に返せると思ったのに、難しい。それに正座で仰け反ると、かなりきついんだけど。


「襲われる時に、体勢を整えさせてといわれて許可する痴漢がどこにいるんだよ」

「……ご、ごもっともです」


当たり前の事を言われて、私はがっくりする。見上げると、要が複雑そうな顔をしていた。


「花音は立ち向かっても、心得も基礎も筋肉も何もないんだからな」

「……心配掛けるようなことをして、ごめん。今度は逃げる」

「そうして」


 大きくため息をつかれたけど、要の表情が和らいだのでホッとする。

 心配を掛けるのって、周りの人に悪いよね。もっと考えて動こう。それにしても見下ろされるのは、ちょっと落ち着かないな。


「じゃ手を」


 ガチャリ。いやに大きくノブが音を立てる。そして部屋の扉が開き、お母さんが顔を出した。


「花音、ご飯はどう……」

「あ、うん、食べる」

「あ……! その、これは」


 同時に喋ったので、お母さんに聞こえたかな? と思ったら、静かに扉を閉じられた。私の手首を離した要が、大慌てでお母さんを追う。


「誤解だよ、おばさん! 違う!」


 要の様子を見て、体が発火しそうな程熱くなった。見られた体勢は、誤解を招くようなもので……。私も立ち上がると追いかけた。


「違うの! お母さん信じて!」


 二人で階段を降りかけているお母さんを呼び止めた。



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